とある酒場に、黒服の詩人が居た。知る人ぞ知るかもしれない、冥府の王デスである。
以前エロールと入れ替わった時、人間世界にすっかり味を占めてしまい、今回も「困ります」と泣き喚く部下達を放って人間世界に現れた。そして今回、彼はとある目的を持っていた。それは、人間と共に旅をするということ。
エロールはたまに自分の歌を聞いてくれた冒険者についていっていろんな土地を巡っているらしい。正直、羨ましい。酒場にずっと居座って人を眺めるのも楽しいが、やはり色々な世界を見て回りたい。
「一人で旅に出ればいい?愚かな。一人で旅をしていてもつまらないではないか。世界に対してあまりに矮小な人間と共に旅をする事こそが楽しいのではないか」
以上、エロールの問いに対するデスの言い分であった。
そんな感じでエロールの座を強引に奪い取り、冒険者達が現れるのを待つ。エロールは何故か女がたくさんいるチームに入りたがっていたようだったが、その感覚はデスには理解出来ない。男だろうと女だろうと、面白そうな空気を持っている者こそが良いだろうに、と思っていた。
デスにとって面白そうな空気とは、自分と近い空気を持つ者である。つまり人間のルールとかいう息苦しいものに支配されていない生き物。以前サルーインの恩寵を持つ者や、彼ら三邪神の恩寵を持つ者を見たが、彼らのようなのが理想だ。ああいう生き物は放っておいても混沌を招く存在だからだ。
そんな事を考えていると、酒場に一組のチームが入ってきた。ニーサの気配のする娘と、派手な格好の踊り子と、ツノをつけた大女と、短い金髪の女と、魔女風の娘。見事に女だらけだ。この場に居たのがエロールであればきっと、大喜びして強引に入っただろう。不思議な力で5人までしかメンバーに入れない事など構いもせず。ちなみにこの瞬間、実はすぐ外で様子を伺っていたエロールがデスを恨めしく思ったのは別の話。
何にしてもデスには興味が無い。特に気にせずぼうっとしていると、ニーサの気配の娘が声を掛けてきた。
「あの、お願いがあるんですけど…」
「何だ?」
応えながらデスは思い出した。そういえばエロールは冒険者達の手助けを色々としているらしい。メンバーから誰かを外したい時、言いにくそうにしている人の代わりに説得しているとか。正直馬鹿馬鹿しい。離れてほしいなら自分でそう言えば良いものを。
「実は、ミリアムさんに外れてほしいんですけど、ちょっと言いづらくて…」
やはりその用件だった。下らないと思いながらも一応仕事なので説得に入る。
「で、ミリアムとは誰だ?」
「あの魔女みたいな格好の人です」
あれか、とデスはミリアムの前に出て無表情で言い放つ。
「消えろ」
「……」
デスの背後で頼んだ少女アイシャが青ざめ慌てふためくのも構わず、デスは真顔で告げた。説得もへったくれもないストレートすぎる言葉に、当然ながらミリアムは激昂する。
「な、何よいきなりその言い草!!そりゃあたしだってパーティ外されるたびに同じ小言聞くのも飽きてるけど、だからってそれは無いでしょ!?」
この娘はそんなに何度も外されているのか。きっとこの喧しさが鬱陶しがられているに違いない、とデスは限りなく失礼な事を考えもう一度告げる。
「消えろと言っている。理解したならさっさと消えろ」
「その言い方がムカツクって言ってんのよ!!」
ますます怒り狂うミリアムの感情がデスには理解出来ない。慣れているなら何故今更怒る?エロールと同じ言い方が良いのか?
「消えなさいと言っています。理解できましたら早く消えて下さい」
「中途半端な丁寧語が余計ムカツク!!」
余計怒らせてしまった。やはり人間は分からない。
「詩人さん!怒らせずに説得して下さい!」
背後でこっそりアイシャが懇願するように囁く。そう言われても何故怒っているのかデスには理解できないのだが…暫く悩んだ後、デスはぎゃーぎゃー喚くミリアムの前に手をかざし何かを唱える。すると、ミリアムは悲鳴を上げる間もなく消滅し、代わりに禍々しい気配を放つ鎧が残った。
「…ミリアムは?」
金髪の女が呆然と呟く。突然目の前から消えてしまった彼女を心配しているようでもあった。
「消えた」
流石に本当の事を言うわけにもいかず、デスは一言だけ告げて誤魔化した。
「この鎧は何?」
踊り子が訝しげに問う。胡散臭そうに眉を寄せて見つめ、指先で突付く。変な気配を纏っているだけでただの鎧なのだから別に変な事にはならないが、それでも彼女らは警戒していた。
「副産物だ。持っていきたければ好きにしろ」
冥府に居ると時折、仲間の命と引き換えに武具を欲しがる輩が現れる。今回デスはそういう人間にいつもやっているようにしてしまったのだが、良く考えればこれは魂の冒涜になる。あまりにもあの女が喧しいのでうっかりやってしまったが、冥府の王がこんな事をしていては部下達に示しがつかない。
これは早く帰って冥府からさっきの女の魂を復活させなければならないか、とデスは思い始めた。普段はこんな事絶対しないのだが、人間世界に来て何かおかしくなっているのかもしれない、と自分のミスに言い訳する。正直見苦しい。
女たちは死の鎧に手を出そうとしない。呪われてそうとか口々に言っている。高い防御力の代わりにペナルティがあるだけでそれほど危険ではないのだが、この連中は旅をしている割に弱気なようだ。
とりあえず、デスは早く冥府に帰ろうと、そそくさと酒場を出ようとした。しかしその時、デスが手を出す前に酒場の戸が勢い良く開き、お約束のようにデスは壁と扉に挟まれる。そして出てきたのは、店の外で見ていたエロールだった。
「君たち!女性4人では何かと大変だろう!?私がついていって協力を…」
「要らないね。力仕事ならあたし一人で十分だよ」
豪快に返事をしたのは、詩人(エロール)より遥かに屈強な肉体を持つバルハル族のシフ。彼女には並大抵の男では歯が立たない。
エロールは敗北感に膝をつく。悔しげに唸っているがデスには関係無い。改めて外に出ようと扉に手を掛けると、また同じように扉が勢い良く開かれ、デスは再び壁と扉に挟まれる。
「やーっと着いたぜ!酒だ酒!思いっきり飲むぞ!!!」
「資金が少ないので控えめでお願いしますキャプテン」
「堅苦しいこと言うなって、足りなくなったら俺がどっかでちょろま…」
「コラ!そーゆーことを人の居る場所で言うんじゃない!」
「何をしようと俺は構わん。足がついたら奴を見捨てるだけだ」
何だか色々やばい…というか犯罪臭の濃い連中の出現に、女達は驚いて固まる。しかし一部は懐かしそうに目を細めているので、知り合いかもしれない。そういえば以前は別の組み合わせで居たような居なかったような。しかし今の時代は竜が人に化けて街中を歩くのか。自分も神なのに人の姿で居座っているのだから文句は言えんが、時代も変わったものだ。
「いきなり騒がしい連中だね。少しは静かに出来ないのかい?」
例のツノ女が呆れたように連中を見やる。エロールを黙らせた大女の声に、彼らはものともせず平然としている。
「なーに言ってやがる、酒場は騒いで楽しむもんだぜ!!」
「アンタは騒ぎすぎだけどね」
キノコ頭の髭男の更に豪快な声に、人の皮を被った竜が肩を竦める。
「あら、あんた達久しぶり。相変わらず元気そうだね」
「そっちもな」
華やかに笑う踊り子と無愛想に頷く毛髪量が異常な男が普通に会話をしている。あの踊り子の方は相変わらずエロールに好かれているようだが、三邪神の恩寵を受ける男とよく仲良くなれるものだ、とデスは人間の柔軟性を純粋に評価する。そんな自分もエロールと漫才レベルの会話をしたりするということは勘定に入れていない。
ますます人が増えて煩くなった酒場を、今度こそデスは後にした。
エロールがデスだけでなく、その場の全ての人間に忘れられている事は別の話。
冥府にさっさと帰って、部下の小言を聞きながらミリアムを復活させ、挙句にミリアム本人からも散々睨まれ怒鳴られ今回のデスのお出かけは散々であった。腹いせにミリアムを凍結湖の入り口に放り込んだらまた部下に怒られ、ちょっと凹んだ。ついでに「喧しいものを落すな」とミニオン・ヘイトからA4用紙49枚にも及ぶ嫌味付きの手紙を受け取った。勿論読まずに捨てた。あるかどうかも分からない義理で2行も読んでやっただけありがたいと思ってほしいものだ。
「…人間のパーティに入れてもらうのを忘れていた」
4日ほど経ってから本来の目的を漸く思い出し、デスは恥も外聞も無く項垂れた。
デスがうっかりくれてやった死の鎧はジャミルが勝手に持ち出し、どこかの店で売り払ってきたようだ。彼は、
「呪われてそうだからって、たった4金なんてケチすぎだろー!全く、あの程度でビビるなんて根性ないね。しかもよ、別の店に聞いてみたら『むしろ金寄越せば処分してやる』とか言われてよ、ムカつくぜ!こっちは売りに来てんのに、金払えってどういうことだ!おい、聞いてんのかグレイ!!」
と酔っ払いながら、居眠りしているグレイ相手に愚痴っていた。
*****************************************************
デス様は訳の分からない思考回路、エロールは女好きのイメージが私の中で定着してしまっています。
思えばホーク、シルバー、ゲラ=ハ(海賊)、ジャミル(盗賊)、グレイ(冒険者?)はかなり三邪神に好かれてそうなメンバーかもしれない。竜騎士殺しを含めればゲラ=ハの代わりに殿下でも良いかも。
このページは です 無料ホームページをどうぞ