青葉区にある南条の別荘は、別荘とはいえない程でかい。だから大抵集まる時はここになる。クリスマス会の為の場所も暗黙のうちにここに決まっていた。南条の承諾は無いままに。
「…別に来るなとは言わん。が、連絡ぐらいしてからにして欲しいものだな。」
「固いこと言うなって、なんじょー♪」
「そうそう、どーせ南条君、こんな広い家で一人なんでしょ?だったら大勢の方が絶対いいわよ!」
ブラウンと麻希が声を揃えてにこやかに笑う。手にはしっかりコンビニかどっかで買って来たらしいビールとお菓子類。
「…手に持っているものはアルコールではないか?」
「うん。あれ?もしかして南条君ってアルコール駄目?」
「いや、そんな事は無いが…しかしこの中にはまだ未成年がいるのでは?」
そう言った南条の視線の先にはブラウンと、脇に何やら妙なものをいくつか抱えている祐貴がいた。彼等はこの中でも早生まれで、まだ19歳。
「なんじょーってば細かいって!!おれ様ならオッケーっすよぉ!!」
ばしばし南条の背を叩きながらブラウンは元気良くビールの缶を開ける。
「もう飲むのか、上杉?」
「ミッキーもほれ、とっとと飲む!!」
相変わらずと言うかなんと言うか、性懲りも無く祐貴の嫌う呼び方をして裏拳一発、ブラウンはあっさり地に伏した。
「上杉君も、懲りないよねー。」
「学習能力が無いだけだ。もはやこの程度の事は三年前から分かっていることだろう?今更呆れる事でもない。」
心底見きりを付けたといった口調で、南条はきっぱり言ってのけた。しかもそんな台詞に突っ込む人間がこの場に全く居ないのも問題にすべきではあるだろうが。
尤も、ブラウンに関して言えば懲りないとかそう言う事よりも前にわざとやっているのではないかとも思われる。何故?と考えても答えなど出ないが。
「あ、城戸!!勝手に一人で飲むなよ!」
何時の間にやら勝手にビール缶を開けて黙々と飲んでいた玲司に祐貴が掴みかかった。怒っていると言うよりは単に注意しているだけ、という感じではある。その証拠に祐貴はあっさり玲司から手を離し、脇にあったビールを飲み始めた。
「お前等、飲まないの?」
何事も無かった様に上機嫌でビールを勧める祐貴を一同は唖然としながら、でもすぐに気を取り直して余った缶に手をかけた。
床に突っ伏したままのブラウンの事は既に誰もが忘れていた。
「キャハハハハハハハハ!!南条君ってばすっごいゆでだこ―――!おっかしー!!!」
「う…うるさい…」
「南条って随分顔に出るんだな。その割には酔ってないみたいだけど。」
「…Reizi、ちゃんと飲んでますの?ちっとも変わってないようですわね〜」
「酒には強いんだ…昔から。」
「昔って…いつから飲んでたんだ、お前?」
「………忘れた。」
相変わらず床に倒れているブラウンを無視し、盛り上がってきた所に麻希は漸く祐貴が抱えていた妙な物体に気付いた。
「祐貴君、それ…何?」
「…これ?ああ、忘れてた。これは…」
そう言って祐貴はいくつかある物体の一つを抱え上げ、麻希に差し出した。
「クリスマスプレゼント。」
「え…いいの?祐貴君…嬉しい!」
渡された物体を抱えて頬を赤くする麻希の顔は本当に嬉しそうだ。一見するとそれはとても良い雰囲気だ。だがそれを黙って見ていられない人物はやはりいる。
「Yuki!私には何もないの!?」
「あるよ。はい。」
またしても祐貴は包みを一つエリーに差し出した。喜ぶエリーと、それを見て険しい顔で舌打ちする麻希の対比が極端で物凄い。
「Yuki、一体何が入っているの?」
エリーが何度も包みを触ってみたがやたらと固い。金属のような感触のする謎の物体は予測がつかない。
いつの間にやら残った包みを南条と玲司、ブラウン(漸く復活した)に渡したらしい祐貴はあっさりと答えた。
「ロボット。」
「………………は?」
祐貴の口から出た単語に一同は沈黙してしまった。
「Great!ねえ、ここで開けて見て良い?」
エリーだけは臆する事無く反応している。
エリーに続いて他の連中も包みを開け、やはりそこには妙なデザインのガラクタがあった。ちなみに、彼等が驚いているのは祐貴がロボットを作ったこと自体ではない。普通高校出身の文系学生がロボットを作ったこと自体信じられないと思うのだが、この沈黙は全く別の意味を示していた。
「…速水が作ったロボット…昔エルミンの校舎で良く見かけたな…」
「通りかかってついうっかり足がぶつかったらおれ様ロケットパンチの犠牲になったっすよ…他にも大勢犠牲者は居たみたいっすけどね〜」
「監視カメラがついていて、生徒全員の行動を見ていたらしいな。面白そうな奴見つけて弱みを握ってやろうとか言ってたぜ…」
「…ていうか、すっごいデザイン…」
4人が思い思いに祐貴のメカを思いだし青ざめた。祐貴のメカの所為でどれだけの被害を蒙ったか…一番の被害を蒙ったのはハンニャだった事まで思い出した。しかも祐貴の芸術センスの突飛さ、あるいは意外性、もしくは滑稽さ…要するに芸術センスが皆無な祐貴がデザインしたロボット達はどれもガラクタとすら言うのもおこがましいような物体であった。ポンコツが漸く歩いていると言うような感じさえするが、それはやはり普通に動く。
「なんて素敵なの…相変わらず素晴らしい出来ね。」
「サンキュー、そう言ってくれるのは桐島だけだよ。南条とか他の連中なんてこういうの作ると口を揃えて『変』なんて言うんだもんな〜。何でこの芸術的センスが判らないかな?」
「Muu…確かに一般に見られるものとは少し変わってるわね。でもこれも個性的で良いと思うけれど…」
祐貴だけでなくエリーも一種独特のセンスを持った人間であるらしい。だから気が合うのかもしれない。
そう南条・玲司・ブラウンが思った時、横から凄まじい殺気を感じ、身構えた。そこで疑問を感じる。この凄まじい殺気を感じたのはかつてパンドラと戦ったとき以来だ、と。
漸くその正体がハッキリした。見るまでもない、麻希がエリーに対して明らかな嫉妬の感情をぶつけていた。その形相ときたら、くちさけですらこの世のものとも思えない形相で逃げ出すのではなかろうかという程だった。
そんな麻希にやや怯えている男達をきっぱり無視して祐貴とエリーはロボットらしきガラクタの話で盛り上がっていた。
「私のは…怪異むらさきカガミ!!流石Yuki、素敵なセンスね。」
「だろ?やっぱ俺の目に狂いはなかった。でも桐島位しか分かってくれないんだよな〜。真の天才というものはそう簡単には理解されないものなんだな…」
蚊帳の外の彼らは怪訝な顔で二人を見ている。
「むらさきカガミが良いセンス、なのか…?」
「ほんっとーに理解出来ないっすよねぇ〜?あの二人。」
「まあ、速水に関して言えば一種の天才であることは間違いなかろうが・・・」
玲司は何も言わない。麻希も何も言わないが、その表面にははっきりと妬みの色が表れていた。その口からはいつ呪詛が聞こえてくるか分からない程だった。
そんな周りの状況を知ってか知らずか祐貴とエリーの会話は進行していく。そしてそれに比例して殺気の濃度も高くなっていく。
そんな一触即発の状態にとどめを刺したのは祐貴の一言だった。
「桐島、今度家に来るか?こういうのかなり作ったまま置きっぱなしなんだ。何ならどれか持って帰っても良いし。」
「ダメェェェェェ―――――――――――――――――!!!!!!!!!」
耳を劈くような麻希の声に流石の祐貴やエリーも必死に耳を塞いだ。しかし祐貴は何故麻希がいきなりそんな大声を上げたのか分かっていないようで、彼の頭には幾つものクエスチョンマークが乱舞していた。
「ゆゆゆ祐貴君!!だだだ駄目よそんな事!!エリーと二人っきりで…そんな何かあったら…」
麻希の動揺する様をみて漸く合点がいったのか、祐貴はいきなり大笑いする。
「あははははははは!!園村ってば、そんな事心配してんのか?何かあったって、俺らなら大丈夫だよ。」
なんだかいきなり問題発言を聞いた気がする。それはこの場にいる誰もが思ったことらしく、南条やブラウン、話を聞き流しつつビールを飲んでいた玲司でさえもその場に固まった。エリーだけはやや赤くなっている。しかし考えたことは他の皆と一緒らしい。
「………………祐貴君、まさかエリーのこと、す、好きなの?」
「好きだよ。」
ごわぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…
今の麻希の中に響いた音を表現するとこんな感じだろうか。無理もない。三年前から好きだった男の口から他の女が好きなどと言う言葉が出ては。一方のエリーは何だか異常に舞い上がっているようで、恍惚の表情を見せている。
が、次に続く祐貴の台詞はどん底にいた麻希を引っ張り上げ、極楽浄土に行きかねないエリーを一気に現実に引き戻した。
「当たり前のこと聞くなよ。俺にとっては桐島も園村も、勿論南条や上杉に城戸、黛も綾瀬も稲葉も、皆大切な仲間なんだから。」
「……………………………。」
いちいち仲間一人一人の名前を挙げるのも凄いところだが、意識を取り戻した男共がまず先に突っ込んだことは全く別の事だった。
「え〜〜〜〜〜〜っと、それはつまり、エリーちゃんと他の皆さんとは、同じくらい好き…と?」
「ああ。」
「では、さっきの問題発言らしき事は…?」
「何それ。」
「『何かあったって俺らなら大丈夫』つったっしょ〜?」
「ああ、桐島と一緒だとつい降霊術とか黒魔術とか試したくなるけど、間違って変なもの召還しても俺らペルソナ持ってるし、大丈夫だろ?」
「…なるほど…貴様の不可解な言動はそういう事か。」
「南条、俺何か変な事言った?」
「いや…いい。」
やや呆れている男性陣とは裏腹に麻希の喜びようといったら、もしやくちさけのスペルカードを貰ったときよりも幸せなのではなかろうかと言うほど凄まじかった。残り少ないビールを一気に飲み干して、祐貴からのクリスマスプレゼントを抱え、浮かれたまま眠ってしまった。
エリーの方は少し不満そうな顔をしていたが、割とあっさり気を取り直した。どのみち祐貴の部屋に行くのは間違いないし、この時は祐貴と趣味の合う自分に感謝した。…降霊術は少し惜しかったが、南条に禁止令を出されたので諦めた。
「…Keiの家なら大きくて広いし、降霊術には打ってつけだったのに。」
「仕方ないよ。南条はリアリストで霊とかいうのには興味がないんだから。」
「…その意見を否定する気は無いが、俺が反対したのは別の理由だ。」
ブラウンも玲司もうんうんと頷く。
「貴様らがそういう事をやると、必ず変なものを出すだろうが!しかもご丁寧に俺達にまできっちり被害を及ぼしてくれるしな!」
「そうだっけ?」
「さあ…」
二人とも分かっていないようだった。だが確かにエルミン時代、祐貴とエリーはあの事件以来気が合って良く怪しげな儀式を堂々と体育館やら中庭やらでやっていた。そしてそのたびに妙なものを召還しては被害をもたらした。時には成仏した(?)筈の松平美智子が現れたこともあった。あの時もまた校舎内でペルソナ合戦をやって後に冴子先生にこっぴどく叱られた。
その他多くの危険物を召還しては騒動を巻き起こしたことも、南条は事細やかに説明した。ハンニャと並んで南条が悉く被害のトップになった所為だろうか。
「…そういや、そんなこともあったな。懐かしいなー」
「本当、麗しき思い出だわ。」
「そういう事を言っているのではない!!!!!とにかく、貴様らはあらゆる儀式は禁止だ!!」
「えー、それじゃ成人式はどうするんだよ。俺らもうすぐじゃん。」
「成人式も立派な儀式の一つだものね。」
「貴様ら…俺の言いたい事は分かっているだろうに…どうしても俺をからかいたいか?」
気がつくと、南条のこめかみにははっきりと青筋が浮き立っていた。
もの凄い剣幕で追い出された一同は、青葉公園の近くをぶらぶらしつつ、これからの予定を考えていた。
「つーか、なんでおれ様たちまで…」
「南条は怒りっぽいからなー」
「ミッキーが怒らせたんでしょーが!!」
もはや定例、祐貴のメギドラオンがブラウンに炸裂した。が、今回は魔法に強いペルソナをつけてたらしく、瀕死まではいかなかった。
「今回のペルソナって、魔法に強いと大抵物理攻撃に弱いみたいだね。」
ブラウンを見て、麻希がどうでもいいことを言う。
「ま、どうでもいいけど。ところで祐貴君、このロボット、何か特殊能力とか無いの?」
「あるよ。園村のは…確か目覚まし機能。時間になるとツインスラッシュが発動するんだ。」
「へ、へぇ〜……」
流石に麻希も恐れを為したらしい。物理攻撃には基本的に弱い麻希には当然だが。
「後、ブラウンのはカラオケ機能。芸能人には必要だろ?」
「いや、といってもおれ様コメディアンだし、歌はそんなに苦手じゃないし…でも役には立つかな〜?」
これが必要なのは祐貴の方では?とは流石に言えなかった。
「ちなみに、評価が80点以下だともれなくジオダインのお仕置きプレゼント♪」
「んなもん人に贈るなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ブラウンの絶叫も奇麗に無視して、今度は玲司の方を向いた。
「で、お前のはロケットパンチとミサイルと各種捕獲機。」
「何で俺のはそんなに物騒なんだ…?」
「お前セールスに苦労してるんだろ?いざとなったら相手を脅してでも買わせろよ。」
「自分でやった方が早えだろうが。」
「そーゆー問題じゃないっしょ!客脅しちゃ駄目だろ!!」
真っ当なブラウンの突っ込みをまた無視して、説明を続ける。
「後、南条のはスケジュールを記録すると、その時になって教えてくれるんだ。それでも動かなきゃ刹那五月雨撃だけど。」
「…だからどーしてそーゆー物騒な方向に…」
やはり無視。
「で、桐島のは実は何にもついてないんだ。むらさきカガミのデザインに時間がかかってさ、機能をつける暇がなかったんだ。ゴメン。」
「いいのよ、あなたがくれたんだもの。それにこのデザイン本当に素敵よ。大切にするわね。」
またしても二人の仲を疑いにかかる麻希。これも一種のほほえましい光景だな…とブラウンと玲司は思った。
ふと、祐貴が青葉公園の方をじっと見ていることに気づいたエリーが声をかける。
「Yuki?どうしたの…?」
「ああ、ちょっと、な…」
「ねえ!こうなったら二次会しよーよ!まだ時間はたっぷりあるし。」
「Oh!それは素晴らしいideaですわ!」
「ならジョリーロジャーにいかねぇ?おれ様一度話題の幽霊マスターに会ってみたかったんすよ!よし決定!!」
「…酒があるなら行くぜ。」
何だかんだいってメンバーの中で一番飲んでいたくせにまだ飲むのか。よっぽど酒すら飲めないほど貧乏だったのだろうか。メンバー全員が賛同する中で、祐貴だけは少し苦笑いをした。
「悪い。先に行っててくれ。後から行くから。ジョリーロジャーだろ?」
そう言うと祐貴はすぐに行ってしまった。が、信じているのか誰も心配とか疑いなどせず先に港南区に向かった。
だから、祐貴が向かった先がベルベットルームであることには気づかなかったし、ましてや青葉公園に入っていった人影にも気づかなかった。
日本がクリスマスに浮かれていた頃、アメリカで一人夢に向かって努力を続けるある一人の男宛に大きな箱が届いた。差出人の欄に『園村麻希』と書かれていてすっかり舞い上がってしまった男は夢中で箱を開け、即座に爆発した時限爆弾の餌食となり、薄れゆく意識の中、かつて同じ手口でやられた嫌な記憶を省みて進歩のない自分を激しく悔やんだ事はまた、別の話である。
「……どうやって、検閲をくぐったんだ?」
哀れな彼に答えてくれる者はいない。ただ窓から隙間風が吹くのみ。
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更に遅れて異聞録メンバーのクリスマス(爆)
一応最後にマーク出ました(分かりますよね・・・?)ああいう扱いですが。
今回何気に主エリっぽいですが、別に付き合ってはいません。
個人的にはこのカップリング好きなんですが。
しかし淳杏といい主エリといい、私はマイナー好きだなぁとつくづく思います。
主人公のマッドサイエンティストぶりからは想像もつかないと思いますが、一応彼は文系です。考古学者を目指しているので。ホントですよ・・・
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