仰げば尊し悪魔の言霊



「あーおーげばーとおーとしー」
「リズムと音程が全然合ってないぞ。」
「五月蝿い、南条。」
 今は誰もいない体育館に祐貴と南条は二人いた。
 卒業の日がやってきた。長い日々だった。そしてあのクソムカつくハンニャの顔を見なくて済むと思うと清々する。だがこのままにしておくのも何か悔しい。積年の恨みを今日中に晴らしておきたい。
「あ、いたいた、速水ー!!」
「Yuki、Kei!こんな所に居たんですの?」
 祐貴と南条の元に、アヤセと麻希とエリーが走り寄ってくる。
「冴子先生が、皆で写真撮ろうってー」
「へえ、何処で?」
「中庭だってさー。もう稲葉と上杉は先行っちゃったよ。アヤセ達も早く行かないと入れなくなっちゃうよ。」
「優香ぁ〜そんなに急がなくてもだいじょぶだよ。皆待っててくれるって。」
 一同は、ひれもん石のある中庭に急いだ。今日は、卒業。あの事件をきっかけに信頼し合える仲間達が、それぞれの道を目指して旅立つ日でもある。





「そういえば南条って、イギリスに行くんだって?オックスフォードだっけか。凄いな。」
「速水、お前に言われてもあまりそういう風には感じないぞ。お前とて、その気になればケンブリッジでもMITでもハーバードでも行けただろうに。」  世界でも有名な大学の名がずらずらと出てくる。実際、祐貴の成績はいつも全国模試で上位をキープしていたのだから。しかも本人は適当にやってればいいなどと言っていた。彼が本気になればそれこそ全国一位は楽勝だといわれている。が、祐貴はあまりそういう事に興味がないせいか真面目にはやらない。それでこれだけの成績なのだから世の中を舐め切っている。
 南条、祐貴、エリーの三人で常にエルミンのトップ3を競っていた。が、大抵は南条で、エリーと祐貴が入れ替わっているぐらいだが。南条は当然の様に一番でエルミンを卒業したが、その後オックスフォード大学に入ることとなった。これはかつて神取が辿った軌跡と同じであるが、南条が自分で選んだのか、それとも偶然かは不明。どちらにしろ、南条は暫く日本を離れる。エリーはモデルの仕事をしながら国内の大学に行くが、祐貴は中国の大学に行く為、やはり日本を離れる。
「祐貴君も南条君も凄いよねー、留学しちゃうなんて。」
「別に留学する事が凄いわけじゃないだろ。」
 祐貴は苦笑した。彼が中国に留学することにしたのは、彼自身が中国の古代文明にはまっていたからだ。将来歴史に残る大発見をする事が夢だそうだが、コイツなら出来る、そんな空気があった。ていうかこいつはやる。何が何でもやる。そういう奴だ。
「それよりもMaki、Youは大丈夫ですの?結局浪人してしまったのでしょう?」
「んー大丈夫、私ってば随分休んでたし、これくらい覚悟してたもん。でも、私一人じゃちょっと大変だから、皆協力してくれるかな?」
「Of course。勿論ですわ。」
「ん〜アヤセはちょっと無理だな。」
「誰も綾瀬には期待してないだろ。勉強嫌いで就職を選んだはいいが、ことごとく面接で落とされて、その時だけ髪を黒く染めて必死でしがみ付いて漸く引っかかった奴はさ。」
「な、なによー!!ムカツク、速水!!ツキ無し男が偉そうなクチきかないでよね!!」
 まだ雪の女王編でのことをいうアヤセ。あれからアヤセと祐貴が口喧嘩するときはいつもこの話題が出ていたがいい加減祐貴も慣れてきたらしい。涼しい顔で答える。
「ツキが無くても実力で勝負出来るから問題無いよ。綾瀬みたいにツキだけで乗り切る綱渡りの人生は送らないよ。」
「ぐぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「いい加減にしろ、速水に綾瀬。さっさと中庭に行くぞ。」





 エルミン学園の校長室で、ハンニャは一人感慨に耽っていた。校長先生は中庭で例の問題児クラスと一緒に写真を撮っている。
「やっと、奴等が卒業する…長かった、長かったぞ!!」
 涙を流して彼等が卒業するのを喜んでいる。と言っても可愛い教え子達が卒業するのを嬉しくも寂しい気持ちで見送ると言う感動的な理由ではなく、ただ問題児達がやっと自分の目の前から去ってくれるのを純粋に喜んでいるだけである。
 思えば、奴等が入学した時から胃に穴が開く事ばかりだった。コギャルが援交しているとかで騒ぎになったり、赤髪の男子が街で女性をナンパし続けて迷惑との苦情が入ったり、ガラの悪い生徒の転入とか、嫌味なお坊ちゃまの慇懃無礼な態度を憎たらしく思うも金持ち相手なので下手に手出しできず苦汁を舐めた事とか、サルのような男子が色々な所に訳の分からん落書きをしてまた苦情が入ったり、しかも本人を呼び出しても「あれはグラフィティだ」とか訳の分からない事を言って反省もしない事とか、病弱だった生徒が復学してからはむやみにアーチェリーの道具を持ち出してやたらに周りを攻撃するとか、帰国子女が図書館の不気味な生徒や、『例のピアスの少年』と怪しげな本を読んだりしてて、しばしば理科室に勝手に入って怪しげな実験をしてるとか、そういう連中にロングスカートの生徒が怒鳴りつけてたまに刃物を投げて通りすがりの人間(主にハンニャ)に当たったり…しかしなにより一番の問題児はやはり片耳ピアスの生徒だ。事有るごとにいちいち問題ばかり起こして、しかも本人には全く反省の色が見えない。どうやってやってるのか、人のプライバシーを握って人を脅しているとか、たびたび無意味にそれを公開するとか、何処かの機関に学校の端末からハッキングをしたとか、リーサルウェポン的なロボットを作って人々に嫌がらせをしてるとか、誰かに無理やり水酸化ナトリウムを飲ませて病院送りにしたとか、人の歩く所に油を敷いたり頭上に椅子を仕掛けて狙った人間の頭に命中する様にしたとか、教師の机にアクリル絵の具で落書きしたとか、卑猥な合成写真を作って笑い者にするとか、とにかくろくな事をしない生徒だった。それでも成績は人並み以上どころか下手すれば全国トップクラスに入るとも言われる程の優秀な生徒だった。だからハンニャもあまりきつい事は言えなかった。その代わりに地味な嫌がらせでちまちまと仕返しまがいの事をしていた。それがまた彼の反撃を呼ぶ事には気付かずに。





 そしてそのピアスの生徒はやはりハンニャに最後(?)の嫌がらせをしようとしていた。半ば相棒と化している玲司と共に、ハンニャの頭に辛子でも塗りつけようとしたが、当日までに準備できなかった。と言うよりただ買い忘れただけなのだが。アクリル絵の具はもう前に使ったから却下として、他に何かないかと玲司と一緒に思案している最中だった。
 その祐貴と玲司に駆け寄る人物がいた。
「祐貴君―――!城戸君も、これに何か書いてー!」
 麻希が二人に駆け寄ってサイン帳とペンを差し出した。
「…女ってこう言うの好きだよな。別にもう会えない訳でもないんだし…」
「でも祐貴君には暫く会えないんでしょ?城戸君は…また会えるだろうけど、城戸君にはぜんっぜん似合わないセールスなんでしょう?もしかしたら売上が無くてすぐにクビになって最悪の場合世をはかなんで自殺しちゃうかも知れないじゃない。だからもしかしたらこれが城戸君の遺書になるかもよ。」
「……………」
 祐貴も玲司も二の句が告げられない。普通そう言う事を卒業の日に言うか?縁起でもない。
 ともあれ、これ以上放っておくと何を言い出すか分からないので急いでサイン帳に適当に書いた。紙にペンを走らせてふと祐貴はある事を思いついた。
「……園村、ハンニャ何処にいるか知ってるか?」
 なんでいきなりハンニャ?という顔をしたがすぐに麻希は答えた。
「校長室にいると思うけど…それがどうかしたの、祐貴君?」
 祐貴は麻希の質問には答えず、ただニヤリと笑った。麻希はそれ以上追及せず、二人からサイン帳を受け取るとにっこり笑った。
「あ、南条君がそろそろ行くみたいだから送り出さない?」
「俺はちょっと用が有るから後で行くよ。校門だろ?」
 麻希は祐貴の答えを確認すると玲司の方を向いた。
「俺はいい…送り出すってガラでもねぇしな…」
「そう?まぁまた会えるだろうし、いっか。」
 先に行くよー、と祐貴に告げて校門に向かう麻希の顔は、心なしか少し淋しげだった。学園生活が普通の人より少なかった麻希は卒業直前も「まだ皆と一緒にいたいなぁ…」と言っていた。そう言う事だろう。だがいつまでも一緒にはいられない。そういうものだ。





 校長室、ハンニャはソファで優雅に昼寝していた。今日と言う日を満喫しているのだろう。だが安息の日々はそう簡単には訪れない。祐貴は職員室から勝手に持ち出した油性ペンでハンニャのハゲ頭に何やら色々書きなぐってからすぐに逃げた。去り際に祐貴は小さく呟いた。
「積年の恨みってとこかな。じゃあな、ハンニャ。」
 祐貴はそのまま走って校門に向かった。その様子を玲司はやや呆れた様子で見ていたが、そのままその場を去った。





 ハンニャは目が覚めるとすぐに鏡を見た。悪夢でも見たのか、汗だくになっていた。そして、自分のハゲ頭(と言うか額)に書かれている文字を見て、また胃に穴が開く気がした。
 そこにはこう書いてあった。


 毛生え薬、効き目有るかい?ハゲると大変だね〜アデランスにもお世話様だな。


 ハンニャの脳裏に、嫌味な笑みを浮かべているピアスの少年の姿が浮かんだ。頭の後ろに、「馬鹿」とでっかく書きなぐってある事にはまだハンニャは気付いていない。

凄く久々のペルソナ(笑) 卒業式ネタなんてペルソナでしか出来ないですよねv
学園ものはネタの宝庫です(その割に殆ど書いてないな)
今回ピアスの少年がやらかした事は結構地味ですが、奴は卒業式だから大人しくしておいてやろうと思いあれだけで終わったようです。
奴にも人としての心はまだ存在していたのです(笑)


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