氷点下の関係





 とある5人組の中の、とある2人の関係に最初に音を上げたのはジャミルだった。
「もう駄目だ!オレはもう耐えられねぇ!!」
 半泣き状態でミリアムとディアナの部屋に駆け込んできたジャミルは、即座にミリアムに燃やされた。
「あんた、レディの部屋に入るときにノックの一つもないなんてどういう神経してるの!?」
「何を慌てていたのかは知らないけれど、ちゃんと落ち着いて話しなさい。」
 激高するミリアムの横から、ディアナが起き上がったジャミルの肩に手を置き落ち着かせる。差し出されたディアナの手を取り立ち上がると、ジャミルはディアナに軽く礼を述べて一旦深呼吸する。良く良く見ると、彼の帽子に矢が突き刺さっている。モンスターに襲われたのかと思ったが、いまいち違う気もする。
 彼が落ち着いたのを見計らって、ディアナは改めて尋ねた。
「で、何が耐えられないの?」
「ああ、それが…」
「そういえばあんた、グレイと買い物に行ってなかったっけ?」
 ジャミルが喋ろうとしていた所に、ミリアムが横から口を挟む。これでまた騒ぐかな、と頭を抱えたディアナだったが、どうやらジャミルが言おうとしていた内容に引っかかっているらしく、そうだよ!と頷いた。
「オレさっきまでグレイと買い物してたんだけどさ、途中でクローディアに会って…」
「クローディア?」
 メンバーの男二人は(女性陣が強い&グレイが反対しないため)大体買い出しに行かされる事が多く、今回もそんなものだった。クローディアはいつの間にかふらりと居なくなってしまっていたのだが、町に出ていたとは少し意外だった。森の奥で引きこも…もといひっそりと暮らしていた彼女は人混みが苦手で、一人では絶対にふらついたりしない。
「まさかクローディアが一人で町をふらついてるなんて思わないからさ、急用でもあったかと思って声掛けたんだけど「何でもない」とか「何となく」とかばっかりで。それでいて人混みは嫌だとか言うから一緒に居る事にしたんだけどさ…」
「それで?」
 まさかそれだけ?と言わんばかりにミリアムが話の続きを促す。クローディアの気まぐれな行動は今更だから、特別驚く事でもない。そんな事はジャミルとて重々承知の上であるはず。
「それだけならオレだって気にしないさ。けど、クローディアの奴気がつくとじーっとオレを睨んでるんだよ。」
「睨む?クローディアが?」
 その発言には流石に二人とも首を傾げた。他人に無関心なクローディアが人を睨むなんて考えられない。
「何かの間違いではないの?」
 確認するようにディアナが尋ねるが、ジャミルはきっぱりと首を横に振る。
「オレも最初は気のせいだと思ったんだけどさ…気づくと何度も何度もこっちを睨んでるんだよ。いつもの涼しい顔で目だけは怖くてさ。」
 そこまで聞いても未だに信じられないが、ジャミルの様子からすると実際そうなのだろう。頭を抱えながら唸っていると、ミリアムがふと口を開く。
「あのさ、あんたクローディアに嫌われるような事したんじゃないの?」
「へ?」
 ミリアムの指摘にジャミルは目を瞬かせ…心外とばかりに否定した。
「んなわけあるかよ!オレは絶対に、仲間に嫌がらせなんてしないっ!!」
 興奮しだしたジャミルを宥めつつ、ディアナが優しく声を掛ける。
「貴方はそんなつもりではなくても、彼女にとって気に障ったのかもしれないわ。とにかく、クローディアと会ってから何をしたか、ゆっくり思い出してみて。」
 ディアナの言葉のお陰かようやく落ち着いたジャミルは、こめかみに指を当てながらやがてポツポツと語り始めた。




「クローディアに会ってから…まずグレイの刀を鍛えようって鍛冶屋に向かったんだ。」
 ああ、あの喋るらしきボロ刀の事か、とミリアムが頷くと、ジャミルは話を続ける。
「そしたらクローディアが珍しく口を開いてさ、ボロ刀をじーっと見つめながらグレイに色々尋ねてたんだ。」


『ねえ、この刀に宿っているのは何ていう精霊?』
『知らん。』
『つかそれって精霊なのか?』
『物が喋るなら、そういうものではないの?』
『…そういうもんなのか?』


「…精霊…」
「まあ、らしいっちゃらしいけど。」
 刀に宿っているものの正体は、拾った時一緒にいたミリアムですらいまいち分かっていない。あの刀はグレイ相手でしか喋らないし。しかし精霊よりはむしろ怨霊の類に近い気もする。
「で、鍛冶屋に頼むついでに武器も見ていたんだけどよ、新しい弓が入荷されてて…」


『…どうした?』
『グレイ…私、新しい弓が欲しいわ。』
『だが…』
『駄目だっ!今は金に余裕が無いんだ。それに今は防具優先!!手持ちで我慢しろよ。』
『…………』


「確かその辺りだな、クローディアがオレを睨み始めたのは。いや、オレが気づいたのはって意味だけどな。」
 今まで防具を買わずにいたツケが今に回ってきて、敵の攻撃が厳しくなっている。だから今回は防具に金を回す事にしたのだ。これはメンバー全員で話し合って決めた事で、クローディアも既に了承済みのはずだった。
「分かっててもムカついたとか。あの子の弓って確か、リガウ島の穴で拾ったものだよね。」
「確かにオレだったらいい加減新しいのが欲しくなるだろうよ。でもよ、あのクローディアだぜ?」
 ミリアムが冗談半分で言ってみた言葉はあっさりジャミルに否定される。そしてやはり納得のいく答えは見えてこない。仕方無くディアナが更に続きを促すと、ジャミルは続けた。
「その後は、歩きながら喋って…つってもオレが一人で喋ってただけで、二人は全然喋らねーの。」
 あの二人ならむしろ当然ね、とミリアムから容赦無い突っ込みを受けるジャミル。それでもめげない。


『そういやグレイ、あんたの出身って何処なんだ?』
『知らん。』
『知らんって事は無いだろ。小さい頃住んでた場所も忘れたのか?』
『…ジャミル、あなた少し煩いわ。黙る事はできないの?』
『う、うるさいって何だよ!オレは何とかして場の雰囲気を盛り上げようとだなー』
『余計なお世話よ。とにかく、煩いから黙っててくれる?何なら居なくなってくれても良いわよ。』
『何をこの冷血女!!』
『…騒ぎたければ、俺のいないところでやれ。』
『え、あ、おいグレイ!!』


「…とまあ、そんな感じでグレイが怒ってどっか行っちまって、挙げ句にクローディアも逆ギレして弓構えるしで散々だったぜ。」
 肩を竦めるジャミルを、ミリアムとディアナは微妙な表情で見つめる。全く気づかないジャミルだったが、ミリアムに素手で殴られて目を白黒させる。
「ってぇ!!」
「あのね、それはあんたが悪い!!」
 同意どころか自分に非難が向けられ反論しようとするジャミルに、ディアナが優しく諭す。
「ジャミル、皆が皆貴方のように賑やかなお喋りが好きなわけではないのよ。特にあの二人は、そういうのが好きなように見える?」
「…見えない。」
 ディアナの言葉にあっさり同意するジャミルは、それまでの勢いが嘘のように静まり、罰が悪そうに頭を掻く。落ち着いたかと二人が油断した隙に、ジャミルはまたいきり立つ。
「でもよ、だからって弓で攻撃する事無いだろ!?あいつ今までだって騒々しくても涼しい顔してたじゃないか!!!」
 力説するジャミルの勢いに面食らいつつも、冷静に考えてみると確かに言えてる。どう深読みしてもクローディアが逆ギレする理由が分からない。余程ジャミルがうるさかったから、という事は前述の理由であり得ない。他に理由となると…
「一つだけ思いついたけど、あまりにも非現実的だわ。」
「同感ね。けど、今貴方が考えている事と私が考えている事が同じなら、他に心当たりは無いわよ。」
 ミリアムの考えとディアナの考え。恐らく違っているとは思えない。けれどその理由はあのクローディアにはあまりにもふさわしくない。
 考えていても埒があかない。直接確認しておこうと、二人はクローディアを探しに向かった。波に乗り遅れたジャミルを後に引きずって。




 ミリアム達が港でクローディアを見つけた時、隣にはグレイもいた。彼は確か言い合いをするジャミルとクローディアに辟易して一人さっさと離れた筈だったが。
 しかし、かと言って別に仲良く会話しているわけでもなく、ただ黙って海を眺めていた。お喋りなんて期待していないが、ひたすら無言で海を眺める様ははっきり言って怖い。二人とも普段から表情を変えない人間なのでむしろその光景の方が正しいのだが、根暗な二人が並んでいるのはあまり気分よろしくない。
「…邪魔なら退散するわ。」
「邪魔だと言った覚えは無い。」
 漸く口を開いたかと思えばそれだけ。あの二人の周りだけが急激にバルハラントになっているのではないかと思うくらい。
「けど、あの口振りだと先に接触したのはクローディアみたいだね。」
 陰からこっそり覗いているミリアムがポツリと呟く。距離的に聞こえるとは思えないが、一応声を抑えて。
「というより、ただ何となく傍に立ったというだけなんじゃないかしら。」
 覗き見をしているという後ろめたさか控えめに発言するディアナ。本当に、一国の王女が何をしているのか。
「つか、何で黙って海を眺めてるんだよ。はっきりいって怖いぜあの二人。」
 そんなジャミルの暴言も聞く事無く、二人はただ黙って佇んでいる。魔の島に思いを馳せる老人のように。
 潮風に髪を靡かせながら、クローディアは再び口を開く。
「あなたは…いつまで私と居てくれるの?」
「さあな。だが、お前が命を狙われるうちは守ってやる。」
「それが約束…だから?」
「そうだ。」
 また黙りこくる。聞いている分には非常に気分悪い会話に、覗き見をしている3人、特にジャミルとミリアムが頭を抱えていた。
「暗い…暗すぎるぜ。何であんな淡々とした会話で何とも思わないんだよあいつらは。」
「若い男女が二人きりで、ここまで冷え切っているのもある意味凄いよね〜。ていうか女にああ言われてビジネス的な返答ってやばいじゃん。…むっちゃグレイらしいけどね。」
 ジャミルは二人の暗さに呆れ、ミリアムは開き直って楽しんでいる様子でもある。傍に居るディアナはむしろそんな二人にため息をついている。最初の目的は何だったのだろうとディアナが呆れていると、またクローディアが口を開く。
「じゃあ、あなたはずっと私の傍にいるという事?」
 揶揄するでもなくただ疑問という形でクローディアは問う。
 確かに、クローディアの今の立場では命を狙われ続ける。皇位継承したとしても、皇帝が狙われない保障は無い。今の皇帝が崩御してクローディア以外の人間が皇位を継ごうとも、後の可能性を考えると全く安全とは言い切れない。
「…不満ならジャンにでも掛け合え。」
「不満ではないわ。少なくとも、一人で居るよりはずっと良いと思う。あなたは色々詳しいから。」
「そうか。」
 何とも言えない微妙な会話の後、暫く沈黙が続いた。それ以降どちらも声を発する事無く佇んでいる。
 解釈の難しい場面を一通り眺め、ミリアムは首を傾げた。
「…結局、あの二人って何なの?」
「私達の理解を超えているわ。」
 ディアナは軽く肩を竦める。既に考える事を放棄してしまったようだ。
 ジャミルもいい加減ミリアム達が考えた事は気付いたようだが、今の光景でやっぱり分からなくなっていたらしい。考えた挙句に諦めて項垂れている。
「まー、その、人の色恋沙汰に首突っ込む方が間違ってるんだよな。」
 それはちょっと違うのでは、とディアナはこっそり思ったが、口にはしなかった。どちらにしろ、あの二人をまともに考察するだけ時間の無駄と言える。




 先に宿に戻っていた3人は、後から二人で戻ってきたグレイとクローディアを迎え入れる。クローディアはすぐにふらふらと自分に宛がわれた部屋に戻ったが、グレイは3人を振り返って一言。
「覗き見とは、なかなか良い趣味をしているな。その無駄に旺盛な好奇心は是非とも見習いたいものだ。」
 明らかな皮肉に、3人は暫く声も出なかった。


*****************************************************


ミンサガ萌えの赴くままに書いてみたものなので、一人称とか結構適当です。
私的ミンサガ版グレイ&クローディアのイメージ。はっきりいって二人だけだと非常に暗いです。でも一緒にいて苦痛にならないから離れる理由も無い、そんな関係。
キャラが色々おかしくてごめんなさい。

このページは GeoCitiesです 無料ホームページをどうぞ