いかだで漂流ロマンシング





 ミイラに敗北して漂流という、人としてかなり屈辱的な出来事に遭遇したグレイ一行。船の残骸から何とか作ったいかだに乗って、5人は呆然とただ広がる海を眺めていた。
「一難去ってまた一難か…」
 他人事のように呟くグレイに、何に対してか分からない溜息をクローディアが吐く。腹が減ったと武器の槍に糸を括りつけた簡易釣竿でジャミルが魚を釣ろうと頑張っている。ちなみに釣れたものはお約束の長靴一個のみ。バーバラが水平線の彼方をじっと見つめ、船か陸が見えないかと目を凝らすが、今のところ全く何も見つからない。する事がないディアナは愛用の剣を磨いている。
 ジャミルが2度目の歓喜の声を上げる。何か引っ掛かったようだ。
「おっ、来た来た来たぁ―――――っ!!!」
 喜びの声を上げ釣竿を引き上げたジャミルは、そのまま固まった。
 釣り上げたのはヒトデだった。
「……。」
 硬直するジャミルの後ろで、ボーっと眺めていたクローディアが隣のグレイに尋ねる。
「これ、食べられるの?」
「俺は食った事がある。不味かったがな。」
「ヒトデは普通は食べないわよ。ジャミル、海に返しておきなよ。」
 さらりと答えたグレイにバーバラが突っ込みを入れ、更にジャミルに声を掛ける。その声で漸くジャミルの硬直が解ける。
「っていうか何でこんなところでヒトデなんかが釣れるんだよ―――!?」
「それが運命だから…」
「何でもかんでも運命で済ませるなクローディアぁぁぁっ!!!!」
「煩いわ。」
「はうっ。」
 無表情のままクローディアは取り出した吹き矢でジャミルを昏倒させる。眠り薬が塗ってあったようで、穏やかな寝顔を見せている。
「…クローディア、何でそんなもの持ってるの?」
「作ったの。何かあったときに使いやすいと思って。弓は接近戦に弱いから。」
「あっそう…」
 とか言うがクローディアは護身用に小型剣も忍ばせている。何だか妙な頭痛がして、バーバラはこめかみを押さえた。
 そして剣の手入れが終わったらしいディアナが顔を上げ、皆に声をかける。
「漫才はそこまでにしておきなさい。余計な体力の消耗は命取りよ。」
「私は静かにしているわ。ジャミルが一人で煩いだけよ。」
 ディアナの言葉に反論するクローディアだが、元々冷めているお嬢様はあまりムキになる事もない。ディアナの小さい溜息に特に反応する事無くぼんやりと広がる海に視線を戻す。
 一番お喋りの多いジャミルが静かになると、このメンバーは会話が無くなる。グレイとクローディアは無口だし、ディアナも真面目な性格で無駄口を叩かない。バーバラは比較的明るい方だが、場を盛り上げる必要がないときにまで騒いだりはしない。
 が、この沈黙を破ったのは意外にもディアナだった。
「けれど、このまま漂流し続けていたら、きっと餓死してしまうわ。ジャミルではないけど、魚を釣るくらいはした方が良いのかもしれないわね。」
「そうねぇ、魚ばっかりでも健康には良くないんだけど、そうも言っていられないからね。」
 バーバラも渋い面持ちながらも同意し、自分も何か釣ろうかとジャミルが持っていた簡易釣竿を手に取る。
「水はあった方がいいな。何か適当な器を用意して飲み水を溜める。」
 そう言いながら、グレイは手持ちの道具を弄って器になるものを探し始める。一度聖杯を手に取り水をためようとするが、それはバーバラとディアナによって阻止された。
 すると、無表情のままでじっと事の成り行きを見守っていたクローディアが無言でグレイの無駄に多い髪を軽く引っ張る。小さな痛みに顔を向けると、クローディアが遥か彼方を指差して告げた。
「あそこに陸が見えるわ。島かもしれないけど。」
「何?」
 怪訝な表情を浮かべてグレイがクローディアの指差した方角を見てみる。しかし何も見えない。バーバラやディアナもじっと見ているが、彼女らにも何も見えないようだ。しかしクローディアは嘘をつける器用な性格ではない。もっとじっくり見ようと身を乗り出し、目を極限まで細めて見ると、確かに薄らと陸らしきものが見える。しかしこれは、言われなければ分からないだろう。
「…確かに、それっぽいものが見えるような…でも、よく分かったわね。」
 同じように目を凝らしていたディアナがクローディアに言う。彼女は普段から山に登ったりしていてそれなりに目がいいという自負はあったらしいが、その彼女でも分からなかったらしい。それについてはグレイやバーバラにも言えるのだが。
 ディアナの言葉に、クローディアは当然のように答える。
「はっきり見えるじゃない。」
 彼女には、グレイたちがあの陸が見えないのが不思議らしい。流石野生に育った女。いや人間に育てられたのか?どちらにしろ人間世界で育たないとこうなるのだろうか。というか、森に引き篭もっていた人間がそんなに目が良いものなのか。しかしクローディアは今まで目が異常に良いというような素振りを見せたことは無かったが。
 どうでもいいかと陸らしき方向にいかだを進めようと、荷物の槍やらろばの骨やらをオール代わりにしている最中、グレイは荷物の中で淡く光るものを見つけた。それは、エリスのシンボル。
「……過保護だな。」
 娘のように思っていたとはいえ、こんなところにまで力を貸すとは、あの銀の狼は随分気にしているらしい。
 グレイは何も見なかったことにして、未だ寝ている(正確には気絶中)のジャミルを叩き起こし自らもオールになりそうな武器を手に取った。




 陸らしき場所は、無人島だったようだ。島自体が小さく、簡単に一周できてしまうほどで、人の姿は全く無い。少々、小動物がたまに見られるくらいだ。
「…どうする?」
「ここで助けを待つしかだろうねぇ。」
「これ以上いかだに乗るのは嫌。」
「果物とかはあるみたいだし、漂流しているよりはマシかもしれないわね。」
 グレイの問いに、冷静に返す女性陣。旅慣れしているバーバラや野生の娘のクローディアはともかく、貴族育ちのディアナまでもが冷静にしているのを見て、都会育ちの盗賊ジャミルは疎外感を感じながらぼやく。
「何であんたら皆、そんなに冷静でいられるんだよ…都会育ちの俺にはきついぜ。」
「ジャミル、泣き言は男らしくないわよ。」
「って、ディアナ!あんたが平然としているのが一番謎なんだよ!!あんた貴族出身だろ!?」
 ここには野生の生き物しか居ないのかよと涙交じりで喚くジャミルに、ディアナは得意そうに告げる。
「イスマスでアルベルトを逃がし、ドラゴンに立ち向かってから、私も命辛々逃げ延びて…ワロン島に来るまでずっとサバイバルの連続だったわ。今更漂流ごとき、何てこと無いわよ。」
 確かこの人は次期ローザリア王妃ではなかったか。多分。
「ジャミル。」
 都会人は俺だけかよ、と嘆くジャミルに、グレイが珍しく声を掛ける。それに珍しがる余裕も無く振り向くと、グレイは無表情でフォローにもならない言葉を口にした。
「気にするだけ無駄だ。こいつらは既に女であることを捨てている。」
「………。」
 フォローどころか、女性陣に喧嘩を売るような言動に、ジャミルは持ち前の逃げ足でさっさとその場を離れた。
「逞しいとか、角の出ない単語は出ないの?」
「失礼にもほどがあるよ、グレイ。」
「私は女よ…」
 グレイの背後で犇く女たちの殺気を受け、グレイは無表情のまま逃げる。そして女たちも後を追う。
 そんなくだらない事をして時間を費やし、気づけば夜。周りがすっかり暗くなってから初めて、自分たちがいかに馬鹿馬鹿しい事で時間を使ったかという事に気づく。
「全く、下らん事で時間を使ってしまった。反省材料だな。」
「あんたが言うか!?ていうか頭に刺さってる矢と剣を抜けよ!!」
 ジャミルの突っ込みに、グレイは漸く頭の危険物を取り除く。どうやら思ったほどダメージは無いらしく、術で完治してしまったようだ。あのもさもさした頭が防具の役割を果たしているのだろうか。
 そんな妙な漫才もどきをしている二人に、バーバラが声を掛ける。
「ねえ、あれ…」
 バーバラの声に全員が目を向けると、彼女が指差した木の幹辺りにぼんやりと光るものがあった。近くまで来て覗いてみると、また別の世界が見える。これは一体何なのか。
「何だろうね、これ?」
「分からないけど、向こうに別の森が見えるわ。」
「別世界への扉ってやつか?」
 グレイは荷物の底にあるエリスのシンボルを見てみたが、今度は光を放っていない。
「…?」
 疑問符を浮かべるグレイを横目に、他の者達は光の中へ入っていった。
 気づいたグレイが、慌てて最後に光の中に飛び込み、最後の一人を飲み込むと光は跡形も無く消え去った。


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ミイラに負けた後の漂流の話です。メンバーはかなり適当。
ジャミルがネタ扱いでごめんなさい。好きですけどまともに慌てたり突っ込んだりできる素材が彼しか居なかったのです。
そしてエリスは絶対親ばかです。
いかだでの漂流を見て、こんな馬鹿話があったと思っているバ管理人でした。

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