「前に、宇宙は死の空間しかないって言ったけど……命が住む星は宇宙にしか無いのも事実よ」

「死と生があるってワケか……お前みたいだな、宇宙って奴は」

「えっ……」

「お前は死を刻む光を撃つが。お前は女だ、女ってのは命を生んで育むもんだろ……違うか?」

「キミって……見かけによらず、結構詩的なのね?」

「るせぇ。笑ってんじゃねぇ……」

「怒らないで、褒めてるんだから。宇宙みたいな女、か……そんなこと言われたの、初めてよ」








空の最果て





「飽きもせず、また宇宙を見てるのね?」

 空気が圧縮されたようなプシュンというドアが閉まる音と同時に
カツコツと足音がただじっと宇宙を見ているアルベルの元へと近づいてきた

 近づいてくるマリアには目もくれずに、アルベルは星を離れて以来
マリアの言うとおり、暇があれば死の空間である宇宙を眺めていた

「隣……良いわね?」

 アルベルは答えるまでもなく、右手を置いていた刀を腰へとしまった
彼の周りには使い込まれた手入れの道具が転がっている。
油のにじんだネジや小型の磁石……どうやら彼の義手の部品らしい

「あら、何かの部品?」

 マリアは興味深げに散らばったそれを手に取る。
ちらりと横目で彼を見るが、相変わらず宇宙を見ていて気にしないようだ

「キミは、相変わらず外に身を置きたがるのね……」

 人のことは言えない質なのはマリア自信にも判っては居たが
アルベルは別だ。例えば、ほんの二時間前の会議……よくもまぁこれからのことに
あまりにも白熱した会議になったが。席に座ってから黙っていたアルベルが吐き捨てた一言で 一気に温度が下がった。……別にそれが間違いだとはマリアは思っていない

 今回の会議は、感情的に走りすぎだったからだ。まぁ、それも仕方がないことだろう
あのエクスキューショナーによって壊滅した軍、砕けた星……感情的になるなという方が酷だろう
感情のままに暴走した議論は、反論は許さないという一種のファシズム思考にまで高まってしまって
マリアはまた嫌われ役をやるかと溜息を内心で吐いていたが……
 
「礼を言っておくわね」

「何がだ……」

 何で礼を言われるんだ? とばかりにアルベルは眉をひそめるがマリアは語らない
ただ、アルベルから見て。なるほど、確かにまだ十代のガキみたいな奴だと思うような
悪戯っぽい笑みを浮かべているだけだった

「ただ礼を言いたかっただけよ。キミが来てから、本当にやりやすくなったから。ね?」

「……変な物でも食ったか?」

 アルベルの失礼な物言いに、マリアは拳で応えるがわかりやすい反応に
アルベルは音もなく避けて、マリアの懐に近づく。ムッとしたマリアはゴンッ!と
頭突きを繰り出して。衝撃で星を目蓋の裏に観た

「痛っ〜〜〜〜。今ので脳細胞が数千は死んだわね。どうしてくれるの?」

「貴様は何がやりたいんだ? ったく、うざってぇ!」

 大声で遮って、埃もないのに服の埃を払うような仕草をしてから
アルベルはドカリと音を立てるほどに勢いよく座り込んだ
 何でこの女が俺にまとわるようになったのかはあまり思い辺りがない
宇宙みたいな女だって言ったときぐらいか? それはともかく、近くに居るぐらいなら
まだ良いが、おかしなことを言ってからかってくるのはうざったいことこの上ない

「私のやりたいこと? そうね、ただの暇つぶしね」

「他を当たれ。益体のないことは俺は嫌いだ」

 いつの間にか、散らばっていた手入れの道具をまとめていたマリアが
アルベルにそれを渡してシレッと答えた。苦虫を噛み潰したような顔でアルベルはそれを受け取って
吐き捨てるようにマリアの解答に答えた

「悪いけど、なれ合いはあまり好きじゃないのよ」

「どっかで聞いた事言いやがる」 

 心底疲れ気味にアルベルが答える、マリアは対照的に生き生きしていた

「私もキミと同じで、組織の中心だから。客観的に物事を見るには馴れ合いはできないのよ」

「物は言い様だな。貴様のはただ人付き合いが苦手なだけだろ?」

「キミは違うのかしら?」

「違うな、俺は人間って奴が根本的に大嫌いだ。お前とは違う」

 こうも言い切られてしまうと、マリアは引き下がれなかった
正直言って、マリアはアルベルとどこか似ている。いわば同族意識のような物を持っていた
しかし、彼の言った言葉は裏切りに近い。心の奥が沸々と煮えたぎるような嫌な感覚に覆われる

「それこそ詭弁ね。じゃあ訊くわ、一体どう違うって言うのよ?!」

「そんなことも知らねぇのか? 嫌いと苦手は違う、ガキでも判る理屈だ」

「……抽象的すぎて解らないわね」

 そう答えるマリアに、アルベルは左手の義手を右手で軽く撫でる
ふと、彼の記憶をよぎるのは。敵であった女との会話だった


“貴方は、その動かない左手を代償に。人の本質を見たのですね……
 勝手に期待されて、左腕と貴方の父上を失って、勝手に見損なって裏切って
 そして、貴方が何より許せなかったのは。人はまた勝手に貴方の才能を見いだして
 掌を返したように、貴方を認めだしたことに……そんな摂理を子供の頃から悪意と同時に
 見せつけられて。これは個人的な質問です、どうしてそんなことになっても貴方は戦うのですか?”

“くだらねぇな、そんな根拠がなきゃ人一人も理解できやしねぇとはな”

“理解しようとは思いません。ただ、貴方のことを知りたいからこんな事を考えて伝えただけです”

“ずいぶんと無駄なことを。お前は相当無駄なことが好きなようだな”

“これでも、結構楽しんでいるんですよ? 何故だか貴方には解らないでしょうけど”

“ハッ。貴様の心の中は知らんが、貴様の問いかけには答えられるぜ”


 くだらないことを思い出した、アルベルは軽く舌打ちをしてマリアに背を向けた
背を向けられたマリアはアルベルの剣呑さにも構わずに彼の手を逃がさないと取るが

「マリア、前に言っていたことがあったな。お前の世界の歴史の話で、初めて宇宙に行こうとしたヤツの話だ」

「えっ……ツィオルコフスキーの話ね。私の世界では宇宙に携わる者にとっては当たり前の歴史だけど」

「“地球は人類にとってゆりかごだ、だがゆりかごで一生を過ごす人間は居ない”だったな」

「そうよ。小学校の宇宙学の教科書にすら載ってる言葉ね」

「良くできたホラだな。そいつは頭の良い奴だ、自分の欲望を世界の問題に置き換えやがったってこった」

 マリアの手を引きはがして、アルベルはそう言って廊下を歩き出す
やっぱり解らないとマリアが彼に付いていった

「人付き合いとツィオルコフスキーの話がどう関係あるのよ?」

「解らねぇか? そいつは空の果てに行くなんて言うバカげたことを実現するために事をでかくしやがった
 物事を大げさにして、細かいことには目をつぶっている。小賢しいことだな」

 マリアは彼の言おうとしていることを何となくだが解ったような気がした
自分のやりたいことをストレートに言わずに、甘言と策略を使って人身を操ると言うこと

「我が儘を貫くために嘘を吐いたって事? それが一体なんの……」

「マリア、お前は人が苦手でも使うんだろ? 俺は違う、俺は俺自身の我が儘をやっている
 もちろん、その為には利用できるモノはなんでもやるが……飽きたら止められるか? でかくなった責任を捨ててな」

「それは……できないわ」

「だろうな。それがお前と俺との違いだ……安心しろ、俺は来たかったからここに来た
 まだ俺は何もしちゃいねぇ。……それだけの話だ、解ったか?」

 責任をあっさりと放棄することができない、そう答えた時点でマリアは口を紡ぐしかなかった 足を止めたマリアには気を止めずに、アルベルは宛がわれた部屋のドアの向こうへと消えた

「何よ……格好付けたこと言って」

 らしくない、何で私は彼の部屋の前で愚痴ってるんだろう?
心の中でリフレインするのは、アルベルが語った最後の言葉……この戦いにはまだついて行くと言うこと

 ほんとうに、らしくない。誰かの言った言葉にここまでおかしくなってしまうことに
マリアは、うつむかせていた顔を上げる。そしてドア越しに唇を動かした

「アルベル。アテにしてるから……覚悟してなさい」

 一気に言葉を口にして、マリアは久しぶりに笑顔を浮かべた




アルクレ同盟で素敵なSSを書いていらっしゃるAO様のアルマリSSです。残暑見舞いに頂きました。
アルベルとマリア、このクールな2人の魅力を余すところ無く表現している素晴らしさに感動しました。宇宙ネタというのも非常にマッチしていると思います。
それでは、素敵SSありがとうございましたー!




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