おやすみ。
英士はいつも僕の隣。
日本から来たときも、日本へ行ったときも、いつも僕の隣で寝るんだ。
英士は怖がりだから一人で寝たがらない。そのくせ妙なところでプライドが高いものだから、自分の母親とは寝ない。
でも普段は一人で寝ていても、傍にいてくれる人がいるならやっぱりそっちの方が良いらしくて。
だから、英士の隣で寝るのはいつも僕なんだ。
一緒のベッドに一緒に入って、手を繋いで一緒に寝るんだ。
ところがある日。
母さんが英士の分の枕と布団を僕の部屋に持って来た。英士は潤慶と一緒に寝るわよね、とそれを前提にして云う。
でも英士の口からは意外な言葉が飛び出した。
「ううん、一人でねるよ」
僕も母さんも叔母さんも、皆びっくりした。
英士がそんなこと云ったのはそれが初めてで。
どうしたの急に――と目を丸くする叔母さんに英士は平然とこう応える。
「だってもうこどもじゃないもん」
云い切る英士に母さん達は少し笑った。じゃあ潤慶のベッドの隣にお布団を用意しましょうか、母さんがまた云う。
すると英士はまた意外なことを云い出した。
「やだ。潤慶とはべつのへやがいい」
流石にこれには僕もショックだ。
「な、何で。僕と寝るの嫌なの?」
「ちがうよ。でもひとりがいい」
英士は頑として譲らない。
僕にはそれがひどく哀しくて、寂しくて。
英士と一緒に寝るの、本当は凄く楽しみにしてたんだ。
あーあ。つまんないな。
結局英士は叔母さん達と同じ部屋で寝ることになった。――最後まで別の部屋がいい、と云っていたけれど。
僕は自分の部屋で独りベッドに潜り込む。
英士が来てるのに一緒に寝ないなんて初めてかもしれない。凄く不自然で、違和感を感じる。
――本当なら隣は暖かいはずなのに。
どうしようもなく寂しくなって、僕は目を閉じた。
どれぐらい時間が経ったんだろう。
がちゃり、とドアの開く音がした。
ぼんやりとした頭でゆっくり起き上がると――闇の中には小さい、影。
枕を抱えた英士がドアの傍に立っている。
すると泣きながらが英士が抱きついて来た。僕は慌てて受け止める。
「ど、どしたの」
英士はぎゅ、と痛い程に額を押し付ける。袖を掴む小さな手には力がこもっていた。
――独りで寝るの、やっぱり怖かったのかな。
ゆっくり背中を撫でてやる。
こんな時間でも一人で自分の所へ来てくれたことが嬉しい。
「やっぱり、潤と一緒がいいよ……」
掠れた声で英士が呟いた。
隣に英士がいると、それだけで暖かくなった。
すっかり泣き止んだ英士は僕にぴったりとくっついている。
「英士、何で急に一人で寝るなんて云い出したの」
ううん、と英士は少し逡巡する。
やがて云い難そうに口を開いた。
「……潤と一緒にねたつぎの日とか、日本にかえったり、潤が韓国にかえったりするでしょ」
小さい声で恥ずかしそうに云う英士に、僕はうん、と頷く。
「そしたら、その夜ひとりでねるのがすごく寂しくなるんだ」
だから――と俯いた。
カワイイ。やっぱり英士は英士だ。
嬉しくて、でもその気持ちは僕も同じだったからなんだか寂しくて。
どうしたらいいのか、何て云えばいいのか解らなかった。
だから僕はただ英士の手をぎゅっと握った。
ごめんね、今はこうしてあげることしか出来なくて。
ねえ英士。いつかずっと一緒にいれるときが来るといいのにね。
END
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