悪魔は集う


 周防達哉は不機嫌だった。せっかく事件も解決したと言うのに苛立っているのは彼が受験生だからではない。いや、もちろんそれもあるのだが、あの一件で知り合った先代のペルソナ使いであるエリーや麻希、ブラウンにゆきの達の残りの仲間を紹介されてからだ。後二人はいずれまたということだが、そんな事は達哉にとってはどうでもよかった。
「よう、何ふてくされた顔してんだ?」
 イライラの原因が達哉に話し掛けてきた。達哉よりも幾分か背が低く、やたらと細身なその男を達哉は睨みつけた。
「いちいち睨むなよ。それともお前、目が悪かったりする?」
 クスッ…と笑いながら達哉をみた。何もかも見透かしたようなこの男が達哉は大嫌いだった。しかもそれでいて妙に達哉の良く知るあいつに似ているので、ますます苛立ちが募る。
「…何しに来たんだよ。大学生ってのはよっぽど暇なのか?」
「今は休暇中だからな。でなきゃそもそも日本にはいないって。」
 この目の前の男―速水祐貴―は今中国の大学に留学していて、普段は会う事は無い(筈)。しかしさっき本人も言ったように今は休暇(本人曰く)なので日本にいる。その所為で達哉はこの不快な人間と知り合う事になってしまったのだ。達哉からしてみればいわば天敵が増えたと言う感じだ。こんな奴が昔あの先輩方のリーダーとして戦ったなどと納得がいかない反面、どこかで納得してしまったのが限りなく悔しい。何処かに敗北感を味わったような気がして。
 しかし、達哉が祐貴に対してそう感じる理由ははっきりと判っている。それこそ本人にしてみれば言いがかりなのだが、そんなこと達哉には通用しない。かく言う祐貴もそんな達哉をからかって楽しんでいるようなので何とも言えないが。
「そういえばさっき淳君にも会ったな。あそこみたいなだらしない学校で進学ってのは大変みたいだね。進学校のセブンスが羨ましいってぼやいてたよ。」
「……用件はそれだけか?ならさっさとどっか行けよ。」
 達哉はいつのまにかアポロを出していた。今すぐにでもノヴァサイザーを噛ましかねない雰囲気で。
 周りの人々は皆達哉の様子に怯え、避けていた。最も、祐貴は平然としていたが。それどころか挑発的な笑みを浮かべてさえいた。
「俺に喧嘩売る気?別に良いけど俺のペルソナの方が強いからおまえが先に倒れると思うよ?回復魔法持ってないから手当てもしてやらないし。」
 そう言って祐貴はペルソナを出した。"皇帝"のヴィシュヌ。達哉のアポロじゃ到底勝ち目の無いペルソナ。かといって肉弾戦でも勝てない。以前突っかかって行ってぼろくそにやられた。同じ剣攻撃なのにこの差はなんだ、と毒づいたがどうあがいても負け犬の遠吠え。それ以来達哉にとって最大の敵となった。
 そうしていきなり祐貴はペルソナをしまって思い出したように告げた。
「そうそう、伝言があったんだ。来週から高校休みだろ?それで天野さんが雪山にでも行こうって言っててさ、それで園村や桐島も賛成しちゃってさ、そうなったらしい。お前、行く?」
「………あんたも行くのか?」
「まあね。お前もさっき言ったけど、本気で暇なんだよな。課題とかもう全部やったし。」
「なら俺は行かない。」
「お前ほんッとに俺のこと嫌いなんだな。なんで?」
 達哉は言葉に詰まった。理由ははっきりしているがそれを言うとまたからかわれそうだから言うに言えない。
「…淳君、とか?」
「!!!!!!!!!!!!」
「あ、すっごい顔。まるでゆでだこだな。髪型からしてタコだし。」
「やかましいっ!!ていうかお前は淳に近づくな!!性悪が移ったらどうする!?」
「彼も大概だと思うけどな。にしてもその過保護っぷり、いい加減にしないと嫌われるぞ?」
「だぁ―――――!!!!うるさい!!!!とにかく、俺は行かん!」
 すると祐貴は含み笑いをしながらこう言った。
「…淳君も来るって、言ってたけど?」
 淳。その単語を聞いて達哉は固まった。
「…行く。」
 ようやくそれだけの言葉を搾り出してそのまま達哉は逃げるように走り去った。相変わらず敗北感だけが残った。
「あ、詳しい事はいずれ連絡するってさー」
 祐貴の叫び声も達哉の耳には入ってなかった。



 確かに第一印象が格段に悪かったのは間違い無い。しかも一週間前に会った時、達哉以外に舞耶達もいたが、祐貴はやたらと淳と親しく話していたのだ。本人曰く「気が合うから。」だが、淳しか見えていない達哉に何を言っても無駄である。つまるところ、祐貴が淳と仲良くしてるのが気に入らないのである。しかもとどめとなった事実もまた達哉の見苦しい嫉妬心を助長させた。
 紹介されて皆が会った時の事を思い出す。
「ところで速水さんって星座は何ですか?」
「…へ?」
 淳は星占いが好きで、知り合った人には大抵聞いている。
「え〜と…そういうの、気にした事無いからなぁ…誕生日は確か、2月15日だったけど…」
(…なぬ?)
 ここで達哉の目の色が変わった。
「え、そうなんですか?じゃあ僕と同じ水瓶座だ!」
(やっぱり…で、でも同じってだけだ。あんな奴と淳が似てるなんて事・・・)
 占いなどハナッから信じていなかったくせに、何故かこの時だけは異様に気になった。
「へぇ〜…ってことはもしかして俺等って結構気が合ったりしてな。」
「そうですね。なんだか嬉しいなぁ、同じ星座の人がいるって。」
 ぴしぃぃっ…
(嬉しがるなっ!奴は確実に極悪だぞ!!俺の勘がそう告げている!!!)
「そうだなぁ…そう言えばさっきから随分会話が合ったりしてな。」
「性格はかなり違ってるのにねぇ。祐貴君ってなんだか淳君とはあまり合いそうじゃないと思ってたのにな〜意外ね〜」
「園村って、俺をどういう目で見てたわけ?」
 ぴしぴしぃっっっ!!
「占星術では同じ星座の人は似たような性格とされてますわ。確かAquariusはintellectualでhumanistな性格な筈ですわ。ただ、少しmysteriousな所もありますけど。」
 でもそれが良い所でもある、とエリーは付け加えた。
「アイヤー…ならやっぱり速水さんと淳って似てるんだね。」
 リサの一言で達哉はもはや切れる寸前。
(あんな素直で優しい淳と似ているなんて、無礼にも程がある!!)
 これは達哉の多大な贔屓目がある筈だ。
「もしかしたら血液型も一緒だったりして〜」
「ま、舞耶姉さん…いくらなんでもそこまで…」
「俺、AB型。」
「unbeliebable!!それではJunとYukiは同じ血液型ですのね。」
「凄い偶然ですね。驚いたなぁ。なんか妙に嬉しいなぁ。」
 ぶちいぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ!!!!!!
「ノヴァサイザー!!!!!!!(×5)」
 達哉のかましたノヴァサイザーによって辺り一面ぼろぼろになった。他の何人かは突然の事に防御しきれず少々ダメージを食らってしまったようだが、そんな状況の中無傷なのが達哉以外に二人いた。一人は当然淳である。いくら切れててもやはり淳にだけは被害が及ばないようにしていた。もう一人は…達哉が狙いを定めていたはずの祐貴であった。まともに食らっててもおかしくないはずなのに当たった形跡すらない。よけたとしか思えない。が…
「な、なんであの至近距離で避けれるんだよ!!??」
 思わぬアクシデントに達哉は声を張り上げた。返ってきたのは身も蓋も無い答えだった。
「昔取った杵柄ってとこかな?南条に説教されてAGI上げまくったしな。それにお前のペルソナ、レベルあんまり高くないだろ?」
 達哉が降魔してるのはアポロ。その気になればいくらでも強いペルソナはいる。しかしだからと言ってアポロが弱いわけではない。ランク8まで鍛えたので結構強いはずだ。が…
「…あんた一体、なに憑けてるんだ?」
「ヴィシュヌ。EMPERORじゃ一番強いヤツだと思ったけど。」
「…………」
 ぐうの音も出なかった。ヴィシュヌは以前達哉が降魔しようとしたがレベルが足りなくて召喚すら出来なかったという曰く付きのペルソナである。
「…なら、これでどうだ!!」
 達哉はいきなり何処から出したのか剣で祐貴を攻撃しようとした。
 が…達哉の剣はあっさり祐貴の剣(これもまた何処から出したのやら…)に弾かれ、あえなく返り討ちに遭った。
 しかもその後、淳には乱暴者呼ばわりされ、華麗にとどめを刺されたのであった。見苦しい嫉妬心と独占欲が招いた、まさに自業自得だったのだが、何せ淳が舞耶と仲良く話しているだけで苛立つ達哉である。よって、それ以来達哉は祐貴を目の敵にするようになったのである。元々最初の出会いが最悪だった事もあるし。
 一方、祐貴は何故自分がこうまで達哉に嫌われているのか皆目見当つかなかった。まあ達哉の一方的な言いがかりと言っても良いのだから当然だが。が、舞耶に事の次第を聞いてから祐貴が面白がって達哉を挑発するような言動ばかりしているので二人の仲は最悪である。



「っっっっっちっっくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「うるさいぞ、達哉。」
 達哉のもう一人の天敵、克哉に殴られ、失神しそうになったが、とりあえずこらえた。
「さっきから随分機嫌が悪いようだが、何かあったのか?」
 言ってもしょうがないのは分かっているが、克哉は元来世話焼きな性分なのでつい聞いてしまう。それがまた達哉の怒りをあおると判っているのだが。しかし今日は珍しく達哉は答えた。
「…限りなくムカツク奴に会った。」
 いつもは無視して自分の部屋に行ってしまう達哉が珍しいな、と思った。よほど悔しかったのだろうか。
 しかしこの弟はとにかく人に恨まれやすいため、嫌がらせなど日常茶飯事な筈だとは思ったが、恨みと同時に恐れられてもいる。嘆かわしい事だが、唯我独尊なのだ。
 だから、こんな達哉を見るのは初めてといっても良い。ぜひその人物に会ってみたいと思うが、わざわざ達哉から聞く気にもならなかった。
「…来週の旅行には、来るのだろうか?」
 克哉はぼそっと言ったのだが、達哉にはしっかり聞こえていた。
「……は?今、何て言った?」
「ああ、お前の友人の天野君に誘われてな。どうせお前も行くんだろ?なら保護者も必要と思ってな。」
 克哉はにやりと笑った。間違い無く嫌味のつもりだろうが、達哉にはいつも以上に効果があった。
(天敵が二人、だと〜〜〜〜!?)
 達哉の中で、またしてもストレスが溜まっていくのを感じた。
「って、なんであんたまで行くんだよ!?仕事はどうした、仕事は!?サボってんじゃねぇぞ、公務員!!」
「丁度その日は休みでな。全く、運が良かったよ。大体お前は昔から暴れてばかりで危険そのものだったからな。お前の暴力の犠牲になる人間が居ては困る。」
(そこまで言うか。てめぇ…ん?)
 兄の言葉に不可解なものを感じて、達哉は疑問を吐いた。
「…ちょっと待て。少なくとも高校に入ってからは問題を起こした事は無いぞ。なのに何でそんな心配をするんだ?そんなに俺が信用無いのか?」
 克哉はあっさり答えた。
「天野君に聞いたんだ。最近知り合った人と随分喧嘩しているそうだな。ただでさえ血の気の多いお前を、それ以上放置しておくと問題を起こしそうだ。その見張りも兼ねて、と天野君に頼まれたのだ。」
(ま、舞耶姉ぇ〜〜〜〜〜〜!!!!余計な事を・・・・・!!!!!!!)
 その時達哉には克哉の嫌味も耳に入れず、次の日速攻で舞耶にノヴァサイザーを食らわせようと決意した。



「舞耶姉ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
 次の日達哉は本当に速攻で舞耶の部屋のあるルナパレス港南に殴り込みを掛けた。舞耶の姿を見かけたらすぐにノヴァサイザーをブチかませる様に。勢い良く部屋の戸を開けると、そこには相変わらずの人外魔境な中にくつろぐ舞耶の姿があった。
「ここで会ったが100年目!舞耶姉、覚悟―――――――おおおぉぉぉぉおおお!!!???」
 舞耶の傍にいたここにいるはずの無い人物に気が付き、向かってきたそのままの勢いで達哉は部屋の床に突っ込んだ。物凄い衝撃音の後に、床に深くめり込んでいる達哉があった。
「だいじょーぶ?達哉クン。」
 全然心配していなさそうに舞耶が達哉に声を掛けた。達哉は暫く頭を床にめり込ませたまま、ピクピクしていた。さすがにやばいと思ったのか、舞耶は達哉にディアラハンをかけた。
 そうしてようやく復活した達哉だったが、その口が真っ先に出したのは舞耶に対する苦情でも感謝でもなく、罵声だった。
「な、なんで淳がここにいるんだよ!?」
 自分の名前を呼ばれて、その本人が舞耶の背後から顔を出した。
「…達哉こそ、なんでいきなりこんな所で派手に転んでるの?」
 言うべき事はそれだけか…と思わず言ってやりたかったが、今の達哉の疑問は淳が何故ここにいるのか、という事である。達哉は起きあがって舞耶に視線で訴えた。すると舞耶は事も無げに言った。
「やーねぇ、達哉クン。そんなに心配しなくてもいいのに。ほら、来週皆で雪山に行くって言ったでしょ?その間、ここ留守になっちゃうじゃない。だからいっそ、今のうちに片付けて置こうと思ってね。でもさすがに二人じゃなかなか大変だから、淳クンにも手伝ってもらおうと思ってね。淳クンって、ほんっと手際良くって助かるわ〜」
 やけに説明口調だなと少しだけ訝しく思ったものの、達哉はもう敢えて気にしない事に決めた。舞耶相手に本気で会話しようとするならその程度の違和感は異次元にでも投げ捨てなければならない。
「…留守?うららさんは…」
「勿論アタシも一緒だけど…不満?」
 別の部屋からうららが突発的に出てきて達哉は少し驚いたが、すぐにうららの言葉を否定する。別に大勢で行く事は良い事だ。何より、人数が多い方が淳は喜ぶ。親友でもあり弟のように大切に思っている淳が喜んでくれた方が達哉も嬉しい。
「しっかし、淳君ってホントに良い子ねぇ〜アタシもこんな弟がいたらなぁ〜」
「ダメようらら。淳クンの事そんなに誉めたら、嫉妬に燃えるお兄さん的な若き獅子が襲いかかってくるわよ〜」
「??????何それ。」
(いくら何でもその程度で暴れるか。大体その若き獅子って何だよ。シバルバーでそんな事ラスト・バタリオンに言われた気がするが、まさか舞耶姉、あのフレーズ気に入ったのか?)
 舞耶とうららの会話と淳の存在に、達哉は自分が何の為にここに来たのかすっかり忘れてしまった。



 達哉が帰った後、舞耶は途端にカラカラ笑い出した。
「アハハハー、面白ーい。達哉クンってば、本当にすっかり忘れてるぅ〜単純ねー♪」
 舞耶の様子を理解できてないうららと淳は互いに顔を見合わせた。
「ね、ねぇマーヤ、一体なんの事なのよ?」
「ふっふっふ〜ヒ・ミ・ツ霎」
 相変わらず自分たちには話す気が無い様で、淳は訳が分からないといった顔で再び部屋の片づけをし始めた。一方、うららは先程の達哉の様子と、淳を結構前からここに呼んでいた舞耶の行動と、更に以前舞耶から聞いた達哉と淳の事を思い出し、なんとなく状況がわかってしまった。
 肩をすくめてうららが自分の部屋に戻り、舞耶の部屋に淳と舞耶が残った時、舞耶の携帯から着信音が響いた。
「はい、天野です…あ、速水君!?」
 それに少しだけ淳は反応したが、すぐに黙々と掃除を再開した。
『やあ、天野さん。どう?あのメット少年、来た?』
「うんうん、今日ね、ものすっごい勢いで突進してね、床に大穴作っちゃった♪」
『あらら…まぁそのくらいなら南条に言っとけば大丈夫だろ。それより、大丈夫だったんだろ?』
「もっちろん!やっぱ達哉クン、前に淳クンに乱暴者って言われた事気にしてたのね〜さすがに淳クンの前では暴走しないわね。」
『そうだな。でもあいつ、意外としつこそうだから、気をつけろよ。…しっかし、あいつってホント期待裏切らないな。素でコメディアン出来そうだな。』
 携帯を通して二人は笑い続けた。自分の最大の天敵・祐貴と苦手なお姉ちゃん・舞耶が手を組んでいるとは露ほども知らず、ただ帰路につく達哉だった。ただ今冷静に考えてみれば達哉がアポロをいつも降ろしている様に舞耶は魔法反射のアルテミスを降ろしている。あの時我を忘れてノヴァサイザーを舞耶にぶつけなくて本当に良かったと安堵の溜息をついた。
 この時他に誰かがいれば『もっと早く気付けよ』と言う突っ込みが入っただろうに。



 相変わらず公務員のくせに実家にいる克哉が、この上なく恨めしかった。一応休暇なので警察寮ではなく実家にいるのは当然の事だが。こういう時ほど、早く独り暮ししたいと思う。いっそ、淳の家に転がり込もうかと思ったが、そんな事恐らくリサ辺りが許さない。リサはかなり淳に嫉妬している部分があるから。
 しかし、やたら広い家に淳は独り暮ししているが、あれは独り立ちとかいう事ではなく、母親に捨てられたのだ。邪魔だからと、あんな広い家に独り…いや、確か偽者の親父がいた。しかも今となっては淳の両親は何処にもいない。きっと寂しい思いをしているはずだ。うん、そうに違いない。なら、淳の最も頼れる親友であり保護者でもある俺が出向いて面倒を見てやらねば!!………そこまで考えて達哉は克哉の呼び声も無視して、更には最初の自分の思考と大きくかけ離れているという事さえも気付かずにバイクをかっ飛ばした。
 淳は達哉が舞耶の家を出るときはまだそこにいたが、さすがにもう9時なので帰っているだろう。こんな時間に外を歩いてたら訳の分からん詐欺に引っ掛かって大金を払わされたりするかもしれない・・・などと訳の分からない事を考えながら達哉は本来は30分はかかる所を20分弱で走り、淳の家に着いた。思った通り、家には明かりがついている。一度だけ仮面党の皆で来たので部屋の位置は大体分かる。明かりの位置はリビングだ。
 インターフォンを鳴らすと予想通りに淳の声が答えた。そしてまた予想通りに淳の笑顔が達哉を迎えた。が、リビングに見えた影に、達哉は一瞬、頭が真っ白になった。
「やあ、メット少年。」
「なんでてめぇがここにいるんだぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!」
 今が夜だという事も全くはばからずに声を張り上げる。その大声に淳は少し顔を顰めたが、当の祐貴は全く気に掛けず、呑気にコーヒーを啜っていた。
「あ、祐貴さん、最近は良く遊びに来てくれるんだよ。ここって、一人じゃ広すぎるし…おかげで今は寂しくないんだ。」
「…とまあ、そういう事。と言っても、今じゃここに泊まりこんでるんだけどね。」
「な…なに…?」
 達哉の中で更に衝撃が走る。祐貴がここに居るというだけでとんでもない衝撃だったのに、泊まりがけ。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!淳!!!!なんでお前はそうすぐに人を信用するんだよ!?こいつが何をたくらんでるかも分からないというのに!ていうかこいつの邪悪さに何故気付かない!?鈍いにも程があるぞお前!!知らない間にコイツの邪悪さに感染したらもう一生表の世界に帰って来れないんだぞ!!!!分かったらそいつをとっとと追い出して二度と家の中に入れるな。分かったか!?」
 一気にまくし立てた後、達哉は息を整えて淳の反応を見る。淳は全く分かっていない様で、しきりに唸ったり首を傾げている。そうして漸く淳は達哉に何かを言った。
「…達哉って、良く喋るね。普段無口だと思ってたけど…」
 脱力500%…全く関係の無い返事に、達哉はその場に崩れ落ちた。
「た、達哉!?」
「プッ…アハハハハハハハハハ!!!!ほんっと面白れー」
 急に笑い出す祐貴に、しばし呆気に取られている淳だった。達哉は床に突っ伏しながらふとした疑問について考えていた。
(…ん?確か淳って、前はアイツの事『速水さん』と呼んでなかったか?だがさっきは間違い無く『祐貴さん』と…………ぬわにぃっっっ!!!??)
 達哉は勢い良く跳ね起きると祐貴に掴みかかった。
「おいコラ!!いつの間に呼び方変わってたんだ!?いつからそんな関係になってたんだ!?お父さんはお前みたいな奴許さんぞ!!」
 いつからお前がお父さんになった?
「はぁ?」
「とぼけんな!テメーに対する淳の呼び方が変わってたろうが!!」
 この発言には流石の祐貴も呆れた様だ。
「オイオイ、まさかそんな事で…」
「うるせ――――――!!テメェもう淳の半径10メートル以内に入ってくるんじゃねぇ!!つーかすぐここから出て行け!邪魔だ!!!!」
「って、後から来たのはお前の方じゃ…」
「問答無用!とっとと失せろ―――!!!!」
 もはや錯乱しかけている達哉をみて、祐貴はやれやれと肩をすくめた。
「なんか、このメット男怒らせちゃったらしいし、俺、そろそろ帰るよ。いい加減居座ってばかりなのも悪いしね。」
「え!?でも確か今まで宿泊していたホテルはもうチェックアウトしてしまったんでしょう?」
「まあ、そうなんだけどね。今日ぐらいは南条の所にでも転がり込むさ。当てならいくらでもあるし。」
 それでもなお引きとめようとする淳を背に、祐貴は行ってしまった。淳は、残念そうに祐貴の後姿を見送っていた。その様子を見て達哉は、さすがに罪悪感を感じてしまった。淳は明らかに悲しげな顔をしている。
「じ、淳…」
「達哉…」
 淳はじっと達哉の方を見つめている。いつもならそれで達哉は幸せな気分になるのだが、今回はその様子はかなり違う。悲しげな、そして怒りすら感じる視線から、逃げる事など出来なかった。
「達哉、何で君はいつもいつも、祐貴さんと喧嘩するんだよ…?あんなに良い人なのに。」
 それは絶対違う、と大声で反論したかったが、今の淳には逆らえない迫力があった。さすが元ジョーカーと言わんばかりの圧力が、達哉を抑えつけていた。
 だがそれもほんのわずかな事で、すぐに淳はいつもの穏やかな雰囲気を取り戻した。てゆーか呆れてるのだろうな。
「まぁ、そりが合わないってのもあるからね。仕方ないか。」
 今まで祐貴が使っていたコーヒーカップを片付けながら、淳は溜息をついた。そうしてふと思い出したように達哉の方を向いた。
「そういえば君、何しに来たの?」
 聞かれるのは当然の事だが、妙に力が抜けて行くのを達哉は感じた。
 結局強引に淳の家に泊まった達哉は僅かながらの幸福をかみ締めていた。お手軽な幸せ者である。
 その翌朝、舞耶から来週の旅行についての詳細の連絡が達哉と淳のメールに入った。集合場所と時間、そして参加者が記されていた。そこまでは淳のと一緒だったが、達哉にだけ追伸…と後があった。



   追伸―――
   達哉クン、淳クンから乱暴者のレッテルははがしてもらえたかなぁ?アハハハハ〜
   あんまり暴力振るっちゃあ淳クンに嫌われちゃうぞ♪



「…………」
 この時達哉は直感的に、舞耶とつながる黒幕の存在を感じ取った。
「達哉、なんでそんなに怖い顔してるの?」
「…淳、お前が昨日舞耶姉の部屋にいたのは、偶然か?」
「まさか。舞耶姉さんに呼ばれたんだよ。と言ってもそれは最初だけで、次からは自主的に行ったんだけどね。舞耶姉さんてば、本当に良く散らかすよね。もう一週間ぐらい放課後は行ってるけど、なかなか片付かないんだ。」
 へえ、と適当に相槌を打っていた達哉だったが、ふとした疑問に気を取られた。
「…ちょっと待て。確か雪山に行くって聞いたのは二日前だったぞ。」
「そう?でも舞耶姉さん、三日前に思いついたみたいだったから、さほど遅くも無いよ。」
(またなんかズレた事を…待て、三日前だと?確か舞耶姉は、雪山に出かけるから片付けをしているような事を言ってたが…それってなんかおかしくないか?まるで雪山はおまけで、片付けが目的のような…だが、舞耶姉の性格からして、そんな事は…あ、確か奴と舞耶姉が会ったのも、俺と奴が対立した…というか俺が一方的に喧嘩売っただけだが、それも確か一週間前…まさか!!!!)
 そこまで論理を組みたてると、後はもう考える事も無かった。先程の達哉の直感は見事に大当たりしていたと言う事だ。急に気が重くなるのを感じながら、それでもすぐ近くにいる達哉の心のオアシスをじっくり眺めていた。
                      

最初から達哉飛ばしてしまってます。
言い訳すると、別に達哉は淳に対して恋愛感情があるわけではありません。かなり過保護な兄か父みたいな感じです。
そして達哉が祐貴を嫌うのは、最初の出会いがこの前にあって、その時散々な目に遭ってます。どんな事かは・・・いずれ書くかもしれません。


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