「宝船物語」

 七福神と切っても切り離せないのが、お宝を満載した「宝船」ではないだろうか。考え得る限りのメデタイ物を詰め込んだ、いわば「超弩級縁起物戦艦」と言うべき代物だ。確かにこんなものが来られた日には貧乏神がどうゲリラ戦を展開しようとも物量作戦の前に潰されるだけだろう。
 だが、宝船のルーツは今の縁起物で武装したスーパー戦艦とは全く逆のものらしい。そのルーツから見ていくことにしよう。

◇宝船のルーツ
 今でこそ縁起物満載の宝船の絵だが、最初は何も積んでいない空の船の絵であったという。で、この絵をどう使ったかというと、枕の下に敷いて寝て、見た悪夢をこの空の船に乗せて流したのだそうだ。つまり今の「プラスの物をどこからか持ってくる」という宝船でなく、「マイナスの物をどこかへと流す」という存在だったらしい。
 それで思い出されるのが「虚船」という奴だ。古事記・日本書紀にはイザナギ・イザナミが、二人の間に生まれた不具の子供である蛭子を船に乗せて流したという神話がある。昔話でも、その土地の共同体にとって不幸を生み出しそうな子供を虚船に乗せて流すというものがある。つまり「虚船」とは「悪しき物をどこかへ流しさる船」というものなのだ。こ、これってフィリピンに産業廃棄物を持っていった貨物船……

◇チェーンジ!虚船
 悪夢の流しさるための虚船だったが、そのうちに米俵が乗せられた船へと姿が変わる。最初は悪夢を確実に船にとどめておくための餌だったのかもしれないが、いきなり悪しきものを輸出するためだけの船が方向転換する。そう、輸入である。
 そんなに簡単に転換が起こるわけがないと思う人も多いだろう。しかし、ジャンプの漫画で主人公と戦っていた敵がいきなり味方になることはよくあることだ。また新日本プロレス正規軍のトップだった武藤敬司が、気がついたら黒い軍団NWOのボスになってたなんてこともある。世間を舐めてはいけない。
 とにかく米俵を積んだことで、虚船は富をどこかから持ってきてくれる宝船へと姿を変えた。そして「悪夢を流すもの」から「吉夢を見られるもの」へと宝船の絵も用法が変化する。
 宝と富を持ってくる宝船には当然のように七福神がクルーとして乗り込み、超弩級縁起物戦艦となった。そしてこの船が貧乏体制からの解放をもたらしてくれることを願って、日本国の民衆は宝船の絵や像を家に飾るようになったのである。

◇宝船はどこに来る?
 七福神が乗り組む前、宝船には誰も乗っていなかった。つまり宝船がやってくるかどうかは「神の思し召し」、つまり幸福というものはほとんど偶然にやってくると考えられていたのかもしれない。
 だが、七福神がクルーになった以上、その行き先は七福神の意志に従うに違いない。前ページで明らかにしたように、恵比須大黒は「一生懸命働く者」の所へ行こうとするだろうし、毘沙門天は「貧乏の原因と戦う者」、弁財天は「知恵と技能のある者」、寿老人は「健康に気を使う者」、福禄寿は「人生設計を確実に進める者」、そして布袋は「心がハッピーな者」の所に行こうとするだろう。
 つまり宝船は「幸福になりそうな者」の所へは行くが、「幸福になりそうもない奴」の所へは決して行かないらしい。
 ひたすら偶然の幸福を求める者は、七福神の宝船ではなく、乗組員のいない宝船の到来を待つしかないだろう。もしかすると、そんな人の前にも宝船は漂着するかもしれない。ただし、それが富を積んだ宝船なのか、悪しきものを積んだ虚船なのか、船の中身を見るまではわからないのだ……

宝船の呪歌

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