正 し い 異 性 と の 話 し 方

 
 
 
 
 
 
   

 
 最初は、正直、彼女が嫌いだった。
 原因は分かっている。
 テレポートだ。
 僕にも使えるが、一応、テレポートと言えば高位の呪文だ。
 僕が努力して手に入れた力を、彼女のような天然ボケにも使える事が腹立たしかった。
 テレポートを乱発しても疲れを見せない彼女。
 何を使おうとも、紋章の力を暴走させてしまう程の魔力。
 潜在能力だけならば、きっと僕をも越えている――それが分かっていたから、腹立たしかった。
 それは、劣等感にも似ていた。
 自分の潜在能力がどこまであるのかは知らない。
 けれど、自分の今の能力と彼女の潜在能力を比べた時、僕の方が劣っている事は事実で。
 真なる風の紋章を持つ自分が、彼女より下に居ると言う事に、僕は間違いなく悔しがっていた。
 だって、僕はこれ以外に何も持っていないから。
 僕がこれで誰かに劣っていたら、僕の存在に何の意味があるのか、分からなくなってしまうから。
  
    〇    ●    〇    ●    〇
 
 ふと気づいたのは、彼女がいつも読んでいる本。
 静寂は好きだ。
 しかし、五月蝿いのが嫌いだと言うわけでもない。
 だが、五月蝿すぎるのは嫌いだ。
 時には目的の本を取ろうとして脚立から滑り落ち。
 時には本を読みながらぶつぶつと呪文のように独り言を唱え。
 時には本を元の場所に返そうと勢いあまって本棚をひっくり返し。
 騒々しいにも限度があった。
 五月蝿いよ、と注意するのも煩わしく、ただ彼女を睨みつけるだけの日が何日も続いた。
 そんなに五月蝿いなら本を読む場所を変えればいいのに、なぜか僕はそこに居続けた。
 
 もしかしたら、その時にはもう、僕は彼女から目を離せなくなっていたのかもしれない。
 
    〇    ●    〇    ●    〇
 
 今日も大量の本と共に、ビッキーは脚立から地面に落下した。
 小さな書庫には、自分とルックの姿しかない。痛たたたっ……とお尻をさすりながら、彼女はこちらをジロリと睨みつけるルックに小さく頭を下げた。ははははは、と苦笑いをして、巫女装束のような真っ白な法衣についた汚れをはたきながら、落下した本の山を見回す。
 数えた。
 本日の記録、五十二冊也。五十冊の大台突入である。おめでと〜、ぱちぱちぱち〜。
 ルックから見えないように小さく拍手。少しばかりの虚しさを感じながらビッキーは本をかき集める。
 はぁ、とルックが大きくため息を吐くのがこの距離からでもはっきりと分かった。
 どうして自分はいつもこうなのだろう、とビッキーは思う。
 目当てのもの――計、三冊を脇に寄せ、一番分厚い本から順に五冊ほど抱えた。少し重いが、これぐらいならなんとか頑張れる。なんとはなしに一番上の本に目をやると、真っ赤な表紙に『正しい異性の口説き方 1000通り(男性編)』と書かれていた。
 こんなの、誰が読むんだろ? それより、『男性編』って書いてあるけど、男の人が女の人を口説く時に使うのかなぁ? それとも女のひ――
 目の前の本がなくなった。
「えっ、あっ!?」
 慌てながら顔を上げると、ルックが居た。先刻まで自分が持っていた書物を、場所を確認しながら片付けていく。手にした本を片付け終わり、続いて床に落ちている本を手に
 ――しようとして、その姿勢のまま、ルックが顔を上げた。不機嫌そうな表情で、睨む。
「何してるの? 早く片付けなよ」
「う、うん」
 沈黙のまま、片付けは数分で終了した。
 ただの気まぐれだった。目も疲れていて、休憩したいと思っていたし、彼女だけに片付けさせたら今の倍に散らかるような気がしたから。
考えなんか、何もなかった。
 スッ、と最後の本をルックが本棚に片付けるのを見届け、ビッキーは数冊の超しておいた本をテーブルの上に置いた。
 と思い出す。
 まだ、礼を言っていない。
「あ、あの、ルッ」クさんと言うべきか。ルックさんと言うべきか。彼の名を呼んだ事など一度もなかった為、ビッキーは彼をなんと呼ぶべきか少し――いや、かなり迷った。顎に手をそえ、礼を言おうとしていた事も忘れて考え込む。
 ルックさん、でいいかなぁ〜、大人っぽいし。でも、私のほうが年上なんだから、『ルック君』でも別に……。そうだ! 『ルッ君』ってゆーの、結構可愛いかも。
「……あのさ、ビッキー」
 思考を中断された。あたふたと慌てながら「な、何?」と問い返した。慌て過ぎて、初めて名前を呼ばれた事に少しも気づいていなかった。考えるような仕草をして、ルックはゆっくりとテーブルの上に置かれた本を指差した。
「それ、いつも同じ本読んでるの?」
 うん、だいたいそうだよ。頷いて、肯定。
「何の本?」
 ただ興味があった。こんな奴が一体何の本を読んでいるのか。気になった。
 えへへへへ。恥ずかしいから、あんまり見せたくないんだけど。私ってテレポートよく失敗するから、お勉強してるんだ。ほら、ねっ。
 彼女は何故かとても嬉しそうに三冊の本を差し出した。
 受け取り、表紙に目を通す。
 一冊目。成る程、と彼は感心した。漆黒に輝く表紙には『〜次元と空間〜 瞬きの紋章による物質転移の概要及びその危険性について』とある。確かに、彼女が読むべきものではある――が、果たしてこの内容が彼女に理解できているのだろうか?
 いや、決め付けるのはよくない。こう見えて、彼女が自分を越える勤勉家である可能性だってゼロではない。自分を落ち着けて、二冊目に目をやる。
 つい、固まってしまった。
 『初心者用紋章学入門 〜これであなたも一流魔法使い!〜』だった。本の装飾から見て、あからさまに子供向けだ。教科書とも言える。ある意味、一番彼女にあっているかもしれないが、一冊目の本との関連性が欠片も見受けられない。一冊目の本を読む為の参考書として選んだ、と言う考えが一瞬だけ浮かんだが、それにするならばもっとマシなものを選ぶだろう。
 三冊目。もうコメントのしようがない。『〜ジーンの紋章占い〜 貴方に最適な紋章選びます』とある。表紙にはそう書かれているが、ようするに中身は「気にあるアイツとの相性は一体!?(紋章編)」的なノリである。彼女はこれで一体何を勉強しようとしてるのか、小一時間ほど問い詰(以下略)
 よそう。
 ――さて、と。
 ルック的見解。
 其の壱、彼女には確かに紋章について知識を得ようとする気はある。
 其の弐、だがそれに対して彼女の紋章に対する知識はあまりにも乏しい。
 ルック的結論。
 彼女は正真正銘の天然ボケか、もしくはどうしようもないば――いや、そうではなくて。
 ビッキーに目をやる。
 えらい? 私えらい?
 全身がそう言っていた。
 短く、ため息。仕方ないけど、はっきり言ってやったほうがいいかもしれない。
「あのね、ビッキー……」
 うんっ!
「はっきり言って、これで君が勉強できているとは到底思えない」
 ……えっ?
「正直、無駄だね」
 ……む、だ?
「そう。だから、」
 ごっ。
 嫌な音がした。
 のけぞりはしなかった。めちゃくちゃ痛かった。『〜ジーンの紋章占い〜 貴方に最適な紋章選びます』が地面に落ちる。
 ずきずきと痛む額を抑え、投球――いや投本か――姿勢のまま涙目になっているビッキーを正面から見据えた。
 怒りで思考が全部吹き飛んだ。続いて飛んできた『初心者用紋章学入門 〜これであなたも一流魔法使い!〜』を風の紋章で払い飛ばし、拳を握る。
 ほんの一瞬でも「僕が勉強の仕方を教えてあげようか?」と考え、言葉にしかけた自分が馬鹿らしい。
 
 にしてもこいつでも怒るのかいつもにこにこしてるから怒ったことなんてないと思ってたまあたしかに僕の言い方も悪かったけどさそれは君の為を思って言ったことであって宝の持ち腐れにかなりムカツキはしてた部分はあったけどいくらなんでもいきなり本をぶつけられたら僕でもムカツクし元々僕は結構短気なほうで
 
 そりゃ私だって自分がいつまで経っても上達しないから少しは少〜しは勉強の仕方が間違ってるかなぁ〜と思ってたけどあんなにはっきり言うことないじゃない私もう少し他の言い方があってもいいと思うんだけどたとえば
 
 ふたりとも、そこまでしか思考が回らなかった。ハラワタが煮え繰り返る。思い切り息を吸い込み、何を言ってやろうかと様々な罵詈雑言の言葉が頭を駆け巡る。だが、口から出たのは単語だった。
「このアホ野郎――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!」
「ルックのばか――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!」
 ルックが飛び、ビッキーが駆ける。
 本が舞う。
 紋章が輝く。
 夏も近い春空の下、見事なまでの子供の喧嘩だった。
 
    〇    ●    〇    ●    〇
 
 二時間と四十三分と二十七秒の死闘が繰り広げられた。
 
 ルックのもらいもの
 平手×8(うち右頬に6) 膝蹴り×3 チョップ×4 頭突き×6 裏拳×4
 カカト落とし×2 肘鉄×4 急所蹴り×1 その他×5
 
 ビッキーのもらいもの
 チョップ×5 肘鉄×2 頭突き×2 チョークスリーパーホールド×1
 アッパー×1 でこピン×3 乳揉み×3 その他×12
 
 結果、引き分けであった。
 
     〇    ●    〇    ●    〇
 
 その後、解放軍リーダーであるサフィス=マクドール(+α)にめちゃくちゃ怒られたのは当たり前で、二人は三日の時間を掛けて書庫の修理と整頓に勤しんだのも勿論のことであり、誰の助けも借りなかった――もとい、借りることが出来なかったのは言うまでもない。

 図書館から、声が響いてくる。
 
 あのさ、ビッキー。
 ……何?
 この間は、ごめん。僕の言い方が悪かった。
 う、ううん! いいよ、気にしてないから! ルック、私の為を思って言ってくれたんでしょ?
 まあ……ね。
 だから、いいの。
 ……でさ、ビッキー。
 うん。
 よかったら、勉強、教えてあげようか?
 え? いいの?
 ――で、でも。僕、結構短気だから、すぐ怒るかもしれないけど、それでもいい?
 うん、ありがと、ルック!
 
 春も近い夏空の下、二人の男女は短く握手を交わした。
 それは仲直り印だった。初めて話して喧嘩したのだから、仲直りも何もなかったのかもしれないけれど、それでもそれは仲直りの印だった。
 ビッキーがにっこりと微笑む。
 ルックが少しだけ笑う。
 夏はもう、すぐそこだった。
 
 これから、もっと仲良くなれるかなぁ、ルック。
 

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 〜あとがき兼いいわけ〜
 秋山瑞人宣伝&るくびき強化月刊、絶賛稼働中(笑)
 秋山先生、ゴメンナサイ(笑) 「正しい原チャリの盗み方(後編)」をモデルっちゅーか、かなりパクりました。まあ、言わなくちゃパクったとも分からないヘナチョコ小説ですが、まあ宣伝っちゅー事で御勘弁願いたく(;´Д`) 
 あと、コナミさん&るくびきファンの方々ゴメンなさい。
 ルック、絶対「このアホ野郎」とか言いません。「ルックのばか」はまだ言いそうだけど。
 ……ホントはもっとラヴラヴな予定だったんですが、書いてるうちにどんどんと当初の予定とずれまくってこのような結果に(;´Д`)ナゼダロウ
 尚、下部におまけがあります。お暇な方、興味がある方は、どうぞ。

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 〜お・ま・け〜
 
 だからそんな風に魔力展開すると力が暴走するって何回言えば分かるの!? これで、十一回目だよ、十一回目! ったく………………あっ、ゴメン、強く言い過ぎたよ。――あぁ、だから、泣かないでって! 僕が悪かったから泣かないでよ、もう………………ってビッキー、その杖、何? ――っとぉ! もうその手は食わないよ――って、フェイント!? ちょ、ちょっと待ってビッキー、ストップストップ! うわ! だからやめてって、言って……! だっ、そこはダメ! そこは反則……
 やめて――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!
 
 まあ、なにはともあれ、めでたしめでたし、と

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