未来を生きるキミへ







 最近、レナが元気ない。
 最初は、決戦が近いから緊張していたのかと思っていたが、どうやら違うらしい。(自称)同じ女の子のプリシスが違うと断言しているのだ。彼女曰く、「あれは恋の悩みっぽい」らしい。
 クロード達は、レナが自分から話してくれるまで、またはレナが自分で解決できるまで敢えて何も言わないようにしてきた。
 しかし、今はそんな事を言ってられない。明日、フィーナルへ突入するのだから。その為に万全の準備を終えてラクアに来ている。
「で、どうしますの?レナがあの調子でフィーナルに突入しても・・・」
「ああ・・・あのままじゃ危険だ。心ここにあらずといった感じだしな。あれじゃ殺されに行くようなものだ。」
 クロードの言う事は尤もだが、十賢者がいつ崩壊紋章を発動させるか分からないので、悠長にしてる暇は無い。
「いっそ置いてっちゃう?回復は・・・アイテムでどうにかして。」
「危険だな・・・」
 レオンのちょっと非情な提案を却下し、何故レナが落ち込んでいるのか考えてみる。しかし、クロードにはさっぱり見当もつかない。
 そんな時、チサトは思い出したように言う。
「そういえば、皆は十賢者倒したらエクスペルに帰るのよね。」
「え?・・・まあ、そうなりますね。僕やオペラさんとエルネストさんはちょっと違いますけど。」
 戦いが終わったら、クロードは地球へ、オペラとエルネストはテトラジェネスへと帰る予定である。でも、一旦はエクスペルに戻る事になるだろう。
 しかし、それは初めから決まっていた事だ。今更何故気にかけるのか。
 分からないままの顔のクロードを、オペラがどつく。
「馬鹿ね、アームロックで会っていたっていう子の事が気になるんでしょ。」
「あ、そっか・・・」
 どこの子かは分からないが、少なくともネーデの子である事は間違いない。つまり、十賢者を倒したらレナはあの子と別れる事になる。そして、今のエクスペルの技術では、あるいは今のネーデでは再びレナがネーデに来る事も、少年がエクスペルに来る事も出来ない。まさに、永遠の別れと言っても良い。
「ま、仕方ない事なのよね・・・別れは、必然なんだから・・・・・」
 苦しげな面持ちでのチサトの一言は、あまりにも小さくて、誰の耳にも入る事は無かった。



 レナは一人、与えられた部屋でひたすら海を眺めていた。しかし、彼女の目に焼き付いているのは、最近良く会っていた少年の笑顔。
「・・・もうすぐ、十賢者との戦いになる・・・」
 それは構わない。ずっとエクスペルを復活させる為に頑張ってきたのだ。そして、危険な存在を放っておくわけにはいかない。例え十賢者が、運命に翻弄された悲しい存在であっても。
 でも、それは同時に、このネーデとの永遠の別れを意味している。あの謎の少年とも、二度と会えなくなる。
 だからといって、このままエクスペルを放っておくわけにはいかない。
「私は・・・・・・どうすれば良いの?」
「簡単だよ。十賢者を倒して、キミ達の居た星を取り戻せば良いんだ。」
「・・・・!!?」
 一人でいた筈の部屋で、自分以外の声。しかも確実に聞いた事のある声。
「・・・・・・シャロット?」
 振り向くと、そこに居たのは確かに、シャロットと名乗った少年。いつの間に入ってきたのか。いや、それよりも何故自分がここに居ると分かったのだろうか。シャロットには何も言ってない筈なのに。
「ボクがここに居るのが不思議?」
 思っていた事を見事に見透かされて、レナは目を見開く。
 シャロットは楽しそうに笑うとレナの手を取った。
「ここじゃ誰か来るかもしれないから、外で話そっか。」
「え?あ・・・・きゃあっ!!」
 レナの返事を待たずに、二人は淡い光に包まれ、その場から掻き消えてしまった。



 気付くとそこは、窓から見えていた海岸だった。と言っても、ラクアの建物から少し離れているので、恐らく誰かに見られる事は無いだろう。
しかし、自分達はどうやってここまで来たのだろう?飛んできたわけでもないし、何かに乗ったわけでもない。敢えて言うなら、トランスポートに乗った時のような・・・
「レナ。」
 呼ばれて我に返ると、目の前でシャロットが微笑んでいた。心なしか、悲しげにも見える。
「シャロット・・・これは一体何なの?あなたは一体・・・・・・」
「サディケル。」
「え?」
 言われた単語が理解できず、まともな言葉が出てこない。シャロットはもう一度その単語を口にする。
「サディケル、だよ。ボクの、本当の名前。」
 変わらぬ笑顔で、シャロット―――いや、彼の言葉を信じるならサディケル―――が繰り返した。
「サディ・・・ケル?それって・・・」
 散々本で読んで知っている、その名前。十賢者の一人で、情報収集用素体。
 自分達が倒さなければならない、敵。
「嘘・・・」
「嘘じゃないよ。ボクは十賢者の一人、サディケル。そしてキミ達の敵だよ。」
 明らかに動揺するレナとは対称的に、サディケルは笑みを浮かべたまま、酷く無機質に続ける。
「別に動揺する事じゃないんだ。キミ達は予定通り、銀河の敵であるボク達を倒す。それだけで、銀河は救われる。簡単な事じゃないか。」
「そんな・・・だったら何故、あなたは・・」
「敵であるキミと一緒に居たかって?ただの気紛れだよ。暇つぶしに付き合っていただけさ。」
 サディケルはずっと、自分で言ったその言葉を必死に自分に言い聞かせていた。余計な感情に惑わされないように。
 しかし、元々感情豊かな子供として造られた彼に、今更無関係、無表情で通すには遅すぎた。既に彼の中でレナの存在は大きくなっていたのだ。
 口で何を言われても、レナにはそのサディケルの心情がすぐに分かってしまった。だからこそ、余計に吹っ切れない。
「・・・・・・気紛れ?暇つぶし?・・・なら、どうしてあなたが泣きそうな顔してるの?どうして・・・そんなに辛そうな顔するの!?」
「・・・勘違いだよ。ボクはただの・・・」
「造られた存在だから?ランティス博士の道具だから?だから、感情なんて存在しないなんて言うの!?」
 声を荒らげるレナの顔を見て、サディケルは声を失った。彼女の目からは涙があふれてきている。
「あなた達だって、元はネーデ人じゃない!人の心って、生みの親にだって簡単に変えられるものじゃないのよ!!」
 “造られた”“ランティス博士”“道具”・・・・・・数々の単語が、レナの言葉の一つ一つが、知られる事の無い筈の十賢者の真実を示している。
 ネーデに戻ってからサディケルは情報収集のついでに、自分達がどんな風に語り継がれているのかを調べた。それらの資料は、嘘は何一つ無かった。しかし、肝心な部分が悉く抜け落ち、どんな資料も決して全ての真実を語ってはいなかった。恐らく、エナジーネーデに移った時に、十賢者に関するあらゆる情報を削除したのだろう。新たな場所で生きていく為に、過去の汚い部分を洗い流すように。
 今のネーデで、十賢者の本当のデータが現れる事は無い筈だ。ならば何故、彼女は知っているのだろう?
「・・・凄いね。そんな情報、一体何処から仕入れてきたの?」
「ギヴァウェイで、シークレットファイルを見たのよ。私にはどうやって隠されていて、どうやって見つけたのか良く分からないけど。」
 どんなに徹底して消そうとしても、その目をくぐって生き残り続けるものはある。完全にその存在を消すのは容易ではない。
「そっか。・・・なら尚更、キミ達はボクらを倒さなければならない。それが、真実を知ってしまった者の義務だよ。」
「どうして!?あなた達が止めれば、こんな戦い・・・」
「無理だよ。今のボク達はただの道具。ランティス博士の怨念に支配された、破壊の為の道具でしかないんだ。人間としてのボク達はもう、37億年も前に死んでしまっているんだ。道具としてのボク達は、ガブリエルの中にあるランティス博士には逆らえない。今のボク達は、その為に存在しているんだから。」
「自分を道具だなんて言わないで!!道具は自分の意思なんて持たない!道具は、感情なんて持たない!!」
 少なくともレナには、シャロットと名乗っていた時のサディケルがとても楽しそうに見えた。それらが全て作り物だったとは思えない。思いたくなかった。そして、今目の前で悲しげに微笑むサディケルから伝わる思いが偽物とは思いたくない。
 レナの頬を、涙が伝う。サディケルは指でそれを拭き取り、小声で呟く。
「道具だよ。37億年もの間、銀河支配という歪んだ願いを成就させる為に存在し続けた・・・ね。でも、そんな風に存在し続けるのも飽きてきたしね。だから・・・」
 サディケルはすっとレナから離れる。感じるのは圧倒的な虚無感。
「ボクを、消してほしいんだ。いい加減、道具としての生に決着をつけたいんだよ。」
 サディケルから伝わる虚無感は、死への願望そのもの。かつてレナの幼馴染が抱えていた感情そのもの。ただ一つ、決定的に違うのは表情。悲壮感さえ漂わせていたディアスと違い、サディケルはひたすら微笑みを消さない。表面からは、この少年が死を望むなどとは到底思えないだろう。
「割り切っていたつもりだったけど、やっぱりボクは、人間でありたいから。でもこうしてボクが存在している事自体、人間としては不自然極まりないだろ?でも、自殺とか出来ないように思考を調整されているからさ、キミ達に倒されるしかないんだよ。少なくとも、それを望む自由はあるからね。」
 その言葉は言外に「その程度の自由しか許されていない」と告げているようだった。実際、そうなのかもしれない。
 サディケルの言葉を否定したかった。死ぬ事が唯一の望みなんて、思ってほしくなかった。けれど、自分には何も出来ない。彼を助ける事も、守る事も出来ない。
 突きつけられた現実に対して、レナはあまりにも無力だった。サディケルも、救って貰おうという意思は感じられなかった。
「・・・・・・だったら、何で今私の前に現れたの?助けられる事を望んでないのなら、わざわざ敵である私の所に来る必要も無かったじゃない。なのに、どうして・・・」
 悲痛な叫びとも思えるレナの問いに、サディケルは首を振る。
「分からない。でも・・・もしかしたらキミに憶えていて欲しかったのかもしれない。ボクという存在を・・・・・・これからの時代を生きるキミに。」
 助ける事も、救う事も出来ないレナに、ただ一つ出来る事。
 笑う事の出来ない状況だけれど、それでもレナは精一杯微笑んだ。
「忘れない・・・絶対に、あなたの事、忘れない。ずっと心の中に、置いておくから。・・・私には、それしか出来ないから。」
「・・・・・・・ありがとう。キミと一緒にいた時間、結構楽しかったよ。・・・辛い思いさせて、ごめん・・・」
「そんな事・・・!」
 レナが言い終わる前に、サディケルの姿は消えてしまった。静かな海岸で、レナは一人その場に立ち尽くしていた。



 フィーナルに戻ったサディケルを待っていたのは、サディケル以上に悲しげな顔をしたフィリアだった。
「サディケル・・・本当に、それで良いの?」
「うん。もう決めたんだ。ボク達十賢者は、37億年前の遺物。無駄に生きるよりも、消えた方が良いんだ。・・・・・・進化を止めて生き続ける、このネーデ同様にね。」
「嘘ばっかり。本当は、あの子と一緒に行きたいんでしょ?自由に、生きたいんでしょ?あなたがわざわざあんな所まで行ったのは、あの子に助けて欲しかったからでしょ?でも、あの子が辛そうな顔をしていたから、そんな事言えなかった。強がって、自分を消せと、あの子に言った。・・・・・・本当なら、下手な事言わずに、あの子に会わずに帰ってくれば、あの子を傷つけないで済んだかもしれない。それが分からない訳無いわよね?」
 それでも、それが出来なかったのは、サディケルがレナに未練を持っているという事。そこまで想っているのに、何故あのままにして帰ってきたのか。
 答えないサディケルに、フィリアはため息をつく。
「・・・お父さんの事なら、私が何とかするから・・・」
「だから、ボクだけ自由に生きろって?やだよ。ザフィケル達はやられちゃったし、いずれミカエル達もやられちゃう。あんな奴らでも、一応仲間だしね。何かあったら一蓮托生だよ。・・・・・・もっとも、ルシフェルだけはそうでもないみたいだけど。」
 情報収集用素体であるサディケルは当然、ルシフェルの企みにも気付いていた。しかし彼を今更止める気も無い。下らない計画立てても恐らく勇者一行に倒されるのだろうから。
「ねえ、フィリア姉ちゃん。」
 急にサディケルに呼ばれて、フィリアは顔を上げる。
「あいつら、何だかボク達の事知っちゃったみたいだけど、ちゃんとボク達を倒してくれるかな?」
 あいつら甘そうだからさ、と自嘲気味に話すサディケルに、フィリアは何も返せなかった。



 翌日、レナは表面上は普段通りになっていた。心の中ではまだ何か抱えているようだが、少なくとも彼女なりにケリをつけたようだ。
(彼を倒す事でしか、彼を救えないのなら・・・・・・私は、その願いを叶えなければならない。彼が望む、唯一の願いを・・・)
「さ、早く行きましょ。十賢者を倒して、エクスペルを復活させないとね。」
 フィーナルは、目の前である。
 




(後書き)
・・・・・暗っ!
キリリクで「サディレナ決戦前夜」だったのですが、基本的に悲恋なんだろうなーと思ったらこういうシロモノが出来上がってしまいました。
シリアス=暗い なわけないのですが、何故か暗くなってしまい、しかも書き慣れないので、かなり支離滅裂な話になってしまいました。結局、何が書きたかったのか自分でもわからない始末・・・
大体、これってかなりクサ・・・(強制終了)
実は恋愛小説とか漫画とか、つまり恋愛ものは全く読まないので正直良く分からないんです。そんな奴が苦し紛れに書いたものだから(笑)

本当は、「何かを失っても残るものはある」というテーマだったのに、そう見えないなーと自己嫌悪に陥ってます。
しかもこれじゃあまりにも報われないので、いずれED後の話書こうかなーとは思ってます。ただ、無理やりハッピーエンドにすると、無茶苦茶な展開になる上、一応のシリアス感が台無しになりそうなので、ちょっと悩んでたり。

しかしこの話、SO3知ってると何だか複雑な気分になりそう。


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