ラジアータ城下町の食堂の看板娘ユーリには、ある悩みがあった。それは、長い事テーブルに陣取って居るのに注文の一つも取らず、延々読書したりボーッとしているだけの迷惑な客。せめてドリンク一つでも注文してくれれば角が立たないのに、それすらしない。彼らは一体、何をしに来ているのだろうか。あの、アルドーとガレスは。
「というわけで、話を聞かせてもらいましょうか。」
いつもの席について、いつものように何も注文しない二人のテーブルの脇に立ち、ユーリは目をつり上げた。その行動に、読書していたアルドーが顔を上げ口を開く。
「いきなり何だ?オレ達捕まっちまいそうな雰囲気なんだけど?というか怖い顔してるな。」
「食堂に来ておきながら注文の一つもせず平然と居座る人は営業妨害よ。」
アルドーは宥めるように手を振るが、ユーリは意に介さない。相手の言い訳は聞かないという態度だ。
「だからさ…」
「客として扱われたいなら、注文くらいして。嫌ならここに来ないで。あなた達が居座って…ても集客率には何の問題もないでしょうけど、見逃してばかりもいられないわ。」
「言ってて空しくならなかったか?」
「…少し。」
自分で口走った割に罰の悪そうな顔をするユーリだが、またすぐに立ち直り、人差し指をびしっとガレスに向けた。
「あなたに至っては何もせずボーッとしているだけだし!!一体何をしに来ているの!?」
「付き合いで来ているだけだ。」
さらっと一言、どうでもよさそうに答えるガレスに、ユーリはそれでもめげずに食い下がる。
「なら、この食堂に長居する付き合いで、何か頼んで。そうするなら私は文句言わないわよ。」
「無理だ。」
「何で?」
「断食の修行中だ。」
きっぱりと断るガレスに、いやその理由に、ユーリは開いた口が塞がらなかった。ダイエットじゃあるまいし、断食なんて信じられない。しかしガレスは嘘をつくような人間ではない。むしろ無口な彼は、嘘をつくなんて下らない事のために口を開く事はない。何せ一度口を開けば百年は喋らないと評判で…
「勝手にオレを霧扱いするな。」
ユーリの心の声はいつの間にか外に漏れていたらしい。表には出さないか一応呆れているらしいガレスの文句は無視して自らの言い分を主張する。
「とにかく、食堂に来て何も飲み食いせず帰るなんてマナー違反よ!!そんなの絶対許さないから!!」
「許さないって…もしかしてオレ達、今後入店禁止?」
冗談だろと苦笑いしながら白い歯を見せるアルドーに、ユーリはにっこり微笑んだ。
「いいえ。お父さんの汗が染み込んだシャツを持ってきて」
「すいませんオレ達が悪かったですごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
ギスケの汗なんて何されるにしてもごめんだとばかりに大きく首を横に振るアルドーに、ユーリは勝利の笑みを浮かべた。
しかし、それで勝利宣言は甘かった。
しかし次の日、いつものように食堂に現れた彼らは、いつまで経ってもユーリを呼びに来ない。わざわざ席を立って注文に来るのも馬鹿馬鹿しいと思っているのだろうか。この食堂は1階と2階の両方を使っているくせに従業員がユーリしか居ないものだから、客の対応は全てユーリが行っている。とはいえ、客の数自体はそう多くないので苦労していない。
適当に暇が出来てから様子を見に行くと、彼らはやっぱりいつもの席にいた。相変わらずアルドーは何かを一心不乱に読んでいて、ガレスはボーッとしている。昨日の話をもう忘れたのかと半分怒りながら二人のテーブルに歩み寄る。そして、一言きっちり言ってやろうと息を吸い込んだその時、アルドーが手にしているものを見て止めた。彼が読んでいたのは食堂のメニューだった。まさかと思い、怒りよりも呆れが強い感じで話しかける。
「もしかして、ずっとメニュー見て悩んでいたの?」
それならそれである意味問題ないが、別の意味で頭を抱えたくなる。どれだけ時間が経っていると思っているのか。いくら何でも優柔不断すぎるだろう。
半ば自分で言った言葉を否定してほしい希望はあったが、現実はそんなに優しくない。
「席についてからずっと、こんな調子だ。」
やっぱりそうなのか。
「あなたはずっと彼に付き合ってここに居るの?」
そう言うガレスは見たところ何もしていない。普段からボーッとしているから苦痛ではないだろうが、普通目の前で延々悩んでいる人間が居たら、ウンザリしないものか。
「こいつは事前に色々計画を立てて準備を整えていても、その時になったら絶対に迷って自滅するタイプだ。」
「だから、こうなる事は目に見えていた?」
ユーリが確認するとガレスは無言で頷く。一応同じ隊の仲間だけあって慣れているとの事。
「ならアドバイスの一つくらいしたら?私がおススメしても良いけど、私だっていつもいつも相手出来る訳じゃないし。」
「その割にオレはいつもお前と話している気がするが。」
「忙しいのは昼時なのよ。」
逆に言うと、昼時でなければ仕事中に世間話する余裕があるという、いかにも情けない事実が露呈される。
「そうか。」
ガレスは余計な事は口にしない。食堂の売り上げなど彼にとってはどうでもいい事なので話題にする意味はない。
「で、アルドーさん。ご注文は決まりましたか?」
呆れ口調でアルドーに問うユーリの眉間に、僅かに皺が寄っていた。いい加減苛立ってきているようだ。
「アルドー、早く決めろ。迷いは判断を鈍らせる。」
「正しいんだけど…こういうところで言う事じゃないと思うな。」
ガレスの言い方では、まるで戦場に居るような気分になる。しかしアルドーはその言葉を聞き入れ、メニューから視線を外した。
「そうだな。じゃあこれとこれとこれとこれとこれとこれと…」
「ちょっ、待ってよ!!本当にこれ全部食べるつもり!?最高記録のデイビッドさんを上回るわよ!?」
「何の最高記録だ…」
ガレスが呆れるが、もはやユーリもそれどころではない。一人じゃ到底食べきれない量なのに注文するのはあまりにも無計画すぎる。しかしアルドーは譲らない。
「あれこれ悩むより、食べたい物全部頼んだ方が良いだろ。ちゃんと金は払うからさ。」
「う〜ん…」
頼んでくるアルドーに、ユーリは渋々ながらも同意した。注文してくれるのだから、それくらい良いだろうと。
しかしその後、食事を終え店の前でガレスと話し込んでいたアルドーが突然猛ダッシュを始め、トイレに駆け込んだ事を知った時、ユーリはやっぱり後悔した。
「…で、ガレスさん。あなたはやっぱり注文しないの?」
「断食の修行中だ。」
「ローレックさんに聞いたわよ。あなた、朝と夜はちゃんと食べるそうね。」
「昼食を抜く修行だ。」
「それ、断食じゃないでしょ。」
「修行の本にあったぞ。他にも食事はリンゴだけとか。」
ガレスは何かを盛大に勘違いしている。ユーリはため息をついて訂正する。
「…それ、修行じゃなくてダイエット。」
「………。」
確かこの二人はテアトルで同じチームとして働いているそうだが…隊長の人は大変そうだなとユーリは何となく思った。彼女は隊長のシーザーの顔は知らないけれど。
どちらにしろ、店の前で腹痛起こしてダッシュはイメージダウンに繋がってしまうので、それ以来ユーリは二人に注文を要求することは無くなった。
…それでも腹痛ダッシュをするのは嫌がらせか?
*********************************************** アルドーとガレスは食堂に行きますが、何かものを食べている描写がなかったような気がするので、何となく書いてみました。…食べてたっけ?
ユーリってギスケの娘なんでしょうか?それとも奥さんとか…?
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