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−−カエリタイ−− ・・・何処に?・・・ −−カエリタイ−− ・・・無理だよ・・・ −−カエリタイ−− ・・・だってもう、おれには帰る場所なんてないんだ・・・ まだ薄暗い朝、きり丸は目を覚ました。
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| 「こっちよ・・・おいで、私の所へ。」
森の木々が揺れるたびに女の声が聞こえる。頭に響き渡るような声。 「こっちってどっちだよ?わかんねえよ・・・ったくおれは方向音痴なんだぞ!」 しだいにめんどくさくなったきり丸はこの声の主の所へ行くのを諦めて引き返そうとした。・・・・だが、なにか気になってしまい、やはり森の中を歩き始めてしまう。 「もう少し・・・もう少し真っ直ぐ歩いて来て。・・・・・・そう、もっと真っ直ぐ。・・・・ほら、もう少しよ。」 言われた通り真っ直ぐきり丸は進んでいった。もうかなり森の奥に来ていることも知らずに・・・。まるでなにかに引き寄せられるかのようにひたすら進んでいった。 「初めまして・・・ようこそ。」 ようやくあの声の主が現れた。年の頃はきり丸よりも少し上くらいだろうか・・・。兎に角綺麗な女であった。 だがその女は、ただ『綺麗』なだけではなかった。肩より少し長い冬の月のような冷たい銀色の髪、蛇のような金の瞳、まるで死人のような異常な肌の白さ・・・。その姿には不気味な綺麗さがあった。 「はじ・・・めまして」 その女の不気味さと綺麗さとでさすがのきり丸も一瞬たじろいでしまうほどだった。 「私は五夢。やろしくね。貴方は?」 「きり丸・・・。」 「そう、きり丸っていうの。・・・ふふっ、気に入ったわ。」 クスクスと笑いながら五夢はきり丸に近づいてきた。 「貴方の瞳は沢山のことを知っている。恐怖、孤独、絶望・・・・・・。でも中には幸せもある。」 「なに訳わかんねえこといってんだ?」 「まだ子供の貴方がどうしてこんなにも沢山のことを知っているのかしら?ぜひ知りたいわ。」 五夢がきり丸の瞳をじっと見つめた。目がそらせないくらいに。 「あんた何いってんだ?さっきから・・・」 「怖いでしょう?苦しいでしょう?大丈夫。私が貴方を救ってあげるわ・・・。」 五夢がそう言ったとたんにきり丸に急激な眠気が襲った。 「な・・・ん・・?」 「幸せから救ってあげる・・・。」 きり丸はその場にばたりと倒れ込んで眠ってしまった。 「幸せなんてあるからいけないのよ。・・・ねぇ、そう思うでしょう?きり丸。」 不気味な五夢の笑い声がその場に響き渡った・・・。 |
| 「きり丸ーっ!!ご飯だぞーっ!!」
満身の笑顔できり丸に手を振る女・・・そう、きり丸の母親の奈々恵だ。 幼い頃に戦で家を失い、一人で生きてきた奈々恵は、この村に来るまではどうしようもない非行少女で大変だった。 世の中に絶望し、非行に走り、幾つもの悪さをしてきた奈々恵だったが、ある日迷い着いたこの村の人々の優しさに触れ、心を入れ替えた。そして後にこの村で源太という青年に出会い、結婚。そしてきり丸ができた。 「奈々、あんたももぅ人の親なんだから言葉遣いなんとかしたら?」 何度か村の友人や近所のおばさんに注意されたが、 「いやー・・・直そう直そうと思ってんだけど、どうしてもこうなっちまうんだよなー。ホントダメだよなぁ?」 と、結局努力はしても直りはしない元ヤンの言葉遣い。それでも村の人々に好かれる魅力が奈々恵にはあるのだ。 「よしっ!今日から直す!!」 「その台詞何度目?」 「うるせぇなっ!・・・じゃない、うるさいわね。」 その様子を見た奈々恵の友人はお腹を抱えて笑い出した。 「な・・・なんだよ。」 「だ、だって・・・ぁははっ奈々恵ってば言葉ぎこちないんだもん。」 その顔には涙まで浮かんで笑う。 「泣くほど笑うなよな。」 奈々恵は文句を心の中にしまった。 「ねーねー母ちゃんっ今日のメシ何?」 「今日はなぁ、うどんっ!母ちゃん特製の!!」 奈々恵は料理が得意であり、中でもうどんは天下一品である。 「やったー!!おれ母ちゃんの作るうどん大好き!!」 「だろ?自分で言うのも何だけど、うどんはちょっと自信あんだぜ?・・・じゃなくて、うどんは少々自信があるのよー。」 さっきまで笑っていた友人がまた、腹を抱えて大笑いする。 「何だよ母ちゃん、気持ち悪ぃ・・・」 「んだと!?こら!」 奈々恵はきり丸の頬を軽くつねる。思えばきり丸の一言多いところはこの頃からなのかも知れない。 「ったく、誰に似てこんな達者な口になったんだ?」 「あんただろ?」 「親に向かって『あんた』とは何だ!!『あんた』とは!!お母様と呼びなさい」 また奈々恵がきり丸の頬をつねる。 「おひゃーひゃまっ(おかーさまっ)」 「あははっ・・・よろしい」 奈々恵ときり丸はいつもこんな感じだった。でも2人とも楽しそうに笑いあって。そんな2人は村人から見ても『仲のいい2人』であった。 きり丸は奈々恵の笑顔が大好きだった。言葉遣いが悪く、怒ると鬼のように怖い母でも、とびきりの優しさの詰まった笑顔でいつも自分を抱きしめてくれる。 「ホント、かわいい奴だよ。お前は。」 そう言っていつも笑顔をくれる。 かわいく笑う・・・というよりも、歯を出して二カッと笑うことの方が多かったが、下手に色気のある笑顔よりも、この飾らない笑顔が大好きだったのだ。 そして父、源太のこともきり丸は大好きだった。いつも仕事三昧で疲れているだろうに、休みの日はいつもきり丸を連れて釣りに行ってくれたり、一緒に遊んでくれたりした。 源太がきり丸を叱ることは滅多になく、いつもは奈々恵ががみがみと叱り、それに源太が一言二言注意する、っと言った感じであった。 源太が叱る、といったら本当に相当なことだったのだ。きり丸はこの父に叱られると言うことがどんなことかもちろん知っていた。 「父ちゃんに叱られるようなことがあったら相当なことだ」と。 素直じゃなく、照れ屋で本当は優しいのにそれを人に見せない人だった。そんなところはきり丸と少し似ているかも知れない。 けして裕福な方ではなかった。それでもよかった。この家族3人で仲良くずっと暮らせればそれだけで十分幸せだった。
「約束したのに・・・。」
結果はどうだ?母どころか自分のことで精一杯でひたすらおれは逃げていた。何度『助けて』という声を聞いたか分からない、その人達を見捨てておれは逃げたんだ!! それはきり丸の心の中の最大の傷跡・・・。 「ふぅん、そんなことがあったの。」
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| 「貴方の夢を食べ尽くして何も考えられなくしてあげる。夢を食べるっていうことはね、その人の意識や記憶を食べるって事なの。だからきり丸・・・、貴方の夢を食べ尽くして貴方を私の操り人形にしてあげる。」
クスクス笑う五夢の声が、何も聞こえないはずのきり丸の頭に微かに聞こえた。 きり丸が目を覚ましたのはそれから数分後のことだった。
・・・その日きり丸のバイトが終わり、学園に戻ってきたのは夜中のことだった。
そう、あれはまだきり丸の村が焼けてなかった頃・・・。
『今思うと・・・あの時母さんは知ってたんじゃないだろうか。もうすぐ戦が始まるかも知れないということを・・・。だからあんな行動をとったんじゃないだろうか・・・。』 きり丸は目をつむり、また窓の外の星空を見上げた。
きり丸はお風呂から上がり、自室へ戻った。
きり丸は夢を見た。また昔の夢だ。
翌日・・・。
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| いつも通りの日常、平和な毎日・・・。
そう、少なくても夕方までは・・・。 放課後、しんべエはおしげちゃんと約束があると言ってくノ一教室へと行った。
−−−樹・・・樹・・・何処にいるの?何処に行ったの?お願い一人にしない
「あれ?きり丸。ごめん、起こした?」
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| 夕飯後、きり丸は一年は組を自室に呼んだ。そして、昨日の出来事を全て話して聞かせた。
暫くの沈黙の後、三治朗が口を開いた。 「それって・・・・獏魔なんじゃない?」 『獏魔』、五夢もそんなことを言っていた。 「三治朗、その『獏魔』ってなんなんだ?」 きり丸が真剣な表情で聞く。 「・・うん、人に取り憑いて人の夢を食べちゃうんだ。」 「そんなバカな話が・・・」 あるわけない、といった顔で庄左エ門は三治朗を見た。 「ぼくも・・・実際にいるとは思わなかったんだけど・・・。」 父が山伏をやっている三治朗は何かとそういった話を聞くが、三治朗自身そんな存在を信じてはいなかった。 「夢を食べてどうするの?」 「夢・・ってね、人の意識や記憶が作り出すものでしょ?だから、夢を食べるって事は人の意識や記憶を食べるってことらしいんだ。それで、意識を失った人を人形のように操るんだ。」 その場がしんとする。 「その五夢って人、きり丸の夢を食べてどうするつもりだろう・・・?」 「壊す・・・。」 きり丸のつぶやきには組のみんなは振り返る。 「壊すって言ってたんだ。あいつ・・・。忍術学園を・・・ここにある幸せを・・・壊すって言ってた。」 「どうしてそんなことを・・・?」 「わかんねえ・・・わかんねえけど・・・。」 「けど?」 「おれは、五夢に体を乗っ取られないように抵抗する。それでも・・・もし、おれの体が乗っ取られてみんなを殺そうとしたら・・・その時は・・・」 きり丸が言葉を詰まらせる。 「安心しろよきり丸。」 乱太郎の言葉にきり丸は伏せていた顔を上にあげる。 「もしそうなっても私達はお前を信じてる。」 「もしそうなったときは僕たちが止めてやるよ。」 「だから安心してね〜」 笑顔で答えてくれるは組のみんなを見たとき、きり丸は涙が出そうになった。 「・・・ありがとう」 は組の温かさ、優しさ・・・すべては今の自分が大好きなものたち。人の温かさに触れることの無かった昔、こんな風に人に優しくしてもらえるなんて思っても見なかったのだから。 『気にくわない』
それから、3日が過ぎた。
そしてそれからまた一週間。
『しっかりしろよ。』
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| 気が付けばそこに私の居場所は無かった。
そう、生まれたときから・・・。 何がいけなかったんだろう・・・? 私は生まれつき銀の髪と金の瞳をしていた。
私が十四歳の時、事件は起きた。 −−父が家を出た。
母は父を信じていた。
ソシテワタシハニンゲンデアルコトヲステマシタ。
どうしてその方法を知っていたのか、私は村人中の夢を喰い、操り、殺し合いをさせた。
その近くの森の山小屋に住むことにした。
「あんたこの近くの人?俺、迷っちゃってさ、どっか泊まれるところ無い?」
私はその人の夢を食べなかった。
樹はその次の日、熱を出した。
3日して、彼は熱が良くなった。
私達は一緒に暮らすことにした。
それから二年後、樹が病気になった。
ドウシテワタシハシアワセニナレナイノ?
そして私は悟った。
「・・・それが、お前がおれに見せたお前の記憶だよな?五夢・・・。」
・・・そうだったのかも知れない。私は何処かで幸せを求めていたのかも知れない。
『そいつの言ってることは図星だろ五夢?』
きり丸が眠りについてから数時間後、きり丸の目覚めと共に、五夢がきり丸の体から出てきた。
次の日、彼等から五夢の記憶は消えていた。
「あ〜〜〜〜っもう!ついてねぇー!!」
−−−カエリタイ−−−
おれの帰る場所は此処に有る−−−・・・。 【終】
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