マスメディアの脅威


 今日から学校に行かなければならない。と言ってもセブンスのような進学校でしかも達哉は3年。受験に備えるためにもう暫く行ったらもう学校に来る義務はない。もう少しの辛抱で淳とずっと一緒にいられる。この時ばかりは自分と淳が同じ受験生で良かったと思う。そうなる頃はもう流石に祐貴の出した命令は時効を迎える。そうなればもうこっちのものだ。完璧なバリケードを構築して鬱陶しい輩から淳を守るのだ。
 その時には祐貴は大学があるはず(といっても中国の大学のシステムなど知らないが)だが、まだ敵はいる。なぜか面白がって達哉の邪魔をする舞耶に、いつも達哉に敵意剥き出しの目を向ける杏奈が。リサも訳の分からない邪推をして暴走するので邪魔と言えば邪魔だが、2年なので大抵は学校にいる筈だ。
 しかし杏奈は既に学校を辞めてしまっている。元々は達哉と同じクラスだったが、あの頃はこうなることなど予測出来る訳もない。それにどの道達哉と同じ学年だから状況は殆ど変わらない。
「はあ…辛い…」
 いくら漢といえどもこんな状況では泣き言の一つも言いたくなる。変人ばかりの中で心のオアシスである淳になかなか会えないというのが辛くて仕方がない。人間癒しが無ければ生きていけないものだ。癒しブームというものがいつかあったが、意外と馬鹿に出来ないものなのかもしれない。
 冬休み前も大変だった。戦いが終わって淳といつも一緒に居られなくなってからストレスが溜まりそうでしょうがない。授業中もぼーっとしたままで冴子先生に怒られる事数十回、職員室に呼び出される事数回。受験が近いのに身が入ってない事は分かっている。だがどうしようもないのだ。これだけは。あまり成績が良くない事もあって殆どの教師には無視されているが、担任の冴子先生だけはそうはしない。さすがは先輩方の担任だっただけのことはある。話によればあの祐貴ですら表だって逆らわなかったそうだ。
 そんなこんなで常にぼーっとしているので周りには「余裕だな。」とか「受験を馬鹿にしてる」だのとやたら冷やかしが絶えない。が、それすらもどうでもいい。淳に会えなければ意味がない。ああ、心のオアシス。いつか淳の事を女神とか言ってる奴がいたが、あながち誇張表現でもない。ていうか天使と言っても過言ではない。パナケイアの祝福など足元にも及ばない祝福を与えてくれる。さすが理想を叶える(元)ジョーカー。ああ、もう何を言ってるのか自分でもわからない。
 ・・・というと誤解されるかもしれないが、淳はあくまで保護対象で恋愛対象ではない。何だか随分勘違いされているが。



 陰鬱な気分で教室に入る。と、いきなり教室内に居た生徒全員がどっとこちらを向く。そのリズムが嫌にきっちり合っていて不気味だった。
「周防!!お前、桐島さんと知りあいだったのか!?」
「周防君!私ブラウンのファンなの。サイン貰ってきて!!」
「誰だよ、この美女は!?お前大人の女しか相手にしないっつー噂は本当だったのか!?」
(なんなんだ、その変な噂は。身に憶えが全く無いが。)
「彼女居るのか!?この中に!!どうなんだ!?」
 何がなんだか分からないうちに人垣の中に埋もれてしまったが、その一人の持つ紙切れに気が付き、それを素早くひったくる。それには、でかでかと「周防達哉に恋人が!?その謎の幸せ者の正体はこの中に!?」と見出しがあった。
「……………………」
 幸せ者の恋人。そこにはそう書いてあった。道理でさっき彼女がどうとか言う声があった訳だ。
 しかしなんでいきなりこんなものが話題になったのかと下の写真を見ると、そこには冬休みに雪山に行った時の写真があった。あの時写真なんか撮ってはいない筈だと思い、よく思い返してみると、あのときはゆきのも行っていた。彼女はカメラマンだから知らない間に撮られててもおかしくない。
 しかしなんでこんなものがセブンスの校内新聞に載っているのか。しかもこんな見出しまで付けるという事は、事情を詳しく知っているものと見て間違いないだろう。達哉はまず、新聞部部長にかけあうことにした。知らない顔ではないし。



 ファンの女の子たちから逃げつつ2年の教室が並んでいる廊下に来ると、探すまでも無くリサと一緒に達哉の方に駆け寄ってきた。どうやらリサも達哉と同じ理由で捕まえていたらしい。華小路雅。新聞部部長にして栄吉の彼女という信じられない肩書きを持つ女生徒。雅なら事の次第を知っていてもおかしくない。と思ったのだが、話によるとこの情報を出したのは雅ではないらしい。まあ、彼女がそういう事を面白がって記事にするとはとても思えなかったが、部長なのでそれなりに責任を感じているようだ。本当に済まなそうに達哉に頭を下げる。
「本当に済みません。私の管理不行き届きです。」
「あ〜いや、あんたが気にする事じゃないだろ。それより・・・」
 真犯人の事を聞き出そうとした時、再び周りから黄色い声が上がった。撒いたと思っていた達哉のファンに見つかったらしい。
 とにかく、このままでは話にならないのでしっかり一時間目の授業が終った後に再び出向いて話を聞いてみた。すると、部室にチカリンがスクープですぅ〜とか言って写真とメモを持ってきたそうだ。出所はチカリンを詰問してみないと分からない様だ。仕方無くその場は引き下がり、放課後チカリンに改めて話を聞くことにした。本来ならばそのまま一年の教室に直行してぶん殴ってやりたい所だったが、以前淳に乱暴者呼ばわりされてからは極力話し合いで片付ける事に決めたのだ。
 我ながらなんと紳士的だと自画自賛したかったが、「達哉クンは元々強面なんだからそれくらいで丁度良いくらいよ」などと失礼な事を舞耶姉に言われた上に淳まで舞耶姉に同意してくれたのでせめて口には出さずに心の中で自分を誉めるに留まった。



 達哉が教室に帰るとやはりクラスメイトの質問攻めだった。大抵はその写真に載っていた有名人のブラウンやエリー、港南区・柊サイコセラピーの評判の看護婦である麻希とか、経済新聞やらを読んでいる人間からは南条の事についても聞かれた。しかしどうでも良い事だし答える気もないから無視していたが、突然数人の女生徒が一斉に聞いた事には反応した。
「周防君の彼女って、誰!?」
「………は?」
 恐らくは見出しの文に触発されたのだろうが、この写真の中に達哉の彼女がいると確信しているのだろう。見出しにもそう書いてあったし。しかしそれは全く身に覚えが無い。
 この写真には、あの時雪山に行ったメンバー全員がいた。といってもやはり撮ったのはゆきのらしく彼女だけはいない。他に南条、ブラウン、エリー、麻希、アヤセ、リサ、栄吉、舞耶、うらら、克哉、淳、杏奈、そして達哉。あの時玲司は色々忙しかったらしく、雪山には来なかった。この中に達哉の彼女がいるかと聞かれればノーと答えるしかない。仲が良くても恋人ではないしそういう対象もいない。淳を溺愛しているためある意味夢中にはなっているが、女どもの言う事とは別物だ。
 そんな達哉の葛藤は知る筈も無く、女たちは躍起になって聞いてくる。一応全部違うと言ったものの、納得はしていないだろう。まだ女達の間でひそひそ話し合っている。ていうか、なんで女ってのはいつもいつも群れたがるんだ。鬱陶しい事この上ない。
 女達が散ると、今度は男達が周りに集まってきた。
「お前の彼女って、やっぱりリサちゃんなのか!?」
 思いっきり違う。しかしリサは普段校内でも一目はばからずくっついてくる。リサが達哉に想いを寄せている事は周知の事実だが、達哉はその想いに答えるどころか振ってしまった。しかしそんな事この連中は知らない。リサは校内でもアイドル扱いされていて、クラスでもファンは多い。だからリサがとうとう報われたかは気になるだろう。もちろん、こいつ等はリサがフリーである事を期待するのだろうから達哉はきっぱり否定する。予想通り、周りはざわめき始め、大喜びしている。
 しかしその中で一人だけ意気消沈している奴がいる。確か杏奈の事をやたら気に掛けていた男だ。どうやら杏奈に好意を寄せているらしく、事件の間もしきりに杏奈の事ばかり気に掛けていた。となれば、そいつの言いたい事は何となく察しがつくというものだ。
「す、周防…もしかしてお前の彼女って…」
「吉栄じゃねーよ。」
 あんな冷血が服着て歩いてる蠍座の女と誰が付き合うか。事あるごとに邪魔ばかりしくさって、悪魔よりタチが悪いっての。
 ともあれ、それで納得したそいつは、安心した表情で去った。だが、確かに達哉自身は杏奈の事などどうでも良く思っている(むしろ邪魔)が、その杏奈が少なからず好意を寄せている(かも知れない)男がいると知ったらどんな反応するか見てみたい気もする。しかしそれを聞いていた他の連中はそうはいかない。リサでもなく、杏奈でもなく、ならば一体誰が彼女なのか。いい加減その視線にもうんざりして思わず怒鳴りたくなったが、そんなことしても何の解決にもならない。とにかく、まずはこんなものを校内に広めた馬鹿を知らなければならない。
 写真に写っているリサと杏奈以外の女達は皆知らない筈だし、年上なのは見て明らか。暫くすると、もう達哉の彼女の事などどうでも良くなったのか、それとも達哉が答えないのに諦めたのかもうその話題をする奴はいなかった。が、今度はまた別の話題を振る者が現れた。
「ここに写ってる人たちって、やっぱ周防の知り合いなのかな?」
「ならアイツ、タレントのブラウンやモデルのエリーも知り合いなのか!?」
 彼女の話題で暫し下火になっていた話題が甦る。いちいちサイン貰ってきてとか五月蝿いからとりあえずブラウンのケータイの番号は教えた。ブラウンのケータイは暫くの間忙しいだろうがあの人は目立つ事が好きそうだから別に良いだろ、という結論を勝手に下した。エリーはさすがに黙秘にしておいたが。ていうか達哉はエリーのケータイの番号など知らない。ブラウンは聞きもしないのに無理やり教えてくれた。エリー曰く寂しがりやだそうだがとてもそうは見えない。まあそんな事はどうでもいい。漸く達哉の周りも静かになり、落ち着いて昼寝でしようとした矢先、ある会話が飛びこんできた。
「ねえ、この写真に写ってる人って、男の人かな?」
「えー?そんな奇麗な人がぁ?女の人だよ、絶対!」
「ん〜?誰だぁ?この美少女は!?」
「何それ、男の子だってば!」
「こんな男がいるかぁ?線は細いし、奇麗な顔だし、なんか黒須純子にそっくりだな。」
「こっちの方が優しそうで素敵だよ。第一、これは男だと思うけどなぁ。」
「それはお前等の願望だろ。」
 奇麗な顔、線が細い、黒須純子似、優しそう、性別不明…?
 一つ一つの言葉が達哉の中で一つに繋がり、それはある形をなす。それはもしや…
「周防君に聞いてみれば良いんじゃない?」
 そう言った女子が達哉に近づいて来る。ちらりと見たが、そいつ等が注目してたのは確かに淳のようだ。しきりに淳の姿を指差してざわめいている。こんなミーハーな奴等に淳の事など教えたくない。あんな純粋な人間にこんな奴らを近づけたくない。
 どうやって誤魔化そうか考えていた矢先、ある一人の生徒がボソッとあるとんでもないことを言った。
「確か、カス校に黒須純子の息子がいるって聞いたけど…」
 必死に達哉が誤魔化そうとしてももはや無駄な一言が教室内に響いた。途端に教室はざわめきたった。謎の人物が男と知って喜ぶ女と、落ち込む男。女達はこぞって放課後にカス校に行こうかなどと相談している。
 冗談じゃない!あんなに純粋で可愛い淳(何だか錯乱気味)をあんな女共なんかに渡してなるものか!男なら良いとかいう問題ではない。て言うかむしろ断固拒否!そうと決まれば、善は急げ、放課後まで待ってなどいられない。すぐにでもあのパー女から事の次第を聞かなければ!!
 すぐさま達哉は次の授業そっちのけで一年の教室向かって走って行った。



 達哉はチカリンの教室など知らなかったが、運良く本人が廊下を歩いているのを見つけ、聞き出した。チカリンから聞いたことは、大体こんな事だった。
「チカリンは、冬休みに入ってすぐ、友達と雪山に行ったんですぅ〜。そしたらなんと、周防先輩がいるではありませんか!と思い、すぐに調査に踏み切ったわけであります。ですから、雪山であったことは全て知っておりますです。親切にも事細やかに教えてくださった方がいたもので。」
 間違いなくゆきのと南条だ。あの時宴会の席に居なかったのはそういう事だったのか。なんでまたコイツに何もかも教えてしまったのかと疑問と共に恨みを抱いたが、それよりも気になった事がある。
「雪山での事全て、と言ったな…?まさか、奴と俺のスキー勝負の事も…」
「バッチリ、記事にしました!!意外ですねぇ〜、あのスポーツ万能と名高い周防先輩が、まさかスポーツで負けるなんて。これは周防先輩の想い人に続いて大スクープでした。」
 やはりそうか…とがっくりうなだれた。祐貴に負けた事をセブンス内の生徒全員に知られたのははっきり言ってショックだ。所々で達哉に向けられる視線の中に侮蔑と嘲りのものが混じっていた気がしたが、それでか。言うまでも無くプライドがずたずたに引き裂かれた。ところで、またしても聞き捨てならない事を聞いた気が…
「想い人って…まさかそれも…?」
「それは流石にプライバシーの侵害ですよぉ。ですから、そこは謎と言う事にしましたです。」
 確かに、達哉の想い人についてまでも新聞に載っていたらさっき教室で散々騒がれる事はない…というかもっと騒がれてただろう。プライバシーがどうのといったが、それなら最初からこんな事を記事にするなと言いたかったがもう後の祭。第一思い人も何も好きな人など居ないのだが・・・
「で、俺の想い人ってのは何なんだ。これは何処の誰のでっち上げなんだ?」
「え?好きな人が居るってその時に聞いたんですけどぉ〜もしかしてデマだったんですか?」
 すかさずデマだ、と返したかったが、ただの勘違いという可能性もあるので、誰に聞いたのか尋ねてみる。すると・・・
「それはピアスのお兄さんに聞いたんです。あの人何者なんですかぁ?凄く美形ですよねぇ〜?」
 決定。奴の仕業だ。問答無用で悪意ある行為だ。
 とにかく事情はわかった。放課後、授業が終わったらすぐにバイク突っ走らせてカス校に行こうと決意した。本当は今すぐにでも行きたかったが単位が足りなくて留年したくはないし、淳も学校をサボるのは嫌だろう。学校に行くようになって嬉しそうだったから。
 達哉としては、カス校になんぞ絶対に行かせたくは無かったがそれは仕方ない。栄吉に良く見張れと言っておいたがなんと言ってもカス校は男子校だ。そんな中に淳みたいなのを置いたら危険極まりない。いつ、どんな目に遭うか心配でしょうがない。しかし本人はまるで判ってない様で、ひたすら楽しんでいる。クラスの連中は親切で良い人ばかりだというが、そいつ等はそうやって淳の好感度を上げてあわよくば・・・と考えている下心を抱えているに違いない(被害妄想甚だしい)。淳に何かあったらカス校丸ごとノヴァサイザーで瓦礫の山に変えて、生徒教師一人残らず皆殺しにしてやる。保護者として。(何かが大いに間違っている)



 そんな事ばかり延々と考えながら授業を終え、達哉は放課後のチャイムと同時に飛び出そうとしたが、足を引っ掛けられ思い切り良くすっ転んで壁に頭をぶつけた。痛みにのた打ち回る達哉のすぐ傍に、冴子先生が仁王立ちしていた。
「周防、職員室に来な。アンタの最近の態度を見てると、どうも緊張感が皆無だからね。何処の進路に進むにしたって、このままじゃどうにもならないよ。」
 達哉は以前、進路指導で進学を希望した。しかも淳と同じ大学。そうしたらやはり無謀だ、とか身の程知らずとか生徒にとって残酷な発言ばかりくらった。かといって内申点も高くはないし、推薦などもっての外だ。しかし高校で淳と同じ所にいないだけでこんなに辛いのに、これ以上離れられない。
 よって、相変わらず進路を変える気も無いため、しょっちゅう呼び出されている。しかし今日だけは勘弁して欲しい。早く淳を助けにカス校まで行かなければならないのに。すると先生の後ろから見覚えのある顔がぬっと現れた。
「よう、また先生に迷惑掛けてるのか?」
「…………速水!?なんでここに?」
 冴子先生も流石に驚いた様だ。昔の教え子が今、高校の校舎に居るから。しかも堂々と私服で。なにやら周りが騒がしいが、これは女達がいきなり現れた美少年(?)にキャアキャア言っているだけだ。というより以前時期はずれのセブンス祭に堂々と出現した事を覚えている奴等もいるだろう。あの時の事は今思い出してもはらわたの煮え繰り返る出来事だった。あれから暫く達哉はいい笑い者にされていた。殊に達哉を目の敵にしている男どもには。そういう男どもは祐貴を尊敬の眼差しで見ている。そんな様々な視線に晒されているにもかかわらず本人何処吹く風といった感じだ。
「いや、園村から聞いたんだけどさ、ハンニャの奴、更正したんだって?面白そうだから見に来たんだけど。」
「あのねぇ!あの時はラスト・バタリオンがどうのこうので非常事態だったし、セブンス祭は一般人もいたけど、今はなんでもないんだから、部外者は入っちゃダメだろ!!」
 セブンス祭で祐貴が出てきた時には、冴子先生はそれはもう凄まじい形相だった。悪魔の再来を見たかのような(まんまか)この世のものとも思えない顔を。
「いいじゃんか。わざわざ元教え子が来たって言うのに冷たいな。」
「アンタが出てきて、何かが無事で終わった事なんか無いだろ!!平和な学園に問題を呼び込んだのは大体アンタじゃないか。」
 やはりか。
「少しぐらい問題あった方が退屈にならなくて良いと思うけど。」
 少しぐらいの問題ではない。こいつの感覚はもはや大気圏通過して宇宙空間に出ているのでは?ああ、だから淳と気が合うのか。淳と同じで突拍子もない事を言う。
「そりゃあ、アンタは3年前のときも桐島と一緒になって楽しんでたからね。でもそれで振り回されるこっちはたまったもんじゃないっての!!」
「おや、どうしたのかね、こんな所で騒いでたら周りに迷惑だろう?」
「あ、元ハゲ…じゃなくって校長先生。」
 冴子先生、何気に問題発言が漏れてる。
「また周防君か。まあ夢を持つことは良い事だ。教師はそれを支えるのが仕事だからな。頑張ってくれたまえ。」
 例の事件で品行方正(?)になったハンニャが現れた。未だにこの違いには慣れない。が、祐貴はもっと免疫が無いだろう。やはり、物凄く青ざめて口をパクパクさせている。その祐貴に気付いたハンニャがその顔に似つかわしくない笑顔を向けた。
「おお、誰かと思えば速水君ではないか。久し振りだね。元気か?」
「あ、ああ…それはもう」
 祐貴の声が震えている。話には聞いてたらしいがいざ実物を見るとこんなものだろう。
「しかし、校舎に堂々と入るのはあまり感心せんな。」
「ハア…以後、気をつけます…」
 棒読みのまま祐貴は答える。ハンニャは失礼、といって何処かに行ってしまった。単に通りかかっただけだったらしい。
 祐貴は暫し意識が飛んでいたのか焦点の定まらない目つきであさっての方を向いていたが、やがてボソッと一言だけ呟いた。
「誰だ、あれは…」
 全くだ、と思わず同意したくなったがそれよりも、ただ呆然としている祐貴の顔が余りにも珍しかったため、達哉も何も言えなかった。



 有耶無耶のうちに冴子先生の手から逃れた達哉は、急いでカス校に向かった。祐貴は何時の間にかいなくなっていた。あのままで大丈夫だろうかと心配したが、かつて淳が舞耶の部屋に入った時よりはまだマシのようだったから大丈夫だろうと、すぐにほっとく事にした。しかし、麻希やエリー、ブラウンなどはあのハンニャを見ても驚きこそすれ、あそこまで錯乱寸前とまではいかなかった。なぜあそこまで驚いたのかも疑問だったが、達哉には知る由も無い。
 かなり時間が遅くなった事もあって、もう淳はいないかもしれないと思ったが、それならそれで良かった。少なくとも淳ににわかファン(女の)がつくのを免れたのだから。しかしそう上手く行く筈も無い。通りがかりのカス校生を捕まえて聞いた所、淳はまだ学校にいてセブンスの男女がこぞって来ていたそうだ。
 嫌な予感がしてカス校の校門まで来ると、なるほどセブンスの生徒達が校門を陣取っていた。カス校の教師達が追い払おうとしているが数が多く、なかなか数は減らない。むしろ多くなっている様だ。達哉もすぐさま校舎に入って淳を捕まえ、連れ去りたかったが人が多すぎる。そこらをうろうろしていると、セブンスの生徒達が騒ぎ始めた。
「ちょっと、なんであんた達まで来てんのよ!?」
 これは男達に向けられてセリフらしい。
「いいじゃんか、別に。男だって、奇麗なもんは奇麗なんだからしょうがないだろ!」
 同感。それには達哉も納得した。が、見過ごす訳にはいかない。
「大体お前等、以前は周防ばっか見てたろうが!!」
「周防君って、顔だけは良いけど、すっごい無愛想なんだもん。それに比べて黒須君ってば、優しそうな笑顔・・・これからの男は優しさも必要よね。」
 それも言えてる。しかしここにいる奴らは、達哉の存在には微塵も気付いて無いようだ。普段カリスマだとかクールだとかやたらもてはやしているくせに、とも思ったがもうそんな事はどうでもいい。早く淳に会いたい。焦る気持ちが、達哉をイライラさせる。
「男でもいい、奇麗なら!!」
 セリフだけ聞いていれば良かったが(それも達哉にとっては全く良くない)、それを言ったセブンスの制服の男の目は怪しく輝いていて、達哉に危険信号を知らせた。良く見れば、ここにいる男達の目は皆そうだ。達哉は迷わずアポロのギガンフィストで並み居る人々をふっ飛ばし、校舎の中に入った。
 猛突進する達哉は、カス校生徒の目も気に掛けず、速攻で淳のいる3−1に辿り着いた。淳は周りのクラスメートと呑気に会話していた。クラスメート達がやたら馴れ馴れしく見えてなんだか無償にむかついた。
「た、達哉!?」
 驚いた顔して淳が達哉の名を呼ぶ。どうやら外の様子は殆ど見てなかったらしく、達哉が一般人に対してペルソナをぶっ放した所は見てなかったらしい。とりあえず達哉は淳を確認して微笑むと、いきなり淳の腕を掴んで引っ張って行ってしまった。
 そのままバイクを置いた玄関に来ると、何事かと校舎を覗いていたセブンスの連中がざわめき出した。淳の姿を確認した一人が騒ぐと、それは伝染したように見る見るうちに広がり、達哉を不思議そうに見ていた。何故達哉が物凄い形相で淳を引っ張ってくるのか。そういう疑問の視線を感じたが淳を近くに置いた達哉は気にも止めず、無理やり淳をバイクの後ろに乗っけて走り去ろうとした。が、人垣は達哉を通そうとせず、ひたすら壁となって達哉の前に塞がった(達哉にはそう見えただけで、実際には立ち往生しているだけ)。
(ちっ、何処までも鬱陶しいやつらだ!だがこの程度でどうにかなると思うな。見てろ!)
 達哉はバイクのエンジンを全開にして人壁に突っ込んだ。
「必殺!超ノヴァサイザーRX!!!!」
 ノヴァサイザーを連続で出しながらバイクで突っ込み、壁が吹っ飛び散り散りに別れた中を達哉と淳を乗せたバイクは走って行った。
 二人が去った後、カス校の中で殺気が漂っていた事は達哉は知らない。ただそれを近くのビルからオペラグラスで終始見ていたある人物が薄く笑っていた。



 平坂区の小さな公園まで来た辺りで、ようやく人もまばらになり、二人は落ち着いてベンチに座った。
「助かったよ、達哉。なんだか今日はセブンスの人たちが多くってさ、校門が凄い事になってたよね。一体如何したんだろ?」
 紛れも無くセブンス校内新聞のせいだ。あれで淳を見た奴等がこぞって実物を見に来たのだ。ふざけるな。保護者の許しも無く淳に易々と近づくな。そういう輩は一人残らずノヴァサイザーの餌食にしてやる。さっき既にやったか。まあいいや。あまりの事で淳だって見てなかったろ。
「それより達哉、君一般人に対してペルソナ使ったろ。」
 ばれてた。慌てて弁解しようとするが言葉が出ない。淳は暫く目を吊り上げて達哉を睨んでいたがやがて顔を緩め微笑んだ。
「まあ、今回は助かったし。有難う。でも今度からはあんな事しないでよね。」
 怒った顔も良いがやはり淳は笑った顔が一番だなぁ…と淳に見とれていると、後頭部に強い衝撃を受けて達哉は前のめりに倒れた。
「なにデレデレしてんだか。」
 この、達哉を苛立たせるクールな声は一人しかいない。
「あ、祐貴さん。こんにちは。」
 右腕を振り回したまま爽やかに祐貴は答える。
「よう、さっきは大変だったな。」
「え…見てたんですか?」
「うん。しかし淳君ってもてるなー。あんなに人垣ができてんだもんな。」
「え…あれってミッシェルのファンじゃなかったんですか?」
 相変わらずはずした解釈をしてくれる。あれを栄吉のファンだと思ってたとは。ん…?
「じゃあ、なんでお前今まで校舎にいたんだ?」
 見たところ他のカス校生は皆普通に帰ってた筈だから、淳がそう思ってたのなら帰ろうとしてなかったのはおかしい。
「クラスメートが言ってたんだよ。あの人垣があるうちは出ないほうがいいって。」
 なるほど。それで疑問も持たずきっちり教室にいたのか。しかし今日のはともかくこいつはいつもこうなのか?いちいちカス校生の言う事を聞いてやるのか?それではいつ下心を持つ輩が出てくるか心配でしょうがないじゃないか。
 達哉が一人葛藤している間に祐貴はずっと薄笑いをしていた。そしておもむろに、達哉にはっきり聞こえる声で淳に尋ねた。
「クラスメートとは仲良くしてるのか?」
「ええ、皆優しい人達ばかりで。特に僕と同じ様に進学目指している人とは…」
 カス校でも淳以外にそんな酔狂な奴がいたのか。いや、それって間違い無く男だろうが。すると進学ってのは建前で、真の目的は…
 達哉はがばと立ち上がると淳の肩を掴んだ。
「淳!!そんな奴等信用するな!!そいつ等はお前が目当てなんだ!」
「はぁ……?」
 訳が分からないという顔。要領を得ないのは初めから分かっている。が、どうしても気にせずにはいられない。
「お前みたいな奴があんな所に居たら変態の格好の餌食じゃないか!!」
「タコ男の基準に従ったら世界中の人間は変態だよ。」
 祐貴がまた要らん一言を。コイツは分かってないのだ。男子校という猛獣の住処を。しかし達哉だって男子校など行った事は無いのだから実態は知らないはずで、これは達哉の勝手な思い込みである。
「何言ってんだか。変な達哉。」
 淳は相変わらず要領を得ていない。困惑したままに達哉に全く関係の無い質問をする。
「ねえ達哉、あのセブンスの人達って、なんで今更ここに来たんだ?」
 今更?それは一体どう言う事だ?今度は達哉が困惑する番だった。
「セブンスの校内新聞に、雪山での事が載ってたんだよ。タコ君は目立つからな。俺らはとばっちりだよ。」
「勝手な事言うな!!大体、この情報流したのはお前の仲間だろうが!!」
 淳の一言も気になるが、祐貴には勝手な事ばかり言わせたくない。しかも余計なデマを流して迷惑撒き散らしたのは紛れも無く祐貴である。
 淳は暫く達哉と祐貴の会話を聞いていたが、やがて飽きたのかこのまま帰ると言って駅ビルに行ってしまった。達哉は思いっきり心配したが淳は聞いてない。残された達哉は、颯爽と去ってしまった淳を想いつつ、バイクにまたがって帰ろうとした。すると、祐貴が独り言の様にある事を呟いた。
「まさか、ここまでとは意外だったな。まぁ予想通り淳君の人気が上がってタコバイク野郎はますます怒り狂う。やっぱおもしれー、馬鹿をからかうのは。南条と黛に頼んどいて正解だったな。」
 ……!?非常に聞き捨てならない事をまた聞いた気が…
「おい!!まさかこの一件の黒幕はお前か!?あのデマだけじゃなかったんだな!?」
 本当は馬鹿と言う所にも突っ込みたかったが今は後回しだ。
「黒幕なんて人聞きが悪いな。俺はちょっと手を出しただけだぜ。以前ピーダイで知り合ったチカリンって奴を偶々見つけて色々知ってる事をある事無い事辺り障りの無い程度に話して、後は南条と黛に任せてな。」
「……要するに、お前が上田に適当に情報を流して興味を引いたところで南条さんと黛さんに任せた。二人はもうアンタから大抵の事は聞いたと思ってたから自分の知ってる事をペラペラ話したって事か…?しかも無い事って事は話を捏造したって事だな!?」
「察しが良いね。成績悪い割に。」
「うるせえ!!そういうお前は成績はどうだったんだ!?」
 良く考えなくとも、祐貴は中国に留学しているのだから少なくとも達哉よりは良い筈。でもやはり言わずにはいられない。
「別に教えてもいいけど・・・お前が聞いたら後悔するかもよ?」
 祐貴はいつもの薄笑いで答えた。しかし元々言う気は無いらしい。達哉が黙っていると祐貴は去ろうとした。まさかハンニャがあんなになってるとはな…とぶつぶつ言っていた。どうやらあのショックはまだ抜けきれて無い様で、達哉の前に現れたのはその八つ当たりといった所か。良い迷惑だ。
 そのとき、ふと思うところがあって祐貴に尋ねた。
「ところで、黛さんはともかく、よくあの南条さんがそんな頼み引き受けたな。」
 ゆきのだってそんな下らない事に付き合うとは思えなかったが、一緒に行動してて彼女に結構愉快犯めいた部分があったのは間違い無い。しかしあの南条が、いくら仲間の頼みでもそんな馬鹿な事を受けるとはどうしても思えなかった。それを聞くと祐貴は、いつもよりも更に悪魔じみた笑顔でこう答えた。
「人間である以上、弱みなんていくらでもあるものだよ。」
 その瞬間、達哉の体中の血液が凍りついた気がした。意識がまたしてもフィレモンの所に行きそうで、祐貴が去り際に残した言葉も聞いてなかった。
「あ、お前さっき命令に反して淳君に触ったよな。罰としてお前の財布から一万取っといたから。これで淳君や杏奈ちゃんでも誘ってなんか食いに行くよ。じゃーな。」
 達哉がそれに気付いたのは、家に着いて暫く経ってから、淳の電話で祐貴に奢ってもらったという話を聞いた後だった。淳は達哉が一万出してくれたからというお礼のつもりだったらしい。淳のためなら…と思いつつ、祐貴への殺意を胸に達哉は改めて強くなりたいと願った。それともう一つ。淳が公園で口走った事。"今更"とは、自分が黒須純子の息子だからという理由で来たと思ってるらしい。
 しかしどちらにしろそんな事を知っているセブンスの生徒なんてあまりいないのだから今更も何もない。いつもながらはずした事を言ってくれる淳に、思わず達哉は脱力した。
 それはそうと、淳と杏奈を誘ったのは祐貴の嫌がらせなのか、と悩んだ事も明記しておく。



 放課後のセブンスにて、達哉がカス校に向かって突っ走った頃、リサと雅はチカリンと色々話していた。この時、リサの友達の麻美と未歩もいた。ミーハーな未歩は写真に載ってる美男子達に目を奪われていたが、麻美は何か思うところがあるようで、真剣に写真を見つめていた。リサはそれに気付く事無く、やたら騒いでいた。
「ソイロ…やっぱ情人はわたしの事なんとも思ってないんだなぁ…でも諦めないからね。いつかきっと情人を振り向かせてやるんだから!!」
 熱血するリサを、未歩は愉快そうに笑ってみながら無意味に拍手していた。  チカリンは雅に注意されていたが、この程度で反省する人間でも無いので、チカリンはまだまだ不気味に輝いていた。



 セブンスは次の日も騒がしかった。今日は昨日出た新聞の補足があった。達哉が悔し紛れにチカリンに教えた祐貴の出身校だが、ここから妙にたくさん祐貴やそのほかの仲間達の情報が流れ、彼等は数日間セブンスの生徒に纏わりつかれる事となった。祐貴は人に追っかけられるのは好きでないようで、うんざりしている姿をしばしば見かけた。それを見るたびに達哉はほくそ笑んだ。
 この件で達哉は、新聞の脅威を改めて知り、下手な事は出来ないと思った。その教訓も淳の前では風の前の塵に同じであろうが。

すっごい久々すぎて前回の話を忘れてしまいました(おい)
この話って一応3学期開始直後辺りの筈です。3年の3学期って受験体勢に入る頃なので学校には来なくなる頃なんですよね。高校時代が今更ながら懐かしい(爆)


このページは GeoCitiesです 無料ホームページをどうぞ