太陽神の花嫁


 達哉のペルソナはアポロ。ローマ神話の太陽神だ。
 そして兄の克哉のペルソナはヒューペリオン。ギリシャ神話の原初の太陽神という。
 一体、どういう経緯で克哉がペルソナを手に入れたものかと大いに疑問に思ったものだが、良く考えれば最近までこの街は異常事態だったのだ。その中でペルソナ能力に目覚めたとしてもおかしくない。昔ペルソナ様を友達とやったことがあると言っていたし、何も不自然な事は無い。達哉としては、天敵に更なる力がつきますます厄介な事この上ないが。
 克哉はたまに実家に帰ってくると必ず達哉に説教をする。主に成績のことで。といっても達哉の怒られる要因は数え切れないほどあるのだからそれだけに留まらないが。そして帰ってくるのは大抵長期休暇を取ったときで、年末年始は必ずいる。それ故、達哉はこの時期になると憂鬱になるのだが、今年は既にエスケープ先を予約しておいたのだから心配する必要はない。
 別にそれが理由でわざわざ淳と約束したわけではない。後で考えてみればそうなっていたというだけであるが、やはり嬉しい。クソむかつくピアス男に「淳に触れるな」という条件を出されてもお構いなしだ。そんなもの厚き友情の前には塵に同じ。驕れるものは久からずと昔から言うし。
 と、自分の心の中の論議で勝手に盛り上がっている達哉にハイキックを食らわせたのはお馴染みの無敵の悪魔様。
「変な顔で考え事するなよ。気持ち悪い。」
「俺のどこが変だ!!いきなり蹴るな!!つーかどこから出てきた!?てめぇはどこでもドアでも持っとるんか!?」
「おお凄い。一気に四つも突っ込みを入れたよ。」
「言いたい事はそれだけかっ!?」
 いつもながら思うが、祐貴と会話していると妙に疲れる。まるで淳と話している時みたいだ。天然人間は淳と舞耶だけかと思っていたが、他にも強烈なのがいたようだ。しかもやることなす事達哉に喧嘩売ってるとしか思えないのでストレスが溜まる。祐貴に関して言えば天然ではなくわざとそういう事を言っているようでもある。ていうかこいつに関しては間違いなく悪意だらけだ。人のストレスを無理矢理増幅させるのが得意だし。
「つーか道の真ん中でばったり知ってる人間に会うなんておかしくないだろ。大体、道のど真ん中でぼーっとしてりゃいつ「邪魔だ!」とか言われて蹴り飛ばされてもおかしくないぜ。」
「…いくらそう思ってても実際に蹴り飛ばす奴なんかフツーいねえよ。」
 達哉とて、道の真ん中で広がっておしゃべりしている女共に出くわすとつい蹴り飛ばしたくもなるが、本当にやったら洒落にならない。道を塞いで迷惑かけている馬鹿女共のために人生を不意にしたくはない。
「俺はやるよ。他人相手でも。」
 …相変わらず問題発言をいちいちぶちかましてくれる。しかも真顔で。これで前科がないのが不思議でたまらない。なんだか裏で根回ししているような気もするし。こいつの私生活全てひっくり返せば前科20犯どころじゃ済まないかも。しかし全く尻尾を掴ませないのもこの男だ。口だけ、という可能性もあるが、有言実行を旨としている筈だ。この男は。
「大体お前、何でこんな所でつっ立ってたんだ?この寒空で。」
 そう、それが今抱えている問題なのだ。克哉が帰ってくる事、淳の家に逃げる(?)こと、それは問題ない。問題なのは、克哉が取った休暇の期間だ。普段は市民の平和がどうとか言って大晦日と正月しか休まないくせに今回はその三日前(つまり今日)から取っているのだ。しかも克哉は朝から何処かに出かけてしまった。しかも勤務時以外は絶対に着ないブランドスーツで固めて。
 そんな克哉の奇行を黙って見逃す達哉ではない。女ができたのかと思ったが、それはそれで興味がある。あんな男につきあう奇特な女の顔を是非見てみたかった。別に以前リサが克哉に挨拶したとき「お前なんぞを好きといってくれる素晴らしい女の子は貴重だぞ。しかもかなり可愛いしな。大切にしとけよ。」などと失礼なことを言われた仕返しではない。リサは昔の仲間だし、友人として好きだが、別に嫁に貰うわけではないのだから。そしてわざわざ家族に挨拶に来させるような相手も今の所いない。まあ今までうざったかった兄がいきなり結婚などして居なくなるのも何だか無性にむかつくが。仕返しをするチャンスが少なくなってしまう。
 そこで、警察ではないが克哉の行き先について聞き込みをして、今この港南区に来ているのである。全く、目立つ兄で良かった。人の事は全く言えないが。
 ちなみに、港南区には克哉の職場、つまり港南警察署がある。まさか休日出勤でもするのかと、何だか矛盾したつまらない考えに行き着きそうになったがそんな心配は全く無駄だったようだ。が、あまりにも意外な事に達哉は唖然とした。克哉が入っていったのはルナパレス港南。達哉にとっては馴染みの地獄絵図真っ青のゴミ捨て場…もとい舞耶の部屋がある所。
 確かに舞耶と克哉は知らない仲ではない。が、これといって仲が良いというわけでは無かったはずだ。雪山に行ったときも一緒だったが、特に親しいという訳では無かった筈だ…多分。
「何だ、自分の兄を付けてたのか。つまらん。」
「…てめぇ、まだいたのか。」
 達哉は睨んだが、やはり祐貴は気にも止めずに心底つまらなさそうな顔をした。
「てっきり淳君をストーキングしてるのかと思ったのに。わざわざ兄と天野さんとの仲を邪魔しに来ただけなんて…」
 いちいち人をコケにするようなことを言ってくれる。誰がストーカーだ。いや、今はそんな事を言っている場合ではない。
「知ってたのか、兄貴と舞耶姉の事?」
「当たり前だろ。お前気付かなかったのか?流石、日夜暇があろうが無かろうが淳君の事ばかり考えている変態タコ頭。兄の恋人の事なんて眼中にないのか。」
 どうやら祐貴はどうしても達哉に犯罪行為させたいらしい…と思うのは達哉の気のせいだろうか。まあ淳に近づく軽い女どもを片っ端から追い払うために休みの時は付け回して…もといこっそり見守っているが。仕方ない、淳は母親譲りの美形なので、女の興味を引く。保護者としては、そんな軽い女たちを淳に近づけるわけにはいかない。
「……………お前ってさ、自分が犯罪行為をしていると分かっててやってんだな。それってプライバシーの侵害だろ?」
「てめえに言われたくない…っていうか、なんで俺の考えてることが分かるんだよ!?まさかとは思っていたが、お前もしかして人の心の中が読めるんじゃないのか!?」
「んなこと出来たらエスパーかなんかだろが。でもお前の場合、何となく馬鹿なことを考えてるって事はすぐ分かるし。多分普通の人間ならすぐに分かるんじゃないか?」
「分かるか!!大体てめぇ単なる推測にしては正確無比すぎるんだよ!!」
「そうかな?心理学は苦手なんだけど。それより良いのか?周防さん、とっくに中入っちゃったみたいだぞ?」
「ああああああっ!!!!!いつの間に!!こうなったら絶対真実を見極めてやる!」
 やたら燃えながら達哉はわき目もふらずルナパレス港南に入っていった。だから、祐貴が達哉の事を冷ややかな目で見ていたことにも気づいていない。
「…あいつの場合、真実がどうのよりも成績を上げる努力した方が良いんじゃなかろうか?」


 
「何やってる、青少年。」
 やや低めに押さえられた女性の声が達哉に掛けられた。必死に玄関に耳を当てて中の会話を聞こうとしている男の姿は見事なまでに滑稽である。全くの他人が見たら不審者として通報されても文句は言えない。が、運の良いことに、その時達哉を真っ先に見つけたのは舞耶の親友、うららだった。
「あ、うららさん…」
「聞き耳立てるなんて失礼でしょ。折角あんたのお兄さんが幸せを掴もうとしているのに。」
「は…?」
 言いたいことは何となくわかるが、何故か釈然としない言い方だと思った。
「あら、知らなかったの?周防さんとマーヤ、最近かなりいい感じみたいよ。何?それとも邪魔しに来たわけ?」
「さっき知ったし、むしろ今はあんたの言い方の方が…って、あんたはなにやってるんですか。」
「勿論、二人の様子をこっそり覗きに戻ってきたのよ!全く、マーヤってば「今日は客が来るから外で時間潰してきて」とか言って、どーせ周防さんが来ることは分かってたんだから。このうららさんを騙そうとしても無駄って事よ!!」
「……あんたこそなに考えてんだ…」
 先程うららが「聞き耳立てるのは失礼」とか言ってたのが嘘のようだ。が、うららは達哉を手招きで呼ぶといきなり首根っこを掴んで外へ連れ出してしまった。この細腕の何処にそんな腕力があるのだろうかと思ったが、サンドバッグを破壊した例の件を思い出し、妙に納得してしまった。



 近くの小さな公園でうららがバッグから引っぱり出したのは何やらごてごてした機械装置。それに付いている小さなイヤホンを耳に付けていきなり独り言を言い出した。
「へ〜、結構やるじゃん、マーヤ。奥手だと思ってたけど意外と…」
 何となく分かってしまった。これは盗聴器だ。いつの間にこんな物を手に入れたのやら。
「…うららさん、俺にも聞かせてくださいよ。」
「あ、悪いわね。あんたも気になるわよねぇ?お兄さんのこと。」
「…というより、兄貴の嫁さんの方が気になるというか…」
 この場合、舞耶が気になるという意味ではなく、下手したらあの舞耶が義姉になってしまうという危機感のことである。傍目からはお似合いだろうが、家族にはあまりなってほしくない。結婚後も実家(しかも周防家の)に居座りそうだし。達哉の悲壮感漂う表情からうららにも分かってしまったようだが。何で普通の女を捕まえないんだ兄貴。
 とにかく、事の次第を確かめるべくイヤホンに耳を当てた。言うまでもなく、舞耶と克哉の楽しげな笑い声が聞こえる。
『……で、明日の事なんですけど…』
『ああ、僕も休暇が取れたしね。いっそ少しぐらい遠出でもするかな。車だから渋滞さえしなければ日帰りできるし。』
(…何だかそれって「渋滞で帰れないな」「じゃあ一泊しましょうか?」なお約束の展開じゃないか。くそっ兄貴ばっかり。俺にさえそんな経験は無いのに。)
『それいいですね!!私ドライブ好きなんですよ。でも最近、うららが乗ってくれなくて…』
『そうか…僕は君の運転する車に乗ってみたいけどな。』
(そりゃあんたの運転する車に乗ったら命がいくつあっても足らんっつーの!ていうか兄貴は舞耶姉が料理だけでなく運転も駄目だと知ってるのか?)
 その後、舞耶と克哉の会話はひたすら続き、その度に達哉は珍しく兄に同情しそうになった。



 五月蠅い兄が家にいるということで達哉はかなり強引に淳の家に転がり込んだが、克哉と舞耶の事についてどうやって切り出すか迷っていた。何となく悔しいが淳は舞耶を非常に慕っている。十年前に離ればなれになって以来、舞耶を殺した(と思っていた)達哉をずっと憎み続けていたくらいだ。その淳が、舞耶に恋人が出来て、しかもその相手が克哉だと知れば、どんな反応するか予測がつかない。ショックのあまり再びジョーカーに戻ってしまったらどうしようとさえ思った。が、そんな達哉の葛藤を一蹴する言葉が淳の口から出た。
「舞耶姉さん、明日克哉さんとデートだってね。仲良いよね、あの二人。」
「そりゃどう見ても変な所がお似合いだし…って、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
 思わず立ち上がって驚く達哉を見て勘違いしたのか、淳が窘める顔をした。
「何そんなに驚いてんだよ。そんなにお兄さんに彼女が出来るのは嫌?」
 とんでもない。あの五月蠅い兄に彼女が出来るのは万々歳だ。但し普通の女なら。舞耶ならばいいカップルになるだろうが、その代わりに達哉のストレスが溜まりそうでしょうがない。だからせめて、自分の不安を裏切って何処か遠い家に移り住んでくれれば…って、言いたいことはそれではない。
「お前、ショックじゃないのか…?」
 淳は心底不思議そうな顔をしている。
「何で?二人ともお似合いだし、いいじゃない。」
「お前確か、舞耶姉の事好きだったんじゃないのか?」
「そりゃ確かに好きだけど、僕はそんな風には思ってないよ。舞耶姉さんをそんな風になんて思えないよ。」
 どうやら達哉の心配は全くの杞憂だったらしい。それならそれでいいが。
「もしこのまま舞耶姉さんが克哉さんと結婚すれば舞耶姉さんが達哉のお姉さんになるんだ。いいなあ〜。」
 達哉にとっては全く嬉しくない。むしろ事態を勝手に引っかき回す邪魔者が身内になるだけだ。大体、よく考えれば二人ともこの近辺に仕事先があるのだからどうせ近所になるだけで克哉が目の前から居なくなるわけでもない。が、そんな事を主張するより先に(達哉的に)もっと素晴らしいことを思いついて淳の肩を掴もうとした時、ハイドロブーストが達哉を直撃した。
 何の脈絡もなく現れた邪魔者達を鬼の形相で睨んだ達哉が真っ先に思ったことは「何故自分の行動が筒抜けなんだ…?」ということだった。
「ナイスタイミング。変態が獣になる前でよかったな。」
「ったく、この変態が。だから安心できないんだ。」
「全くだ。兄として恥ずかしい。」
 誰がどの順番で撃ったのか気になるところだったがもはやそんな事はどうでもいい。今はただ、言いかけたことを邪魔されたのが納得いかない。
「てめぇら…変な勘違いするな!何だ変態って!!」
「自覚無いんだ。既にストーカーなんて変態的行為をしているくせに。」
 いつも通り杏奈が冷ややかな目で達哉を見下す。
「勝手に決めるな!!俺はただ、舞耶姉と兄貴が家に居座るのが鬱陶しくて嫌だから淳の家に同居させて欲しいって言おうとしただけだ!!」
「アンタなんかと一緒じゃ、淳に迷惑だよ。」
「大体な、なんで僕と天野君が家にいるなどと・・・」
「照れるな赤メガネ。大体俺の何処が迷惑・・・がふっ!!!」
 突然達哉が前のめりに倒れる。後ろから祐貴がフライパン片手に立っていた。フライパンの底が僅かにへこんでいる。
「ここで論議しても埒があかないよ。家族の話は実家でどうぞ、克哉さん。」
「あ、ああ。そうだな。済まなかったな淳君、迷惑をかけて。」
「いえ、僕は別に・・・」
「じゃあ淳、またね。」
 話の展開についていけない淳は、呆然としながら嵐を見送っていた。



 次の日の夜遅く、かなりへろへろになった克哉が帰ってくるなり玄関に倒れ、青ざめながら必死に自分の部屋に辿り着こうとする様は流石に哀れだった。あの様子ではゴールインはほど遠いなと思いながら、いっそそのまま別れて平穏無事に過ごしたいと思う達哉であった。何が何でも、舞耶を姉にはしたくはない。ああいう人間は深く関わらない方が夢を見れるのだ。
「しかし、結婚か・・・淳はどんな女と結婚するんだろうか・・・やはりあの純粋で可愛い淳には、それに見合った可愛くて大人しい、小柄のお嬢様とかが似合ってるよな。周りにはそんなのは皆無だが、やはりそれぐらいでなきゃな。」

 達哉の独り言をジッポの裏からしっかり聞いているピアスの青年は吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。

この話、一応年末の話だったりします。季節外れだなオイ。
個人的に克舞耶は結構好きです。克哉が面白いです。
舞耶って良いお姉ちゃんだけど、実際に本当の姉として一緒に住むとなると、何か嫌です。だってあの部屋・・・私より酷い(え)
そんなちょっとした意見を書いてみました。ってなもの。


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