達哉は珍しく上機嫌だった。最近は祐貴のせいで随分酷い目に遭わされたが、正月は一緒に過ごせる事になって浮かれていた。さすがに年末は家族と居る事を克哉に約束させられ、淳と一緒に年越しはできなかったが、今から淳と二人っきりで過ごすのだ。淳は相変わらずあの広い家に一人きりだし、流石に祐貴も今はいないだろうと勝手に喜んでいた。
それが甘かったのだ。ともあれ、達哉は淳の住む蓮華台の高級住宅街にバイクを走らせていた。
淳の家の前に着き、インターフォンを押す。予想通りに淳の声が答える。そして間もなく達哉の心のオアシスが出てくるのを待つ。
そして天使の微笑みと共に淳が現れた。
「あ、達哉。本当に来たんだ。」
当たり前だ。淳との約束は二度と破らないと誓ったのだから。しかし淳の家の中からは一人だったとは思えないほど雑音が多い。理由は、すぐ分かった。
「よう、バイクタコ。相変わらず馬鹿みたいだな。」
なんでいる、この親不孝ものが。といっても達哉も人の事は言えない。
「やっぱり来た。淳に狂った駄目人間が。」
って、またしても居ない筈の人間が。
「吉栄…お前もか…」
ふつふつとこみ上げてくる怒りを理性を駆使して抑えた。なぜこうも邪魔が入る。
「情人!!やっぱりここに来た!」
いきなり達哉の目の前で仁王立ちした振袖の小娘が相変わらずの形相で達哉を睨んだ。
「な…なんでここにリサまでが…」
「情人の家に一応電話したら、お兄さんがここに居るだろうって。」
あんのくそ兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!! 「くすくす、がっかりした、達哉クン?」
最近悪女じみてきている舞耶が笑う。他には誰も居ない様だ。
「ふふふふ、バイクタコの考えてる事なんてすぐ分かるよ。単純だしね。」
怒り心頭で顔が真っ赤になっている達哉に、さらに油を注ぐ一言。思わずここが淳の家だという事も忘れてノヴァサイザーをかましそうになったが先に杏奈のアクアダインにやられる方が早かった。なんだか最近、敵が増えてきたと嘆きつつ一人寝る夜の明くる間は…古文でやったなんたら日記の一節を思い出した。
と、頭に鈍い痛みを感じて顔だけ上げる。
「こんなとこで寝てたら、淳君に迷惑だろ。起きろ。」
祐貴が達哉の頭を踏みつけたらしい。ダメージを受けて倒れた事は明らかなんだから回復魔法ぐらいかけても良いじゃないかと思ったが、ここに居るメンバーがそんな優しい精神を持ち合わせている筈も無く、淳が戻ってくるまでダメージを引きずったままその場に座っていた。
っていうかリサも見ていた筈だが、なんで回復魔法もかけてくれないんだか。情人とは口ばかりか、それとも嫉妬の延長上か。後者にほぼ間違い無いだろうが。
漸く落ち着いて皆がリビングに集まった。しかし、なんでこいつ等がここに居るのか。
視線で語ったら祐貴がいきなり薄く笑いながらその理由を語った。
「お前、雪山で言ってた事、憶えてる?俺がお前に出した唯一の命令。」
淳に一ヶ月触れてはならない。余りにも理不尽な命令。いやでも覚える。
「今はまだ一ヶ月たってないから、約束を破らない様に見張りに来たわけ。分かった?」
約束もへったくれもない達哉の精神を見ぬかれたのだろうが、釈然としない。
「なんでこんなに大勢で来たんだ?」
「あ、それは大勢の方が楽しいからに決まってるじゃなーい♪」
舞耶らしい答えだ。リサの理由など聞かなくとも分かる。リサは本人の都合を完全に無視して付きまとう。今回もやはり達哉を追っかけようと先回りしたのだ。
分からないのは、吉栄だ。達哉の企みをあっさりサーチして駄目人間呼ばわりしたのはこいつだ。しかしわざわざこんな所に来るようなエネルギッシュな人間でもない。
「…周防みたいな超絶馬鹿、野放しにしてたら淳が危険だから。」
杏奈が何を思ってこんな事をしてるのかは不明だが、どの道達哉にとっては敵である。敵。ちっ、お前はあのノリコとかいううるさい後輩と仲良くしてれば良いものを…と杏奈を睨んだが相手は完全無視。
「ねえねえ、せっかくこんなに人数居るんだからさ、なにかゲームしない?」
と、トランプ片手に舞耶が提案する。こんなものを持ってきたと言う事は、こうなる事を初めから分かっていたに違いない。あの祐貴と組んでいるのだから当たり前か。
「やるやる!わたし神経衰弱がいいなぁ。」
「げっ…俺はパス。」
「ダメよ、達哉クン。エスケープは許さないわよ。」
舞耶が逃げようとする達哉の頭を鷲掴みにする。
達哉ははっきり言って暗記が苦手だった。勉強自体が苦手なので特別、と言うわけではないが、このメンバーでは最下位間違い無し。醜態さらしてまでやる気など無い。どうしても拒否する達哉に、祐貴が一つの提案をした。
「じゃあ、一位の人は最下位の人になんでも一つだけ命令できるって事で。」
祐貴が提案した直後、腕まくりして燃えまくる達哉がトランプをバラバラに置いていた。
「どうした、早くやるぞ!!」
あまりにも変わり身の早い達哉に、さすがの祐貴もあきれた。祐貴だけではない。杏奈も、リサも同じ顔をしている。気付かずに笑っているのは天然姉弟(?)舞耶と淳。要は達哉の祐貴&杏奈に対する溢れんばかりの敵意を察知してないのか。
思えば、この中で一番頭が悪いのは、達哉だったのかもしれない。祐貴や淳はともかく、舞耶は、誰もが忘れそうになるが立派に社会人で雑誌記者。頭の出来がどうとか言う前に、記憶力はある。リサはそこそこらしい。杏奈も成績は良くなかったらしいが暗記はそれなりに得意らしい。達哉ははっきり言って暗記は苦手である。元々頭の出来も良くないのに。
それでもさっきの事で気合だけは十分、それでどうにかなると思ってた自分が情けない。
残り半分になる頃には、暗記は得意そうな祐貴がやはりトップで7組。2位が淳で3組。舞耶と杏奈とリサがそれぞれ1組で3位。そして達哉は…
「アイヤー、情人まだ全然取ってないの?暗記ってもしかして苦手?」
「…やかましい。」
だから嫌だと言ったんだ、とは言えない。敵滅殺の本能に従い、まんまと祐貴の提案に乗ってしまったから。
「あらあら、最初の意気込みはどうしたのかしらね〜達哉クン?」
悪女の様に笑う舞耶が憎らしかった。といってもこれはあくまで達哉の主観でしかない。しかしこうなったのは絶対順番の所為だ。
達哉は祐貴の次だ。が、祐貴はあの脅威的な記憶力でそれまで出ていた札を根こそぎ持っていっってしまう。もしかしたら最初から、出している札全てを覚えているのではないかという凄まじさ。そして達哉はまだ出してない札をめくり、当然の如く外れ、次の淳にヒントを見せまくってしまう。いや、それはいいのだ。淳の助けになるのならどんな形であってもいい。それだけで幸せになれるから。我ながら単純な思考回路とは思うが、それも仕方の無い事。
しかし、このままでは達哉は最下位になってしまう。しかも一位はあの祐貴。またしても負けたら達哉のプライドが傷つくし、何よりまた祐貴の命令を受けなければならない。今度こそ、何を言われるか解らない。今の状態でさえ、達哉には拷問だというのに。淳が隣にいるから必要以上に気を使わなければならないし、かと言って淳から離れたくは無い。今以上の悪夢を見せられるのは嫌だ。絶対、嫌だ!!
達哉が再び燃え始めた。その様子に一瞬、誰もが驚いた。が、祐貴は気にせずにめくった。が…
「あれ?」
はずした。祐貴が一回目ではずしたのは初めてだった。半分も減っていればそろそろやり辛くなっているだろう。しかし、達哉は今までに無い気迫でいきなり3組もモノにした。
「うっそ…凄い運。」
これには流石の祐貴も絶句した。達哉は勝ち誇って断言した。
「ふっ…友情パワーは偉大だな。」
「言ってて恥ずかしくない?そのセリフ…しかも某漫画のパクリ。」
杏奈がぼそっと呟くが、達哉の耳には入っていない。一人悦に入っている。だから当然、杏奈と祐貴が嘲りと同情の眼差しで見ている事にも気付いていない。
(縁起担いでピクシー降魔してきて良かった!)
今までがおかしいぐらいについてなかった。いくらペルソナがLUC99でも精神力に影響されるのか。ならやはり友情パワーだ。
しかし、最後にはやはり祐貴がトップで13組。全体の半分を取った。2位が淳で5組。3位がなんと達哉で3組。というか、結局達哉はあの3組だけで止まってしまった。ピクシーの加護はあの一回きりで費えてしまったようだ。リサと杏奈が2組で3位。ビリは舞耶の1組。社会人なのにとは思う無かれ。舞耶の前には淳がやっていて、突然(というか一回だけ)たくさん取った達哉の犠牲となった。
「まあ、仕方ないか。負けは負けだしね。レッツ・ポジティブ・シンキングよ!」
いつも明るい舞耶はやはり明るい。祐貴を本当に恐れているのは達哉だけだから当然か。
「じゃあ、何にしようかな…」
祐貴はしばし考えてからポンと手を打って舞耶に負けず明るく言った。
「天野さんに、クレール・ド・リュンヌで奢ってもらおうか!ここにいる全員分。」
「え……」
舞耶が青ざめた。安月給と嘆いていた舞耶には確かにきついだろう。が、ここでしょげ込む舞耶ではない。せいぜい気を張って元気に言い放った。
「よーし、わかったわ!お姉さんの根性、見せてあげるわ!!」
一同大喜びの中、舞耶はひたすら「ポジティブシンキ〜ン」とか言っていた。どうしようもなく暗く。
ところで、今日は元旦なのにクレール・ド・リュンヌは開いているらしい。なんて商魂逞しい店だろう。昼間に開いている店など元旦は普通無い。
クレール・ド・リュンヌでご馳走になった後、ひとしきりギャルソンと会話しつつ楽しんで日も暮れる頃となった。店を出て、舞耶は颯爽と家に帰って行った。といっても実家ではなくうららと住んでいるマンションへ。きっとうららに金を借りるのだろう。泣きながら。この様子だといずれ舞耶は報復するのではないかと思うが、相手が祐貴ではそれも徒労になる事間違い無し。それは達哉が身を以って良く分かっている。が、舞耶に同情する気は無い。散々悪女の様に達哉を振り回したのはまだ根に持っている。
舞耶の哀愁漂う後姿を見て一人ほくそ笑んだ。達哉にとっては淳以外の人間はどうでもよかった。
「さて、俺もそろそろ帰るかな。」
祐貴がそう言って駅の方に向かった。そう言えば祐貴は今何処に住んでいるのか知らない。中国に留学しているというからあっちで部屋を借りているのだろうが、実家はといえばこれは舞耶も知らないようだ。あんな奴を作り上げた家庭には非常に興味があったが、やはり一番の関心は淳だ。
雪山の一件で何だか変な誤解されたようだが、あれ以来淳からは全く何も言わない。態度も変えない。何だか良く分からないが、忘れているならそれでいい。変な誤解の果てに変に同情されるよりはマシだ。
「周防、またヘンな事考えてるね。」
「情人…」
杏奈とリサが白い目をして達哉を睨んだ。失礼な。ただ色々悩んだりしていただけなのに。
「アンタの考え事なんて下らない馬鹿げたものに決まっている。」
限りなく腹立つ。が淳の目の前で切れては・・・と、そちらの方を見るが、淳は達哉の方すら向いていない。歩きながら夕焼けを眺めていた。夕日の赤い光が淳の顔に当たってますます奇麗に映える。それに見とれているとリサが冷え切った声で達哉に話し掛ける。
「情人…何処見てんの…?」
明らかに戦闘モードに入っているリサに、もはや何を言っても通用しないと判断した達哉はきっぱり本音をぶちまけた。
「淳の顔を見てたんだよ。奇麗だなぁと思って…」
リサの渾身の踵落としが達哉の能天にヒットしたのはそれから0.4秒後の事だった。
リサはそのまま怒って帰ってしまい、道にうつ伏せになって倒れている達哉は、頭が痛いだの、家には兄がいるから帰りたくないだの、挙句バイクの調子が悪いだの適当な理由並べ上げてまんまと淳の家に転がり込む事に成功した。時間はかかったが漸く淳と二人っきりになれた…と思ったら。
「なんでテメェまで付いてくるんだよ!?」
「別に…家は私がいなくても殆ど心配しないもの。」
杏奈がちゃっかり達哉と淳に付いて来た事を聞きたかったので、そんな事を聞きたかったわけではない。しかし、その言葉はやはり淳には衝撃だった。親にないがしろにされる辛さは良く分かってるから。
こうしてまんまと杏奈は淳の家に泊まることになった。もちろん、達哉も。男二人に女一人と言うのは危険な印象はあるが杏奈に危険と言う言葉は全く似合わない。寧ろ淳にこそ似合いそうだ。達哉と杏奈はただでさえ仲が悪いので一触即発ではある。世間一般で言われる事を気にしているのは、この事態に気付いてない淳だけだった。
「大体、なんでお前はいちいち邪魔するんだ!?」
「淳を放って置けないから。私の恩人が馬鹿に毒されておかしくなるのを黙ってみてられるほど冷たくなれないよ、今の私は。」 恐らく、このセリフを淳が聞いても「ここにはそんな危険物質保管している場所は無いよ」などと的外れな事言う事請け合いだが、今は淳は、長らく使ってないと言う客室の掃除やらしている。本人がいないからこそこんな間抜けな言い争いをしているのだ。
「吉栄、お前もしかして淳を狙っているんじゃないのか!?雪山では否定していた様だがやはりそうか!!なら話は早い。俺の親友に手を出す不届きな奴は一人残らず殺す!!」
「…………激烈馬鹿のアンタと一緒にしないでよ。」
お互いにピリピリした空気を纏って臨戦態勢に入った。ともあれ、達哉の敵は多い。去年は淳と再会したり世界を救ったり天敵と知り合ったり何かと忙しい一年だったが今年は敵と戦い続ける血なまぐさい年になりそうだ。だがこれも淳を守る為の苦難と思えば何ともない。
まずは吉栄杏奈からだ。次に舞耶姉、くそ兄貴、最後にあのピアス男、奴だ!
と、何か前向きだか後ろ向きだか分からない思想を掲げ生き甲斐である「淳を守る事」という目標に突き進む為、今は目の前の敵を撃破する事に決めた達哉であった。
主のいないリビングで、達哉と杏奈の不毛で無意味な死闘が始まろうとしていた。
![]()
最近達哉の淳に対する思いは何なのか、本気で分からなくなってきた今日この頃(爆)
いや、友情の筈なんですが・・・なんだかフェイトと同パターンに陥りそうだ。いっそリサとでもくっつけるか?
でも達リサ萌えないんだよなぁ・・・達舞耶よりは良いけど。
つか達哉関連のカップリングはどれも萌えない。ますますフェイトと同じパターンに嵌ってるなぁ・・・
このページは です 無料ホームページをどうぞ