デス様来客歓迎記





 ある冒険者達がフレイムタイラントの元を訪れた。
 リーダーである彼は最初にフレイムタイラントの住居であるトマエ火山を訪れた際に、フレイムタイラントの丁寧な応対と強さに感銘を受けた。それ以降、彼は何度も訪れる。フレイムタイラントを相手に修行を積みたいと申し出て、フレイムタイラントも暇なので受けたのだ。
 そして今回も、その予定ではあったのだが、来る途中に酒場の詩人から聞いた話を思い出したのだ。
 といっても、冥府の王との取引の語りではなく、「フレイムタイラントのいる場所には大きな扉があって、その奥には世界一の暇人がいる」ということだった。話し相手にでもなってほしいと言われたので、真面目な彼は快く引き受けた。彼の敬愛するナイトハルトも時々ついてくるし、そういう事情の人もいるのだろうと簡単に考えていた。
 フレイムタイラントも、冥府の王デスからは「来客があれば通して構わない」と言われているので彼を通した。ただ、何でも適当なデスと違いフレイムタイラントは相手をそれなりに見極め、彼は狂人ではないと信じたから冥府への道を開いたのだ。もっとも、狂人か否かの判断は専らフレイムタイラントの感覚任せなので、よっぽどの悪人でも通されることはある。
 所詮、フレイムタイラントも人ではないので、人の感覚では図れないのである。




 冥府の奥、デスの生息地。そこにある5人組が現れた。
 中心に立つのは、いかにも育ちの良さそうなお坊ちゃん。意志の強そうというか頑固そうな瞳を真っ直ぐ正面に向け、死神としか思えない外見のデスに向かう。
「始めまして、私はイスマス侯の息子、アルベルトと申します!!」
「この冥府の底に、人間が何をしに来た」
 元気よく名乗るアルベルトの前に現れたデスは、どこかで聞いたような言葉で出迎える。デスの背後で、部下の魂たちがひそひそ話をする。
「デス様のアレは、一体どこで覚えてきたのだろうか?」
「さあなぁ……人間界被れのあの方だから、人間の言葉ではないか?」
「人間が何をしに来たって人間が言うか?」
「じゃあ引き篭もり四天王の一人かな? 何となくフレイムタイラントっぽいし」
 きゃわきゃわ煩いと思ったのか、デスは手にしている巨大な棒を振り回して部下達を追い払う。ちなみにデスの武器がいつもと違っているのは、以前人間界を旅したときに使って血がついたため洗浄中である。神の武器が汚れたままになったりするのかとか突っ込んではならない。
「はい、実はある不思議な詩人さんと出会いまして、その方から話を伺ったのです! 何でも冥府の底に世界最高の暇人がいる……もがが」
「馬鹿! はっきり言う奴がいるか!! こーゆーの相手に本当のこと言ったら怒られたり襲い掛かられたりするんだぞ!!」
 はきはき失礼な事を喋りかけたアルベルトの口を、仲間の男が塞ぐ。その男も実は結構デスに対して失礼な事を言っている気がするが、そんなことよりもデスは男の外見が気になっていた。旅をしていたといっても、実はデスはあまりクジャラートには行かないので、その男の種族であるクジャル族を見たことがないのだ。見慣れていない外見……耳の尖った人間種族?をデスは興味深そうにまじまじと見つめる。
 その視線に男が気づいたか、不快そうに眉を顰める。
「おい、何だよジロジロ見て。言いたいことあるならはっきり言えよ」
「ジャミル、君の方が失礼じゃないか」
「でもあの人、目玉無いのに何で視線とか分かるの?」
「何となくだ」
 ジャミルがアルベルトの口を開放すると、隣に居た赤毛の少女が首を傾げ、デスを観察する。確かにデスは骸骨なのだから目玉なんて見えない。むしろどうやって世界を見ているのかデス自身もあまり考えたことは無い。
 とりあえず目の前の者たちの会話を眺めるのも飽きてきたので、デスは声を掛ける。
「それで、エロールの子が何をしに……いや、ニーサの子も混じっているか」
 人間の群れだったのでてっきりエロールの子と思い込んでいたが、どうやら一人だけニーサの子が混じっていたようだ。それも先ほどの赤毛の少女である。
「やっぱり冥府の王様はわかるんだ。わたし、タラール族のアイシャだよ」
「タラール族か。あの一族もなかなか複雑な事情を抱えていたようだが、こうしてエロールの子と共に行動しているということは、状況は変わりつつあるということか」
 アルベルト同様元気に返事をするアイシャに、デスは頷く。ミニオンと違い人間世界の事情には疎いデスであるが、近所のリガウ島とデス信仰があるウソの村近辺だけはそれなりに詳しい。そのためタラール族の事情も少しだけ知っていたのだ。とはいえ、彼は毎年ウソの収穫祭に紛れ込むため通っているのであって、ソウルドレインを見張るとかいう真面目な理由があるわけではない。それだけは断じてありえない。
「冥府の王様、わたし達のこと知ってるんだ? じゃあ、王様から見てタラール族って、他の人とやっぱり違うのかな?」
「おいアイシャ……」
 ジャミルが止めようとするが、それはもう一人の仲間、エロールの祝福を強く受けている女と角の生えた屈強な女の二人に止められる。
「バーバラ、シフ! 何で邪魔するんだよ?」
「馬鹿ね、ああいうのは他の人間が何を言っても納得できないんだよ。自分で答えを見つけなきゃね」
「黙って見てるのも仲間の役目だろう」
 何だか珍しくシリアスな雰囲気にデスは戸惑った。外見とは裏腹にアホが鎌持って歩いているようなデスにとって、こんな空気は慣れないものだった。
 ただ、少女の問いそのものには答えることが出来る。少女を気遣うことなどできないので、冥府の王としての意見を述べるだけだが。
「死ねば全ての命は冥府へと送られる。エロールの子も、ニーサの子も関係なく。死は全ての生命にとって平等だ。よって、冥府の王としてはエロールの子とニーサの子に違いなど無い」
 どうせどの命も死ねば冥府に送られ、浄化されて新たな命として送り出される。このサイクルは決して変わらない。そしてデスの仕事も永久に変わらない。だから時には変化を求めて人間の世界に逃げるのは悪いことではないのだ。なのに部下達、特にユリウスは仕事しろ仕事しろと煩く……と愚痴まで入りかけたところだったが、そこで漸く彼は気づいた。
 来訪者の人間達は既にデスの話を聞いていなかった。
「わたし、皆と同じでいいのかな? 皆と一緒でいいんだよね?」
「何言ってんだよ。お前じいちゃんのところで言ったんだろ? 俺たちと一緒に居たいってさ。それでいいんじゃねえの?」
「その通りです。私達は既に仲間なんです。種族が違うとか、今更気にする必要などありません!」
「あたしの知ってる海賊さんはゲッコ族と元ドラゴン?を仲間にしてるみたいだしねぇ。種族を気にするなんて無意味な事だと思うよ」
「あんたは仲間、それでいいじゃないか」
「そっか。皆、ありがと!」
 何だかデスを放置して勝手にいい話で纏まろうとしている。いつの間にやら空気が冥府っぽくなくなってきている気がする。何と言うか、どこからか暖かな木漏れ日が漏れてきそうな。
「ところでお前達は、何をしに冥府まで来た?」
 もうこの問いは三回目のように思えるが、根気強く繰り返す。もうこいつら5人全員死の剣に変えて人間界に流してもいいと思ったのだが、そういうことをするとまたユリウスに怒られる。それに後で生き返らせるならともかく、剣を売ったら流石に魂を冒涜する行為になる。ユリウスや部下達に言わせれば「気分で人を死の剣に変えることも魂の冒涜だ」そうだが、穢れた魂の浄化を促進する意味では問題ないだろうと思っているのだが、そこは神と人との感覚の違いだろう。とりあえずユリウスが煩いので聞き入れておくが。
 デスが問うと、人間界の書物でたまに見る青春劇場を止めてアルベルトが答える。
「あ、そうでした。実は私、ここに来る途中」
「それは聞いた」
「そうでしたか、申し訳ありません。ある詩人さんにあなたの話を聞きまして」
「ほう」
 詩人といえば、デスにとって心当たりがあるのはエロールだ。彼は普段何をしているのかさっぱり分からないが、こうして通りすがりの冒険者にデスの話をする程度には暇なのか、と内心馬鹿にした。今更ではあるが。
「世界最高の暇人がいるから相手をしてやってくれと頼まれたのです」
「……」
「って、それを言うなってさっき言っただろ!」
 ジャミルが慌ててごまかそうとするが、言ったことを取り消せるわけがない。
 デスは沈黙している。ジャミルはそれを怒りと受け取ったらしく、慌てて謝罪する。
「わ、悪い! 本当に悪かった!本当のこと言ってすまねぇ! だから棒持って暴れたりとか止めてくれよマジで!」
 デスは何もしていないのだが、ジャミルが勝手に怯えている。デスの外見と立場を考えればその反応が一番正しいと思われるが、何故かデスには新鮮に感じられた。むしろその反応が楽しいと思ってしまった。もう少し脅してみようかとうっかり考えてしまったが、空気を読んだか心を読んだか、隙間から部下達の厳しい視線を感じてしまったので振り上げた棒を下ろした。ついでに客をもてなすために茶を用意させる。冥府産の血の池茶だ。
「何を怯えている。汝は我の怒りを買うようなことをしたのか?」
「へ」
 とりあえず何故怯えるのか尋ねると、ジャミルはポカンとした顔を向ける。そんなの当たり前だろと顔に書かれている気がするが、わからないものはわからない。
「人とは時に理解しがたい生き物だ」
「いや、あんたも訳わかんねぇし」
 こっちに対して何故か怯えている割には好き放題言う。本当に訳がわからない。
「ともかく、我も暇ゆえに、客人は歓迎する。生ある者が長居するのは勧められぬが、立ち寄るくらいなら問題ないだろう。というわけで他の人間にも宣伝するが良い。話次第では頼みを引き受けても良い」
 久しぶりの客に上機嫌になったらしい。デスは軽々しく告げるが、後から部下達に「困ります」と訴えられ、ユリウスに「暇などありません」と叱られるのだが、それは後の話である。
「あのさ、ここって死人が来る場所だよな? それじゃ生きてる俺らがいるのって本当はやばくねぇ?」
 恐る恐るといったジャミルの問いに、デスはあっさり答える。
「長居すると死した魂と認定され、魂の浄化が始まる。ここは元々そういう空間で、我が許可した魂以外は勝手に浄化される。ただ一つの例外も無く」
 デスの部下達やユリウス、そして冥府の戦士として日々力を蓄えている戦士たちは全てデスの許可を得て冥府に留まっている。しかし、それ以外の魂は基本的に浄化されてしまう。稀に浄化を拒む変わり者もいるが、それはここでする話ではない。
 これは冥府の常識なのだが、これを話すと生ある人間達は一斉に青ざめた。
「それって、ここにずっといたら死んじゃうってこと?」
「そうなる」
 アイシャの問いに頷くと、彼らは一斉に立ち上がってデスに向かって頭を下げる。
「そ、それじゃ俺らこの辺で!」
「申し訳ありません! また来ます!!」
「また来んのかよ!?」
 一斉に慌てて去っていった5人を、デスはのんびり見送った。
 彼らが去った後で、部下の一人が漸く茶を持ってくる。毒々しい赤がお気に入りで自慢したかったが、帰ってしまったので見せられず仕舞いだった。まあまた来ると言っていたので、次の機会に取っておこう。




 数日後、かの5人組から話を聞いたのか、人間界でもそれなりに顔見知りの男と他数名が冥府を訪れた。全開の青春劇場な彼らと違い、非常に静かというか、根暗っぽいというか、とにかく喋らない連中だった。
 とりあえずデスは以前出し損ねた血の池茶を出して反応を伺った。
 返答は、
「熱すぎて飲めない」
 これだけだった。




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最初の5人があの5人なのは、普通に感動ストーリーとかやってくれそうだからです。
実際ああいう話って、グレイとかクローディアは似合わないし。ホークを入れられなかったのは単に人数の都合です。

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