マヤ文明における冥府・シバルバー。何の因果か達哉達は今そこにいた。ただの平凡(?)な高校生だった彼等がこんな所に居るのは間違い無くあの、真夏に赤いマフラーの変態親父の所為である。本当はもう一人原因らしき人物は今ここにいるが、それをうっかり口に出すと訂正する間もなく何処からともなく飛んでくる核熱魔法に身を焦がされるのは間違い無い。
さてこのシバルバーでは、先程からやたらと不思議な事が起きる。予想した罠がそのままに出てきたり、ベルベットルームや回復の泉がいきなり出現したり、街に戻れる装置があったり…そして聖槍騎士団との戦闘が終わった時、舞耶がとんでもない事を言ってのけた。
「え〜!!?思考が現実になる〜?」
リサ、栄吉、淳の三人は揃って大声を上げた。普通なら信じられない事だが、そう考えれば納得のいく事が多すぎた。それに気付き、沈黙した三人だったが、そこにまた大きな声で不服を申し立てる人物が居た。
「そんな馬鹿な事、有る筈がない!!!!!!」
達哉はいつになく真剣な面持ちで叫んだ。意外と現実派だったんだ、とその場に居た四人が驚いた。
「意外と頭が固いネェ〜、確かに納得行かない所は随分あるけど、舞耶ネェの仮説はジャストミートだと思うよ、ホォォォォォゥゥゥウ!!」
しかし達哉は栄吉を一瞥してから他の三人に向かって文句を言った。
「思考が現実になるなら、今頃俺と淳は☆♪×△★霎で&★*$♪×霎の筈だ!!!!!!!!(余りにもエグイ表現の為自主規制)」
「………………………」
その恥知らずな言葉に舞耶もリサも栄吉もその場に固まった。淳などそのまま燃え尽きてしまいそうだった。四人に共通している所といえば、虚ろになった瞳だろう。
「達哉クン…」
「情人…」
「タッちゃん…」
舞耶・リサ・栄吉が虚ろなままそれぞれ達哉を呼んだ。何を言えばいいのか分からないという表情で。暫くして舞耶がやっと言葉を紡いだ。
「達哉クン…そんな事考えてたの…?」
「悪いか。考えるだけなら自由だ。思想の自由は日本国憲法でも認められているだろ。」
そういう事に日本国憲法など持ち出す達哉の思考回路が訳分からない。第一そんな事で憲法論を持ち出されてもどう言えば良いのか対処に困る。ていうかそこまで分かり易く生々しい事を言ってて開き直るな。
「…ってゆーか、そういうのって憲法は関係無いでしょ?」
漸くショックから脱出したらしいリサが尤もな突っ込みを入れた。
が、やはり達哉は相手にしない。
ちなみに、達哉がこんな風に淳との事について暴走するのは今に始まった事ではないが、流石に今回はストレート過ぎた。
それも、金牛宮で達哉が「淳しか見えない」などとのたまってから関係が「恋人!?」になったはいいがそれ以来全く進展が無いのが達哉としては大いに不満だったらしい。そんな事達哉は誰にも言っていないのだが見てればすぐ分かるぐらいにはっきりしていた。大体、淳にはその気が全く無いらしい事から達哉の勝手な暴走がひたすらヒートアップしているというのが現状だ。
彼女との関係が丸く収まった栄吉は事あるごとにノヴァサイザーという名の八つ当たりの犠牲になっている。
ともあれ、達哉のこんな爆弾発言に対して淳は何の反応も見せない。聞いてなかったという事は無いだろうから、対応に困っているのだろうか。達哉が恐る恐る淳の顔を覗き込む。淳は笑っていた。いつもの微笑で、奇麗な顔を緩めて。ただ普段と違う所は、漆黒の瞳は全く笑ってないという事だ。口元は確かに微笑を見せているが、それだけに目元が全く笑ってない無機質な今の表情はジョーカーの様であった。
「考えるのは自由、ね…」
静かに、しかしはっきりと言葉は達哉の耳に残った。背筋が凍る思いとともに。達哉はその様子にいつになく危険を感じ、慌てて弁解する。
「い、いや、あれは売り言葉に買い言葉ってヤツで、その…」
「いいよ。確かに考えるだけなら自由だから。それでもしその思考が現実化したとしても誰にもそれを責める事は出来ない。」
笑顔で淳は答えた。さっきからの冷たい笑顔で。そのまま達哉から背を向けて言葉を続けた。
「だから、今ここで僕が考えたことが現実化したとしても、仕方ないことだよね。例えば、今ここで何故か達哉の天敵であるお兄さんが現れて達哉のこめかみに拳銃を突きつけるとか…」
「な…」
達哉がなにか文句を言おうとしたが、その言葉は吐き出される事は無かった。鉄の塊のようなものが達哉のこめかみに突きつけられたのに気付いたからだ。淳を除く他の三人も流石に動揺の色を隠せない。達哉のすぐ傍で拳銃を手にしているのは、さっき淳が言った通りの人間だったからだ。
「…猥褻罪により、貴様を逮捕する!」
「この程度で逮捕かよ、この国には思想の自由があるってのは形ばかりか?逮捕しても誤認逮捕とかで逆にてめえがしょっ引かれるんじゃねえのか!?」
「って、そういう問題か?」
達哉の反撃を何かが違うと思いつつも自分の所に火の粉が降りかかってくるのが怖い栄吉は既に2メートルほど離れていた。舞耶とリサはただ呆然として突然現れた達哉の兄(メタル・ブラザーと名が付いている)を見つめていた。
大体、偽者の兄に真面目に法律について語っている(大いに解釈の間違いが有り)達哉も達哉だが、こんな事態を引き起こした元凶の淳は淳でもはや他人の振りを決め込んでいる。
「大体、貴様のような倫理も常識も何も判ってない若者がのうのうとのさばっているから少年犯罪が一向に減らんのだ。全くもって嘆かわしい!」
「そうやって若者がどうのこうの言うのは年取った証拠だぞ、クソ兄貴!」
「犯罪常習人間の代表たるお前に発言権など無い。覚悟しろ、変態少年T!!」
「ちぃっ!いい加減決着はつけなきゃとは思ってたんだ。丁度いい、今ここでケリをつけてやるぜ!ノヴァサイザー!!!!!」
変態、という言葉は否定しないのか…という三人の心の突っ込みは当然兄弟(片方は偽者)の耳には入らなかった。
一時間もの死闘の末にメタル・ブラザー(笑)を倒した達哉は、天敵とも言える兄を倒した事で一人悦に入っていた。そんな中、達哉に冷や水をかぶせるような淳の一言。
「やっぱり僕は克哉さんの強さなんて知らないからちゃんと具現化できないんだね。今度はちゃんと想像できるヤツで達哉に天誅を下さなきゃね。」
…天誅?
それはこの状況を考えれば淳が一番言ってはならないことでは?という疑問はあったが、今の目の据わった淳にそんな命知らずな事を言う勇気のある人間はこの場にはいなかった。心の何処かで『それぐらいした方が達哉には丁度いい』と誰もが思っていたからかもしれない。
「そうだなぁ…僕の父さんなんか人並み外れて凄いからいいかも。あ、後シャドウ達哉もいいかな?」
…淳の親父?それは確か水晶髑髏を巡ってドイツのアホ独裁者と争っている、最後の敵(予想)の筈だが。しかも淳はその親父と仲違いして敵対しているというのに、そんな風に自慢するみたいに語られても困る―――と、その場の三人は心の中で絶叫した。
そうこうしている内にやはり何処からかメタル・ファーザー(淳の親父)×50(目測)と目つきの悪い達哉(恐らくシャドウ達哉)×30(これまた目測)が現れ、その全てが一斉に達哉めがけて襲いかかった。
「な、なんでこんな大量生産してんだよ―――!!?」
「淳!!いくら何でもやり過ぎだよぉ!!!情人が死んじゃう〜!!!!」
「あれ、僕じゃないよ。」
「………は?」
栄吉とリサは一瞬、淳の言った意味がわからず、その場に固まった。
「僕は大量生産なんて考えてないよ。大体、達哉が倒されてもまだ敵が残ってたら自分達で何とかしなきゃならないじゃないか。」
何だか言ってる事がムチャクチャ鬼畜だが、そこらへんはあえて無視しておいた。
「…てことは、これは別の人の思考って訳?」
リサが怪訝な顔で呟いたその時、舞耶があっけらかんと言う。
「あ、それは私。大量生産したら面白そうだなーって。」
「………………」
もはや何も言うまい…という訳にもいかない。百歩か千歩譲って淳の思考は認めるとしても舞耶の思考には何か言わなければならない。
「舞耶姉さん、あのメタル達がこっちに来たらどうするんだよ。」
栄吉とリサが心配しているのもそれである。達哉よりも自分たちの心配をするとは何とも冷たい連中とも言えるが、その点に突っ込んだ所で達哉をそれだけ信頼しているのだ、という誤魔化しの返答が来るだけだろう。そもそも達哉がメタルを倒すのも黙って傍観しているのである。そして今も助太刀する様子は無い。
「達哉クンがぜーんぶ倒せたら良いんでしょ?大丈夫、お姉さんに任せなさい!!」
そう言って舞耶は達哉に大声で呼び掛けた。
「達哉クン!!一人でメタル全部に勝ったら淳クンがキスしてくれるって〜」
「なっ…!!」
「ファーンナ!!舞耶ちゃん、どーゆー事よ!?」
淳とリサがそれぞれ文句を言いたそうだったが舞耶は奇麗に無視し、達哉もあっさりその気になっている。
「そ、それは本当か!?」
もの凄く嬉しそうである。今の達哉は、そのメタルを呼び出したのが淳本人である事も奇麗さっぱり忘れてる様だ。
歓喜の声を上げつつも確認する達哉に、舞耶がしっかりVサインを決めた。
「だーいじょうぶ!!お姉さんにまっかせなさい!!!!」
「よっしゃあ―――!!そうと知れば速攻でぶっ殺してやる!ノヴァサイザー!!!!!!」
破竹の勢いでメタル達を倒していく達哉を眺めながら淳は不安そうに舞耶に詰め寄った。
「舞耶姉さん…一体、どういうつもりなんだよ…」
「そーよ舞耶ちゃん!そんなの他の誰が許してもわたしが許さないからね!!」
すると舞耶は意地悪そうな笑みを浮かべて呟いた。
「達哉クンが、一人で、メタル達全てに勝ったら…としか言ってないから…」
達哉が。
一人で。
全勝する事。
「舞耶姉さん、それって…」
「アチョ〜!!!!」
言うが早いが、リサは確認するまでも無くメタル達に向かって蹴りを入れた。ただ、そのメタルは丁度物理攻撃無効だったらしく全く効いた様子はない。
「舞耶ちゃん!それって、わたしが情人に加勢すればさっきの事は無効って事よね!?」
「な、何いいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
達哉が絶叫した。それを見て舞耶は吹き出しそうになるのを必死で堪えながらリサに同意した。達哉は暫し立ち止まった後栄吉をものすごい形相で睨みつけた。何かを訴えている様でもある。
一時の沈黙の後、栄吉はヤレヤレと頭を掻いてリサに向かってムドオンを放った。アールマティを降魔していたリサは簡単に瀕死になり、結局メタルに1のダメージも食らわす事は出来なかった。栄吉は達哉についた…というより脅されて服従した。これでは淳もおいそれと行動できなくなった。淳が今降魔しているのはウルズ。さっきのリサのように瀕死になるのは目に見えている。
尤も達哉に脅された栄吉が淳に危害を加える事などある訳がないのだが、そんな事を淳が解っている訳がない。
そうしているうちに達哉の前には残り一体のメタル・達哉が鬼の形相で達哉を睨みつけていた。達哉の方はかなり浮かれた顔をしている。身体そのものは大ダメージで立っているのがやっとと言った状態だが。そこまでして淳にキスして欲しいかと呆れる傍観者達だったが淳は事情が事情なだけにかなり焦っていた。
(どうしよう…このままじゃ…この最後の一体と達哉が相打ちになってくれれば良いのに…)
焦った顔をしていても考えている事は物凄く酷い。そんなに焦っていても心の何処かは冷静だったのか、達哉とメタルが互いに斬りかかる瞬間を見逃さなかった。そのとき淳の手には高嶺の花が握られていた。
「あははー、残念だったわね、達哉クン♪」
「………」
何処か釈然としないと言った不機嫌な顔の達哉は黙ったまま淳を睨みつけている。その淳は先程達哉の頭に刺さっていた高嶺の花を玩んでいる。達哉の視線に気づかない訳がないのだが淳はあえて無視していた。
それも其の筈、達哉とメタルが同時に斬りかかった瞬間達哉にトド メを差したのは他でもないこの淳だからである。達哉のレーヴァテインがメタルを袈裟懸けに斬る直前に高嶺の花は見事に達哉の脳天を直撃した。ちなみに栄吉は流石に淳が達哉を攻撃するとは思ってなかったらしく、素晴らしいタイミングだった淳の攻撃の邪魔をするのを忘れていた。舞耶は、達哉が倒れた直後メタルにクレセントミラーを直撃させ、ここにメタル大襲撃は幕を閉じたのであった。
達哉は、その一連の事実を知らない。リサは瀕死だったし、栄吉は黙秘を決め込んでいる。
淳と舞耶に至ってははぐらかすだけでまともに言おうともしない。
なんにしても、あれだけ頑張ったにも関わらず結局報酬は何も無しという結果に収まった達哉はその後暫くいじけていた。
余談だが、達哉に向かっていったメタル・ファーザーの中に一つだけ金色に光っていないのがいたような気がすると栄吉がちょっとだけ気にしていた。
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大分昔に冗談のつもりで書いたシロモノですが、発見してしまったので取り敢えずUP。
罪では淳が好きだった為、金牛宮で即「淳しか見えない」と選んでしまい、その後の関係が「恋人!?」になっていた事に大笑いした経験があります。私はあの選択肢、「栄吉好きだー!」と同じで演技の入ったギャグかと思ってたんですが(死)
私は達淳ではありません。こんなの書いておいて説得力無いですが。淳には杏奈の方が似合うと本気で思ってます(またマイナー・・・)
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