嗚 呼 、 愛 し い 人 よ














 僕は、君が、好きで、好きで、好きで。
 好きで、好きで、どうしようも、なくて。
 だから、お願い、お願い、お願い、だから。
 これ以上、僕に、お願い、だから、近づかないで。
 もし、君が、僕を、好きじゃ、ないなら。
 いっそ、いなくなってしまえばいい、と、思ってしまうから。
 もし、君が、僕を、好き、なんだったら。
 いっそ、嫌われてしまえばいい、と、思ってしまうから。






 ルックはただ、腰掛けていた。
 右手には指をしおり代わりに挿んだ本を持ち、手持ちぶさたになった左手では時折枕を弄んでいた。
 手を伸ばせば届く所に、ビッキーは居る。いつもの白い巫女装束ではなく、ぶかぶかした大きなサイズの黄色いパジャマを着込んで、緑色のふかふかしたスリッパを履き、窓から身を乗り出すようにして星空と海を眺めていた。
 危ないから止めなよ、と注意するのもそろそろ諦めてきた。もし万が一落ちたとしても、彼女ならば咄嗟にテレポートでどこかへ飛んでいけるような気がする。なにせ、シャンパンに驚いたぐらいで時を越えるのだから。
 夜に彼女がルックの部屋に来るのは、これが初めてではない。今週に入ってからはすでに三度目。最近、その回数は増える傾向にある。
 なぜ、来るのか? 理由は、聞いた事がないから知らない。
 聞いてしまえば、それまでのような気がする。
 なんとなく、などと言われてしまえば、意地っ張りな自分が追い出してしまうような気がするから。
 来て欲しいと思う自分が居る。
 来て欲しくないと思う自分も居る。

 でも、このままじゃあ――

 肺に酸素を送り込む。
 覚悟を決めた。

「あの、さ」

 ほえっ、とビッキーが振り向く。腰まで伸びる艶やかな黒髪が泳ぎ、そして、彼女は目を見開いた。
 彼女の身体が震えるのがはっきりと分かった。
 自分を貫く、ルックの冷たい視線。吸い込まれるような翠色の瞳。

「なぜ、君は此処に居る?」

 自分でも驚くほど冷たい口調。感情のないその言葉の剣で、ビッキーを切り裂いていく。
 彼女は答えなかった。返す言葉の刃で、受け流す。

「此処に居たら、迷惑?」

 ルックは答えなかった。本を投げ捨て、立ち上がり、こちらを見下ろしてくる。
 静かに、深呼吸。

「なぜ、僕に近づく?」

 そんなの、決まっている。
 見下ろされるのが嫌だった。
 身長の差はほとんどなかった。



「――ルックの事、好きだもん」
「――ルックの事、好きだもん」



 どくん。どくん。

 心臓が脈打つ。どろどろと、心の裏側からどす黒いものが明確に浮かび上がっている。
 好き、だって? この僕を?
 心の中で嘲笑する。愚かな彼女を。
 バカだね、君は。

 ――そんな事を言われたら……止まらなくなるじゃないか。

 何が起こったのか理解できなかった――というのが、普通なのだろう、きっと。
 けれど、ビッキーには自分の身に何が起こっているのは鮮明に分かった。分かり過ぎて、動けなくなってしまうほどに。
 両手を掴まれて、力任せに壁に押し付けられた。

「い、痛いよ、ルック……っ!」

 私の手首を握る貴方の手は熱を帯びていて。握り締められた部分がとてもとても痛くて。貴方は沈黙を守ったままで。ただ、貴方の吐息だけが耳元で聞こえて。私はただ、痛い、痛い、と繰り返す。

「君は――」

 ぞくりとした。
 泣きそうなのは私なのに。泣きたいのは私なのに。泣いているのは私なのに。


 本当に泣きそうで、とてもとても悲しい瞳をするのは、どうして貴方のほうなんですか?


「“好き”という言葉を知らなすぎる」

 唇を塞ぐのは、自分ではない他の“何か”の感触。

「やあ……っ!」
 
涙を流して逃れようとしても、それを許してはくれない。
大声で叫ぼうとしても、声が出ない。
無理矢理ねじ込まれた舌が、口内を犯してくる。

 涙を流して逃れようとしても、それを許してはくれない。
 大声で叫ぼうとしても、声が出ない。
 無理矢理ねじ込まれた舌が、口内を犯してくる。





 ――嗚呼、愛しい人よ。
 どうして、君は君なんだ?
 どうして、僕は僕なんだ?
 君はこの戦いが終わったら、去って行ってしまうんだろう?
 戦いを求めて、宿星に導かれるまま、君は命が尽きるまで時を越え続けるんだろう?
 僕は、待てないよ。待つ自信がないんだよ。
 僕が生きる時はあまりにも長すぎるんだ。
 君と共に居る時間があまりにも短いんだ。
 もう、三年前のような思いはごめんだ。
 これ以上待たされたら、僕はきっと狂ってしまうよ。
 なら、いっそのこと、僕が君を諦められるぐらい、嫌って下さい。
 嗚呼、愛しい人よ。罪深き咎人よ。
 僕を憎んでくれませんか?





 ゆっくりと、唇を離した。
 へなへなと、彼女は床に座り込んだ。
 ビッキーは泣いていた。唾液でべとべとになった口元を、涙と一緒に袖口で拭い、けれども、まだ強さを失う事のない綺麗な茶色の瞳で、一直線にルックを見つめてくる。
 ルックは、クス、と微笑んだ。
 君がいけないんだよ、ビッキー。僕なんかに近づくから。
 君が僕に近づかなければ、僕はこんなに苦しむ事もなかったし、君がこんな目に会う事もなかったんだ。

 どうして、僕達は出会ってしまったんだろうね。

「どう、気持ち良かった?」

 最低になれた。自分の為なら。彼女の為なら。
 どこまでも、どこまでも――

「いっそ、このまま犯してあげたほうがよかったかな?」

 ぐーで殴られた。腫れた頬がぢんぢんしてめちゃくちゃ痛かった。
 ビッキーは、もう居ない。
 
ぐーで殴られた。腫れた頬がぢんぢんしてめちゃくちゃ痛かった。
ビッキーは、もう居ない。

 ……これでいい。これでいいんだ。

 ふらふらと窓に近寄り、星空を見上げた。
 夜空に輝く星が、浩々と満月が、嫌に眩しく見えた。吐き気がするほど、綺麗だった。
 こんなものの為に、彼女は毎日此処に来ていたのだろうか?

 本当に、本当にそれだけの理由で?

 他に、どんな理由があるってんだ。なあ、ルックよ。
 
 あいつがお前をどう思ってたかは知らねぇが、嫌いな奴の部屋に来たりはしねぇだろ?
 仲良くしたいだけだったかもしれない。何の考えもなしに来てたのかもしれない。
 あいつの気持ちをする術は、お前にはない。
 けれども、な。
 もし、もしもだ。
 彼女がお前を好きなんだったとしたら、だ。
 星を見るってのは、自分に会う為の口実とかってオチはねぇのか、おい?




「うあ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ぁっ!!!」





 叫んだ。
 みっともないぐらいに涙が出た。
 みんな寝静まっているだろう。五月蝿いと文句を言われるだろう。
 構うもんか。構うもんか。
 どうせ、僕は戻れないんだから。
 運命からは、逃れられないんだから。
 嗚呼、愛しい人。
 さようなら、さようなら。






 ――叶うなら、一つだけ、お願いがあります。

 忘れないで下さい、僕を。僕の事を、覚えていて下さい。

 最低な男が居た事を、いつまでもいつまでも覚えていて下さい。心の片隅でいいから。

 ごめんなさい、ごめんなさい。僕の我侭で迷惑かけてばかりで、ごめんなさい。

 好きでした。ずっとずっと、好きでした。

 愛してました。本当です。







(挿絵提供:ゆずる大尉様)

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 〜あとがき兼りめいく〜
 っつーわけで挿し絵がつきました(悦
 本人、もう狂喜乱舞です、マジで。
 二枚目なんかもうツボすぎて軽く萌え死ねます(笑
 一言謝罪として、俺のパソの関係で画質が多少落ちております(^^;
 ゆずる様、すいません(汗
 そして、素晴らしい挿し絵を下さったゆずる様のサイトはこちら。
 
 他にもるくびきやらSO2やらの絵がありますんで、興味がおありでしたら是非!

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