惑星ネーデのとある研究所で、一人の女性と一人の少女の笑い声がこだました。
女性の名はフィリア。ネーデには珍しく羽根の生えた女性である。
少女の名はレナ。こちらはれっきとしたネーディアンの少女である。
二人とも、十賢者防衛計画の中心人物、ランティス博士の娘である。
「フィリア〜〜〜〜〜〜レナ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!今帰ったぞ〜〜〜〜!!!!」
のどかな庭に響くやかましい男の声。その音に、少女達に群がっていた小鳥達は逃げていってしまう。
「あ、皆・・・」
レナが残念そうな顔をすると、フィリアがその無駄に大きい声の主、ランティスを睨みつけた。
「もう、お父さん!大声出さなくてもインターフォン使えば良いじゃない!!あの大声で小鳥達が逃げちゃったじゃないの!!」
「はっはっはっ、そんな事か。可愛い私の娘達に群がる鳥どもなんぞ去ってしまえばいいのだ、ははははは!!!」
「勝手な事言ってんじゃないわよ――――――!!!!!!!!!!」
フィリアの右ストレートがランティスにクリーンヒットした。もの凄い勢いで研究所の壁に叩きつけられて昏倒するランティスを気にも止めず、レナに微笑みかける。
「レナ、また皆戻ってくるわよ。だからそんな悲しげな顔しないの。」
「うん・・・でも、お父さん大丈夫かな?」
「放っておけば10分で復活するわよ。あなたも散々見てきたんだから今更心配する必要なんて無いわよ。」
根が優しいのだろう、あんな父親でも心配するレナをフィリアは好ましく思う。
そこに、研究所から現れた青年が倒れているランティスを見下ろし、嘆息した。
「何だ、博士はまた気絶中か?」
「あらルシフェル。お父さんに用事?」
ルシフェルと呼ばれた青年は困ったように肩を竦めた。
「ガブリエルの調整がまだ終わってないだろう。他の研究員達が首を長くして待ってるぞ。」
「あ――・・・ごめんなさい。」
ばつが悪そうに謝るフィリアに、また別の声がした。今度は少年の声。
「フィリア姉ちゃんが謝る事無いよ。どうせまたフィリア姉ちゃんとレナ姉ちゃんに土産を買う為に遅くなったんだろうって、皆言ってるし。」
耳にアンテナをつけた少年は馬鹿にしたような笑みを見せる。恐らくあの高性能のアンテナで、研究所内の人達の声を傍受しているのだろう。
「サディケル、そんな事言うもんじゃないわ。」
少し眉を顰めてレナが窘める。サディケルはつまらなさそうに口を尖らせる。
「レナ姉ちゃんは甘いんだよ。だから未だに博士の部屋には姉ちゃん達の人形やら写真やらで埋め尽くされてるんだ。たまにはフィリア姉ちゃんみたくガツンと言ってやらなきゃ、博士ますます調子に乗るよ。」
「う・・・・・・」
流石にレナも絶句した。あの親馬鹿は徹底的に止まる事を知らず、そんな馬鹿な事までやっているのだ。
最初に発見した時、フィリアが怒り狂ってその全てを焼き払うようにミカエルに命令したものの、あまりにも酷く嘆くランティスが見苦し・・・いや哀れになったのでレナが止めたのだ。
それからランティスが落ち着いたか言うと・・・全く反省していない。寧ろレナ公認になったとでも勘違いしたのか更にヒートアップしている。最近ではフィリアとレナの特大パネルを研究所に飾る計画まであるとか。
レナにしても、一旦許してしまった為かあまり強く文句も言えないようになってしまっている。
「・・・・・・・・・・・善処するわ。」
「そうね。サディケルはあなたの事心配して言ってるんだから、あんまり邪険にしちゃ駄目よ。」
やや茶化すようにフィリアがレナに囁く。が、高性能のアンテナを持つサディケルにはしっかり聞こえていた。フィリアもそれを狙っていたのだが。
「な、何でそうなるんだよ!!ボクは研究所が変になってしまうのが嫌で・・・・・・」
「はいはい、照れない照れない。子供なんだからもう少し素直になれば良いのに。」
「ちーがーうー!!」
真っ赤になって否定していては全く説得力が無い。分かりやすいお子様である。
フィリアは面白がっているが、レナにはサディケルが何でそんなにムキになっているのかが分かってない。首を傾げるレナに、ムキになっているサディケル。ルシフェルは見てて吹き出しそうになった。
「ルシフェル様、サディケル。一体何をしているのですか?」
「ん?ああメタトロンか。いや何、ちょっと若い青春を楽しんでいたのだ。」
くくくっ・・・と笑いながらメタトロンに言うが、どうせこの朴念仁には理解出来ないだろう。
やはりメタトロンは首を傾げ生返事を返す。
「はあ・・・・・・ところで、ランティス博士は一体・・・」
そう言えば忘れていた。自分は確かランティスを呼びに来たのに。恐らくサディケルも同じ用件なのだろう。
ルシフェルは黙って顎でランティスを指した。まだ倒れている。
「・・・またですか。フィリア様も少しは手加減なされば・・・」
「無理だろう。ランティス博士があの調子のままでは。」
手加減したら今みたくつけ上がる。そういう事なのだ。
「う・・・・・・」
ランティスが呻き声を上げた。漸く目覚めたようだ。
「ランティス博士、早く研究室においでください。戻ったらすぐにガブリエルの調整をなさる筈だったではないですか。」
起き上がるランティスに手も貸さず、呆れ口調で自ら立つのを待つ、製作者を何とも思わないルシフェルにメタトロンはやれやれとため息をつく。自分も何もしないのでおあいこかもしれないが。
「ふう・・・全く、研究者と言うものはせっかちだな。少しくらい、ネーデ政府の催促と嫌味に耐えている私を労ってはくれんのか?」
「あなたが来ない本当の理由を皆知ってるからですよ。」
帰るなり真っ先にフィリアとレナの元に飛び込んできたので確実だろう。
「フィリアとレナの為に土産を買うくらい良いじゃないか。」
時間を掛けすぎなのが問題なんだよ!!と掴みかかりたかったものの、漸くランティスが自分から研究室に足を運ぼうとしているので、敢えて手を出さずにいた。
「あ、ルシフェル。」
突然ランティスが振り返るが、ルシフェルは別段驚かず返事をした。
「何ですか?」
ランティスは先ほどまで自分が倒れていた所に置いてある袋を指差した。
「それをフィリアとレナに渡してやってくれ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ルシフェルの無言を勝手に了解と解釈し、ランティスは今度こそ研究室に向かった。
残されたルシフェルは袋を見つめ、絶句した。袋の大きさは“ちょっとした土産”レベルのものではなく、絵本でサンタクロースが背負っているような類の大きさである。
「ルシフェル、あの袋・・・何?」
不思議に思ったレナがルシフェルに尋ねる。わざわざ答えたくも無かったが、後ろで呆れ返っているフィリアと違いレナは本当に分かってないようだったから一応教える。
「あなた方への土産、だそうだ。」
その言葉にレナも驚く。ただ政府の所に行って帰ってきただけにしては、その量は多すぎる。
頭を抱えながらフィリアが袋の中身をぶちまける。するとお守りやらぬいぐるみやらキーホルダーやら、比較的まともなものに混ざってビーカー、フラスコ、メスシリンダー、スポイトetc・・・と多くの実験器具が出てきた。しかも何だか褐色のビンまで転がっている。ラベルの文字は小さくて見えないが、恐らく光に当てると反応する類の薬品だろう。
「・・・・・・博士自身の買い物・・・ではないのですか?」
恐る恐るメタトロンがフィリアに尋ねる。が、フィリアは即否定した。
「自分の買い物なら、土産品とは別にするわよ。それに私たちにこういうの買ってきたの、これが初めてじゃないもの。」
「・・・どうしようもない親父だね。」
サディケルの容赦無い一言に、誰も言い返す事は出来なかった。
結局フィリアは土産品のキーホルダーを1つか2つ持って行っただけで、残りのものは全てレナが引き取る事になった。流石に薬品やら器具やらは専門の研究員の人にあげたが、残りのマシなものは全部部屋に置いていた。もうかなりの量になるが、一つ残らず取っといてある。フィリアが見た時「少しくらい捨てないと片付かなくなるわよ」と忠告されたが、捨てる気にはならない。
(折角のお土産だものね。)
それに忠告したフィリア自身も全部捨てようとはせず、自分で持ち帰ったものは全て取っといてあるのでおあいこである。
大量の荷物を部屋に置き、レナは夕食の準備に取り掛かるため台所に向かった。
【完?】
5000Hit記念キリリクその1。
実際に書いてみたら・・・娘が一人増えただけ。面白くない。
昔話の日常の1コマにせず現在の話でシリアスにしようかとも思ったんですが、最終的に昔話と同じようなものになってしまったので、どうせなら十賢者が出てくる過去話に、と思って。
実はほのぼの目指していた事は忘却の彼方へ捨てます。
パラレル話なので好きにやれば良かったような気も・・・
こんな妙な話ですが、露葵様に捧げます。
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