背理

ある日突然、ルフィが、

「オレもゾロのことやってみてェ!」

と、言い出した。




「……はァ?」
「いっつもゾロばっかずりぃよ、オレだってお前に突っ込んでみてぇ!」
ムスっと頬を膨らませて言い張るルフィに、ゾロは眠たげに細かった瞳を見開いた。

「なんで。俺にやられンの、嫌か?」
「ヤじゃねぇけど。ってか、ゾロにされんの好きだけどさ。でもオレも挿入れて気持ち良くなってみてぇんだもん」
やられてばっかはイヤだ、と拗ねた声で、上目遣いに睨んでくる。
いきなり”男の子なキモチ”に目覚めてしまった、とでもいうのだろうか。
誰かに悪知恵を吹き込まれたとかいうわけでは、無さそうだった。


まあ17歳の健康な男子ならば当然な欲求、ではある。


ルフィは、この歳の少年にしては奇特なほど、セックスに対して淡白だ。
肉感的な刺激を受ければ、それは当然感じるのだけれども、自身の性欲を持て余し切羽詰まって悶々する、といった空気を漂わせることが少ない。
あれだけ整った容貌のナミが、露出過多な装いで傍にいるというのに、気を惹かれる様子も無く、色気にあてられるでもなく。
この年代なら、もっと女に盛りついて発情してもおかしくはないのだ、普通なら。

だから、「オレもヤリてぇ、辛抱たまら〜ん!」という感覚に目覚めるということは、ある意味「大人になったのねv」と誉めて喜ばしいことではあるかも、しれない。


しかしなんでまた、よりによって。


(俺にサカるかね、このお子様は)
ゾロは口の端に苦笑を浮かべる。



ゾロとルフィは、ゾロが抱くというカタチで、肉体交渉がある。
当然ゾロが誘った。というか、仕掛けた。ルフィはそういうことにてんで疎かったから。
なんにも知らないのをいいことに、これまで好き放題してきた……という自覚はある。
もちろん暴力で力づくで、という関係じゃない。ゾロなりに精一杯愛してやっているつもりだし、ルフィも二人で営む行為で感じてくれている……と思う。
だから、「お前もやってんだから、オレにもヤラせろ」と迫られたらば、にべもなく断れなかった。

それに、単なる興味で挿入の対象を求めるだけなら、港に寄った時娼館に行くなり、盛り場で女を見繕うなりすればいいのだ。
ゴーイングメリー号はいま、割と大きな町のある島に近い海域に居る。明日にも寄港が叶うだろう。
けれどルフィの要求は、そういう即物的なものではないのだ。

ゾロは、突然の要求に仕様がねぇなと嘆息しながら、その裏腹で、やはり、正直に嬉しかった。
それはルフィが、ゾロだけに欲情しているということだから。


「―――いいよ。来な。やらしてやるよ」


そう言って、ゾロはにやりと不敵に笑った。



                 + + + + + +


夜半。波と風の音だけが寄せては返す甲板から深く沈んで。
寝静まった他の乗員達に気取られないように、息を潜めて倉庫の奥で睦みあう。
深く重なった唇の奥で舌を巧みに蠢かせると、ルフィが嫌々をするように首を振って強引に顔を離した。
「……どした」
不思議そうに目を眇めてゾロが聞けば、すでに息を弾ませた相手が掠れた声で答える。
「ゾロに、そやって口ん中ぐるぐるされたら、オレ、すぐわけわかんなくなっちゃうだろ」
「お前、キス弱ぇもんなぁ」
揶揄まじりの言葉にルフィはむっと口を尖らせて、
「今日はオレがやんだからな、ゾロは余計なコトすんな」
「へいへい」
そうしてまたすぐに口をくっつけてこられたので、ゾロの含み笑いは音にもならずに消えた。
壁に凭れて、投げ出した膝の上にルフィが乗りあがる格好で、がむしゃらに舌を吸われ始める。
「ん……んっ…」
キスというより、餌を強請る小鳥の勢いで絡まってくるルフィの唇を好きにさせてやりながら、ゾロはなんとなく面映ゆくなる。

(必死ってぇか、……ひたむき、ってぇか……)

されっぱなしはある意味失礼な気もするので、”余計”扱いされない程度に、舌先で時折突ついて応えてやる。
はふん、と熱い息を吐いて、ルフィは名残惜しそうに顔を離した。
「ん……、なぁ、オレって下手……か?」
すっかり息が上がっている自分と比べて、まだ醒めた様子のゾロに、ルフィはちょっとしゅんとなったようだ。
「いや、悪くはなかった」
そう言って、舌先でぺろりと口の周りについた唾液を舐めとってみせる。意識したわけでは無いが、その婀娜っぽい仕種にルフィはぼっと頬を染めた。
あんまりにも、分かりやすい、その反応。
言うと怒るが、やっぱり可愛いな、とか思ってしまう。

「んだよ、まさかこれで終わりじゃねぇだろ?」

うぶな反応にゾロの興も乗ってきて、誘うように上半身の力を抜く。
途端に、がばっと首筋目掛けて、黒い頭が飛び込んで来た。

「なぁ、噛んでいい?…痕つけてもいい?」
「外から見えねぇとこならな」
柔らかい耳たぶや筋の浮いた首筋に吸い付いたり歯を立ててみたり。小犬が目新しいおもちゃに勇んでしゃぶり付くような児戯な振る舞い。
くすぐったくって、ほっといても頬がひくひくと勝手に笑ってしまった。
「むー……、じゃあこっち」
しゃららん、とピアスを揺らす勢いで首から離れると、半ば無理やり、ゾロの白いシャツの中へ顔を突っ込んできた。
「おいおい、そりゃ無茶だろう」
腕や肩や胸の筋肉が、浮いて見える程度にゆとりの少ないシャツの中へ、捲くるのも面倒だとばかりに頭から侵入されて、さすがにちょっと面食らった。
引っ張られて伸びたシャツの下で、小さな頭がもごもご動く様子がなんともいえず奇妙だ。
端から見れば、結構、間抜けな光景でもある。
ちゅっと乳首に吸いつかれて、肌色と境のある周りを執拗に舐めまわされた。
くすぐったいのが半分、それとは別の、表現しがたい感覚をじりじりと覚えながら、


(ガキに乳ぃやるってなぁ、こういう感じなのかね)


父性を通り越して、幾分突飛すぎる感想に我ながらアホな事をと、自嘲が涌いた。
心ここにあらずなゾロに、焦れたのか、

「……だっ!痛ぇっ!噛むなルフィっ!」

脆いところに歯を立てられて、痛みに思わず仰け反った。
「痕つけてもイイつったじゃんよー」
「加減を知れ。やりすぎだバカ」
膨らんだ服地の上から軽く小突くと、しししっ、と笑う気配がした。

「おい、脱ぐからちょっとどけって」
捲り上げたシャツを首から引きぬきながら、お前も脱げと言って聞かせる。
もともと、袖のないてろんとした赤い上着の下は素肌で、最初から露出度の高い格好なのだが。
お互い、上半身を晒して向かい合うと、ルフィが改めてゾロの胸板に手を伸ばしてくる。
過去に食らった醜い傷のあとが痛々しいが、いまはそれよりも、
「痕ついたな。……オレの」
つい、と指先で散らばった鬱血の朱をなぞり、その上に口付けを一つ、落した。

「消えなきゃいいのに。ずっとこのまま」
「………」

刺青のように、所有の証など刻まなくても。

(……とっくに俺ぁ、お前のモンなんだけどな)

意識するまでもなく、とうに確定している事実だったが。
あえて口に出すのは、なんとなく思うツボなようで、しゃくな気がしたゾロだった。



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