
リーザス村は平和な村である。さしたる都会でもなく、特に狙われるようなお宝も存在しない、何の変哲も無い村である。・・・見た目は。
しかし現実には、リーザス村の領主であるアルバート家は、港町ポルトリンクの貿易も管理している。田舎の富豪とはいえ、財力は馬鹿に出来ない。
そんな状況だから、アルバート家の屋敷のあるリーザス村には警備が必要だった。田舎とはいえ富豪なのだから、警備を複数名雇うだけの余裕は十分にあった。実際、つい最近まで10数名の候補が村に来ていたのだ。
が、その志願者達も、今では一人も残っていない。先日最後の一人が村を逃げ出した後である。その件で今、アルバート家では火花を散らす二人が居た。
「いい加減になさいゼシカ!!それがアルバート家の令嬢ともあろう人間の行為ですか!?」
「私の呪文一発で逃げ出すような警備員が役に立つとは思えないわ!!役に立たなきゃ雇う意味も無いでしょ!!」
「だからって警備員を追い出す娘が何処に居ますか!!?」
「試しただけよ!!何よ、メラ一つで血相変えて逃げ出すようじゃ、スライム一匹倒せやしないじゃない!!そんな人が警備員として役に立つ訳無いわ!!」
今日も今日とで言い争いの絶えないアルバート家の令嬢ゼシカとその母のアローゼに、いつまで経っても二人の剣幕に慣れないメイド達はビクビク怯えていた。いつあの矛先が自分達に来るか分からない。
ちなみにこの二人の言い争いはほぼ毎日続く。日々ネタは変わるのだが、言い争うという現実は絶対に変わらない。親子なのに何故こうも対立してしまうのか、周りの人間にとっては非常に謎である。そんな状態なのにメイドたちが誰一人辞めないのは、偏に現アルバート家の主である人間の存在である。
と、不意に聞こえた階段を登る音に、今日も口論を続ける二人を遠巻きに仕事をしていたメイドたちの顔が綻ぶ。階段から現れたのは、使用人たちが心待ちにしていた、彼女らの口論を収められる唯一の人物。彼は相変わらずな二人を見つけると、呆れたようにため息をついて二人に近づく。
「二人とも止めろよ。皆が怯えてるじゃないか。」
「兄さん・・・」
やや低めの声が止めに入ると、口論していたうちの一人・ゼシカが急に大人しくなる。現れた人物、他ならぬアルバート家の現当主サーベルトは、ゼシカの兄である。気が強く母親と喧嘩ばかりしている彼女だが、兄のサーベルトにだけは心を許している。
母のアローゼも、兄の方は優秀なのに・・・と良く愚痴を零す所為かサーベルトに対してはあまりきつく言わない。
「サーベルト、あなたからも何か言ってやってちょうだい。この子ったら、折角募集に応じて来てくれた人たちを皆追い返しちゃったのよ。全く、誰に似たのやら・・・こんな乱暴を働くなんて。」
「役に立つ警備員じゃないと意味無いでしょ!?」
詳しい内容は全く話していないのだが、そのやり取りだけでサーベルトは全て把握してしまったようだ。何に呆れたのか、サーベルトは頭を抱える。
「分かった・・・ゼシカには俺から言っておくよ。だから母さんも引き下がってくれないか?母さんの形相に皆怯えてるよ。」
苦笑しながらサーベルトは、仕事しながらも成り行きを遠目で眺めていた使用人たちをちらりと見る。それにつられるようにアローゼも初めて周りを見渡し、罰が悪そうに引き下がった。
「分かったわ・・・じゃあ後はよろしくね。全く・・・あの子もあの子で、アルバート家の領主でありながら警備だなんて・・・」
部屋に戻るアローゼだが、愚痴はまだ止まらない。後半は殆ど独り言に近い呟きだったが、サーベルトやゼシカにはしっかり聞こえていて、またゼシカが不機嫌そうに眉を寄せた。
アローゼが見えないところまで去ると、膨れ面のゼシカがサーベルトを見上げていた。
「何で、兄さんは何も言わないの?」
「・・・何を言ってほしいんだよ。」
「さっきの言葉、聞こえなかったわけじゃないでしょ?兄さんは村のために警備を買って出ているのに、アルバート家の主としてとか何とかって・・・」
アローゼの愚痴はゼシカだけに留まらず、サーベルトに対しても愚痴を零す。尤もその頻度はゼシカに比べれば雀の涙同然であり、内容も結婚がどうとか領主としてどうとか、凡そゼシカに比べれば平和なものだったが、ゼシカにしてみれば自分の事をとやかく言われるよりサーベルトが嫌味を言われたりするのは嫌だった。
「母さんも頑固だからな。家訓に従う事が最善だと思ってるんだ。そういう意味では、お前もよく似てるじゃないか。」
「何で私が!!」
「お前だってかなり頑固じゃないか。こうと決めたら絶対に譲らない。母さんと喧嘩ばかりしているのだって、お互い自分が信じるものを譲らないからだろ?」
目を細め楽しそうに笑うサーベルトから視線を外すと、ゼシカは行き場の無くなった視線を彷徨わせる。遂には俯くゼシカの頭に軽く手を置き、サーベルトは諭すように静かに告げる。
「ゼシカ、お前は自分の信じた道を進め。それで衝突しても良いんだ。お互い譲れないものがあるから衝突するけれど、いつか理解し合える時が来るから。」
サーベルトの言葉に、ゼシカは顔を上げる。そこにあったのは、大好きな兄の穏やかな笑顔。その笑顔に、ささくれ立った心は静まっていく。
「・・・兄さんは、自分の信じた道を進んでる?」
「まあな。というより、俺の場合は好きな事をしてるだけかな。」
「領主としての勉強をしたり、貿易を学んだり、村を守ったり?」
いつも他の誰かのために動いているように見える兄が、自分の好きな事をしているだけだなんて、それがゼシカには信じられない。いつだって他人の事ばかり気にかけていて、村の女の子なんかは「物語に出てくる勇者様みたい」って言ってるくらいなのに。
「ああ。勉強も楽しいぞ。知らなかった事を知るのは結構楽しめるものなんだ。村を守るのも、万が一村に何かあったら俺が悲しい。」
「私に魔法を教えるのも?」
何でも出来る兄が一体何を楽しみとしているか、ゼシカには知る由もない。けれど、いつまで経っても簡単な魔法しか使えない自分に魔法を教えるのはきっと楽しくないに違いない。
けれど、予想に反してサーベルトは、今まで以上に晴れやかな笑顔を向ける。
「言ったろ?ゼシカには偉大な賢者の魔法の才能が受け継がれているって。きっといずれ、その力に目覚める時が来る。俺は結構楽しみにしてるんだぜ?」
以前聞いた話。アルバート家は偉大な賢者の血を引いているという事。それ自体眉唾物だが、自分に魔法の才能があるとは思えない。サーベルトは剣も魔法も一流なのに。それも本人曰く「魔法はこれ以上伸びない」だそうだが。
けれど、いつか自分がそんな力に目覚める事が出来たなら・・・兄の期待に応える事が出来たなら、その時は真っ先に兄に見せたい。兄が期待した通りの、自分の雄姿を。
「それはともかく、何で警備員志願の人達を追い返したんだ?」
「アルバート家の警備が勤まるかどうか、試しただけよ。少なくとも私よりは強くないと意味無いでしょ?でも駄目ね。メラ一発で逃げるなんて、とんだ腰抜けばかりだわ。」
「おいおい・・・」
はねっかえりの妹に、サーベルトは思わず苦笑した。
何を血迷ったかDQ8。しかもアルバート兄妹。むしろサーベルト兄さん。
最初にリーザス村来た時には既に死人なんですよね・・・僅かな回想シーンにサーベルト兄さんを想像するしかないんですが、話によるとあり得ないくらい完璧な人間らしいですね。
個人的にゼシカの理想の男性は兄であると思ってます。でもそうすると、ゼシカって結婚できるのだろうかと本気で悩む(おい)
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