途切れた手紙
B
翌日にサシャ村を旅立つつもりだと僕が話してから、ルッツは自分の部屋にこもって何か作業をし出した。
空中城から戻り、以前のように畑仕事などして村の人達としばらくゆっくり暮らした。一時期は世界の異変を感じて村の皆も不安のまま過ごしてたようだけど、今はもうのどかさを取り戻してるし、僕も充分に休んだ。ハンターとして、また働きたい。
ルッツは世界を巡って手に入れた数々のアイテムを自分なりに整理する時間がほしいらしく、今回は村に残る。ルッツと離れるのは初めてだけど、僕と同じであいつにもやりたいことがあるんだ。もしルッツが旅する機会があれば、その時はまた一緒にいけるといいな。
明日から一人で行動するのを考えて少し寂しさを感じてると、ノックとともにルッツが僕の部屋に入ってきた。
「アレクー、いーもん作ったぞー。」
スキップしながら近寄ってくるルッツ。常に明るいとこもルッツの長所だと改めて思う。
「なにそれ。」
ルッツは何か箱を抱えてる。
「郵便受け!おまえんとこ付いてないだろ?」
「うん、でも…。」
「これからきっといっぱい届くぜ、いろんなとこに知り合い出来たもんな!それにテオとかあいつらともしょっちゅう会うのって難しいだろーから、手紙のやりとりが増えるだろ?付けといて損はねーぞ。」
「そんなに来るかわかんないけど…。」
「来るって!なんたって一番人気のハンターっすから!」
「ハンターの僕に用ならギルドに連絡するだろうけど。でもせっかくだから頼むよ。」
「オッケー。」
ルッツが外に出たんで、僕も後をついてく。ずっと何かを作ってたのはこれだったのか。郵便受けを僕に寄越して、取り付けるための釘を適当な高さに打ち込みながらルッツは思い出したように口を開いた。
「ところでおまえ、リーザさんに手紙書いたか?」
「え?」
「手紙ちょーだいねって言われてたじゃん。」
「あ…うん…。」
僕が初めて手紙を出したのはリーザさんで、僕の手紙を待ってると言ってくれた。だけど僕は誰より他に手紙を送りたい人がいる。
「なぁルッツ…手紙ってさ、よく知らない相手からもらったら、やっぱり困るかな?」
「へ?リーザさんは…。」
「いや、リーザさんじゃなくてさ。例えばだよ。」
ルッツが前に力説してた、手紙は自分の心を込めるものだって。僕が心を伝えたいのは、凍りそうに苦しかった僕を救ってくれた彼。さすってくれていた背中の温かさに冷たい心はとかされて、流れた涙はあの人が身に宿す炎がうつったように熱かった。僕は今でもあのエルクさんの手を覚えてる。
「ふーん。別にいんじゃん、もらえりゃ嬉しいもんじゃねー?不幸の手紙とかは別だけど。」
「…うん…。」
彼の不幸なんて望むわけないけど、僕から手紙なんか届いたらエルクさんは戸惑うだろう。
リーザさんは彼に手紙を送ってると言ってた。会いたいと書くんだろうか。エルクさんは会いにいくんだろうか、彼の手はリーザさんとつながってるんだろうか。もう、あの人が僕に触れることはないんだろうか。
「よっしゃ!アレク、それくれ。」
ルッツの声に我に返って、言われるままに郵便受けを渡す。そっと取り付け、数歩下がって仕上がりを確かめると、ルッツは満足そうな顔を向けた。
「どう?どう?」
「うん、ちょうどいい、ありがとう。」
こんな嬉しい餞別をもらえると思わなかった。素直に礼を言うと、ルッツは照れ笑いをしながらガシッと肩を組んできた。
「仕事さ、大変だろうけど、この郵便受けがいっぱいになっちまう前には帰ってこいよ。」
「…うん。」
僕もルッツの肩に腕をまわした。励まして元気付けてくれて、心の休まる存在で、最高の親友だ。
ルッツの好意をありがたく受け止めるにつれ、さっきとりとめなく浮かんだ感情がまとまって、ゆっくりと胸の奥へ沈んでいった。
あぁ、そうか。手紙を出したりしたらエルクさんが困るんじゃないかと思ったけど、手紙自体が迷惑なんじゃない。僕の心が迷惑なんだ。会いたい気持ちが、迷惑なんだ。
「アレクー!手紙くれよー!」
次の日、僕のやった魔法のりんごをぶんぶん振り回すルッツに大きく手を振り返して、僕は村を出発した。
エルクさんにも、リーザさんにも、手紙は書けないまま。
<言い訳です>
アレクが、エルクの手がどうのと言ってるのは、去年書いたEvery Heartの話を使いました。
実際ゲームの中でもアレクの家にポストらしきものはなくて、考えてみれば記憶喪失のアレクには不要で、
細かく作ってんだなぁと思って、この話を思いつきました。
途切れた手紙てゆーか文通てゆーかエルリーぽい上ルアレぽくてすみません…。