途切れた手紙
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ハンターになる決心をして出た旅で、最初に買い揃えた物の一つに便箋がある。
「今日、オレ様達はギスレムに着いたぜ!フォレスタモールと北スラートの間にあるすげー高い山脈を、飛炎ってゆーモンスターに乗って飛び越えたんだぞ!最高に気持ちよかったー!≠ネぁアレク、おまえはどうだった?」
ギスレムの宿屋の一室で、ルッツはテーブルで手紙を書きながら、ベッドに寝転んでる僕に尋ねた。
「気持ちよかったけど、あんな高いとこ初めてで少しこわかったよ。落っこちたのもびっくりしたし。」
「あぁ、だな。アレクは高くて少しこわかったって!それに飛炎はオレ様達を落っことしたんだ、誰もケガしなかったからいいようなものの=v
「ケガしたじゃないか、シェリルが。」
「はあ?ありゃあんなとこにいたあいつが悪ぃんじゃん。」
「上から降ってきた僕らが非常識なんだよ。」
ルッツはしぶしぶ書き直す。ほとんど日記に近い手紙をルッツはクレッタさんに宛てて毎日書く。ルッツは文章を声にしながら書き、僕がそれに口をはさむから、ルッツと僕の合作ってことになるかもしれない。
「じゃあ…オレ様達は誰もケガしなかったけど、シェリルって女がちょうど下にいてケガしちゃった。でもちゃんと協会集落に送り届けたし、あいつも憎まれ口叩けるぐらいだから全然平気だ。≠アれでいいか?」
うん、と頷くと、ルッツと一緒に手紙をしたためてたテオが不思議そうにした。
「アレクさんは手紙書かないんですか?」
「僕はいいんだ。村へはルッツと二人で出してるようなもんだから。」
「だけど家の人はアレクさんの手紙を待ってるんじゃないですか?」
「あ…僕に家族はいないんだ。」
「えっ…そうだったんですか…ごめんなさい、僕知らなくて…。」
「いや、謝ることないよ。ルッツとか村の皆が僕の家族みたいなものだし。」
余計なことを言ったと悔やむ様子のテオに、気にしなくていいと微笑む。
「…僕もお母さんがどこかに行っちゃったから…でも局長さんに手紙を送る約束をしたから…。」
寂しいのを思い出してしまったのか、テオはペンを置いて俯いた。今日フォレスタモールを出たばかりだから無理もない。
「局長さん、手紙楽しみにしてるだろうな。テオはどんなこと書いてるんだ?」
テーブルまで移動してテオの頭を撫でてやると、はにかむように笑って手紙を見せてくれた。
「ルッツさんと同じです。無事に着いたってことと、後は協会集落。」
「アレク、おまえも書けよ、ゴゼ老とかに。」
ルッツが便箋を何枚か僕に寄越してきた。
「え?いいよ。」
「いくねーよ、書け。」
「だっておまえのに僕のことも書いてるじゃないか。」
「いーんだよ、俺のは姉ちゃん宛なんだから。」
「でもきっと村の人全員読んでるよ。僕まで出したって、ルッツと全く同じ内容になっちゃうし。」
「内容とかじゃなくて、手紙に心を込めてだなぁ、自分の気持ちを表すってゆーか感じたことを伝えるっつーのが大切なんだ!離れてる人を、元気でやってんだなよかったよかったって安心さしてやる為に!」
「それはそうかもしれないけど、同じ人達に二通も出すのってもったいないじゃないか。」
「かーっ!何ケチケチしてんだ!切手くらいどーんと買え!」
「切手が買えないわけじゃないさ。ただ他のことでお金使うだろ?宿代もそうだし、各協会の情報料もいるし、おまえはアイテム買うし。」
「う…じゃあもっと仕事すりゃいーじゃん。」
「もちろんするよ。でもまだそんなにレベルの高いのは受けられないから、出費は抑えたいだろ。」
「うーっアレクのわからず屋ー。」
僕が便箋を返そうとするのを、ルッツは口をへの字にして嫌がる。なんで今日に限って書かせようとすんだろう?
「あっ!リーザさん!おまえリーザさんに書け!そうだよ、リーザさんがいるじゃんか!」
大発見!というかのごとくルッツは半ば椅子から立ち上がり、便箋を持つ僕の手ごと押し返してくる。
「は?リーザさんって…。」
「この際いーんだよ!アレクが手紙書くことに意味があんの!」
いつの間にかルッツの中で問題がすりかわってるみたいだ。でもリーザさんにはお世話になったから、お礼を書くべきかもしれない。
「わかった、リーザさんに手紙送るよ。もしかしたら心配してくれてるかもしれないしな。ルッツが気づいてくれてよかった。」
「だろ!?そーゆー気遣いには敏感なんだってオレ様!」
得意げな態度には触れずに、ルッツを椅子から半分押しやって僕も無理やり座り込む。向かい側では、いつの間にかテオが笑顔でこっちを見てた。
「アレクさん、僕からも、ありがとうございましたって書いて下さいね。」
「あ、じゃあテオが書くか?」
「コラコラコラコラー!」
ルッツが至近距離で張り手をかましてくるんで、落ちないように椅子にしがみついた。なんだっていうんだよ、まったく!
「おまえ書けって言ってんの!ったく油断もスキもねー!」
「わかったよ。」
ちょっと腹が立ったから、ルッツの手からペンを奪って書き始めた。僕が便箋に向かってる間ルッツとテオはずっと嬉しそうにしてた。
手紙にはギスレムの様子を少しとリーザさんのおかげで依頼が成功したことと、ごちそうになった彼女の手料理はとてもおいしかったこと、またフォレスタモールへ渡れた時は牧場を訪ねて行きたいと記した。
他愛のない内容だけど、僕がアレクとして出した初めての手紙だった。
<言い訳です>
ルッツは無意識に姉への手紙に、自分のことと同じくらいアレクのことを書いてました。
でもテオとのやりとりで、アレクは手紙を送る相手がいなくて、
自分を気にかける人もいないというのをアレクが当たり前として考えてるのがいまさらはっきりとわかって、
すごく悲しくなって、とにかくアレクに手紙を書かせようとした…って感じです。