毘沙門天の宝物
☆宝塔
毘沙門天が左手に捧げ持つ小さな塔。四天王の中で毘沙門天だけがこの宝塔を持っており、いわば毘沙門天のシンボルと言える。一般に毘沙門天は右手に持った武器(戟か宝棒)で悪魔や災難を退け、左手の宝塔から無限の富を人々に与えるとされる。つまり毘沙門天は武勇と富貴を与えるという二面性をその持ち物で表しているらしい。
しかし、仏塔といえば釈迦の遺骨を納めたストゥーパに始まるとされ、仏陀および仏法のシンボルとされている。欲望をいさめる仏法を象徴する仏塔がいきなりバブリーに走ってはいかんような気がする。実際、仏塔とその仲間は仏教でも信仰の対象とされ、これを礼拝すると罪業を除くとされているが、少なくとも人々に宝を与えるような仏塔は毘沙門天の宝塔以外には存在しない。
名前や宝塔の形からすると「法華経」に出てくる多宝塔と関係しているのように思われるが、多宝塔に関する伝説は次の通りである。
ある日、お釈迦様が「法華経」について語っていると、突然大地が割れて地下から巨大な仏塔が出現。人々が何事かと驚いていると、仏塔の扉がパカッと開いて中から多宝如来という仏さんが姿を見せ、「うわはははーっ、お釈迦様、あんたは偉い! あんたが語っている教えは最高だぜ。さあ、こっちに来て一緒に座れや」とお釈迦様をいきなり誘う。そこでお釈迦様は多宝如来と一緒に座って法華経について熱く語りあったという。
しかし、これって、居酒屋でちょっと古いミュージシャンについて話をしていたら、なぜか隣のテーブルから酔った年配の男性がやってきて「君たち○○が好きなのー? つまりねー、○○の魅力というのはねー」と頼まれもしないのに熱く語っている姿に似てなくもない。
ちなみに私の知り合いはこの話を聞いて多宝塔のことを「地下秘密要塞」と言い切ったので、「地下に潜んでいた悪の帝王(←たいてい自称)がヒーローを一度は倒した怪人の前に現れ、『わしは貴様のような強い奴を待っていた。さあ、副官の地位を与えるから共に世界征服を目指そうぞ!』と迫る」姿の方が近いのかも。
いずれにしても多宝塔から人々に金がばらまかれたというような記述はない。では、何故に毘沙門天の宝塔は人々に無限の富をもたらすとされるようになったのか?
実は毘沙門天の神格に秘密があるようだ。毘沙門天は別名を「多聞天」と言うが、これは仏の教えを「多く聞く」ことからその名前がついたという。つまり毘沙門天は力だけの馬鹿ではなく、賢者の言うことを聞いて自分のものとする謙虚さの持ち主だということだ。おそらく毘沙門天の宝塔はそうして得た知恵と謙虚さのシンボル。その態度こそが無限の富を生み出すのだ、という教えを毘沙門天の宝塔は意味しているらしい。
ところで我々鋼鉄の同志は(夏女史のぞく)、よく居酒屋で古い特撮・アニメについて熱く語ってしまい、同席した若い人を呆然とさせてしまうことがある。はっ!? これって多宝如来と同じパターン……? まあ、こういう話も素直に聞いていれば将来何かの役にも立つ可能性がないでもないし、もしかすると毘沙門天みたいになれるかもしれません。いやー、年寄りの話は聞いておくもんですよ、ハハハ……(←冷や汗)