夜になると、カルサア修練場の中は冷え込む。
建物が古い為や、十分な暖房設備が整っていない、無駄に広い、など いくつか理由が挙げられる。
3階にある調理場も例外はなく、マユは赤く冷たくなってしまった手を擦り合わせ、息を吹きかけた。
明日の朝食の下準備は終わった。
今でこそある程度のものは作れるようになり、少し自信もついた。
自分の腕を確かめる為、明日からはペターニへと向けて出発し、クリエーターとして料理を作ることに決めた。
ここ、カルサア修練場とも、暫くお別れということになる。
マユはコーヒーを淹れ、ダイニングテーブルに着いて溜息を吐いた。
カップの熱が、じわじわと掌に浸透する。
翌朝には発たなければならないのだが、どうしても寝付けなかった。
心残りが、一つだけ、ある。
「…アルベル様…」
大好きな恋人に、クリエーターになる為にここを出る、と話をしたのは3日程前の事だ。
意を決して話したつもりだったが、彼の答えはこうだった。
『勝手にしろ、阿呆』
普段が普段だし、彼に甘い言葉を期待する方が酷なのかもしれないが。
それにしたって、もう少し言い方というものがあるような気がする。
引き止めるなり、励ましたりするくらい、してくれても良いと思うのは贅沢だろうか。
―――いや、それとも。
…もしかして、何とも思われてない?
「――…それはないと思いたいなあ…」
頭の中の、嫌な想像を振り払ってマユはコーヒーを口に運んだ。
「何が、ないと思いたいんだ?」
仄暗い調理場の中、突然声が聞こえてきて、驚いたマユは手に持っていたカップを落とす寸前だった。
「あ、アルベル様…どうして」
高鳴る心臓を押さえて、マユは入り口にぼんやりと立っているアルベルを見る。
「…水を飲みに来たら、お前がカップ相手に喋ってたんだ」
本来ならカップ相手、というところでツッ込むべきなのだが、マユはアルベルの様子が少しおかしいことに気づいていた。
「…アルベル様、お酒、飲まれました?」
呂律がきちんと回っていない。
辺りに漂う、アルコールの香り。
そして無言を、肯定と取る。
「…もう! 一体どれだけ飲んだんですか!?」
決して酒に弱いわけでもないアルベルが、ここまで酔ったのを見たことがない。
どんな無茶な飲み方をしたんだろう、と思う。
「…行く、なよ」
「…え?」
搾り出したような声。
聞き間違いでなければ、彼は今「行くな」と言った。
「アルベル様、今何て…」
言葉は続かなかった。
素早く腕を押さえられ、触れるだけのキスをされ、瞳を閉じた。
「…身体、冷てぇじゃねえか。いつからここに居たんだ?」
「かれこれ、二時間くらい前から…です」
「阿呆。無理するなっていつも言ってんだろうが」
強い力で抱きしめられ、マユは微笑した。
触れ合った箇所から、熱が伝わる。
アルコールのせいで、いつもより高めな、体温。
マユは少し身体を離して、アルベルを見上げた。
これは、愛されていると確信しても良いのだろうか。
「…少し修行を積んだら、また帰ってきます」
「当たり前だ。俺はこの先、お前以外の給仕を雇わねぇからな」
そう呟いたアルベルの顔は、仄暗い中でもわかるほど、赤かった。
「…っていうことがあったんです」
うっとりとあの時の出来事を語る少女を、ソフィアが羨ましそうに見る。
「そうですか…そんな事が。でもそれって、プロポーズですよね!?
アルベルさんって、淡白そうに見えて実は…」
黄色い声が飛び交う、ペターニの工房。
ここでは、今まさにマユ・ソフィア・マリアで、料理のクリエイションをしている真っ最中だった。
そして、その脇にはフェイト・クリフ・アルベルが無言で鍛冶のクリエイションをしている。
(何だろう、この無言の圧力は…)
(今話しかけたら問答無用に叩き切られそうだな…)
男どもが微妙な緊張感を持って鉄を鍛えているすぐ傍では、マリアが笑いを必死に堪えつつ、シチュー鍋をかき回している。
彼女だけはアルベルの周りを取り巻く微妙な空気に物ともしなかった。
「まあ…クリエーターって工房を転々とするから中々家には戻れないものねえ。
でも、まさか自分がクリエーターになってこうして鉢合わせしちゃうなんて、夢にも思わなかったのよね、アルベル?」
笑顔のマリアに対し、アルベルは完全に不機嫌顔で黙々と作業を続けている。
刀を抜かなくなっただけでも、随分と進歩したものだ。
単に、マユを危険な目にさらしたくないという思いも、勿論大きいだろうが。
そして黄色い声はさらに続く。
「そして、その後はどうなったんですか?」
ソフィアの問いに、マユは人差し指を唇に当てた。
「―――そこから先は、内緒です」
漣結衣様のサイトで8888番取った際のキリリクです。
我ながら凄いものを・・・と思いつつリクしたアルマユ。
ラブラブな二人に悶え死にしそうでした〜〜vていうかマユ可愛い!羨ましい(は?)
結衣様、本当にありがとうございました〜
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