トモダチ




 ジーンの悩み、それは「友達」。
 過去に何か嫌な経験があったらしく、進んで人と付き合おうとしなくなった精神的引き篭もりだが、それでも実は寂しいので友達といえる存在が欲しいらしい。そんな彼の心の隙間に(運良く)付け込み(ストーカーされて)仲良くなったジャックという少年が居るが、ジーンの友達手帳はまだ一つしか埋まっていない。
 その件についてジーンは、唯一の友達であるジャックに相談した。
「項目を増やしたい?だったらオレと同じことすりゃ良いんだよ。一人に目星をつけて、ひたすら追い回す。そしたら困っていたりする事があるから、タイミングよく手助けする。こうすりゃ感謝されたり仲間になってくれたりするんだぜ!」
「ストーカー以外で何とかならないか?」
 明るい顔して堂々「ストーカーしろ」と言われてジーンは非常に困っている。そもそもストーカーで仲間を増やしているジャックに相談したのが間違いだったのか。
「それ以外だと…そういや、他の連中はどうしているんだろ?」
 ジーンの持っている手帳と似たような名簿はジャックも持っている。しかし彼のはテアトル・ヴァンクールの受付に置いてある。実はあそこにはジャックだけでなく大勢の戦士たちの分が置いてあるのだ。中にはジーンのように持ち歩いている者も居るようだが、大抵はあそこに預けてある。
 要するに、テアトルの戦士は皆こういうものを持っているのだ。しかしここの戦士たちは曲者が多く、どうにも社交的な人間が少ないと思う。そういう人達は一体、どうしているのだろうか?
「聞いてみるか」
 ジャックの提案にあっさりジーンも乗り、二人はテアトルに向かった。




 テアトルの受付のテーブルに、カルロスが座っていた。まずは彼にしようとターゲットを捕捉する。
「名簿?見たきゃ見ても良いぜ。そんな面白いとも思えんがなぁ」
 実は勝手に見ても問題ないのだが、一応本人に了承を得て名簿を拝見させてもらったところ。
「え〜と、デイビッド、ジャーバス、ダニエル…こんだけ?」
 名簿にはたった3人の名前しかない。しかも牢野番の彼が仲良くなるにはちょっと謎なのがいる。本人に訊いてみると、
「ああ、テアトルの牢屋の常連だな。酒飲んで暴れたり迷惑掛けたりすると入れられるんだが、常連のそいつらとはいつの間にか顔なじみになっててなぁ」
 何とも情けない理由。しかしそれでは説明つかないのもいる。
「ダニエルも何かやったの?」
「そいつは隊長の迎えだ。しょっちゅう来るから顔覚えちまった」
 まさか、かつて自分が所属していたチームの仲間がこんな妙な常連になってしまっているとは。情けないやら、悲しいやら。とはいえ、周囲に言わせればジャックも大概なものである。
「そういやデイビッドって何処のチームなんだ?」
 思えばあいつは一応名簿に記載しているが、何処のチームだとかチームメイトは誰だとか全く知らない。そんなんで良いのかよ、とジーンが無言で見るが、ジャックとしては全く差し支えの無い問題であった。
「デイビッド?あいつはセプティモの隊長だ。といっても、未だにメンバーはあいつ一人だけどな」
「だせっ!!」
「以前ローレックがチームに入ろうかどうか悩んでいたが、延々架空の幼馴染の惚気話を聞かされると聞いて止めたしな。そんなわけで周囲の人間が引き止めるから、未だにチームは一人だけなんだ。これは副長公認で大隊長も黙認している」
「良いのかよ、それ」
 周囲がグルになってデイビッドをハブにしているとしか思えない仕打ち。確かに惚気話は非常にウザいが、それはそれで良いのかよと思う。が、すぐにその考えは撤回する事になる。
「最短記録は7時間だ」
「全くもって正しい判断であります、はい」
 ジャックは簡単に掌を返した。所詮そんなものである。




「てなわけで、あいつがどういう交友関係を持っているのか徹底的に調べるぞ」
「お前、一応仲間なのに知らないのか?」
「知らね」
 この時いい加減ジーンはジャックに疑問を持ったようだが、結局何も言い返さなかった。
「まずは名簿だな。なあタナトス、デイビッドの名簿見て良いか?」
「…普通無理だろう」
 至極真っ当なジーンの突っ込みが入るが、彼は未だテアトルのルールを理解していない。
「いいぜ」
 あっさりOKするタナトス。ジーンが不可解そうにしていたが、彼はテアトルに馴染んでないのでルールを理解していない。名簿に関しては「受付に置いてあるものは勝手に見て良い」というものだ。嫌なら自分で管理すれば良い。その程度のことだ。つまり、ここに名簿を置く=見られても文句は言えないというものだ。プライバシー保護などという一般的なルールはテアトルには存在しない。尚、これらの件に関してエルウェン大隊長はノーコメントである。
 というわけでデイビッドの名簿を覗く。最初は渋っていたジーンも開き直って堂々と見ている。こうしてまともな感覚の人間はテアトル色に染まっていく。どう見てもヴォイド・コミュニティーより性質が悪い。一説には、かつてテアトルにいたノクターンは、かつて受付に預けていた自分の名簿を他人に見られたのが原因で去ったとか。あくまで噂なので本気にしてはいけない。
 何はともあれ、デイビッドの名簿を開く。すると…
「あれ?意外に多いな。あいつ、隊員一人捕まえられないくせに知り合いだけは多いんだな」
 テアトルのほぼ全員の名前と、オラシオン教団のコスモなど武道派、何故かヴォイド・コミュニティーのフラウまである。後、何故かピンクの文字で大きく「ミント」と書かれていて、幼馴染だとかとにかく色々情報が書かれていた。何だか個人情報っぽいものまで。怖い。
「…あいつ、ストーカーじゃねえだろうな?」
「仮にそうだとしても、お前には言われたくないだろうな」
 キング・オブ・ストーカーのジャックに言われたらお終いだ、とジーンは思ったが、そこまでは口にしない。デイビッドが怖く感じたのは事実だから。
「ん?お前ら何してんだ?」
 突然背後から掛けられた声に、ジャックとジーンは飛び跳ねる。いくら自由に見て良いと言っても、こんな強烈なのを見ているときに声を掛けられると居た堪れない気分になる。というか、この場でデイビッド本人が現れたら非常に気まずい。
 が、幸か不幸か、声を掛けてきたのはデイビッドではなかった。
「あ、アルドー…とガレス。いや実はさ…」
 声を掛けてきたアルドーと、恐らく彼についてきているだけのガレスにデイビッドの名簿の話をすると、アルドーは楽しそうに大笑いする。ガレスは後ろで呆れたようにため息をついている。
「あっははははは。気にするなジャック。デイビッドのは全部あいつの妄想だ」
「え、妄想?」
「ああ。あいつにとっちゃ、ちょっと話をしただけで仲間とか友達らしいぜ。まあ楽しいから皆気にしないんだけどな」
 ああ、だから親しいとも思えないフラウの名前があったり、テアトルの皆の名前が入っているのか。流石に大隊長の名前は無かったが、ジェラルドの名があったときは流石に仰天した。
「そういや、ミントとかいう人も話が食い違ってたな。デイビッドは幼馴染だって言ってたのに、本人は全く知らないって言ってたし」
「それも妄想…だろうな。俺の推測だと恐らく、あいつは何処かでミントとかいう女に一目惚れしたが話しかける度胸もなく、言い出せないでいるうちに自分と彼女は幼馴染だとかいう変な妄想をして自己満足に浸っていたんだろうな。今はそれを現実だと思い込んでいるか、自分で自分を騙したいだけなのかは分からないがな」
「…すっげー痛いな、おい」
「でも皆そう思わないんだよな。こうして説明すると怖いけどよ、実際のあいつを前にすると「ただの馬鹿」で片付くから」
 馬鹿って得だな。何となくジャックは思った。彼が口にすれば「お前が言うな」と突っ込まれるだろうが。
「で、何でお前ら、わざわざデイビッドの妄想日記なんか読んでるんだ?」
「妄想日記?」
 ジャックとジーンは首を傾げた。確かにかなり痛い妄想が書かれていたが、日記というようなものは無かった気がする。正直聞きたくもないが、何となく気になって尋ね返す。そしてやっぱり聞かなきゃよかったと後悔する。
「違うのか?あいつ、ミントとかいう女への妄想を書き連ねているって噂聞いたんだけど」
「ミントとかいう女との結婚後を想定した日記を書いている、とオレは聞いた」
 アルドーとガレスが自分の聞いた話を口にする。どっちもあり得そうだがどっちも嫌だ。寒気がして鳥肌が立ったジャックは、その話題から話を逸らそうと口を開く。
「いや、そういうんじゃなくてさ、テアトルの皆の交友関係とかを知りたかったんだよ。ほら、ジーンの奴友達とか居ないから…へぶしっ!!」
 本当のことながら失礼な事を口走ってジャックはジーンに殴られる。甲冑で覆われた腕で脳天を殴られたのでかなり痛い。痛みに蹲るジャックを無視してジーンは珍しく自分から尋ねた。
「あんたらの名簿はどうなっている?」
「俺の?見るか?図書館の常連仲間と、本屋の店員とか常連客とか、後は同じチームのガレスとシーザー隊長くらいだけどな。ああ、食堂のユーリもだっけ」
 一応アルドーの名簿を見せてもらうが、確かに本人の言う通り、そんな感じの名前が並んでいる。本好きのアルドーの趣味らしいと言える。
 名簿をアルドーに返し、今度はガレスに視線を向ける。元より無口な彼は、あまり他人と馴れ合わない。友達と呼べる存在がいるのかどうかも怪しい。その点はジーンと非常に似通っているのだが、実のところガレスは全然気にしてないのでジーンとは大分違う。
「…アンタの名簿は?」
「見るか?」
 どうやらガレスは自分で持ち歩いていたようで、鎧の中から取り出した。それだけなら気にならないのだが…
「アンタ、以前鎧の中からバット取り出したよな?あれどうやって入れてたんだ?」
「修行の成果だ」
 どんな修行だ…と返したかったジーンだが、それを言うと何となくその「修行」とやらをやらされそうで怖かったので黙っていた。意外に小心者のジーン29歳(嘘)だった。
 気を取り直して、ガレスの名簿を見る。そして
「…アンタ、どうやってこんなに大勢の人と知り合ったんだ?」
 無愛想で無口で友達が少ないと評判(?)のガレスの名簿には、意外にも多くの名前が書かれてあった。テアトルの面々から、何故かオラシオン教団の人間の名前も多くある。
「修行で知り合った」
「詳しく説明してくれ」
「修行中に知り合った」
「……」
 全然詳しく説明してくれないガレスに、ジーンは諦めてアルドーに助けを求めた。が、答えたのはアルドーではなく悶絶していたはずのジャックだった。
「要するに、趣味の特訓をしているときに色々と縁があって知り合ったってことだろ?訓練場でデイビッドと知り合ったみたいだし、確かフェルディナントの爺さんもトレーニング中に顔を合わせることが多かったとか、アキレスのおっさんもそんな感じだったみたいだし、とにかく色々聞いた」
 こっちが求めていた情報をぺらぺら話してくれるのはありがたかったが、同時に何故そこまで知っている、と突っ込みたかった。まあキング・オブ・ストーカーのジャックだからきっといつものストーキングで知ったのだろう。
「それで、結局友達を作るとか何とかはどうなったんだ?」
 ふとしたアルドーの一言に、ジャックとジーンは硬直した。結局無駄話したり知りたくもないものを知ってしまったりしただけで、何も成果は無い。ふと、ずっと見ていたタナトスが横目でニヤニヤ笑っているのが目に入った。ムカついたが受付の彼の機嫌を損ねすぎると仕事を取りにくくなる。
 結局微妙な顔をするしかない二人に、アルドーは苦笑した。
「その様子じゃ駄目みたいだな。しかしだ、とにかく趣味を持てばいいんじゃないか?俺は本が好きで人と知り合ったし、ガレスも趣味だか何だか分からないが修行を通して人と知り合っただろ?」
「趣味、か…」
 テアトルでは博識な方とされるアルドーの言葉は確かに一理ある。ジーンは暫く考え込み、結局自分の意見は口にすることなくその場は別れた。




 次の日、ジーンは紙やら針金やらを持ち出し手を動かしていた。
「なあ、ジーン。何やってんだ?」
「造花を作っている」
「何で?」
「昔面白そうだからと夢中になった時期があった。それを思い出した」
「なんだか暗いなぁ。そんなんで人が寄ってくるかぁ?お前、ただでさえ暗いのに」
 人がどう思うか全く考えず思ったことばかりを口にするジャック16歳。しかし彼の心配は完全に無用だった。
「おや、造花ですか。なかなか綺麗ですね」
「…そうか」
「部屋に飾りたいと思うのですが、どうでしょうか?」
「構わん」
 毎日隊長のアリシアの部屋に花を飾っているデニスと気が合ったようで、それからジーンはジャックの存在も忘れて二人で話し込んでいた。
 いつも人をストーキングすることで名簿の数を増やしていたジャックは、同じ趣味の人間と話をするという光景が新鮮に感じられ、何だか羨ましいと思ってしまった。
「…オレも何か趣味見つけようかな」
 ぼんやりと呟いたジャックだったが、そんな発言は本人が3歩歩く頃には完全に忘れ去っているだろうと、傍観していたタナトスは確信していた。








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ジーンとデイビッド好きな人ごめんなさい。
キャラ破壊もいいところです。
本当はテアトル全員出したかったのですが、それじゃ収集つかなくなるので…


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