『Too Pure,and White Memories』
「えと…これで映ってるのかな?」
台の上に固定したビデオカメラのスイッチを押しながら、思わず呟きが漏れた。
「こんにちは、緋路さん。あ、こんばんはかもしれないね。どっちだろ?」
上の方についている『録画』の赤ランプが点灯しているのを見て、慌てて変な挨拶をした。
緋路さんと過ごした一夜の後、私は又病室を抜け出してある計画を実行に移していた。
「まぁいいや、これを緋路さんが見てるって事は、多分私はもうこの世に居ないだろうと思います」
もうすぐ私は死ぬだろう。今まで感じていた朧げな予感が、今でははっきりとその残された時間の少なさを自覚する事が出来る。
「自分の身の事だけに、なんとなく予想が付きます」
もしかして、昨夜の出来事のせいだろうか? と、ふと思った。
「それは、きっと仕方の無い事だと思う。だけど、私は後悔せずに済みました」
もしもその通りならどうしよう? 自分でも少し馬鹿な事をしたかな……。
と、思いかけてすぐに首を振る。あの時の行動に後悔はない。だって−−
「−−緋路さんに出会って…私が生きていたって言う証を残す事が出来たんだから…」
でも、それが同時に緋路さんに重荷を残す事になるのも、気付いていた。だから、私は返さなくてはならない。
大切な人に借りていたビデオカメラと、この止まりそうな胸に刻まれた、大切な思いを。
初めて緋路さんの名を私に聞かせてくれたのは、蒼さんだった。
その時、照れくさそうに、それでいてとても嬉しそうに話す蒼さんを見て、私は緋路さんの事知りもしないのに、何だかちょっと妬けたんだっけ。
でも。緋路さんに出会って。その温かさに触れて。私はこの世に生きる意味を得て。同時に死ぬ事が怖くなったんだよ……。
でも、こうも思う。
「きっと、とっても長生きした人よりも、良い人生かも…」
ちょっと恥ずかしくて、照れ笑いを浮かべるけど…でも、今の言葉に嘘はない。
昨夜の事は現世に残す私の最初にして、最後の。大切な、とても大切な人との、最高の思い出なのだから…
一つ息を付いて、私は物言わぬレンズにあの人の面影を浮かべながらまっすぐとそれを見つめた。
「…私は…これぐらいしか自分を残す方法が無いけど……緋路さんが、」
ちょっぴり涙で声が詰まりそうになる。
涙をぐっと堪えて心の底から送るメッセージ。
信頼と、自信と。
「…きっと、私の絵を書いてくれていると、信じてます」
ほんのちょっぴりの、勇気と。
万感の思いを込めながら、ともすれば逃げ出したくなるような現実と闘いながら、それでも緋路さんに伝えなくては気が済まなくって、そうしてもう一度大きく息を吸って全てに面と向かい合う。
つたない言葉でも、心を込めれば伝わるんだ。大切なのは、言葉じゃなくて。
「完成した絵を見られなくて残念だけど…」
ねぇ、知ってる? それを教えてくれたのは緋路さん達なんだよ…
「…緋路さんならきっと、素敵な絵を描いてくれてるだろうから、私は何も心配してません」
あれ、やばいな…。
「だから、私の分まで生きて、」
駄目、駄目だよ……こんな所で。
「絵を描き続けてくれればいいなっ、て…」
こんな所で泣いちゃったら、台無しだよ……。
「………思います」
駄目だよ、最後まで泣き顔は見せないって。
泣き顔なんか見せたら大事なこと伝えられないって。
緋路さんに心配かけちゃうから……。