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「さよなら、マリアン……」
 
 
 
 そう呟いて、リオンはそのままゴツゴツした岩の上へ横になった。水が流れる轟音が辺りを支配しているが、どこかで元・仲間の叫び声が聞こえたような気がした。おそらく、気のせいだろうが。

 リオンは手を伸ばし、自分の傍らに転がったサーベル状の剣を手にする。幼い頃から自分と共に育った意思を持つ剣――ソーディアン・シャルティエ。

 今思えば、シャルティエがいなければ今の自分はなかったような気がする。
 
 
 ――いや、きっと、なかった。彼には一生かかっても返しきれないほどの恩がある。

 しかしこれでは、恩を返すどころか、仇を返してしまっているではないか。自分はいつまで、シャルティエに迷惑をかければ気がすむのだろう。

「すまないな、シャル。付き合わせてしまって……」

 本当に申し訳なさそうに、リオンは言った。

《気にしないでよ、坊ちゃん。僕と坊ちゃんは、運命共同体なんだからさ》
 
 
 ――こんな時にまで、シェルティエは自分を慰めてくれる。ああ、こんなにもシェルティエは自分の事を愛してくれているのだと、リオンの目には自然と涙が浮かんできた。記憶にある中で、もしかしたら初めて感動して泣いたかもしれない。
 
 
 
 最初で最後の、感涙。
 
 
 
「シェルティエ……今まで、本当に、ありがとう……」

《リオン。僕は君に出会って、本当によかったと思ってるよ……》

 彼をシェルティエと呼んだのは、これが初めてだった。

 彼をリオンと呼んだのは、これが初めてだった。

 リオンはしっかりとシャルティエを握り締め、大きく息を吐き出しながらゆっくりと目を閉じた。
 
 
 
 ――冷たい。
 
 
 
 水がリオンに届いた。水が彼を飲み込むのも、もう時間の問題だろう。

 記憶が溢れてくる。走馬灯――と言うやつだろうか。ああ、僕はここで死ぬんだな、とリオンは口元を歪めて笑った。自嘲するように、彼は笑みを浮かべる。
 
 
 
 
 …………。
 
 
 
 
 …………。
 
 
 
 
 …………。
 
 
 
 
 …………。
 
 
 
 
 ――なぜだろう? とリオンは思った。

 目蓋の裏にはじめに浮かんでくるのは、母の面影を持つ女性――マリアンだと思っていた。
 
 
 あるいは、シャルティエや父ではないかと思っていた。
 
 
 もしかしたら、元・仲間達かもしれないとも思っていた。
 
 
 しかし、目蓋の裏に浮かんでくるそれは、どれとも違っている。
 
 
 浮んできたのは、一人の少女の顔だった。
 
 
 笑った顔のよく似合う、自分よりほんの少し年上の少女。
 
 
 たった一度だけ会った事のある、リーネ村の少女。
 
 
 スタン=エルロンの妹である、金髪の少女。
 
 
 
 
 
 
 
 少女の名は――
 
 
 
 
 
 
 
    〇    ●    〇    ●    〇

成り行きだった。

 ノイシュタットに立ち寄った際、スタンの願いにより、数日の間、彼の故郷であるリーネ村に立ち寄ったのだが、もしもこの時、彼がスタン達に着いて行かなければ、“彼女”に出会う事もなかっただろう。

 ――“彼女”は自分の兄のスタンを見るなり、すぐに自分達の前で口喧嘩を始めたのだが、自分達に気づいたのか、それもすぐに終わる事となった。
 
 
 
 そして――
 
 
 
 一体、何がどうなったのかはっきりとは覚えていないが、気がつけば自分は“彼女”と二人で小高い丘の上に来ていた。途中、気さくな村の人々から「今日は男連れでデートかい?」、「やっと春が来たねぇ」などとからかわれたような気がする。

 だが“彼女”はそんな事を気にする事もなく、村の隅々まで自分を案内すると、ここへ連れてきた。

「もう少しだからね」

 そう笑いながら言った“彼女”は、自分の手を引いてさらに歩き、眺めのよい場所まで連れて行ってくれた。
 
 
 
 
「ねっ? きれいでしょ? 私、ここ好きなんだぁ〜……。お兄ちゃん以外、連れてきた事ないの」
 
 
 
 
 それは普段、全ておいてに無関心な自分ですら感動を覚える景色だった。夕暮れ時と言う時刻のせいもあってか、赤く染め上げられた自然達、それはとてもとても美しく見えた。
 
 
 赤く染まった山。
 
 
 赤く染まった海。
 
 
 赤く染まった村。
 
 
 そして――赤く染まった“彼女”。
 
 
 
 
 
 
 全てが……美しかった。
 
 
 
 
 
 

    〇    ●    〇    ●    〇
 
 
 この世に巣食う悪を何一つ知らないような、兄と同じ純粋な蒼い瞳。
 
 
 輝く黄金色の髪を持ち、屈託のない笑みを浮かべる事のできる少女。
 
 
 “彼女”は、太陽のようだった。
 
 
 
 
 
 
 なぜ、自分は今さら気づいたのだろう。
 
 
 
 
 
 もっと早くに気づけば、やり直す事ができたかもしれない。
 
 
 
 
 
 もっと早くに気づけば、違う道を歩む事もできたかもしれない。
 
 
 
 
 
 もっと早くに気づけば、“彼女”と共に生きる事ができたかもしれない。
 
 
 
 
 
 だがそれは、あまりにも気づくのが遅すぎた。
 
 
 
 

 ただ心に残るのは――後悔。
 
 
 
 
 
 悔やまれるのは――意地っ張りだった自分。
 
 
 
 
 
 素直になりたかった――けど、なれなかった。
 
 
 
 
  
 本当に想っていたのは“彼女”。
 
 
 
 
 
 本当に好きになったのは“彼女”。
 
 
 
 
 
 本当に愛するべきだったのは“彼女”。
 
 
 
 
 
 たった一度だけ出会った“彼女”。
 
 
 
 
 
 “彼女”の名は――
 
 
 
 
 
 太陽の名は――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「リリス」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 to be CONTINUED……
 
 
 
 
 

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〜後書き兼裏話〜

 ナムコが誇るテイルズシリーズ第二弾・テイルズオブデスティニーより、リオン×リリスのカップリングでしたぁ〜。結構、知ってる方もいるかと……。

 ネットで意外によく見かけるこのカップリングは、テイルズファンの間では意外にメジャーなんでしょうかねぇ?

 この小説は、ノイシュタットに立ち寄った際に、スタンが里帰りし、その時に二人が会っていたという設定です(てーか、それ以外にゲーム中にこの二人が会う状況はない(^^;))。

 書いてみたら書きやすいし、このカップリング(笑) なんか、三時間ぐらいでできあがったような……。――今度は、会った時の話でも書くか(笑)

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