華の帰還





 とある酒場、とある人々。既にサルーインの脅威が過去のものとなりつつある時、静かに扉が開かれた。
 現れた人物に、その場にいた誰もが歓喜した。サルーインとの戦いに赴き、それきり音沙汰の無かった彼女の姿がそこにあった。ミルザ同様死んだものとされていた彼女の帰還に、数多の客や店主までもが歓迎した。
「バーバラさん!!生きてたんですね!?」
「やっぱあんたの踊りが無きゃ寂しいぜ!!」
「今日は祭だなこりゃ!!」
 ひとしきり騒ぎ喜ぶ人々。しかしやがて、彼女の傍にいた若い男に騒ぎがピタリと止まる。普段彼女の隣に居るとすれば会計係のエルマンのはずだが、今そこに居るのは彼ではなく別の見慣れぬ男。
「…ところであんたは何物だ?オレ達のバーバラさんの隣に平然と居やがって。」
「お前に断る理由も無いと思うが。」
 素っ気無い男の答えに、客の一人が怒り狂って掴み掛かろうとする。彼らが思った以上に軽い身のこなしの男に避けられ手は空を切ったが、怒りは収まっていない。皆の憧れとも言えるバーバラに仲良さそうに(これは彼らの主観だが)並んでいる男が居れば納得いかないだろう。しかも彼らが僻むくらいには美形だった。
「止めなって。喧嘩なんかより酒飲んで楽しむ方がずっと良いだろ?グレイも、いちいち怒らせるような事言うんじゃないよ。」
「本当のことを言っただけだ。」
 取り付く島も無い男・グレイにため息をつき、バーバラは周囲の男たちに軽くウィンクする。
「安心して、彼は護衛として雇った冒険者よ。別に色気のある関係じゃないから。」
 そう言う割にグレイの肩に手を置いたりしてイマイチ説得力に欠けるのだが、本人がそう言うなら信じるしかない。何より久々のバーバラの踊りをこんな揉め事で見れなくなる方が彼らにとっては大問題であった。
 あっさり収まって席に流れる男たちを眺めながら、グレイは独り言のように呟いた。
「随分飼い慣らしているな。」
「人聞きの悪い事を言わないでよ。皆、根は良い奴らばかりなのよ。ちょっと乱暴かもしれないけどね。」
 グレイの呟きを耳聡く聞き取ったバーバラが返す。フォローのつもりらしいが、果たしてそれがフォローになっているのかどうか。それはどうでも良いのだが、実際ここの連中はバーバラと仲が良いらしいし、バーバラ自身も彼らを警戒している様子ではない。それならば護衛として雇われた自分が居る意味は無いのではないかと思うのだが、それを口にすると勝手に逃げないよう釘を刺されてしまった。元より仕事放棄をするつもりは無かったのだが、そういう風に聞こえてしまっていたらしい。
 どの道グレイも酒は飲むし、バーバラの踊りを見れるのであれば別に無駄な時間ではないだろうと納得してカウンターの端の席に座る。
 多くの人間が待ち望んでいた踊り子の帰還。それを熱烈歓迎する者達の拍手の中、バーバラは舞い始める。本人曰く「大した腕ではない」舞だが、きっと芸人に必要なのは技量ではないのだろう。今彼女の舞に酔いしれている男たちを見ていると、いや彼女の舞に自然と目が向いている自分を思うとそう確信せざるを得なくなる。
「で、本当のところはどうなんだい?お兄さん。」
 声の方向に視線だけを送ると、そこに居たのは派手な格好の女が一人。純粋に飲みに来た客という感じではなく、恐らくは商売女だろう。濃い化粧の匂いが鼻について気分悪い。
「お前に話す必要は無い。失せろ。」
 出来るだけ鋭い眼光で追い払おうとするが、彼女は気にした様子が無い。大抵そうやって拒絶すれば相手は離れていくのだが、この女は臆する事が無く、逆にそれ以外の追い払い方を殆ど知らないグレイの方が先に根負けして舌打ちする。
「怖い顔するね。折角の美形が台無しだよ。で、あの踊り子とはどうなんだい?」
「話の通りだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
 きっぱりと断言すると、女はニヤニヤと嫌な笑いをする。口で言う割にはグレイを全く怖がる様子は無い。
 その女は化粧の濃さが違えど、全体的な雰囲気はバーバラと似通っている。社会を良く見知っていて、幸福に包まれた生きることから縁遠い印象が特に。ただ、彼女と違ってこの女は随分色々やっていたようだ。商売女ともあれば人に言えない事もやってはいるのだろう。その違いはあれども、肝が据わっているところは彼女に似ている。
「そうかねぇ。」
「何が言いたい。」
 含みを持った言い方ばかりをする女に、グレイはやや苛立つ。焦らされるのは好きではない。ましてや、あまり関わりたくないタイプの女が相手であれば尚更。
「あんた達って、他の誰かと一緒にいて、何かに縛られる生き方は絶対出来ないように見えるよ。」
「実際そうだからな。」
「けど、あんた達二人が並んでいると、どうも離れるところが想像できないんだよね。一旦目的が別になって別れても、またふと会って自然に一緒にいそう。」
「随分知った口を利くな。」
「これでもあたし、副業が占い師なもので。」
「馬鹿馬鹿しい。」
 真面目に話を聞いて損した。占い師なんて生き物ほど胡散臭いものは無い。ああいう人種は突然運命がどうとか言い出すのだから。占い師ではないかもしれないが、騎士団領にも似たようなのが居た。グレイが不機嫌気味に言い返すと、彼女も不機嫌さを隠しもしなかったが。
「馬鹿におしでないよ。占い師ってのは人を見る目が無きゃ駄目なのさ。ある意味人生相談を請け負っているようなものだからねぇ。占いなんてただのおまけさ。」
 自分の仕事を否定しているように思えるが、実際彼女にとって占いとはその程度のものなのだろう。世間を見知っている印象のある彼女の言い分としては間違っていないと思う。
「かく言うあたしもさ、運命なんてものは信じてないさ。けど、どうやっても何度も会ってしまう偶然が続くんなら、それを運命とは言わないかね?あたしがあんた達に感じるのは、そういう類のものなんだけど。」
「知るか。」
 やはり馬鹿馬鹿しい。意味の無い話だったと視線をバーバラに戻すと、彼女は既に踊り終えたようで、紅潮した頬で客の男たちに笑顔で接していた。
「人気だねぇ、あのお姉さん。」
 からかうような女の声。この女もあの踊り子も、この手の女は人をからかうのが随分好きなようだ。思わず眉間に皺を寄せて女を睨むと、今度は正面から別の女の声。
「人が居ない間に浮気?あなたにそんな甲斐性があったなんて驚きね。」
 やっぱりグレイをからかう物言いに、グレイは殊更冷たい目で返す。いい加減女に振り回されるのは勘弁して欲しかった。
「酔っ払いの相手は良いのか?お前の後ろからの視線が鬱陶しいぞ。」
 これは誤魔化しでも何でもなく事実。バーバラが彼らの相手もそこそこにグレイの方に来たのが気に入らないらしい。
「あらあら、嫉妬してるの?浮気中の人が何を言ってるのかしら?」
「浮気も何も、この女とは何でもないし、お前とも何も無いだろう。」
「何も無いって事は無いでしょ。それとも、長い事一緒に旅してきた仲間を捨てて、通りすがりの女の専属ボディーガードにでもなる?」
「仕事は途中で放棄しない。金の分だけはちゃんとお前を守ってやる。」
「それは頼もしい事。じゃ、あんまりこの人を誘惑しないでね。」
 二人で勝手にやり取りをしてたと思ったら、突然女に話を振る。それまで傍観していた彼女は呆然とする。話を振られた事よりも、会話内容で。
「…別に良いんだけどさ…あんたらの会話、途中から変になってないかい?最初と最後で中身が変わってるでしょう?」
「最初も最後も、言ってる事は同じよ。」
「また勘違いされたみたいだな。だからいつも言ってるだろう。お前の物言いは誤解を招き過ぎると。」
「実害が無ければ問題無しよ。こういうの結構楽しいのよね。大体、ここに入るなり誤解を招く物言いをしたあなたが言う事かしら?」
 二人の話し振りからすると、どうやら自分は遊ばれていたという事に女は気付く。しかもこの二人、いつも周囲に誤解される会話だと分かっててやっているようだ。
 女も、それを聞いていた男達もあんぐりと口を開けている。この場に居た誰もが、最初は男と女の痴情の縺れだと思っていたから、まんまと二人に一杯食わされた事になる。二人の顔つきから、悪意があっての事ではないようだが。
「まるで、長年連れ添った夫婦みたいだねぇ。」
 ぼんやりと呟いた女の言葉に、バーバラは弾かれたように大笑いする。その横でグレイは他人事のように勝手に酒を飲んでいる。
「そんな微笑ましいものじゃないよ。あたしも、グレイもね。」
 仕事が終わればグレイは離れるし、バーバラもそれを止めようとはしない。別れて、また再会することもあるだろう。その程度の意識しかない。実際これまでも何度も別れ、そして何処かで出会って仕事を依頼する。そんな事を何度も何度も繰り返してきた。女が見透かした目で語った話は、今のグレイとバーバラそのものである。
「大体、あたしもグレイも、所帯を持つなんて柄じゃないよ。」
「それは言えてるな。」
 いつの間にか酒場の空気も勢いを盛り返し、騒ぎは大きくなる。賑やかな中で、女は二人を見つめて満足そうに頷いた。二人の間に、他人が容易く入り込めない空間が出来ていることに彼らは気付いていないようだ。互いに互いの存在を尊重し認め合った、対等な関係。執着しないから一見遠そうに見えるその絆こそが実は一番強いと、彼女は経験的に知っている。
 結局誰も口にしなかったが、彼女は自分の見立てが間違っていない事を確信した。


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またグレバーっぽくバーバラEDその後。
バーバラの固有EDで、旅芸人の彼女にファンがいて、彼らはバーバラの帰還を待ち望んでいるような描写があったので、そこら辺の話も交えて。
オリキャラの女が妙に出張っていますが、正直誰かを差し向けないとグレイは全然喋らないので話が続かないのです(爆)

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