最近、グレイとクローディアが随分言い争いをしている。
最初は珍しいな、くらいにしか思っていなかったのだが、それが何日も続くと非常に怖い。普段口数が少ない二人だからこそ、良からぬ事を企んでいそうで怖い。何しろ眉一つ動かさずガラハドを消してアイスソードを強奪したような二人だ。それに関しては、止めなかった(止められなかった)残りの三人にも非はあるのだが。
「つーわけで、あの二人を放置しておくとやばい事になりそうなので、どうにかしようと思う。」
宿の一室にて、腕組みをして真剣な面持ちで宣言するジャミル。しかし彼は自ら動く気は無い。ミリアムとディアナに相談しようという時点で人に厄介事を押し付ける気満々である。
「じゃあアンタが確かめてきてよ。二人のどっちかに聞けば解決でしょ?」
「やだ!俺は凡人だからあんな外道には関われねぇ!!」
「その外道とパーティ組んでる私達は一体何なの…?」
何処か遠い目をしたディアナの突っ込みに、ジャミルは一瞬沈黙する。が、すぐに復活するその様はアンデッドのよう。その無駄に強い精神は凡人とは言い難い。
「それはそれとして。アイスソード欲しさに知り合いさえもあっさり殺すグレイと、仲間が死んで溜息をつくクローディアが二人で何かやらかせば、絶対悲惨な何かが待っているに違いない!俺自身も泥棒だからモラルは低いけどよ、人殺しにはなりたくないんだ!」
ジャミルの力説に、思わず二人も頷く。言っている事に説得力があるか否かというより、ジャミルの勢いに押されたと言う方が正しい。どの道反論も出来ない。
「なら、パーティ離れりゃいいじゃん。」
結構酷い言い草ながらも真っ当なミリアムの言葉に、ジャミルは急に暗い影を背負う。どうしたのかとディアナが尋ねると、ジャミルがクローディアの言動を真似ながら答える。
「以前俺がそう言ったら、『じゃああなたが装備している全アイテムを置いていって。』って無表情で言われてな…装備無しで一人放り出されたら、いざという時困るだろうが!」
あの女は鬼だ、悪魔だと力説するジャミルに、ミリアムは黙っておいた。グレイも以前パーティ解散するときガラハドの装備をかっぱらった事を。あの時から殺す気だったとは思えないが、仲間であっても容赦しないグレイの本質をよく示している。そう言えばディアナが加入する前ホークと一緒に居た時も、古文書とアイテムを貰ったら即、手近な街で一人放り出したなーとミリアムは過去を思い出す。
「…良くも悪くも、同類なんだねぇ。」
「ん?」
「いや、こっちの話。」
聞こえるか聞こえないかの大きさで呟いたミリアムにジャミルが疑問の目を向けるが、やや不機嫌そうにしているのを見て「障らぬ神に祟りなし」とばかりにさっさと興味を打ち消した。
「とーにーかーく!あの二人を放置しておくと絶対やばい事になる!!俺の泥棒としての勘がそう告げている!!!」
「泥棒の勘って何よ…ま、確かに放っておくとやばそうだよね。」
同意はするものの、自分で確かめようとは絶対に言わない。ミリアムとて生きているのだから、惜しいものなどたくさんある。
「仲間の入れ替え…かもしれませんね。」
それまで黙って二人の会話を聞いていたディアナが、ぽつりと一言。途端に、ジャミルとミリアムの顔が強張った。
「ま、まさかいくら何でもそれは…」
「そ、そうだよねぇ。ここまで来て今更…ま、仮にそうだったとしても術のエキスパートのあたいを外すなんて事するわけないよ。」
「それなら俺だって攻撃力はトップクラスだぜ!強い技をたくさん使えるし素早さも高いから特攻隊長って奴?」
随分必死になって自分の利点を探している。あり得ないとか口では言いつつ、随分余裕を無くしているようだ。ディアナは何となく言ってみただけだったのに。
「おい。」
「いやあああぁぁぁぁっ!!あたいちゃんと役に立つから!!だから身包み剥いで追放は止めてぇぇぇっ!!」
「おおおお俺だってちゃんと役に立つし、個人トレーニングで体力もつけようとしてるからさ!!だから追い剥ぎだけは…!」
既に耳に馴染んだ低い声がして、ミリアムとジャミルは絶叫する。宿屋の主人が怒鳴り込んでこないのが奇跡だ。二人の様子に、クローディアは不快そうに耳を抑えて一人冷静にしているディアナに尋ねた。
「何を言っているの?ディアナ、この二人何か変なものでも食べた?」
「いいえ。少し情緒不安定になっているだけ。」
「そう。」
そう答えるとクローディアは即興味を無くしてそっぽを向く。二人が落ち着くのを待っているのだが、二人の顔色は一向に良くならない。業を煮やしたグレイがリガウ島で拾った鬼神刀(元・古刀)の刃を二人に向ける。
「落ち着け。」
無表情で告げるグレイの声が、その時の二人には死の宣告に聞こえたとか。
ともあれ、一旦無理やり落ち着かせた二人とディアナに向け、グレイが一言。
「単刀直入に言う。誰か一人、一旦外れてくれ。」
その言葉にミリアムとジャミルはビクッと首を竦めるが、ディアナは冷静に尋ね返す。
「一旦?誰か必要な人間でもいるのですか?」
「ラファエルを連れて冥府に行く。」
その言葉を聞き、ディアナは眉を顰める。これから冥府に行くという話はしていたが、それで何故ラファエルが必要なのか。少なくとも彼と冥府とでは繋がる要素が無い。
「彼でなければならない理由があるの?」
「いや、別にあいつでなくても良いんだが…他に手頃なのが思いつかないからな。お前達を使うわけにはいかないし。」
その言葉に、今度はミリアムとジャミルも幾分か冷静さを取り戻したようで会話に加わる。ちなみにクローディアは既に他人事のように一人弓の手入れをしている。
「あのさ、一体何をしようとしてるの?あたいらじゃ駄目でラファエルって事は、戦力の話じゃないよね?」
「ああ。これから冥府に行くという話はしただろう?」
「それは聞いた。だからこれからリガウ島に行くって…」
「冥府で何が出来るか、詳しい話を詩人から聞きだした。」
淡々と告げるグレイだが、きっとその時強引に吐かせたりしたんだろうなと何となく思った。というか、グレイとクローディアがそうしたんだろうが、この二人が穏便に事を済ませられるわけが無い。こいつらが四天王の依頼を素直に受けたのは0.0141%の奇跡なのだから。
「それで?」
「冥府ではデスが仲間の命と引き換えに武器や防具をくれるらしい。行くならせめて一つくらいは貰っておきたい。」
「貰わんでいい――――――!!!!」
グレイの言いたい事を把握したジャミルが更に絶叫する。その意味に気付いたミリアムもディアナでさえも青ざめる。表情一つ変えないのは当のグレイとクローディア。それどころか人の命を犠牲にする事さえ躊躇わない姿勢に思わず人間かどうかさえ疑ってしまう。
「別にお前らを犠牲にするわけじゃないんだ。問題は無いだろう。」
「新婚ほやほや夫婦をいきなり不幸のどん底に陥れるな!!!!」
「まだやっていないわ。これからよ。」
「こういう時だけ口挟むな冷血女!!!お前本当に人の血が流れているのか!?」
「別に人間として認められたいわけじゃないけど、明らかに人間でないあなたに言われたくないわ。」
人嫌いなクローディアも非難じみた声で人として否定されるのは流石に気に入らないらしい。ジャミルの尖った耳に視線を送り不快そうに顔を顰める。といっても殆ど無表情なのが僅かに歪んだだけだが。
言ってる事はどう考えてもジャミルの方が正しいのだが、グレイもクローディアも、自分達の決定が間違っているとは露ほども思っていない。そういう人種でなければこの世界生きていくのは難しい、それは十分に分かっている筈なのだが…泥棒のジャミルが人の生き方にケチを付けられるほど立派な生き方をしているわけではないし、ジャミル自身もそれはよく自覚している。けれどこの二人の前では自分だって普通なんだと無駄な自信を持ってしまう。更に言うなれば耳が尖っているのは自分でもよく分からないのだから、そんなところで人外指定されるのも悔しい。
「…分かった。どうやら不満のようだな。」
納得したようにグレイが頷く。一体何を不満としているのか、クローディアと違ってそれなりに常識を弁えている筈のグレイだから疑ってはならないと思いつつも、どうにも信用しきれないでいる。
「念のために尋ねておくが、一体何が不満なのか分かっているのか?」
「ラファエルが不満ならホークを探して」
「違う!!ていうか本当は分かってて言ってるんじゃないのかあんたの場合!!!」
これでクローディアのように完全に無表情かつ視線を合わせてくるなら素だと思えるのだが、グレイはあからさまに視線を逸らしている。何もかも分かっててわざと言っているのだ。
「冗談だったの?」
「お前はもう黙ってろ!!」
本気らしいクローディアはさっさと無視し、ジャミルはグレイを睨む。その横から漸く流れについて来れるようになったかディアナが尋ねる。
「あなたは一体何がしたいの?人を犠牲にすることを良くないと分かっているのなら、何故…」
「本当は、強奪できれば良いんだが。」
は?と顔を見合わせる3人に対し、グレイは淡々と喋る。
「デスを倒して武具を強奪してしまえば、人を犠牲にする必要は無くなる。だが、お前達は以前、ガラハドからアイスソードを強奪した時不満そうだったからな。だから今度はちゃんとした交渉で手に入れるべきだと思ったんだ。」
「………。」
違う、何かが違う。グレイの言いたい事も分かるし、こちらの気持ちを汲んでくれたのは嬉しく思う。しかし。
「結局それって、デスを犠牲にすることになるんじゃねえの?」
「サルーインと同じ邪神だから問題無いだろうと思ったのだが。」
邪神に人権は無い。それはもう、神なのだから人間の権利なんか行使できるわけが無いが、それで本当に良いのか?と自問してしまう。
「お前に良心ってもんはあるのか?」
「目的を達成させるには犠牲がつきものだ。」
既にデスを倒して武具を強奪する方向に進んだらしいグレイの意思に最早誰も逆らおうともせず(正確には逆らう気力も失せた)、冥府へ行って邪神デスに喧嘩を売る事になった。
彼らが生きて戻ってきたかは、フレイムタイラントが知っている。
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キャラの無駄な暴走が激しくなっています。ただのネタです。
ゲームである事を思わせるような話は小説とは言えないと思うので、これはただのネタ話です。
ちなみにグレイとクローディアの言い争いの内容は「誰を生贄にするか」「武器と防具のどっちがいいか」です。
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