『掌』ちゃまる

「利吉くんって、大きな手してるね」
 ふと半助がそんなことを言い出したのは、湯呑みを渡されたときだった。
 久し振りに忍術学園に寄った利吉は、まず最初に父・山田伝蔵がいるはずの部屋に向かう。しかし授業中のためか父の姿はなく、代わりに父の同僚の若い教師がいつもの穏やかな笑顔で出迎えてくれた。
「そうですか?」
「そうだよ、ほら」
 自分の湯呑みを卓へ置いて、半助は手を差し出す。
 掌を合わせてみると、利吉の指が関節半分ほど長い。
「手の大きな子は大きく育つ、って言うからね。まだ背が伸びてる?」
「実は」
 半助の問いに、利吉は苦い顔で、
「もうこれ以上背が伸びると困りますから、止まって欲しいんですけど」
「どうして?」
「今でも高い方なのに、これ以上高いと町中で目立つじゃないですか。そういう覚えられ易い特徴はいりませんよ」
 忍者としての職業柄から出た利吉の発言に、半助は小さく笑う。
「贅沢な悩みだねえ」
「土井先生くらいで止まれば、理想的だったんですけど」
 羨望の意味合いも込めて漏らされた吐息が、実は利吉が結構自分の外見を意識していることを物語っていた。
 自分のことにかけては無頓着な半助は、そうかな、と曖昧に笑う。
「うちのは組の子たちもね、結構手の大きな子が多いんだよ」
 目を細めて親バカじみた言い方をする半助に、利吉の口許もようやくほころんだ。
「あの子たちもこれからどんどんと大きくなって、私の背丈なんてすぐに追い越してしまうんだろうなあ」
「嬉しそうですね」
「そうかい? それまでにかけられそうな苦労を思うと、胃が痛むけど」
「たとえばあんな足音を聞くとですか?」
 利吉の言葉通り、廊下を駆けて来る小走りな足音とともに、「土井先生!」と戸がガラリと開かれる。
「乱太郎、きり丸、しんべヱが裏山で迷子になって、山田先生が土井先生を呼んできてくれって!」
 息せき切って跳び込んで来たのは一年は組の学級委員長・庄左エ門であり、その言葉に半助は盛大に胃を押さえ、そんな半助に利吉は同情交じりの苦笑を漏らした。
 確かにこれより先の半助の人生において、は組の子どもたちにかけられる苦労は多そうだ。
「今行く。庄左エ門、案内してくれ。――えっと、利吉くんは……」
「同席してよろしいですか? 迷子探しなら手の多い方がよろしいでしょう」
「すまないね。お言葉に甘えるよ。――お茶だけ飲んでいくかい?」
「土井先生早く!」
「はいはいっ」
 庄左エ門に急かされ、半助は部屋を飛び出す。
 自分の湯呑みを半助の湯呑みの横に置いて、利吉は自然と盛れる笑みを噛み殺しつつ、彼等の後を追った。
<終> 
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