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それは刹那の夢。 それは一瞬の夢。 夢のような現実。 現実のような夢。 それは悠久の夢。 それは永遠の夢。 たとえ、それが夢であろうとも、それが夢だと気づかなければ。 たとえ、それが夢であろうとも、それが永遠に続くものならば。 きっとそれは、最も現実に近い夢になるだろう。 きっとそれは、夢と気づかぬ現実となるだろう。 「――イナ。ライナってば!」 身体を揺さぶられ、ライナ=リュートはのそのそと目を覚ました。 机の上に長時間寝ていたせいだろうか、寝ていたはずなのに少しだけ身体が疲れているが、慣れているので問題はない。椅子に座ったまま軽く伸びをして、寝癖でぼさぼさになった髪をぼりぼりと掻き毟る。 目を見開いてみれば、ライナの座っているものと同じ机が均等に並べられた教室の窓からは、鮮やかなオレンジ色の夕日が差し込んでいる。教室の中にはすでに、自分と自分を起こしてくれたキファ以外の姿はない。 たしか昼飯を食べた後、シオンとキファと少し話して、それから午後の最初の、大陸文学の勇者伝承についての講義の最初を受けていた記憶があるが、それから先の記憶が途絶えている。 まあいつもの事か、とライナは手ぶらのまま椅子から立ち上がる。彼には教科書もノートも必要ない。教科書の内容はほぼ完璧に把握しているし、教科書に載っていない教師の話もほとんどは知っているか興味がないかのどちらかだ。もっとも、そのほとんどを寝ていて聞いていないのだが、おそらくライナの知識量はこの学院のどの教師よりも多い。 聞かなくても分かる。そんなものは幼少の頃にほとんど勉強したし、基礎さえ覚えれば残りは応用だ。難しい問題ではない。ただ、彼の場合はテストも何もかもを面倒くさがっていて、成績は最底辺の落ちこぼれなのであるが。 「……帰ろっか?」 ぼぉ〜っとしたまま立ち上がったライナにキファが優しく問い掛けると、彼は黙ったまま小さく頷いた。 ライナの反応に満面の笑みを浮かべ、キファはライナの手を自分の手で素早く握り締めた。そのまま身を寄席、密着するように腕を絡ませてくる。まるでその姿は、さながら仲睦まじい恋人のよう。 「お、おいキファ……!」 わずかに慌てるライナを尻目に、キファは悪びれた様子も見せず、どこか意地悪い笑みを浮かべたまま、ライナを引き摺る様にして教室を出る。 「いいじゃない、誰も居ないんだし。だいじょうぶだって」 いちいち説得するのも面倒くさいかと、ライナは観念したように大きく溜め息をついた。 嬉しそうにわずかに顔を赤らめるキファに引っ張られながら、ライナは窓の外を眺めながら思う。 あ〜……今日の晩飯、なんだろ? シオンとトニーとタイルと――せっかくの休日なので男四人で出かけようということになった。 特に目的はない。ただ、もうすぐ誕生日だと言うファルのために誕生日プレゼントを買うんだと、午前中はトニーに付き合って色々な店を回った。最近彼女ができたタイルが店の場所を率先して案内し、プレゼントの品物を選ぶのはもっぱらシオンに頼っていた。 結局、最終的に選んだのはネックレス。トニーは個人的には指輪にしたかったらしいのだが、指輪だと訓練の邪魔になるし、恋人でもない相手からいきなり指輪などと言う“いかにも”な物を渡されても困るのでは、と言うタイルとシオンの共通の意見からしぶしぶ納得していた。 プレゼントを選び終えると、手近な酒場で遅めの昼食会が始まる。真っ先に酒を注文し始めたのは、意外にシオンだと言う事に誰もが驚かされたが、彼が優雅にワインを嗜むその姿が妙に似合っていた。 「つうかさぁ? ライナ、おまえキファとはどぉなんだよ?」 アルコールが回り始め、テンションの上がり始めたタイルが巨大なウインナーを口の中へと運びながら、呂律の怪しくなってきた声で不意打ち気味にライナへと問い掛ける。 何となく展開が読めていたのか、やっぱり来たかと言う表情を一瞬だけ見せ、酒にそれほど強いわけではないライナはちびちびとオレンジジュースを啜りつつ、 「どぉ……っていわれてもなぁ……」 キファから告白を受けたのは、もう一ヶ月も前の事になる。 正直に言って彼女のことは嫌いではなかったし、特別視していないわけではなかった。ただ“返事はゆっくりでいいから”との彼女の言葉に甘え、今も何も答えずに微妙な関係を続けている。 友達以上、恋人未満と言う奴かもしれない。 自分としてはあまり態度を変えたつもりはないが、キファの態度は少しだけ変わった。 前よりも少しだけ近くを歩くようになって、前よりも少しだけよく喋るようになって、前よりも少しだけ一緒に居る時間が増えて、前よりも少しだけキファが積極的になって―― 「まあ、こいつも戸惑ってるんだろう。何せ相手はキファだよ? ライナが落ちるのも、きっと時間の問題だ」 いつもは暗くて地味なトニーも、ファルへのプレゼントが手に入ったからなのか、はたまたアルコールが回っているせいなのだろうか、さわやかな笑みを浮かべながら口元へ酒を運んでいる。 「何なら賭けでもしようか? ライナがどのぐらいで“落ちる”かを」 いつになく上機嫌なトニーを見て、最近仲間との間なら地を出すようになった、ノリだすとこの上なく厄介なシオンがにやにやと笑いながらそんな事を言い出した。 わっ、と奇声にも近い歓声を上げて、金と期間を笑いながら言い合う三人を尻目に、ライナはまたちびちびとオレンジジュースを啜り始めた。 ファルの誕生会は、仲の良い六人の仲間――つまりは最初の戦闘の班メンバー(+最近できたタイルの彼女)のみで行う事となった。 きっと呼べばもっと人も来るのだろうが、こんな施設の中では数十人が集まって騒げるようなスペースはないし、以前の宴会で学院メンバーのほとんどが飲食店のブラックリストに載せられてしまったために断られてしまった。 キファとタイルの彼女がケーキやクッキー等のお菓子類を担当し、メインの料理はトニーとシオンが、部屋の飾り付けやらその他の雑用は残ったタイルとライナが担当した。めんどくさいめんどくさいと言いながらも、この時ばかりはライナも自ら動きを見せた。 特に飾り付けに関しては特に気合を入れ、ちょっとしたパーティ会場風にアレンジされた部屋の中はかなり見栄えするものになった。巨大な丸テーブルの上にはウェディングケーキのような巨大なケーキが雄雄しく鎮座し、その周りには料理やら菓子やらジュースや酒のビンやらが所狭しと並べられていた。 やるとは言っていたが、ここまで盛大にされるとは思っても見なかったのだろう。感動のあまりか、ファルの目は少しだけ涙で潤んでいた。そこまで喜んでもらえると、準備したほうとしても嬉しく思う。 タイルの場合、ファルの誕生会と言うのを口実に騒ぎたかっただけかもしれない。誰よりも何よりも先に、こっそりと持ち込んだ酒をあおり、早々とたちの悪い酔っ払いと化していた。 ファルをネタに、からかうようにトニーに構うタイルを、シオンは意地の悪い笑みを浮かべながら遠くから眺め、女三人は女三人で気が合うのか何やらこそこそ話ながら、時折トニーとタイルを見て楽しそうに笑っていた。 平和だな、とライナは思う。 皆が笑っている。 心の底から笑っている。 嗚呼、そうだ。 自分はこんな世界を望んでいたんだ。 あの子も、キファも、誰も泣かない。 タイルやトニー、ファルが居て、皆が居て。 シオンが笑っていて、みんなが笑っていて。 “この世界”なら、誰も何も失う事はないんだ。 “この世界”なら、誰も傷つかなくていいんだ。 皆が笑って、昼寝だけをしていればいいような――そんな、世界。 こんな世界を望んでいた。望んでいたはずなのに。 心の何処かで“足りない”と思ってしまうのは、どうしてなんだろう? 何が足りないのか。足りないのは何なのか。 心なのか、身体なのか、血液なのか、手なのか、足なのか、指なのか、腕なのか、瞳なのか、鼻なのか、口なのか、夢なのか、人なのか、物なのか、自分なのか、他人なのか、男なのか、女なのか、それとも別の――何かが、足りない。 「ラ〜イナ」 不意打ち気味に意識を現実に引っ張り戻され、思考が停止する。 気がつけばキファが自分の隣に座っていた。 自分は今、一体何を考えていたのかを思い出そうとしてみるものの、ついさっき考えていた事の筈なのに欠片ほども思い出せなくて、ライナは不思議そうに軽く首を捻った。まあ、思い出せないのならば、たいした事ではないのだろう。 「どうしたの、いつも以上にぼぉ〜っとしてるけど」 「ん……ああ、いや、別に。つか、他の奴らは?」 いつの間にか自分とキファを残して部屋に誰もいなくなっている事に気づき、ライナはきょろきょろと辺りを見回した。 「見物、かな」 にこにこと笑って、キファが窓の外を指差す。指差す方向を追い、窓を開けて外を見てみれば、そう遠くもない距離で見慣れた男女が向かい合わせに佇んでいた。 長身だが少し暗めの地味な男と、小柄な眼鏡の少女――トニーと、ファル。 遠目からでも、二人ともガチガチに緊張しているのがはっきりと分かる。トニーがファルを好きだと言うのは、ここ最近の彼の態度でバレバレだ。おそらく、本人にも。 だから、トニーが今から何を行おうとしているかも、ファルには何となく察しがついているのだろう。この間、ファルのプレゼントにと買ったネックレスの箱はすでに彼女の手の中。包装はすでに解かれ、透明なケースの中に収まったネックレスのチェーンが部屋から漏れる光を反射させてわずかに輝いている。 トニーが顔を上げ、一歩だけファルに近づいた。 身長差は頭一つ分。ファルはネックレスを胸に抱いてトニーを見上げ、トニーは両手を強く握り締めて深く呼吸を繰り返す。トニーの視線が真っ直ぐにファルを射抜き、覚悟を決めたとばかりに短い呼吸を一つ。 俺は――と、声が聞こえなくとも、ライナには唇の動きで何を言っているのかが分かった。 紡がれた言葉は、もっともシンプルな台詞。 彼はただ一言、こう言った。 貴女が好きです、と。 横には食い入るように二人の様子を見つめるキファの気配がある。残った他の三人も、見えない位置から二人の行く末を見物しているのだろう。 流れるのは、長いのかも短いのかも分からぬ沈黙。 目を閉じ、二呼吸ほどしてから再び目を開いてみれば、にっこりと微笑んだファルがトニーに箱からネックレスを差し出していた。意図が読み取れず、狼狽するような様子を見せるトニーに、ファルは笑顔のまま言葉を発した。 唇の動きを見る。ライナの読唇術が確かならば、彼女の声はこう言っているはずだ。 あなたの手で、つけてくれませんか、と。 ネックレスを受け取り、トニーはファルの背に手を回してネックレスを彼女の首にかけた。 トニー、と呟くファルが背伸びをして、彼の顔にそっと自分の顔を近づけ―― ファルはそのまま、そっとトニーにキスをした。唇ではなく、頬ではあったが。 これから先は見る必要もないし、見るのも野暮だろうと、ライナは二人から視線をそらした。見ればキファも同じ考えなのか、すでに視線は自分のほうへと向いていた。キファの手がカーテンに伸び、そのままそっと閉められる。 「うまくいくよね、あの二人」 こちらを見ずに呟いたキファに、ライナはどことはなしに視線を泳がせたまま、ああ、と生返事を返した。 脳に思考が流れ込んでくる。自分ではない自分が、何かを言っているような。 そうだ。みんなみんな、幸せになるんだ。 “この世界”では、みんな幸せにならなくちゃいけないんだ。 たとえこの世界が、 れた 夢の 界であったとしても。 「あ、れ……?」 雪崩れ込んでくる不可思議な思考に脳が理解できずに、額を押さえてライナはその場に座り込んだ。 胃の中で何か得体の知れない、どす黒いものがぐるぐると回っているような気がして、嘔吐感にも似た不快な感情が胸の奥に込み上げてくる。 ――――否定する否定する脳が否定する心が否定するヤメロ精神が肉体を肉体が精神を自分が世界を世界が自分をヤメテクレ否定する。拒絶拒絶拒絶これは現実じゃない思い描いたチガウ理想の現実の夢の現実に近い夢と分からぬ現実の夢。これは夢だこれはオレガノゾンダノハ現実だこれは夢だこれは現実だこれはこれはこれが現実夢現実夢夢夢現実タリナインダ現実夢現実現実現実現実これは現実の夢。ぐるぐる回るくるくる回るどんどん回る世界が回る心が回る自分が回る全てが回る夢と現実の悪循環タリナインダ現実と夢の悪循環異なる理想と現実誰も泣かない楽しい楽しい夢の世界。全てを失ってしまう現実は辛い辛い現実はいらない現実なんて嫌い現実なんて現実なんて現実なんてナニカガタリナイ現実なんて―――― 「ライナ、どうしたの!? 顔、真っ青じゃない!? ねえ、大丈夫!?」 キファの声がやけにがんがんと頭に響く。 大丈夫だと返事を返そうとしても、声すら出せない。 おかしい。何かがおかしい。けど、何がおかしいのか分からない。 キファの手がそっと自分の身体に回され、目を開ければ触れ合うほどに近いところに彼女の顔があった。 意識が白濁する。何も考えられずに、身体が何かに支配されていく感覚。 「ライナ……」 甘い、甘い声。 「ライナ」 誘うような声。 真っ赤な唇が、ゆっくりと自分に近づいてくる。 きっと、と確信があった。 この唇に触れてしまえば、きっと楽になれるのだろう。誰も泣くことのない、誰もが何も失わずに、みんなで笑って昼寝をしてればいいだけの、そんな世界が広がるのだろう。 それは自分が望んだ世界。 それは自分が望んだ夢。 否定しろ。否定しろ。否定しろ。 本気で、全力で、己の全身全霊をかけて“この世界”を否定しろ。 難しい事ではない。 不可能な事でもない。 身体が覚えている。心が覚えている。“この世界”がまがい物である証拠を、自分は覚えているはずだ。 ライナ=リュートと言う存在こそが“この世界”を否定する唯一のもの。 タイルは死んだ。トニーは死んだ。ファルは死んだ。キファは泣いていたし、シオンは今も思いつめている。 こんなものは、ただの逃げ場所にしか過ぎない世界だ。 けれど、この世界を否定する一番の理由はそんな事じゃあない。 「そうなんだよなあ、うん」 言葉に出して確認する。 世界がどうとか夢と現実がどうとか。そんな事は、本当はどうでもいいんだ。 夢と現実との隔たりを現す、唯一の存在。 “彼女”の存在だけが、ここが現実ではないと教えてくれる。 足りないんだ。“彼女”の存在だけが、この世界には足りないんだ。 隣に居る、と言うことが当たり前になって、隣に居ない、と言うことが当たり前じゃなくなって。 彼女が隣に居ることに安堵し、彼女が隣に居ないことに不安を覚える。 それはまるで自分の片翼のように。 それはまるで自分の半身のように。 それはまるで自分の―― 「どうでもいいんだよなぁ、結局」 彼女の姿が、声が、言葉が、脳裏に焼きついて離れない。 どんな罵詈雑言でもいいんだ。 ただ、“彼女”の声が聞きたいんだ。 この世界には が足りない。 だから、彼女の名を呼ぶ。 フェリス。 目を覚ませば、そこはかすかに見覚えのある部屋だった。 「――っつ!」 とりあえず起き上がろうと身体動かすと、全身の筋肉がぎしぎしと悲鳴を上げた。思わぬ苦痛に顔を歪め、ライナは恐る恐るといった感じが軽く身体を動かしてみる。 上半身だけを何とか起き上がらせて、自分の身体の調子を確かめる。何と言うか、身体が動かされる事に慣れていないような感覚があった。ベッドに寝かされていたところを見ると、どうやらしばらくの愛d眠ってしまっていたらしい。丸一日か、三日か、一週間か、あるいはそれ以上か。 寝起きで曖昧な記憶だったが、だんだんと鮮明になっていく。 たしか眠ってしまう前の日に、勇者の遺物を手に入れたはずだ。昔話で、とある貴族の娘に百年間眠り続けると言う呪いをかけた針。その針が呪いの力を残したまま、今も現存していると話を聞いて、地道な調査の末にそれを入手したのだ。 ベッドの横に備え付けられた机を見れば、その上には10センチはあろうかと言う金色の長針が開かれたいくつかの書物と共に置かれている。たしか調べている最中にうっかり針で手を刺してしまって、それからも猛烈な睡魔に襲われて―― 「眠っちまったのかぁ……きっとよく寝たんだろうなぁ……」 ぼそりと呟いて、ライナはベッドから立ち上がり――そこで、気づいた。 部屋に広がるのはある種異様な風景。ベッドの周りだけはやけにきれいなのにも関わらず、部屋の片隅にはだんごの空箱やらよれよれになった服やらがゴミと一緒に積み上げられていた。枕元には水の入った洗面器と清潔そうなタオルが一枚。その傍らには、冷めたお粥と茶飲みが乗った盆が一つ。床は薄汚れ、チリ紙やら何やらが所々に散乱している。 そして、 「フェリ、ス?」 鞘に収められた剣を抱き、毛布に包まって眠るフェリスの姿がそこにある。起きた自分の気配も察知できぬほどに彼女は熟睡していた。艶やかな金色の長い髪は何日も放置されているかのようにぼさぼさで、自分の記憶にある彼女よりも少し痩せた――もとい、やつれたように見える。 フェリスの様子や宿の様子を見る限り、どうやら一年や二年も眠り続けたわけではないらしい。眠るフェリスの姿は、自分の記憶の中にある彼女とほとんど変わらない。 そっと手を伸ばし、ライナは彼女の長髪を撫で付ける。さらさらした感触が何とも言えずに心地良くて、彼の指はそのままフェリスの頬を滑っていく。 嗚呼、フェリスだ、とライナは何とも言い知れぬ安心感に包まれる。彼女に触れてライナは初めて、現実に帰ってきたんだと実感した。 自分に触れる気配に気づいてか、フェリスがもぞもぞと身動ぎをする。右手で剣を抱えたまま、左手で目元を擦りながらゆっくりと瞼を開いていく。 「イリスか? すまないが今日は――」 はたと、フェリスの言葉がそこで止まった。 その表情は、まるで夢でも見ているかのよう。フェリスは自分の見ている現実が現実だと理解できていないかのように、呆然とライナの顔を見つめている。 「おはよ、フェリス」 今まで見た事もないフェリスの表情がおかしくて、ライナは笑いを堪えながらフェリスにそっと手を差し出した。 差し出された手をきゅっと握り締めて、フェリスは引っ張り揚げられるように立ち上がる。ゆっくりと手を伸ばし、フェリスの頬に触れて彼女の感触を確かめた。フェリスも自分と同じように頬に触れてくる。ライナの存在を確かめるかのように、何度も何度も彼の頬を指でなぞる。 ライナはフェリスに向かって、優しく微笑む。 「悪りぃ、心配かけた」 「な、なぜ私がおまえの心配を――――」 珍しく慌てたようなフェリスがそこまで言って、ありえないぐらいにその表情を歪めた。 眉尻を下げ、ぎゅっと唇を噛み締める。息が荒くなって、いつもは強気なその相貌がだんだんと涙に潤んでいく。 いつもは無表情かつ無感情なフェリスが泣いている。こいつも泣くんだと妙に嬉しくなり、泣かせているのが自分だと言う事実に、不謹慎だとは思いつつも心が躍る。 フェリスの両手が伸ばされ、そっとライナの首に回る。彼女はライナに強く抱きつき、そのまま彼の肩に顔を埋めた。自分のその涙を隠すように。彼をもう二度と手放さないように。 「……………………心配したんだ、馬鹿」 ライナに抱きついたまま、フェリスは彼の耳元で小さく囁いた。それは今にも消え入ってしまいそうなほど小さな声だったけれども、ライナの耳に届くには十分なものだった。 悪い、ともう一度小さく呟き、ライナもフェリスを抱き返す。思ったよりも華奢で小柄なその肢体に少しだけ驚きながら、右手を彼女の後ろ頭へ、もう一方の手を彼女の腰へと回す。 フェリスがライナに抱きついたまま、彼の腕の中で小さく、二週間、と呟いた。 なるほど、とライナは思う。二週間も眠り続ければ、身体も動きにくくなるのも当然だ。 「……………………もう、起きないのかと思った」 きっと、彼女はずっと自分の事を看病していてくれたのだろう。自分が眠る事も忘れてしまうぐらいに、懸命に。でなければ、フェリスが自分に触れられるまで起きないと言うことなど、普通では考えられない。 「まったく、眠ってばかりの超絶サボり大王の相棒を持つと、慈愛に満ち溢れた奇跡の聖母天使美女の私は本当に苦労する」 彼女の一言一言が柔らかくて、身体の奥まで暖かく染み込んでくる。 身体が熱くて、心が熱くて、彼女をもっと感じたいと本能が叫び出す。 わずかに身体を離し、ライナはフェリスの頬を優しく包み込んだ。形の良い柔らかそうな唇に自分の顔を近づけ、彼女の唇に自分の唇を重ねてキスをする。最初は浅く、次は深く。 抵抗はない。わずかな身動ぎと、彼女の心臓の鼓動だけが伝わってくる。 唇が触れ合う。 身体が触れ合う。 肌が触れ合う。 心が触れ合う。 唇が重なる。 身体が重なる。 肌が重なる。 心が重なる。 もう、放さない。 何もいらない。 自分は彼女がいれば、本当は何もいらないんだ。 けど、化け物の自分は、罪を背負っている。 だから、世界を平和にしなくちゃいけない。 平和な世界を、作らなくちゃいけないんだ。 みんなが笑って、誰も傷つかない世界を。 昼寝だけしていればいいようなそんな世界を、自分を作らなくちゃいけない。 誰も死ななくて、誰も泣かなくて、誰も思いつめなくて、ただ寝ていればよくて。 自分の隣にはフェリスが居る。 そんな世界が、自分は欲しいんだ。 嗚呼、神様。 誰よりも罪深い俺ですけど。他の事なら何でもしますから。 この我が侭だけは、お願いですから許してくれませんか? まあ――許してくれなくても、絶対に逆らうから別にいいんだけど。 -fin- ------------------------------------------------------------------------------------ あとがき 久々に超速で書き上げた、夢見様リクのライナ攻めのライフェリ〜(´Д`)ノ ライナ攻めになっているかどうかは謎ですが、たぶんライナ攻めでしょうw 伝勇伝ならアイテムは何でもありだろうと、出してみました勇者の遺物。 とゆーか出番少ないですねぇ、フェリス姐さん。 実は食事はフェリスが口移しで――とゆー裏設定があってみたりw 服の着せ替えとかその他諸々も全部フェリスがやってます(たぶん) ラストはもう少し引っ張ろうかと思いましたけどさくっと終わらせてみましたw 夢見様のリクエスト通り、二人はキス以上までいっちゃいました……たぶん(爆 さて、次回の更新予定は卵大嫌い様リクエストのフェリス攻めのライフェリでつ。 コンセプトは他の女(キファやらその辺り)に嫉妬するフェリスでw ――うわ、我ながら想像できねぇ(爆<嫉妬するフェリス ------------------------------------------------------------------------------------ ←二次創作置き場へ |