神の十賢者は、銀河支配という野望に取り付かれ、多くの人々を殺し罪を重ね、最終的にはネーデ人によってエタニティスペースに閉じ込められました。
ネーデ防衛の為に作られた十賢者は、生みの親であるランティス博士の暴走によりプログラムを狂わされ、破壊と殺戮を繰り返す機械と成り果て、最後にはネーデと共に滅び去りました。
伝えられた偽りの物語と、彼女が記した本当の物語。
その全てを書き終えると、レナはペンを置いて項垂れた。
大きな嘘に隠された真実。
それと共に突きつけられた現実。
そして、「自分を倒して欲しい」と願った少年の存在。
その全てが、苦しいまでの重みとなって圧し掛かってくる気さえする。
「本当に、これで良かったの?」
誰にともなくレナは呟いた。傍にいるチサトは何も言わない。
「本当に、こんな道しか選べなかったの?」
暴走する十賢者と、停滞を続け進化を止めたネーデと。今はもう存在しないもの。
そんなレナを、チサトは黙って見つめた。
「十賢者も、ネーデの人達も、死ぬ必要なんて無かった!ただ、大昔に大切なものを失って自分を見失った人がいた、それだけなのに!!」
「・・・・・その『それだけ』で、一体何人の人が死んだんでしょうね?」
あまりにも冷たいチサトの口調に、レナは思わず絶句した。
「大昔に大勢死んで、そして今のこの時代もネーデではフィーナルが落とされたわ。その時フィーナルにいた人達は皆死んだ。そして彼らが持っていた崩壊紋章で、下手したら銀河が滅んでいた。もう、『それだけ』で済む話じゃなくなってたのよ。そして、十賢者を生み出し、あそこまで変えてしまったのはネーデの罪。罪は・・・償わなくてはならないわ。今まではそれを先延ばしにしていただけ。いつかは訪れる事だったのよ。」
レナは、ただひたすらに俯いていた。現実の厳しさ、重さに。そして無力な自分に。
昔からレナは、何かあるたびに神護の森に来ていた。
主に苦しい時や悲しい時、そこへ行くと何故か心が落ち着く。
そこに居ると落ち着くのは、懐かしく思うのは、自分が小さい頃に居た場所に似ていたからなのだろう。今はもう存在しない、あの場所に。
だが、今はこの森の静けさも、心地良い風も、かすかな鳥の鳴き声も、彼女の心を癒すには至らなかった。
「ここに、15年前私が居て、そしてクロードが現れたのよね・・・」
更にオペラの乗っていた船はここに墜落した。その残骸は既に連邦によって回収されてしまっているので、その痕跡は折れた枝や幹程度にしか残されていない。
思えば、エクスペルに何かが現れた時、その場所は殆どこの神護の森だった。例外はソーサリーグローブくらいのものである。この森には、何か引き付けるものがあるようにさえ思える。
心の何処かで、まだ十賢者の死を受け入れられないでいる。彼らと戦った後、その死を見届ける事無く彼らの姿が掻き消えてしまったから、却ってその死を実感出来ないのかもしれない。しかし、万が一彼らがあの時生きていたとしても、彼らの居たネーデは崩壊紋章によって消滅したのだ。生き残っている筈が無い。そしてそれは、彼らの・・・少なくともサディケルの望みではない。
(何を馬鹿な事を考えてるの、私は・・・)
未だにひょっこりサディケルが現れる事を期待してしまっている、愚かな自分が情けない。
「ここにはもう、来ない方が良いのかも・・・」
今となってはここは嫌でもネーデを、あの研究所を思い出させる。すると次々にネーデの事を思い出してしまうのだ。
帰ろう。そう思って引き返そうとした時、レナの名を呼ぶ声がした。聞き覚えのある女の子の声。
「レナ――――!!!ここに居たんだぁ!!」
「プリシス・・・?」
リンガに帰った筈のプリシスがここに居る。一瞬何故?と首を傾げ、引っ掛かる記憶を辿ってみる。と、
「あ!!そういえば今日って・・・」
あの戦いから一ヶ月。また会おうと約束したその日。
確かに皆でアーリアに集まろうと約束した日。
「やっぱり忘れてたのね。最近ボーっとしてたから。」
呆れたようにチサトがプリシスの後ろから現れる。
「何かあれば、いつも神護の森、だもんなレナは。」
更に後ろから現れたクロードが苦笑する。
「ごめん、ちょっと考え事をしてたから・・・他の皆は?」
「皆もう来てるよ。レナがいつまで経っても戻って来ないから迎えに来たんだ。」
多少浮かれ気味にプリシスが軽くターンする。皆と会うのは久しぶりだし嬉しいだろう。尤も、彼女はクロードがいれば良いのだろうが。
「相変わらず元気そうねプリシス。それとも、クロードが一緒に居るからかしら?」
「ええっ、あたしはいつも元気だよっ!!そりゃ、クロードが居てくれるだけであたしは嬉しいけどさ。」
顔を真っ赤にして笑うプリシスは、本当に幸せそうだ。向こうでクロードも少し照れている。
クロードはあの旅の後、自分のいた地球に帰らずリンガでプリシスと共に生活している。それからというもの、リンガでは良い助手(?)を得て調子に乗ったプリシス親子による暴走機械の被害が増大しているとか。クロードがいて機械が暴走するという事は、余程無茶苦茶なものを作っているのか。
ちょっと、羨ましく思う。もう二度と、愛しい人に会えない自分は。
「・・・行きましょ。皆待ってるんでしょ?」
物悲しくなる気持ちを抑えてレナは3人を促す。そうして神護の森に背を向けて離れようとしたその瞬間、背後で小さな爆発音がした。
「・・・・な、何!?」
慌てて後ろを振り返る。突然、空中で爆発が起きたようだ。辺りを煙が覆っていて爆発の元が見えない。
続いて、人の声。複数である。
「いでっ!!」
「どあっ!!」
「だっ!!?」
「ぐおっ!?」
「ぎゃあっ!!」
「ギョエエッ!!」
「うおっ!?」
「ぐはっ!!」
「のおああぁぁああっ!!?」
ほぼ同時に、何人かの呻き声やら叫び声やらが響いた。美しくない合唱である。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
4人とも、その場に立ち尽くして呆然とそれを見ていた。
奇妙な沈黙の後、突然現れた声の一つが再び聞こえた。
「いてててて・・・一体何なんだよこれ・・・?」
その声にレナはハッとした。この声は・・・
「レナ!?」
突然煙の中に突っ込んでいったレナをチサトが止めるが、レナはそのまま向かっていった。
少しずつ煙が晴れていく中心部の辺りに、声がまた聞こえる。
「・・・おい、上の奴らいい加減どけ!!重くてしょうがねえ!!」
「一番上の奴誰だ!!さっさと降りろ!!」
「こ、この美しい私が、こんな醜態を・・・」
「ルシフェルうるさい!!ていうかホントに誰だよ!非力でか弱いボクが潰れたらどうするんだ!!?」
「片手で1tの音叉振り回すお前の何処が非力なんだよ!?」
何だか色々揉めているが、レナは構わず手探りで声の主を探す。
そして、手が何か硬いものに触れる。急いでそれを掴もうとするが、意外と大きさのあるものの為上手く掴めない。しかも何かで抑えられている為か動かない。
が、ここで引き下がるわけには行かない。会いたい人がそこに居るかもしれないのに。
「・・・・・どおりゃあああぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
恋する乙女の底力か、気合を入れてレナが掴んでいたものを引っ張り出す。
「ぎゃああああああああああ!!!!!!!!」
掴んでいたものから悲鳴が聞こえるが、レナは容赦なく引っ張る。
「のおおぉぉああああああ!!!!」
次いでまた悲鳴。今度は何かが引き摺られる音も一緒に響く。いや、何かが崩れ落ちる音か。その音と同時に、掴んでいたものに掛かっていた力が一気に抜け、力の限り引っ張っていたレナは勢い余って後ろにひっくり返る。掴んでいたものはレナの手から離れ、レナの後ろに投げ飛ばされる。
「ぐはっ!?」
「きゃあっ!?」
「レナ!?」
チサトが心配そうに声を掛ける。
そして、漸く煙が晴れると、そこにいた者が一斉に驚く。
「・・・え?嘘、何で、ど〜して!?」
「な・・・お前達は・・・!」
「うっそお・・・どういう事!?」
上から順にプリシス、クロード、チサトである。
そして倒れていた彼らも一斉に叫ぶ。
「「「「「「「「「どういう事だ!!?????????」」」」」」」」」
突然現れ、盛大に倒れていたのは、ネーデで倒した筈の十賢者だった。
よく見ると、レナに投げ飛ばされたメタトロンを含めても、数が足りない。
リーダーであるガブリエルが居ない。そしてフィリアも。
「どういう、事だ・・・?我らは倒された筈では・・・」
クロード達の姿を確認し、辺りを見回してルシフェルが呟く。
「奇跡だわ・・・」
困惑する一同の中で、レナが感激したように呟く。
「・・・・・・レナ?」
その名を呼んだのはサディケル。レナの声を聞いて、信じられないといった顔と、何処か嬉しそうな顔が入り混じっている。
レナはすかさずそのサディケルに抱きつく。身長差がある為レナが抱き抱える形になってしまっている。
「奇跡が起きたんだわ!!この森が、あなた達をここに呼んでくれたんだわ!!!」
「へ?いや、ちょっと・・・?」
更に困惑するサディケルだが、レナは気にしてない。この異常な事態を「奇跡」の一言で終わらせてしまっている。流石属性:夢見がち。
じゃれ合う(ように見える)二人を放っといてクロード達は真面目に向き合う。
「・・・・・まさかこんな形でまた会うなんて、思ってもみなかったな。」
クロードがルシフェルにだけ殺気を向けながら話す。それにルシフェルはやや怯えながら答える。
「・・・実は私にも良く分からんのだ。倒されたと思った瞬間、何処か暗い空間に押し込められてな。あそこの筋肉どもと同じ狭い閉鎖空間に居たので気分は最悪だった。」
「それはこっちのセリフだ!!テメェ香水臭くて気持ち悪ぃんだよ!!」
わざわざ残りの賢者達を指差して文句を言うルシフェルに、今にも吐きそうな顔でミカエルが喚く。
「ま、そんな事はどうでも良いんだけど。じゃあ何でこんな所に居るかは分からないんだ?」
何故かルシフェルだけ足蹴にするクロードの問いに、賢者は一斉に頷く。
すると、今までの話を一応聞いていたらしいサディケルがいつの間にかレナの手から逃れて口を挟む。
「誰も気付いてなかったの?あの時ボク、フィリア姉ちゃんの声を聞いたんだけど。」
「・・・・・フィリア様の?」
サディケル以外の皆が首を傾げる。本当に分からないようだ。
「フィリア姉ちゃんが言ってたんだ。こうなった原因は博士にあるって。ネーデと共に滅ぶのは自分達だけで良いって・・・で、いつの間にかこうなってたんだけど。」
「・・・・・・・・・」
途端に、辺りが静まり返った。
恐らくフィリアは、賢者達を一時的に何らかの空間に閉じ込めた後、空間ごと適当な場所に逃がしたのだろう。それがたまたま一番近いエクスペルだった。何だか強引な気もするが、それが一番正解に近い気がする。
沈黙の仲、サディケルが自嘲気味に笑う。
「変な話だね。誰かが悪いって話なら、大勢人を殺しておいて長いこと無駄に生きてきたボク達も悪いのにさ。」
「サディケル・・・」
悲しげにレナが呟く。
「フィリア姉ちゃんも、ボク達を生かしておいてどうしようってんだろうね?今更、何をしろってんだろ?もう、後戻りできないくらいに散々罪を犯してきたってのにさ。」
サディケルの独白に対して、賢者達は無言。肯定したくは無いが、否定も出来ない。
ランティス博士の設定したプログラムのままに破壊を繰り返してきた十賢者達は、自分の行いを自覚していた。元々人間である彼らは、破壊や殺戮を繰り返しながらも、それがどういう行いかをちゃんと理解していた。自分達が、罪を重ね続ける道具である事も自覚していた。
だからこそ、己の存在を忌まわしく思っていたのに。
「・・・それで、死んで償う気だった・・・とでも言うのか?」
不意に、クロードが口を開く。
それまでずっと黙っていた彼が、賢者達を睨みつけるように、低い声で。
「まさか、罪を償うには死しかないとか思ってるんじゃないだろうな?そんな馬鹿げた事を本気で考えてんじゃないだろうな?」
「馬鹿げた事だって・・・?」
かすかにサディケルに怒りの色が現れる。そして明らかに賢者達がクロードに殺意を向け始める。
それでも全く気にしない風にクロードは言う。
「・・・確かにそういう償い方もある。死刑制度が未だに残ってるのも、そういう事なんだろうな。でも、お前達がそれに倣う必要があるのか?」
「・・・・・・クロード?」
クロードの言いたい事が分からず、ただ疑問符を浮かべるレナと、困惑した様子を見せる賢者達。
クロードは少し目を逸らし、やや不貞腐れた感じに言う。
「お前達が、自分のした事を罪だと言うのなら、それを生きて償うのもありなんじゃないのかって・・・・・・尤も、裁判官じゃあるまいし、僕にだってそんな偉そうな事は言えないけどさ。」
言いながらも、クロード自身酷く複雑ではあった。彼にとって十賢者は父やカルナスのクルーを殺した仇であり、そもそもエクスペルやネーデの平和を脅かしたのも彼ら。
けれど、シークレットファイルは教えてくれた。彼らもまた、被害者であると。
結局クロードは、十賢者を憎みきる事が出来なかった。それを甘さと取るかどう取るかはともかく、少なくとも今の彼は、十賢者に対して好きにはなれなくても憎しみを抱いてはいない(ルシフェルだけは分からないが)。そんな心境から思わず出た言葉。
すると賢者達の顔が少しずつ穏やかになっていく。怒りが収まっていく。
サディケルは僅かに微笑んだ。
「ボク達は素体だからね。そんな簡単に死なないし、寿命もかなり長い。整備さえ行えば、半永久的に動き続ける。つまり、その永い時を償いに使えって事か。」
ずっと先にある死を迎えるまで続く罰。それは永遠にも近い時間である。
「そうだね、そういうのも、良いかもしれない。」
微妙に晴れやかな表情を見せたサディケルに、レナは微笑む。
「サディケル、そんな言い方しないで。それに、罰とか償いとか、そんな堅苦しく考えなくても良いじゃない。今ここにあなた達は生きていて、私たちもここにいる。生きている人は、幸せになる権利と同時に義務もあるんだから。あなた達を助けた、フィリアさんの為にも・・・」
今この時を生きる、それが彼らへ課せられた義務。
生きて、己が意識する罪を償う為に。
「・・・で、貴様はいつまで美しい私の上に足を置いているんだ――――!!!??」
「あ、忘れてた。でも何だか、寧ろもっと踏んでやりたい気分。」
「おお、良いぞもっとやれ―――!!!」
「調子に乗るなザフィケル!!」
「じゃあ、リクエストにお答えして・・・」
「ぎゃあああぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!」
彼らが分かり合える日は、意外と近いかもしれない。
人々を苦しめた十賢者達は、その業から開放され、己の道を歩き始めました。
道具ではなく、一人の命として。
彼らは生きる事によってその罪を償う事になりました。
【終】
・・・何、これ。散々待たせておいてこれですか。
かなり強引な展開とシリアスだかギャグだか分からない話。
これは一応前に書いたサディレナ話の続きなんですが、あの(自称)シリアスが台無しに・・・!こういうのはお題の方で書くべきでしたか。でも個人的に十賢者には生きていて欲しかったので、無理やりこういう形にしてしまいました。まあ罪がどうとか言ってますが、書いてる本人が一番わかってないので適当にスルーして下さい(死)
しかも良く考えたら本当にハッピーEDかどうか怪しい・・・サディケルって年取らない筈だし・・・ひぃ。
後、レナが中心の筈だったのに、何故か最後はクロードが目立ってしまっているのがおかしいんですが・・・済みません、趣味に走ってしまいました(爆)
そして一応レナ&チサトEDとクロプリEDです。後者は思いっきり趣味です。
取り敢えず、ごめんなさい(陳謝)
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