◆ツーソンの日々・第八回
                 
「化学戦」


 私がいつも、小さな救急箱のようなものを持ち歩いていたことは、前に書いた通りである。
 その中に、気絶した者に対して使う「気付け薬」のようなものがあった。ガラスで出来た長さ2インチ、直径二分の一インチのアンプルで、そのアンプルは目の粗い麻のパックで包まれている。
 ごく薄いガラス製のアンプルの中にはアンモニアが四分の一ほど充填してあって、このアンプルを折ると、アンモニアが気化し、麻のパックを通して強烈な匂いが流れ出すという仕組みになっている。
 使用方法は、気絶している者の鼻先で、このアンプルを折る、というだけ。箱の表面に、誰が見ても判るように図解されている。気絶していた者は、この刺激臭で目を覚ます、というわけだ。
 一応、このアンプルの十本入りパックが、私の救急箱には入れられていたが、使ったことは一度もなかった。また、試しに使ってみようと思ったこともなかった。

 ある日、軍放出品店で医療関係の物品が多く出て、これを段ボール一箱分まとめ買いしたことがあった。
 包帯五十本とか注射器百本、鉗子二十本などという単位で、様々な医薬品・医療器具が多量に入っていたが、それでも連邦規格の段ボール一箱めいっぱい入って40ドルだった。
 段ボールを抱えて家に帰ると、私は中身を改めた。一つずつ机に並べて、何が幾つあるのか確かめた───箱には、放出品店の店主が殴り書きした「医薬品いろいろ40ドル」という説明書きしかなかったので、中に何が入っているのかは、正確には判らなかったのだ。内容を確認し、使用期限が切れているものがないか調べなければならなかった。
 すると、包帯、縫合用シルク糸、医療用テープ、消毒薬などといった物の中に、気付け用アンモニウム・アンプル二百本が混ざっていた。薄い軍納用の紙箱に、ちょっとした緩衝材が入っているだけで、何とも無造作に詰められていた。
『まいったなあ、これ、全然使わないんだよなあ……』
 などと思いながら、段ボール箱から取り出し、そのアンプル入り大箱を机の上に置いた。使用期限は切れていなかったので、取りあえず、備蓄しておくことにしたのだ。
 その他のものを取り出そうと手を伸ばした時に、机に立てかけてあった私のM−14ライフルが傾いた。
「おっと……」
 何気なく足で銃床を払って、立て直そうとした。しかし上手く行かず、銃床をすくい上げる形になってしまった。ライフルは机に向かってひっくり返り、銃身がさっきの紙箱を押しつぶした。
 バリバリっという音を聞いた瞬間に思ったことは、
『しまった! たった今買ってきたばっかりなのに、全部割っちゃった! たぶん使わないだろうけど、もったいない……』
 ということだったが、『もったいない……』と思った直後に、
『ん?』
 と違和感を感じた。

 その五秒後。
 私は涙をボロボロ流し、ひどく咳き込みながら自室を飛び出し、勢い余って反対側の壁に激突しつつ、回し蹴りでドアを閉めた。
 廊下に這いつくばり、喉と目の激痛にのたうち苦しんだ。居心地の良い自室は、五秒で地獄のガス室と化してしまったのだ。
 盛大に咳き込み、ドタバタと騒がしかったものだから、居間にいたジョンジーが不審に思ってやってきた。手にはコルトの自動拳銃を持っているが、これはいつものことである。
 涙で顔をべしょべしょにした私を見て、ジョンジーは銃をホルスターに戻しながら聞いた。
「何だ、お前、まだCsガスに対する耐性が付いていなかったのか?」
 Csというのはクロロアセトなんとかいう催涙ガスのことで、後遺症が残らないタイプなので、警察や軍隊で一般的に使われているものである。わが家では、玩具代わりにCsガスの詰まった筒型手榴弾を互いの部屋に放り込んだりするので、二人ともCsガスに対する抗性物質が体の中に出来ていた。他の化学ガスと違って、Csガスには『慣れる』ことが出来るのだ。
「違うよ、そうじゃなくて」
 と私は言おうとしたが、咳ばかり出て、声にならない。
 ジョンジーは勝手に、
「まったく、部屋ん中でグレネードを自爆させるなんて、お前、硫黄島や沖縄の日本兵じゃあるまいし……」
 そう言いながら、私の部屋へ入って行こうとした。多分、ガスを噴出させている手榴弾を窓の外に投げ捨てよう、とでも思ったのだろう。ジョンジーは完全にCsに対する耐性が出来ているので、この催涙ガスをまったく恐れていなかった。
「駄目だ、そこは危険なんだ!」ゲホゲホ。やっぱり声にならない。
「いいか、グレネードは安全ピンをきちんと掛けて、専用のコンテナーにしまっておけば、三段階のセイフティが掛けられてだな……」
 そう言いながら扉を開けて、中に入り───

 ───五秒後に、私と同じ症状を起こして「脱出」してきた。
 しばらくの間は、私と同じように咳き込むばかりだったが、喉が回復すると、直ちに、
「状況、ガスだ! マスクを装備しろ……いやその前に、顔を洗え!」
 などと言い、二人でヘロヘロになりながら洗面所へ向かうことになった。


 五分後、我々は涙目のまま居間に集合した。活性炭の縫い込まれた化学防護スーツに身を包み、手には軍用ガス・マスクとキャニスター(濾過フィルターのユニット)が握られている。
「……状況はだいたい判った。つまり汚染物質は、お前の机の上にあるわけだな」
「そう。ライフルのバレルで押しつぶしちゃったんだ」
「まったく、あのアンプルがあんなに強力だとは思わなかった。ありゃあ、お前、医薬品って言うよりは非人道的な毒ガス兵器だぞ」
「僕もそう思う」
「とにかく、あのアンプルを全部廃棄して、お前の部屋を完全に換気しないことには、どうしようもないぞ」
「あそこが永久閉鎖区画になっちゃうと、僕、すごく困るんだけど」
「俺もだ。従って直ちに除去作業だ。というわけで、生化学戦用意! 総員、ガス・マスク装着!」
 我々は軍の生物化学戦対応規定に従ってガス・マスクを被り、互いのマスクがきちんと付けられているか、空気漏れはないかを確認すると、手にデコンタミネーション・ユニット(汚染除去薬のセット)を持った。
「いいか、ディーコン・キットの使い方は、蓋に書いてある説明通りだ。まずクロスaで表面の汚染を除去、続いてクロスbで洗浄、クロスcで完全に消毒する」
「うん、判ってる」
「部屋は完全に密閉されていて、しかもクーラーが回り続けてるせいで室内循環して、ガスが完全に拡がっている筈だ。まずクーラーを停止させ、窓を開けてから、汚染除去作業に入る」
 ジョンジーはプロらしく、淀みなく続けた。
「この汚染物隔離用パケットで汚染源を密閉する。クーラーのフィルターも回収、密閉だ。机の上の除去作業はそれからだ。判ってるな?」
「うん、大丈夫」
「よし、行くぞ」
「うん」
 呼吸するとズー、ペコンと音のするガス・マスクで、我々は再び、『汚染区画』に挑んだ。


 それから二分後、我々は再び居間でぐったり伸びていた。マスクを顔からはぎ取り、防護服は脱ぎ捨てて窓の外に放り出した(何しろ活性炭が縫い込んであるから、臭いが簡単に染み付いてしまうのだ)。そして、汗だくで荒い息をついていた。
 ジョンジーが無念そうに唸った。
「───くそ、迂闊だった。ガス・マスクは悪臭まで除去する訳じゃなかった」
「って言うか、アンモニアが全然フィルターで濾過されてないような……」
「役立たずなマスクめ、陸軍が設計するから、こういう半端な代物になるんだ。畜生、ナティック研究所のろくでなしどもめ」
「もう、僕なんか死にそうだよ……」
「弱音を吐くな! それでもお前、栄えあるマリーンか……くそ、しかしこりゃ辛いな、実際。ヴィエト・コンの奇襲の方がまだマシだ」
 口髭から汗をぽたぽた垂らしながら、再びジョンジーが唸った。
「外気を濾過するタイプのガス・マスクじゃ駄目だ。EAB(緊急酸素吸入)マスクが必要だな、外気から完全に遮断されてるタイプの補助呼吸器が」
「EABなんて、潜水艦にしか積まれてないよ。キャニスターの代わりになるものは、あるかも知れないけど」
「いや、なんかある筈だ。なにしろ我らがフェントン家だぞ、たいがいのものはあるんだ」
 なんだか得体の知れない自信をみなぎらせた物言いだが、これが本当に九割九分九厘、当たっていたりする。
「うちの一族に、ブーマー(潜水艦乗り)なんて居たっけ」
 しかし、いくらなんでも潜水艦の備品など、ありそうにない。
「そういう問題じゃないんだ、いいか、うちにはな、およそ必要なさそうなもんでも、何故か置いてあるんだ。なんせ『備えよ、常に』がうちの家訓だからな」
 そう力説する。
「そうだ、ジェット・ヘルメット用の補助酸素吸入器は?」
「あれは駄目だ。外気をシャット・ダウンする機構がない。単にタンクから出てくる酸素が吸えるってだけで、外気も一緒に吸っちまう」
「気密構造になってない航空機のパイロット用に開発された完全遮蔽型ガス・マスクは? 酸素吸入機能も付いてるやつ」
「あれはまだ軍事機密装備の扱いなんだ。基地から持ち出せないから、当然ない」
「歩兵用の、完全密閉型生化学防護用スーツってないの?」
「ない。そんなもん持ってんのはユーサムリッド(USAMRIID:陸軍伝染病医療研究所)の連中だけだ。歩兵にはそんな高価で面倒なものは支給されないし、第一俺たちゃ海兵なんだぞ」
 つまり、「海兵隊は貧乏だから高価な装備は買えない」ということらしい。
「じゃあ、エア・タンクは? スキューバー・ダイビングに使うようなやつ。あれならベントも付いてるし、ゴーグルも───」
「いいか、俺は泳ぐのが嫌いなんだ。泳ぐのが好きなら、パイロットなんかにならずにフォース・リーコン(強行偵察部隊。海兵隊のエリート部隊。潜水員の資格と空挺降下員の資格が最低でも必要とされる)になってたさ」
 彼は泳げないわけではないのだが(5キロくらいなら、何とか泳げる)、泳ぐのが嫌いである。海のない州の生まれだからなのだろうか。
「でも、ないものはないんじゃないの、うちには?」
「俺の嫌いなものは置いてない」
「あ、そう」
 しばらく二人で考えてから、思いつきを口に出して見た。
「このガス・マスクのキャニスターに、ジェット・パイロット用のサバイバル・エア・タンクを直結したら?」
「ああ? 『青リンゴ』を繋ぐのか? そりゃお前、出来ないことはないが───そうだな、それなら完璧かも知れんな。よしユウ、ガス・マスク補修用のスーパー強力な密閉ビニール・テープはどこにある?」
「……僕の部屋のロッカーの二番目の棚の中」
「それじゃ使えんだろうが」
 また、二人で腕組みして考える。
「それじゃあ、作業をしている間は息を止めて、顔にはグリスか何かを塗って、ゴーグルで目だけは保護する、っていうのは?」
「お前、それでやってみるか?」
「……やりたくない」
「うーむ、万策尽きたか」
「ジョンジーは、何かアイディアはないの?」
「あれば言う」
 つまり、ないらしい。
 私は何かいいアイディアはないかと、色々と考えてみた。
「───アンモニアに対する中和剤って何だっけ?」
 酸性のものにアルカリ性のものを混ぜると中和されるように、ある種の薬品を室内にぶち込めば、全て消えてしまわないだろうか、と考えたのだ。
「知るか、俺は化学とか数学とかが大嫌いなんだ」
「そうでした……」
 二人で脱力し、心なしかアンモニアの悪臭を漂わせながら、しばらくの間は脱力していた。
 しかし、
「だあっ、くそっ、これじゃ埒があかん!」
 そう叫ぶと、ジョンジーがガバっと立ち上がった。
「どうするの?」
「どうにもならない時にはだな、チャージあるのみだ! 前進する者にのみ、勝利の女神は微笑むものと昔から決まっている!」
 拳を振り上げて言う。彼の不屈の『海兵魂』が燃えているようだ。
「でも、また涙流して咳き込みながら出てくるだけのような気がするんだけど」
「───そうだな、いくら海兵隊員でも、カミカーゼはやらんしな」
 そう言うとジョンジーは、再び椅子に座り直した。『海兵魂』はどこへ行ったのやら。
「うーん、そうだなあ、要するに、外の空気から遮断されてればいいんだよね」
「そうだ、外気から完全に遮断されつつ、自分でも呼吸出来て、なおかつ、ある程度の作業が可能でなければならん。そういう装備が、俺たちには欠如している」
「あのさ、60リッターのゴミ袋を二つ繋いで、その中に入って活動する、ってのは?」
「袋の繋ぎ目はどうする?」
「自転車のパンク修理に使うゴム糊か何かで接着すれば?」
「おお、なるほどな───うむ、そりゃいい考えだ!」
 そう言うと、ジョンジーは私の肩をポンと叩いた。
「───なに?」
「お前、俺が小さいゴミ袋の中に入れると思うか?」


 かくして、『ユウの袋詰め120リッター・サイズ』が完成した。
 私は腰にパイロット用の緊急用補助呼吸酸素タンク(高高度で緊急脱出してパラシュート降下している時に、低酸素症を防ぐために使うもの)からマスクを外したものをぶら下げ、手には小型の無線送信/受信機セット(送信機と受信機が別々になっているもので、歩兵用のもの)を持った状態で袋の中に入った。取りあえずは袋の中の空気を吸って活動し、もしも息苦しくなったら、酸素タンクを開いて、袋の中に酸素を補給する。無線機は、『汚染区画』に突入した私と、室外で待機するジョンジーとの交信に使うのだ。
「よし、気密は完璧だ」
 ジョンジーは無線機を使って私に言った。
「別に無線機使わなくても聞こえるよ」
 私は無線機を使わずに答えた。
「テストだ、テスト。よし、それじゃ行って来い。俺は部屋の外からモニターする」
「了解」
 私はゴミ袋を被った状態で、のたのた歩いて自室の前にたどり着いた。
「それじゃあ、行くよ」
 私はドア・ノブに手を掛けて、ジョンジーに告げた。
「幸運を祈る」
 ジョンジーはそう言うと、廊下の端まで下がった。
 私は深呼吸すると、一気にドアを開き、室内におどり込んだ。


 作業は順調に進んだ。
 全身をビニールで被われていることもあって、多少、動きづらくはあったが、私はクーラーを止め、窓を開け、机の上のアンプルの山をズック引きの隔離用パケットに移しかえることに成功した。
 自分の吐く息と体温でビニールが曇り、蒸し暑くてしょうがなかったが、それでも何とか作業を続けた。
 そして、クーラーのフィルターを取り外す作業に移る前に、何だか息苦しくなってきたので、酸素ボンベを開くことにした。袋の中に酸素を補充しようとしたのだ。
「ジョンジー、このでっかいバルブを開けばいいんだよね?」
『そうだ、緑色の丸いノブを開くと酸素が出るようになってる』
 無線で確認を取ってから、私はバルブを少し開いた。
 しかし、何も起こらない。
「あれ?」
 もう少し開いてみるが、何も出てこない。バルブの吹き出し口を自分の鼻先に押しつけてみたが、酸素が出てきている気配はない。
 しょうがないから、もっとバルブを開いた。すると、ポロっとバルブが取れて、鼻先に猛烈な勢いで酸素が吹き出された。
「うわっ!」
 いきなり顔面にエアが吹き付け、なおかつ純粋酸素を思いっきり吸い込んだ私は、一発で過酸素状態に陥った。頭がクラクラして、よろけて倒れた。
『ユウ、どうした? ユウ、応答しろ!』
 それどころの騒ぎではなかった。
 まず、立ち上がらなければならない。くらくらする頭を振って、何とか立ち上がった。酸素タンクは足元に落ちていた。
 呼吸はだいぶ楽になった。しかし、酸素は吹き出し続けて、同時に私の入っているゴミ袋も膨らみ出した。
「ジョンジー、大変だ! 酸素ボンベのノズルが壊れちゃった! 袋がどんどん膨らんで行くよ!」
『なんだと?!』
 そうこう言っている間も、酸素はどんどん吹き出し続け、袋もどんどん膨らんで行く。あっと言う間に袋はパンパンになり、ゴム糊で接着した袋の接合部から、シューっと音を立てて空気が漏れ始めた。
「気密が破れた! 袋の中の空気が漏れてる! タンクを直さなきゃ!」
 私はボンベのバルブを拾い上げ、タンクに付け直そうとしたが、ジョンジーが直ちに状況判断を下した。
『酸素ボンベを止めるな! そのまま吹き出させて陽圧を保たせろ! 陰圧下になったら空気が逆流して、汚染空気が入ってくるぞ!』
「ああもう! あとフィルターを取り外すだけだったのに!」
『いいから、直ちに脱出しろ! これは命令だ!』
「あともうちょっと!」
 私はクーラーのダクト・カバーをもぎ取り、フィルターに手を掛けた。フィルターの枠に指を引っかけたら、その部分のビニールが裂けた。それでも私は作業を続け、フィルターを取り外し、窓の外へと投げ捨てた。
『早くしろ、ユウ!』
「フィルターを外した! 今、出る!」
 私は半ば息を止めたまま、あたふたとドアに向かった。しかし袋が膨らみすぎて、ドアを通れなくなってしまっていた。
「ちくしょう!」
 私はそのまま、強引に体を押し込んだ。薄いビニールがドアのノブや金具に引っかかって裂けた。無線機や酸素ボンベが床に転がり落ちた。
 私は破れたゴミ袋をまとわりつかせたまま部屋から転がり出て、息を止め、目を閉じたまま廊下を突っ走り、ぶつかった居間のドアを手探りで開いて飛び込んだ。
 ジョンジーが直ちに、そのドアを閉めた。

「……ぜんぶ……やった……始末は……ついたよ……」
 床に伸びてぜえぜえ息をしながら、私は報告した。シャツは汗まみれになっていた。
「良くやった、ユウ。お前は海兵魂を持つ、男の中の男だ。これで平和は守られた」
 ジョンジーは誇らしげに言った。
「……平和って、どこの?」
「わが家の、だ。問題は排除された。平和は取り戻された」
 ジョンジーは閉じた廊下の扉を見ながら、続けた。
「あとは時間の問題だ。換気されれば、なんとかなるだろう」
「ああ……そうだね」
 私は頷いた。

 そう簡単には行かなかった。
 二日ほどで、部屋にこもっていた臭いはおおむね取れたが、服や布団などの繊維類や、机やライフルなどアンモニアを直接浴びてしまったものは、最後まで臭いが取れなかった。机や毛布は新しいものに交換され、ライフルのストックは、臭いのついた部分を木工用サンダーで削り落とした。また、クーラーのフィルターやダクトなども交換しなければならなかった。
 我々二人は、化学戦というものの恐ろしさを実感すると共に、細心の注意を払いつつ、それぞれの野戦用救急箱からアンモニアのアンプルを除外した。

 アリゾナの、ある晴れた昼下がりのことであった。