祐貴達がブラックマーケットに閉じ込められて丸二日が過ぎていた。幾度と無く押し戻され、諦めるとカジノに入り浸った。最初は単なる遊びのつもりで、すぐにカーマ宮殿に殴り込みをかけるつもりだった。が、祐貴がポーカーで荒稼ぎしてからブラウンや麻希やマークが燃えてしまったのが運の尽きだった。見事にカジノに入り浸り、南条は一人情報収集をしつつカジノの住人となった三人を説得していた。
「全く、皆我を忘れちゃって…早くここを出ないと神取に慰謝料ふんだくりに…いやいや、倒しに行けないじゃないか。」
祐貴が言い直した言葉に疑問を持たないでも無かったがなによりまず言っておきたい事が有った。
「速水…こうなったのは誰の所為だと思ってるんだ…?」
「南条…それって人に剣を突き付けて言う言葉か?」
とか言いつつも、祐貴は全く動じてない。ていうか、祐貴が動揺する様など今まで見た事が無い。いつもしれっとした顔していて冷静沈着に見せかけた極悪非道をあっさりやってのける。それでいて妙に仲間思いな所もある。変な奴だ。
とにかく、祐貴がどんな人間なのかはこの際どうでもいい。今すべきなのはハーレムクイーンを倒してブラックマーケットから出る事だ。こんな所で呑気にカジノをやってる場合ではない。しかしこうしていてもう二日。南条がいくら言っても聞かない。
「う〜ん…流石にもうカジノも飽きてきたよなぁ…もう大して稼げそうに無いし。」
一瞬不可解なことを聞いた気がして南条は暫し呆然とした。祐貴はそんな南条を後ろ目に、まず麻希に話し掛けた。
「園村、いい加減にハーレムクイーンの所に行かないか?」
「う〜、もうちょっと〜」
麻希はスロットに夢中になっている。だがなかなか当たりが出ないらしい。殆ど自棄である。
「そんなこと言ってて良いのか?ハーレムクイーンって随分良い男集めてるらしいじゃないか。園村の好みの男も居るかもよ?」
麻希の手が止まる。暫くの間考え込んでから立ち上がり、笑顔で祐貴を促した。
「そうよね、私達には神取を止めるって使命があるのよね!こんな所で遊んでる場合じゃないわ。早く行こ、祐貴君!!」
お互いの言う事が何気にずれている気がするが、取り敢えず園村麻希、陥落。
祐貴は悪魔の笑みを残しつつ、残りの二人を説得しに行った。麻希は南条の隣りに立った。
「…園村、お前は確か速水が好きなのではなかったか?」
「あれ、南条君も気付いてたんだ。人間の世界から20里くらい余裕でかけ離れてそうなのに、意外ー。」
言いたい放題言ってくれる。大体、いつも麻希は人目も憚らずに祐貴にくっついている。あれで気付かない方がおかしい。が、祐貴だけは見事に気付いてないようだ。人の心には敏感で、すぐさま人の心の弱い部分を発見して容赦無く言葉のナイフで弱点を深くえぐる奴なのにそういう所だけは何故か相当にぶい。全く得体の知れない奴だ、と祐貴の方を向く。祐貴は今、ブラウンの傍にいた。
「なあ上杉、いい加減カーマ宮殿に行かないか?」
「う〜カーマ宮殿って悪魔出るんっしょ?おれ様ここで待ってるから他の皆で先に行っててくれないかぁ〜?」
「そっか…」
祐貴はブラウンに背中を向けて溜息をついた。
「ハーレムクイーンって、美女だって聞いたんだけどな…」
その瞬間、ブラウンは持ち前の素早さで既にカジノの出口付近にいた。
「ほれミッキー、なにぼさっとしてるんだよ!?おれ様早く美人のクイーン様に会いたいんだよ!ああ、美貌のおれ様とハーレムクイーン様の愛の逃避行…逃げる二人には障害がつきもの。その中でついにクイーンはおれ様の愛に気付き、そして禁断の愛はめでたく…」
一人で盛り上がっているブラウンを横目に、南条は残るマークの方を見た。マークはちらりとこちら…と言うより麻希を見て漸くゲーセン台から離れた。マークは麻希に惚れてるので大体は麻希を引き合いに出せばいちころ、と以前祐貴が言っていたのを思い出した。この時もやはり麻希を餌にしたのだろう。
「あ、何やってんだよお前等ー。とっとと行くぜ、ほら上杉、てめぇも勝手な妄想してねぇで行くぜ!!」
やたら浮かれながらマークは麻希に近づいて熱血している。
「園村、お前はオレが守ってやるぜ!安心しろよ。」
「?…うん。頑張ってね。」
顔を真っ赤にしてエキサイトしているマークを見ながら南条は祐貴に、何を言ったのか聞いてみた。
「稲葉なら園村で釣れば楽勝だろ?でもそれだけじゃ、なんかつまんないからちょっとだけ付け加えておいたんだ。「園村を悪魔から守ってやれば好感度は格段アップ、あわよくば一番頼れる人になれるかもな〜」って。」
「……一番というのは非常に気に入らないが、まぁそれはいいとしよう。だが、良くお前がそんな事言えたな…」
「は?なんで?」
「………………」
やはり麻希の気持ちには全く気付いてない。が、祐貴の「いい男」発言に引っかかってしまったのを見るとどうも怪しく思えてくる。ともあれ、漸く祐貴達はカーマ宮殿に乗り込む事になった。
カーマ宮殿の奥深く、ハーレムクイーン…香西千里と祐貴達は対峙していた。
「どう?私の絵は。素敵でしょう?」
宮殿内には所々に千里の描いた絵があった。宮殿の男達はそれをハーレムクイーンの描いた絵と言っていた。ハーレムクイーンが千里と認めたくなかった麻希は必死で違うと思い込もうとしていた。が、現実は麻希を深く傷つけた。
「ち…千里!!なんで、こんな事…」
「なんでですって?それは麻希、アンタが気に食わないからよ!!」
千里は次々に麻希に対して今まで思っていた事をぶちまけた。その度に麻希は苦しみ、涙を流した。ここで注目。麻希がそうなってると必ず勝手に暴走する奴がいる。
「あんなつまんねー絵なんか見てる暇ねぇんだよ。てめぇの絵なんてヘタクソだ!園村を傷つけて、友達の振りだとぉ!?ふざけんのも大概にしやがれ!!てめぇのくだらねぇ嫉妬に付き合ってる暇はねぇんだよ!!とっとと神取の居場所を教えやがれ!!」
マークのその言葉は千里を怒らせるには十分だった。
「なら、もう一度よく見てくるのね!!」
千里は鬼の形相で鏡にお願いし、その直後祐貴達はブラックマーケットに飛ばされていた。
「あ、あのやろー!こんな所まで戻しやがった!!」
この場で千里に文句を言っていたのはマークだけで、麻希は千里の言葉に強いショックを受けていた。他の三人はマークを睨み、誰とも無く呟いた。
「あそこであれだけ言われりゃあ、誰だってああいう行動に出るっすよねぇ?」
「あのサルのせいで、またあのカーマ宮殿を行くのか…?後先考えないからこんな事になるのだ。そこを分かってるのか?サルめ…」
「あいつがいる所為で、また穴に落ちまくらなきゃならないのか。いっそ殺るか…?」
「でもよーあんなんでも一応戦力だろ〜?」
「なんであのサルはセベク編固定なんだ?選択の余地さえあれば警察署で外したものを…」
「レベル最低だしなぁ。学校で城戸無理やり引っ張ってきた方が良かったなぁ?」
今ここでゲームシステムに文句を言っても始まらない。とりあえず一人で騒いでいるマークをリンチしてから麻希を宥め、再びカーマ宮殿に向かった。もちろん、今度は余計な事を言わないようにガムテープでマークの口を塞いでぐるぐる巻きにしてから。
「来たわね。どうだった?私の…」
千里は絶句した。ここに来るまでになにがあったのやら、マークはガムテープでぐるぐる巻きにされていた。それにロープが巻きつけられてあって、南条とブラウンで引っ張ってきた。
「悪いな、こんな緊張感もへったくれもない格好で。このサルは園村が関わると勝手にバーサク状態になってしまうのだ。」
そのガムテープミイラ(と言うよりマーク)をちら、と見て、もう見ないように目を背けて千里はさっきにセリフを言った。
「そ、それより、私の絵、見たんでしょう?どう思った?この私の絵と、あのいまいましい麻希の絵。」
広い部屋の壁に、何時の間にか麻希の絵が掛けられてあった。また鏡にお願いしたのだろう。その証拠に、千里の顔のほくろがさっきよりもかなり増えていた。この部屋に再び入った時、千里が自分でぼやいていた。鏡にお願いするとほくろが増える、と。
「ね、ねぇ、もう止めようよ!千里の顔、どんどんほくろが増えてってるよ!!それに、内藤君も心配してるし…だから、もう帰ろう?内藤君、怪我しちゃったんだよ!?」
「…陽介が?それがどうしたの。」
「どうしたって…内藤君、彼氏でしょ!?心配じゃないの!?」
「別に。あんなの初めっから好きじゃなかったもの。あんたが陽介に憧れていたから、私は陽介に近づいたの。」
「そ、そんな…」
麻希はその場に力なく座り込んだ。でも麻希の顔は、親友と思っていた人が、自分に対する嫌がらせの為に憧れの男を奪ったと言う事に対する悲哀ではなく、ただ呆然とした顔だった。やがて麻希は今までの憂鬱が嘘の様に明るく笑う。
「あははははは、なーんだぁ、千里ってば、酷いよ。私の事、ちゃんと分かってなかったんだ。私、別に内藤君の事なんとも思ってないよ。ただ運動が出来て羨ましいなぁ…ってぐらで。私は内藤君なんかよりももっと良い男を見つけちゃってるもんね〜」
「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!そ、それは本当か、園村!!」
いつの間に引き千切ったのか、マークが口だけ出している。恐るべし、愛の力。
「っていうか、さっきの麻希ちゃんのセリフ、何気に酷くなかったっすか?」
「黙っていろ、上杉。死にたくなければ、な…」
鬼畜の南条も死ぬのは怖いらしい。いつになく真剣に表情をする南条を間近に見てブラウンも沈黙するしかなかった。
「ふ、ふん、そんな事はどうでも良いわ。」
どうでもいいらしい。内藤がこの場にいなくて良かったと心底思う南条とブラウンだった。
「そんなことよりも、私の絵と麻希の絵、どっちが上手い!?」
「園村に決まってんだろ!!」
「園村。」
「麻希ちゃんだな、やっぱ。」
マーク、南条、ブラウンが即答した。やはりと言うべきか千里は鏡の力で三人を一部石化させた。
「み、皆!!千里、止めて!!千里の方が上手いってことは分かったから…このままじゃ千里…巨人の桑○みたくなっちゃうよ!!」
「……………………」
一瞬、その場は沈黙した。その場の全員の思いは一つになった。
(ふ、古い……)
入退院を繰り返していただけあって、俗世についてはあまり知識がないのだろうか。
「園村…」
今までほとんど沈黙していた祐貴が漸く口を開いた。突っ込みを入れると思った祐貴の一言はこの場にいる人間の力を一層脱力させた。
「お前、プロ野球好きなのか?」
(違うだろー!!今のは。)
「うーんん。殆ど見てないよ。」
麻希がプロ野球など見るような人間ではないだろうと言う事は分かっているだろうに。足元が石化していなければすぐにでも手にした武器で突っ込みを入れていた。その代わりに南条が怒鳴りつけた。
「ええい、今はそんなこと言ってる場合ではないだろう!!さっさとその女を倒して俺達を元に戻せ!!」
仮にも一番の日本男児を目指すものが言うセリフではない。しかしよっぽど切羽詰っていたのかそれに突っ込むものは誰もいない。
「そんな…千里を倒すなんて…でもこのままじゃ三人共…あれ?」
麻希は途中で黙ってしまった。何を考えているのか推し量る事は出来ない。その代わりに祐貴がまたどうでも良さそうな事を口にした。
「稲葉って、本当に石化しているのか?」
マークはずっとガムテープミイラのままなので外からは確かめられない。そこで祐貴は調べてみると言った。いち早く危険を感じたマークは慌てて逃げようとするが動かない。
「ペルソナ!!」
降魔していたマルドゥークのマハラギオンでマークごとガムテープを焼き払ってしまった。ガムテープは黒い屑と消え、辺りに舞った。
唖然とする中、祐貴は冷静にマークの足元を見つめ、灰色になっている足を確認する。
「あ、石化してる。」
祐貴は呑気に言い放ったが、マークが先ほどのマハラギオンで炭クズになっている事はどうでもいいらしい。物言わぬマークを放り出し、千里に向き直った。
「で、あいつ等元に戻してくれないか?あんなんでも一応戦力なんだ し。」
「速水!それはどういう事だ!?まさかこの俺をサルだの上杉だのと同じだと言うのではあるまいな!??」
「おれ様サルと同列扱いっすか。なんか南条っちとミッキーの暗黒部分を見た気分っすね〜」
次の瞬間、ブラウンの頭に剣が突き刺さっていた。血をだくだくと流して突っ立ったままDyingしているのは見てて奇妙の一言に尽きる。祐貴は義経を守って立ったまま死んだ弁慶を思い出した。ブラウンは別に何かを守ったわけではないが。
「………あんた等、仲間じゃなかったの?」
流石に見ていられなくなったのか千里がぼやく。その時麻希が何か希望でも見つけたようなキラキラした目で千里を見た。
「千里!!南条君を石化させちゃってよ!!それでやっと私と祐貴君だけになるから!!!」
その瞬間、部屋全体に暗い沈黙が走る。そんな重苦しい静寂を破ったのは千里だった。
「…………麻希、あんたって子は…」
千里は麻希のあまりの発言に、それを言うのが精一杯だったが、流石に今度は南条がわめき始めた。
「園村!!!!!貴様、どういうつもりだ!?この一番たる俺をそんな無下に扱おうとは!!」
「何か違う気もするけど…まあいいか。香西、あれはほっといて、とっととシナリオ進めないか?」
珍しく祐貴が真面目な事を言う。この場のノリが飽きただけかも知れないが。宣言通り、騒いでいる麻希と南条はほっといて千里は祐貴に問いをかけた。
「あの馬鹿三人はともかく、あなたは話が分かりそうだわ。あなたにだけチャンスをあげる。私の絵とあの忌々しい麻希の絵、どちらが良いと思う?」
「痴れ者が!!そいつはそんな脅しにかかる奴では無い!!むしろこいつこそが人をあらゆる手で脅しまくる悪魔だ!!貴様などまだ陳腐なものだ。さあ速水、正直に答えてやれ!!」
そこまでの暴言を吐かれても祐貴は涼しい顔をしているが話の途中で邪魔された千里は怒ったようだ。静かに鏡にお願いして南条の石化を進行させた。千里に向かって喚く南条を奇麗に無視して祐貴に決断を迫った。
「お願い、祐貴君!千里の絵を選んであげて。」
泣きそうな顔で麻希は祐貴に訴える。
「他の三人は良いけど…ていうかむしろ石化でも何でもしちゃえって感じだけど、祐貴君が石化するなんてイヤよ!!」
「…………………」
これには流石に祐貴も絶句した。千里も南条も無言で呆れた顔をしている。マークが聞いてなくてよかったとも思ってしまった。唯我独尊な祐貴が。同情の眼差しを転がっている炭クズ(元マーク)に向けた。
「あーもう、早く答えてよ、速水君!!」
とうとう怒声を上げて千里が祐貴に詰め寄った。もう麻希の絵を選んでも怒るだけで終わるのでは?とも思ってしまった。都合の良い解釈だ。ともあれ、素直に答える事にした。
「園村の絵の方が良い。」
予想通り、千里は歯軋りしながら祐貴を睨みつける。そして南条を石化させた。その瞬間、麻希が歓喜の声を上げた事は言うまでも無い。
この一件の後、千里と麻希の友情は回復した(というか千里が麻希に恐れを為したのか)が、南条達はそうはいかなかった。事の次第を知ったブラウンとマークは、南条と共に顔を見合わせながら麻希に恐れを抱いた。それでもマークだけは「園村はあの時傷ついてたんだからしょうがないんだよ!!」などと言っていたが。麻希しか見えていないマークには何を言っても無駄だということは一目瞭然。残る南条とブラウンは麻希の背中に悪魔の羽根が見えた気がした。麻希のペルソナが女神である事を疑った一瞬だった。
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今更ですが、麻希のファンの方々御免なさい
主人公にラブラブな麻希、という話を考えていたのですが、何時の間にか暗黒麻希降臨になってしまい、自分のアホさ加減を呪いました。
ところで麻希と千里の関係って、微妙に舞耶とうららに似てる気がするんです。でもうららはあそこまで酷くなかったと思いますが。
ちなみに私、ペル罰で一番好きなのは(異聞禄キャラ除いて)うららです。でも千里はそんなに好きでも嫌いでもない・・・この差は何だ?![]()
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