歓迎の儀式



 今日は入学式。新入生が、期待と不安を胸に、校門をくぐる日である。在校生である彼らが何故ここにいるかと言うと、エルミンの入学式は全校生徒強制参加だからである。部活動で勧誘する目的でもなければ、かなりどうでもいい行事である。
 そして、問題児クラスのまま3年に無事上がってきた3−4の面々は、見事に目的無しで暇そうにしているのである。
「あー懐かしいなぁ。新入生を見てるとさ、何かこう、昔の自分を思い出すんだよな。」
「昔・・・そんなに昔でもないはずなんだがな。全く、時というものは振り返ると早く感じるものなのだな。」
 窓際で新入生を眺めながら老人臭い事を吐くのはクラスの優秀な問題児、祐貴と南条である。
 そこから微妙に離れたところに、マークやブラウンと言った御馴染みの面々が彼らを見てこそこそ話をする。
「つっても、あいつらは当時から可愛げなんか無かったよな。」
「そうそう、入学式でいきなりミッキーが自作のロボット爆発させてさ、それでまーくん最初の犠牲者だったっしょ?」
 でひゃひゃと楽しそうに笑うブラウンを、マークは忌々しげに睨み付ける。
「嫌な事思い出させんじゃねぇ。しかしあの時は、俺以外にも随分巻き込まれてたよな?」
「うん。私もあの事は良く覚えてるよ。まさか入学式で爆発なんて、普通考えられないもんね。何人かいきなり保健室に担ぎこまれてさ。」
 麻希も楽しそうにあの日を語る。という彼女は、確か入学式の途中で倒れて保健室に行ったのだが。
「あの時私倒れちゃって、爆発受けた人と一緒になったんだよ。今思い出すと確かあの中に稲葉君も居たっけ・・・」
「まだ知らない頃でしたら、分からなくても無理はありませんわ。」
 エリーまで加わって更に盛り上がる。
「ん〜でも、何だか印象的な人が居たのは覚えてるんだけどなー。誰だっけ?」
 思い出そうと麻希が眉間に皺を寄せていると、南条の声が再び聞こえてきた。
「そういえば、入学式の時、いきなり爆発を起こした馬鹿者がいたな。名前は流石に忘れてしまったが。」
 それを聞くと麻希が首を傾げる。
「あれ?南条君もうボケが始まった?爆発の後祐貴君、あんなに大声で教頭先生に怒られてたのに。」
「Maki、その時victimは既にschool infirmaryに収容されてしまっていますわ。」
 エリーの言葉に、麻希は納得するが、今度は今度はブラウンが英和辞典片手に疑問を口にした。
「へ?え〜と、被害者・・・?あの時南条っちも爆発食らってたっけ?」
「Yes。私、近くで見ておりました。確かにあのNo.1 mufflerはKeiのものですわ。」
「そりゃ・・・南条しかいねぇな。」
 マークが同意し、そして麻希も思い出した、と手を打つ。
「そうだ、あの時南条君も保健室に居たんだ。随分文句をぶつぶつ言ってて、やけに印象的だったんだ。」
 そんな彼らの会話も耳に届いていないのか、目の前の祐貴と南条の会話は続く。
「爆発・・・そういえば、俺も当時爆発に巻き込まれたんだ。今思い出しても腹が立つ。くそ、犯人を見つけたら延々説教してやる!」
「説教って・・・南条君って老成しすぎてるよ。」
 酷い言い草の麻希だが、その後ろでもっと酷い事を言っている奴がいる。
「つか、犯人目の前じゃね?アレって間違いなくミッキーの仕業っしょ。南条っちもいい加減気づかないかねぇ?やっぱボケが進んで天寿を全うする直前かもな。」
 こっそり大笑いするブラウンに相槌を打つ者は無く、ただ黙って成り行きを見守っていた。
 すると、祐貴自らが南条にきっぱり告白する。
「ああ、それやったの俺。」
 南条は眉を顰めて祐貴を見つめる。何というか、呆れてものが言えないという感じ。
「いやさ、クラスに入ったら自己紹介とか大抵するだろ?それで俺が作ったロボット持ってきたんだけどさ、何だか調子がおかしくて入学式の間に調整してたら、爆発しちゃってさ。」
 南条は石化した。
 聞いている人達は時が止まった。
「あれ一応自信作だったんだけどな。まあ天才にも失敗の一つ二つはあるものだよな。」
 勝手に自己完結して頷く祐貴に、南条は当然のように切れる。
「速水――――――!!!貴様、入学式くらい大人しくしろ!!!何が天才だたわけが!!そもそも学校に不必要なものを持ってくるな!!!」
 そういう問題なのか・・・?と呆れる背景をよそに、二人の応酬は続く。
「不必要なんかじゃないぞ。ちゃんと自己紹介に使うつもりだったんだ。多分その頃もう居眠りしてると思ってたから、代わりに自己紹介してくれるロボット。」
「居眠りなど言語道断だ!!!貴様は学校を何だと思ってる!?」
「暇潰しの場所。でも南条や他の連中みたいな面白いのが居てくれたから、結構楽しんでるけどね。」
「・・・っ!!」
 何だか、感動すべきか呆れるべきか突っ込むべきか判断の難しい事を言ってくれる。南条も怒鳴りかけた口が塞がらずにいる。ちなみに麻希とエリーは・・・
「祐貴君、私たちの事仲間だって思っててくれるんだね。嬉しいな。」
「流石Yukiですわ。結局は仲間思いですのね。」
 勝手に感動している。もう勝手にしてくれ。
 硬直状態のままの南条を放ったらかしにして、祐貴は席を立った。そして無言で教室を出て行こうとする。
「ちょっと待て速水!」
 それに気づいたマークが素早く祐貴を呼び止める。と、祐貴は顔を顰めながらも一応立ち止まる。
「何だよ稲葉。戦闘中からは考えられないくらいに素早い動きで。お前がそんな風になるのは園村絡みの時だけだと思ってたよ。」
「それはどうでもいいんだよ!それよりお前、何処に行こうとしてるんだ?」
 これまでの会話からは特に問題となる発言は無かった。だが、セベク・スキャンダルで培われた第六感が、祐貴を野放しにしてはならないと告げている。
 祐貴はしれっと答える。
「勿論、入学式に備えて体育館へ仕込みに。」
「何を。」
「言ったら楽しくないじゃないか。」
「そういう問題じゃねえ!!!!」
「ドルミナー。」
 眠って倒れてしまったマークを祐貴は彼の席へ放り投げた。意外と腕力のある男である。
 そして今度は振り向きもせず去っていった。誰も止めなかった。止められないと分かっていたから。
 誰もが祐貴の方に注目していて気づかなかったが、後ろのドアからも玲司が無言で出て行った。



 祐貴と玲司が戻ってきたのは、入学式が始まる直前だった。どうやら二人一緒だったらしく、同じ方向から現れた。
「間に合った〜。思ったより時間掛かったな。」
「あれ、祐貴君と城戸君?一緒だったんだ。」
「・・・まぁな・・・」
 麻希は一旦は首を傾げるものの、この二人が一緒に居るのはいつもの事なので、それ以上は特に気にしないことにした。
 そして、体育館へ入る。中は既に椅子が並べられてあり、新入生を待つばかりである。3−4の皆は、その体育館内をきょろきょろ見回していた。祐貴(と玲司)の行動が気になっていたのだ。ぱっと見、特に何も無いとわかって一安心する。が、これで完全に安心するのは早すぎる、甘すぎる。
 新入生が体育館に入り、ハンニャの声がマイクを通して聞こえる。耳障りだと思った人の数=生徒+一部の教師数である。
「では、これより入学式をぐほっ!!???」
 突然マイクから響くハンニャの悲鳴と打撃音。そして続いてマイクから聞こえたのは、在校生には御馴染みの問題児の声。
「あー、進行役のハンニャが脳梗塞により急死したので、代わりに3−4の速水が司会を務めさせていただきます。」
「人を勝手に殺すぐぎぇえぇっ!!!」
 さっさと起き上がったハンニャに再び悲鳴。今度は首でも絞められたのだろうか。
「・・・今のは幻聴だ。」
 玲司の声。どうやら彼が何かしているらしい。恐らくハンニャの首を絞めているところか。
 そして性懲りも無く出てきたアクシデントに殆どの人がどよめき、その騒ぎに慣れ切っている3−4の面々は不気味なほど静かだった。
 祐貴と玲司は列の一番後ろに居たはずだが、いつの間にか姿を消している。そして彼らのいた位置には、ぽっかりと穴が開いていた。底は真っ黒で見えない。ここから床下を通ってあそこまでいったようだ。こんな事をしていたのかあの二人は。
「えー、では入学式を始めます。まずは校長先生の挨拶から。」
 妙な登場した割にはマトモに司会をしている。その様子に在校生一同はもう落ち着き払っていた。実のところハンニャが司会を行う式では、いつも最初に「司会から一言」と、長い長い説教を続けるので、生徒たちも教師でさえもハンニャには辟易していたのだ。そして「自由」をモットーとする校長先生は、何事も無かったかのようにステージに上がる。少しは気にしろよ。



 新入生や保護者の困惑をよそに、思ってたよりはまともに進む入学式。それにほぼ全員が安心しかけた頃、また祐貴が行動に出た。
「続いて、在校生から・・・ですが、本来その役割を持つはずだった生徒会長が心臓破裂で死亡したので代わりにこの速水が行います。」
 その時ステージの横に来ていたグータラ生徒会長は玲司のボディブローで気絶していた。
 ステージに上がった祐貴はマイク右手に語り始める。
「えーと、まずは尊い犠牲となり、見事天国にも拒否されさ迷う幽霊となったであろうハンニャとダメ生徒会長に黙祷。」
 一部その肩書きに忍び笑いしながら、全員ノリ良く黙祷する。が、ここでまた祐貴の一言。
「生前常に生徒を押さえつける事が真の教育だと信じ生徒への恐怖政治を行っていたクソ教頭、そしてグータラだが外面だけはいい為難なく生徒会長選を乗り切ったダメ人間。この二人は卒業式や終業式などの式があるたびに自慢が多分に混じり自分を称えた下らない長話でか弱い生徒たちを肉体的にも精神的にも苦しめました。よって神の裁きを受けたのです。アーメン。」
 神の裁きが下されるなら、まずはハンニャや生徒会長よりも祐貴にだろう、とは誰もが思ったが口には出来なかった。エルミンでは彼が神である。保護者は保護者で、演出だと思っているらしく騒ぎ立てもしない。
「というわけで、彼らの冥福を祝って、万歳三唱!!!!」
 高らかに宣言する祐貴の声と同時に、バンザーイと口を揃えて手を上げる人々。ノリが良いなぁ。
「って、そうじゃねえだろーがっ!!!!」
 おお、遂に我に返った者が居た。その名もサル。もといまーくん。通称稲葉正男。
「っだ―――!!サル言うな―――――!!!」
 ナレーションに突っ込むな。そんな事すると・・・
「・・・稲葉、お前・・・頭大丈夫か?」
 白い目で心配されてしまうぞ。しかも非常識代表の彼に。
「テメェが言うか、速水!!!」
 しかし祐貴はマークの絶叫も無視する。
「あー、彼はちょっと精神に異常をきたしているのであまり触れないようお願いします。」
「動物園の見世物じゃねー!!!!」
 尚も騒ぐが、周りのクラスメート達はマークから離れていってしまった。酷い扱いである。
「・・・城戸、頼む。」
 低く祐貴は呟く。そしてマークは数秒後、「GO!」の掛け声と同時に黄泉の世界へと旅立っていった。
「デスティカだな。全く、あのサルは・・・少しは世渡りと言うものを知るべきだな。」
 他人事のように南条が小声で呟く。それを聞いていたアヤセが笑いながらこっそり南条に耳打ちする。
「それって、あいつらに逆らうなって事でしょ〜?誰だって知ってるよ、そんなの。」
 この時南条の頭に怒りマークが浮かんでいたのは間違いない。
「さて、余興はこれくらいにして、在校生から一言。生徒会長の代わりに俺がやります。」
 コホン、と一つ咳払いし、マイクに向かって言い放つ。
「この学園は機械と奇怪と危険の3Kに満ち満ちているので、どうか命を落とさぬよう、お気をつけ下さい。」
 3Kの意味を見事にすり替え、本当に一言で済ませ退場する祐貴に、一応長話を覚悟していた新入生からは拍手喝采だった。
「うん、やっぱり短く纏めるのがいいよな。でも短すぎるのも何なので、ここで一発、俺の歌を」
「止めろ。」
 マイク片手に歌おうとする祐貴を、玲司が頭にチョップ一発決める。
 しかし本当はあれだけでもう新入生は気づいていた。この学園に在籍していて生き残りたければ、目の前のピアスの先輩に逆らうな、と。雰囲気だけで嫌でも分かってしまう、その恐怖。恐怖政治を行っているのは誰なのか。しかも3Kとやらを発生させているのはその祐貴である。彼が危険を生み出す元凶なのである。
 そして最後。新入生の退場、と言う時に祐貴はまた立ち上がった。今度は何かと、もう楽しむ様子で見やる新入生は、祐貴の行動をずっと追った。そしてすぐに期待を打ち消した。
 祐貴は体育館の端から直径1mくらいの大きな丸い玉を転がしてきた。しかも、形状はレトロな爆弾。ちょこんと出ている縄が発火装置で間違いないだろう。そういうものだった。
「最後に大爆発で締め、というわけで。やっぱ基本だしな。」
「・・・運が良けりゃ、無事に帰れる。」
 全く慰めにもならない玲司の言葉の終わりと同時に、どよめき慌てて生徒たちが逃げる間もなく祐貴は発火装置に(ペルソナで)火をつけた。



「・・・つまり、新入生たちが驚く顔が見たかっただけだ、と。そう言うんだな?」
「まあな。他に理由なんてないし。一応、自分達の入学式の再現をしたかった、てのもあるかな。あの時は不可抗力だったし、今度はちゃんと事前に用意してね。」
 黒焦げになりつつもペルソナのお陰で無事だった南条は怒りも隠さず祐貴と玲司に詰め寄った。
「城戸、貴様もグルとはな・・・。何故こんな馬鹿の愚行に手を貸した?」
「面白そうな事に手を貸すのは当然じゃねぇか。」
 平然と言い切る玲司に、南条は呆れてものも言えなかった。
「でもYuki、私たちがとっさにペルソナで生徒たちを庇わなければ、今頃第三次になってたわよ。流石にあれはやりすぎだったんじゃない?」
 少し窘めるようにエリーが祐貴に進言する。が、祐貴はさらっと笑顔で言ってのける。
「大丈夫だって確信はあったよ。やばくなったら桐島達が守ってくれるって思ってたから。」
 つまり自分では助ける気は無かったと言う事か?しかも自分の力だけで安全を確保していたわけでもなかったようだ。よく考えなくてもとんでもない話だが・・・
「Yukiが信じてくれるなら、いつだって最高の力を発揮して見せるわ!!!」
「私も、私も―――!!!!」
 エリーに張り合うように麻希も割り込む。
 何を言っても無駄だとため息を吐きながら、結局怪我人3人と体育館半壊の被害だけで済んだので別にいいかと思う南条であった。そう考える時点で南条自身もかなりおかしい事に、本人は気づいていなかった。
 被害届も出ず、保護者たちも「斬新だった」と一言で済ませる辺り、御影町の住人はセベク・スキャンダルを経て色々と変な方向に逞しくなってしまったようである。



 怪我人3人であるマーク、ハンニャ、生徒会長は暫く保健室のベッドで並んで横になり、事の理不尽さを徹底的に噛み締めていた。

卒業式をやったんだから入学式も!というわけでまたしても変な話。
タイトル見れば分かりますが、一応こんなのでもお祝いのつもり+自分祝い。
あーペルソナは書きやすいなぁ(笑)
・・・ならもっと更新しろ?ご尤もです。
個人的には玲司好きなんですが、エリー入れたいが為に大抵外してしまってます。ああ、せめて雪の女王編のように選択が2人だったら・・・エリーと玲司入れてたのに。
祐貴と玲司がよくつるんで悪さしているのは、その悔しさから生み出されたものかも・・・


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