a little sweet




 












 
 
 二月も半ばを過ぎようとしているはずだが、赤道よりもやや南にあるこの地方では、ここ数十年の間、雪が降った記録がないほど暖かい地方だった。
 加工食品の原料の原産地であり、それを生業にして発展した、人口三万人ほどの都市。街の中心部よりやや東南に位置するこの緑地に植えられた樹木にはまだ葉が茂っていたし、広げたシートに座り込んだ彼等の近くには、長袖Tシャツ一枚で元気よく走り回る子供たちの姿が見えた。
 
 青々と葉の茂る大木の木陰に広がる、薄い赤色のシート。そこに二人の人間の姿がある。
 
 片方は少女。彼女は身体のラインをはっきりと見せる、スウェットスーツのようなシャツとスパッツに身を包み、正座でシートの上に座っていた。頭から伸びた黄金色の髪は正座していても地面に届きそうなほどで、その顔立ちは男女を問わずに思わず振り返ってしまうような美貌を持っている。整った目鼻立ちに、薄い蒼の切れ長の双眸。手に届く位置に置かれた、一.五メートル弱ほどの巨大な剣と、手に持った串だんごが妙に不釣合いだった。
 右手の届く辺りに急須と湯呑み、その隣には山積みにされただんごがある。膝の上には眠そうに瞼を擦る、寝癖交じりの茶色い神の青年が寝転がっていた。
 
 
 
「なあ、フェリス」
 
 唐突に、少女に膝枕をされた青年は、そう呟く。
 呼びかけられた少女は、だんごを食べている最中なので喋ることができず、自分の膝の上に頭を乗せて寝転がる男に顔を向け、自分の視線を送る事でその呼びかけに応えた事を示す。
 自分の間近にある彼女の黄金色の髪を一房、自然な動作で掴み取る。親指と人差し指で転がすようにして感触を確かめながら、彼は言う。
 
「おまえってさあ。髪、綺麗だよなぁ」
 
 
 
「――当然だ」
 
 わずかに間があったのは、口の中に残っただんごを咀嚼していたためだ。
 あとを続けようと口を開くが、わずかに迷ったあと、フェリス=エリスは口を噤んだ。右手に握り締めた串に残っただんごの一粒を口の中に放り込み、またもぐもぐと甘ったるいだんごを食べ始めた。
 いつもの彼女なら、それが事実とは言え、自意識過剰にもほどがあるほど、自分の容姿や性格――こちらは正直、微妙なところだが――を賞賛するが、それがないのはよほど機嫌がいいか、もしくはよほど照れてしまっているかのどちらかだという事を、彼は知っている。
 空になった串を皿の端に置き、フェリスは皿の上から、残り五本となっただんごのうち一本を手に取る。
 
「ライナ。お前も食べるか?」
 
 めずらしいな、とライナ=リュートと言う名の男は思考する。
 
 
 
 無類のだんご好きであるこの少女は、一日最低十本はだんごを口にしている。仮にも相棒である自分はもちろんの事、果ては自身の妹、もしかしたら自分よりもだんごを優先させるのではないかと思うほどに、彼女はだんごを“愛して”いる。
 だが、ケチと言うわけではない。だんごに関して言えば、彼女は大海よりも広い寛容な心の持ち主だと言っても過言ではないだろう。口にしているだんごを分けてくれといえば、それが例え一日限定十本の希少なだんごであろうとも、分けられる状況であれば嫌な顔一つ見せずに分けてくれる。それはだんごの美味さを一人でも多くに知ってもらおうと言う彼女なりの考えなのだろうと、ライナは考えていた。
 
 けれど、彼女が自分から“食うか?”などと問い掛けてきたことは、いままで半年以上も一緒に旅をしてきた中で、片手で数えられるほどしかない。一緒に食べないか、と誘われた事を含めればもう少し多いかもしれないが、それでもやはり両手で事足りてしまうほどの回数だ。
 フェリスが自らだんごを勧めてくるのは、大抵こちらが妙に落ち込むか考え込んだ時に、気分転換の手段としてが常だったように記憶している。そんな彼女がこんな風にだんごを勧めてくるという事は、自分がよほど思いつめているように見えたのか、それともただの気まぐれか。
 
 
 
 まあ、どうでもいいか……くれるって言ってんだし。
 んあっ、とでもいう表現がぴったりに大口を開け、差し出されただんごの口の中に入れる。その様子を、なぜかフェリスはじっと見つめていた。
 
 おや、とライナは舌を刺激するだんごの甘味に、妙な違和感を覚えた。
 
 実に変わっただんごの味である。だんごは自分で作った経験もあるし、よく彼女の食べているだんごを拝借しているため、彼女の好みのだんごは少しは分かっているつもりだ。彼女、フェリス=エリスの好むだんごは、このような味ではないはずだ。もう少しあっさりとした、純粋な和菓子としての甘味を持つ、言ってしまえば緑茶によく合う様なシンプルなだんごがフェリスの好みだと、ライナは考えていた。
 だが今、自分の口の中に広がるだんごの味は、どちらかと言えば洋菓子風味。わずかに鼻腔を擽るのは、どこかでかいだ覚えのあるような甘ったるい香り。紅茶などに合うような気がする。甘味も抑え気味で、お茶と一緒に食べるよりは単品で味わうことに適している。少なくとも、フェリスの好みではない。むしろ、これは自分の好みに合っていると言ったほうがいい。
 
 
「どうだ、美味いか?」
 
 
 美味いには美味かった。わずかに鼻腔を擽り続けるこの甘ったるい風味の源が何なのかが分からない事が気にはなっているが、味は掛け値なしに美味い。今まで食べただんごの中で、おそらく一番自分好みではないだろうか。
 しかしそれよりも、ライナの不信感はさらに集う。フェリスが自分にだんごの味を問うなどと、こんな事は初めてだ。
 優先するべきは、自分の舌に合うかどうか。ライナ自身も、自分自身に対して物を買う時は、そうだ。まず、第一条件としては自分が気に入るか否か、だ。
 
 だが今、彼女が気にしているのは自分が気に入るかではなく、ライナがこの味を気に入っているかどうかである。
 不思議に思うのは事実だが、考えて分かるものではない。理由を問い掛けてみてもいいのだが、彼女は多分答えてくれないような気がした。
 何となく、だが。
 
 
 
「…………?」
 
 
 
 ふと、ライナはそこで気づく。
 
 真上から自分を覗き込むフェリスの表情が微妙に変化している。その変化は極微量であり、常人からっすればそれは表情が変化していないのと同じように感じられただろう。しかし、この半年以上もの間、一緒に旅をしたおかげか、はたまた元々のライナの観察眼からか、彼はフェリスの微妙な表情の変化を見分けられるようになった。
 今、彼女が浮かべているのは、自分が数度しか見た事のない、不安そうな表情。
 なぜ、彼女がこんな表情を浮かべているのかとライナは内心で動揺する。
 
 
 
「美味く、ないか?」
 凛と透き通った、いつのも彼女の声。けれど、ライナにはそれが普段よりも、どこか寂しげな感情を含んでいるように聞こえた。
 そこでライナは、自分が先ほど食べた団子についての味の感想を述べない事に対して、フェリスが今のような反応を見せていることに初めて気づいた。
「あ……ああ、美味いぞ、これ。俺好みの味だ」
 
 
 
「――そうか」
 
 
 
 はたから見れば、表情の変化の声質の変化もない。
 ライナから見れば、フェリスは顔をほころばせ、声にも安堵の感情を含ませたように感じた。
 フェリスから無言で差し出された二つ目のだんごを、ライナは再び頬張る。フェリスのほうも残った三つ目を頬張り、味わうように噛み締めた。
 
 そう言えば、これは一体どこのだんごなのだろう。この街に入った時に、フェリスが愛読書の“だんご通信”でチェックしていた店は一軒だけで、それは自分も全種類を一本ずつ口にしたが、こんな味のだんごはなかったはずだ。それ以降、フェリスが街に出てだんごを買った様子はなかったし、妹のイリスから定期的に届くローランド王国のウィニットだんごは、もっとフェリス好みのあっさりとした甘味を持っていたはずだ。
 
「なあ、これってどこのだんごなんだ?」
 皿に残った四本のうち一本を取ろうとしたフェリスの手が、不意に止まった。
 まるで、そんな質問は全く予想していなかったとでも言いたげ表情――と言っても、ライナ以外から見れば無表情以外の何者でもないが――でライナのほうを一瞬だけ見つめた後、語気を強めて言い放った。
 
 
 
「隠れた名店だ。私が昨日発見した」
 
 
 
 実に矛盾した言葉だった。子供の言い訳でも、もう少しマシかもしれない。
 昨日は朝から勇者の遺物の情報収集に奔走していたし、昼からは買出しと荷物整理に追われ。晩は晩とて雨が振り出してずっと宿屋に篭っていた。昨日のうちに雨が止むには止んだが、止んだ時刻には既にもう、日が変わるか変わらないかの頃だったはずだ。その間、自分とフェリスはずっと行動を共にしていただが、彼女が団子を買いに行くところを見たような覚えはない。
 別々に行動した時と言えば買出しの時ぐらいで、その際にはお互い買った物を見てはいないはずだ。もしかすれば、あの時に買ったのだろうか。
 
 
 
 ……んなわけないよなぁ……。
 
 
 
 たしか、買出しに行った店には、だんごは三本パックのみたらしだんごぐらいしか置いていなかったし、初めは十本以上あった大降りのだんごが入っているようには思えなかった。お互い買った物と言えば、生活に必要な日用品と、間食用の食料品を少々。フェリスのほうは他にも色々と何か買っていたようだが。
 特に変わった事があったわけではない。先日買出しに行った時、この季節に行われている、俗称“菓子屋の陰謀の其ノ壱”のフェアを行っており、フェリスがそれに興味を持って、それについて色々聞かれた事ぐらいか。ローランドのほうにもあの慣習はあったはずだが、まあ、フェリスならば知らなくても――
 ふと唐突に思いついて、ライナはフェリスの手を取った。
 何をする色情狂、とフェリスが抗議の声を上げたが、ライナは無視。顔を近づけ、鼻から息を吸ってその香りを嗅いだ。
 
 
 
 
 
 
 
 彼女の手からは、今さっき食べていただんごと同じ、甘ったるい香りがした。
 
 
 
 
 
 
 
「いや、別に」
 フェリスに微笑みかけて、ライナは彼女の膝の上でゆっくりと目を閉じた。んあっ、と黙って再び口を開け、だんごをくれと無言で要求する。
 だんごの串が差し出される気配を感じ、そのまま一つ丸ごとを口にする。だんごにわずかに混じる、フェリスの手からするのと同じ、甘ったるい香り。
 
「なあ、フェリス」
 
 目を閉じたまま、ライナはフェリスへと問い掛けた。
 数秒の間があったのは、まただんごを食べていたからだろうと、閉じられた瞳の闇の中で想像する。
 
 
 
「――ん、なんだ」
 
 
 
「このだんご、気に入ったからさ。また、買ってくれないか?」
 フェリスが今、どんな表情をしているか想像はつかない。驚いているのか、焦っているのか、それともまた別の、まったく違った反応をしているのか。
 とりあえず、無反応ではない事は、すぐに返答が来なかった事で想像できた。
 ややあってから、すぐそばに居るライナですら聞き逃してしまいそうな声で、フェリスは呟く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――また、来年、買ってくる」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 口の中のだんごを飲み込んで、ライナは、サンキュ、と呟いた。
 舌の上には、ほのかにチョコレートの甘味が残っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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 あとがき
 ……フェリ攻め?
 まあ、どちらかと言えばフェリスのほうがライナに惚れ込んでいるという感じで、一つw
 以前(去年か(汗))日記に作成中と書いていたのとはまた違うネタだったり。
 つか、やれば三日で書き上げられるのね、俺……。
 それ以前に、以前予定していた嫉妬するフェリスはどこに行ったんだ、俺(汗
 コンセプトは膝枕&バレンタインでw
 ドラマガ増刊ファンタジアバトルロイヤル見てたら何となく、ねぇ……。
 だって、なんとなく伝勇伝の表紙絵、フェリスに膝枕されただんご食べさせてもらってるライナだしw
 とよた氏はこれでもかとライフェリが好きな模様……。
 つか、正直、原作よりむしろ4コマのほうがおもしr(略
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