MEMORY 〜エピローグ〜




「浩之」
「んー?」
布団を出す俺に智子が呼びかける。
「・・・この子いつまで寝かせる気?」
部屋の片隅で寝ているマルチの方を見て言う。
「あ、ああ」
曖昧な返事をしておく。
「・・・どっちやの?」
今日はしつこいな、智子。
前に何度となくマルチについて言われたことはあった。
だがあまり深くは言わないでくれたから今回もそうだと思ってたが、どうやら違うらしい。
「あのな浩之」
少し口調が重くなる。
それを感じて俺も少し身構える。
「私、気付いてた」
口を挟まず聞くことにする。
「浩之、街中におるマルチ見んようにしてたこと」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「前に学校で一緒やったマルチのことは浩之に聞いてたからわかる。浩之が街中のあの子を避ける理由」
そうだよな、前に言ったよな。
「でも最近はそうでもなくなってきたように見えた。まだちょっとぎこちない時もあるけど、それでも露骨に避けるゆうことはなくなってた」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「なのにどうして?どうしてこの子だけはまだ寝かしておいてあるん?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「可哀相やん。この子かて人の役に立つように浩之の役に立つように作られてここにおるんやん。どないしてこの子だけはこのまんまなんよ」
それはな・・・・・・・
まだ俺もどこかで信じたいところがあるんだよ。
「妹」じゃない「マルチ」に。
会いたいんだ、あいつに。
会えると信じているんだ、あいつに。
街にいる子やここにいるマルチじゃなく「あの」マルチに。
起動する際に何かすればあのマルチに会えるのかもしれない、って。
だから毎晩立ち上げてるんだ、俺は。
でもその都度毎度お馴染みのユーザー登録。
そうやって立ち上げちまうともうマルチには会えないんじゃねえかって、そう思えちまうんだよ。
あいつはきっとデータベースの中で眠っているんだろう、妹たちのことを夢みて。
だけど、信じたいんだ。
あの時頭を撫でてやったときに顔を赤らめたように。
バグでもなんでもいいから、もう一度あいつに会いたいんだよ。
・・・・莫迦みたいな話だけどな。少ない可能性にしがみついてるガキみたいだけどな・・・・・立ち上げたら全部終わっちまうような気がして・・・・・だから起こせないんだ、あいつは・・・・・
「・・・・ま、いずれ、な・・・・」
そう言って布団をベランダに持っていく。
ばしばしと布団を叩いて伸びをする。
青空。雲ひとつないいい天気。
「私な、浩之」
ベランダにもたれかかる俺のよこについて同じようにもたれかかる智子。
「先生になりたい。何もようわからん子にいろんなこと教えてあげる先生になりたい」
「・・・・・・ああ」
「私もあの子には何度か会ったことがある。登校する時一生懸命校門に箒かけてたからなあの子。
廊下でも掃除してた。すごく熱心に」
呼び戻される高校時代の記憶。
「図書室であの子昼寝しとったわ。それで終わり近くになって起きてからな、本広げてめっちゃ勉強しとった」
それは初耳だ。
一生懸命本に目走らせて、理解すると目輝かせて・・・・・・それで私先生になりたいなって漠然と考えた。
・・・・・・・・・・会いたいな、「あの」マルチに・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
頭を掻き毟る。
・・・・・・・・・・・・マルチ。お前に会いたがってるやつ。こんなに身近にもう一人いたぜ。
厳しそうに見えるけど、やさしいいい先生になってくれると思うぜ。智子は。



「・・・・・・ん?」
「ん?どうした?」
「郵便屋さんが来るみたい」
赤いバイクを片隅に止めて制服姿の郵便屋がやってくる。

それが、再会の第一歩―――――――――――――――――――――――――



「MEMORY」TRUE END

2002/7/21UP



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