最近、ルシフェルは酷く不機嫌だった。 原因ははっきりしている。格下(と思っていた)サディケルが外で彼女を作っていたのだ。
「おのれサディケル・・・私でさえこの37億年彼女などいなかったのに・・・」
滝のように涙・・・否、オイルを流している十賢者監視用素体。流れるオイルに彼自慢の高級絨毯はドロドロである。
サディケルへの恨み言ばかり口にしている為、ノックする音も誰かが入ってくる物音にも気付かなかった。
「何騒いでるの・・・あら汚い。綺麗好きのルシフェルらしくないわよ。」
さして驚く様子も無くフィリアは現れた。ルシフェルがここまで嘆き悔しがる理由をフィリアは良く分かっていたから。
「そんなにサディケルに彼女が出来たのが羨ましいの?あなただって37億年前はモテていたじゃない。確か一番多い時で一気に50人だったかしら?」
「そんなに少なくありません。94人でした。」
ちなみにルシフェルはこの女性達全員に振られた。2股3股どころでないこの数では、自業自得だが。
勿論、フィリアもそれを知っている為、同情など欠片もしていない。
「まあ、それは良いけど、ちゃんと掃除しておかないとサディケルに怒られるわよ。最近あまり怒ったりしないけど、ここまでオイル臭いと流石にまずいんじゃない?」
大体何でオイルが涙のように流れるのか。大昔のポンコツロボットじゃあるまいし、と思いつつルシフェル自慢のテーブルに目をやると、「体力活性オイル試作品」というラベルのついた大きな缶が置いてあった。基本的に優雅に出来ているルシフェルの部屋に、その缶はあまりにも相応しくなかった。
しかもそれは、ガブリエルが最近まで作ってた新作だろう。常に体力の回復が出来る新作オイルを作るとか張り切っていたのを覚えている。恐らくガブリエルは、精神不安定のルシフェルを上手く騙して飲ませたのだろう。
「ふ・・・・・・ふふふふ・・・・・・・・・」
「?」
突然、不気味な笑い声を上げるルシフェルに、フィリアが怪訝な視線を向ける。
「あのガキ、この私を差し置いて・・・許さん、許さんぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
まるで血の涙でも流しているようね。実際に流れているのはオイルだけど、とフィリアは至極どうでも良い感想を持った。
ルシフェルは背中の赤い羽根をばたつかせ、そのまま窓から勢い良く出ていった。奇声を上げながら。
残ったフィリアは誰にともなく呟いた。
「ルシフェル・・・サディケルの邪魔をしに行ったのかしら?でも今日はあの子、ジョフィエルとファンシティに遊びに行った筈だけど・・・」
ルシフェルの向かった方向は、フィリアの記憶に間違いが無ければアームロックであった。
というわけなので、やまとやに行ってもサディケルが居る筈も無い。が、それに気付かないルシフェルはひたすら物陰で、決して来ないサディケルが来るのを待った。
「ふふふふふふ・・・・・・何の事は無い、邪魔でも何でもしてあの二人を別れさせれば良いのだ。はっはっはっ、私とした事が、何故こんな簡単な事に気付かなかったのだ・・・」
物陰から、とは言っても実際にはルシフェルの後ろからは丸見えである。そちらの方角から見ると、無気味な笑いをする変態が座っているようにしか見えない。
しかし、ルシフェルはそれに全く気付いてない。背後からの気配にも気付かない。
「ソード・・・・・・」
殺気がルシフェルに向けられるが、やはり気付かない。
「ボンバァァァァァァァァァ―――――!!!!!!!!!!!」
「ギャアァァァアアアァァァアアアアアアッ!!!!!!!!」
背後からの炎に包まれ、ルシフェルは悶絶する。
惨たらしく炎に焼かれ、その火を消す為にごろごろ転がり服が汚れ擦り切れる。
やっと火が消えた時は見るも無残だった。
「はあ・・・はあ・・・・・・お、おのれ・・・誰だこの私にこんな真似をしたの・・・は・・・・・・」
ルシフェルの顔から急速に怒りが消えていく。ついでに血の気も引いてくる。
彼の目の前で剣を構え、怒りの形相を露にしているその名はクロード。光の勇者一行の一人にしてリーダー、そして先日十賢者によって父を失ったばかりの青年であった。
「こんな所で会うとはね。訓練するまでも無い、今ここで殺してやる!!」
鏡面刹の構えを取るクロードからルシフェルは一目散に逃げ出した。
クロード達はアームロックに繋がる紋章兵器研究所へ行く為にここへ来ていた。クロードには、父を殺した奴らの顔は記憶に新しい。といっても、彼が覚えているのはガブリエルとルシフェル等、あの時あの場にいた奴らだけだが。
しかし今のタイミングでクロード達が十賢者のシールドを破る事は出来ない筈なのだが、それでもクロードが攻撃できたのは怒りゆえか、それともルシフェルがシールドを張るのを忘れていたのか。
何にしても、直感的に「殺される」と判断したルシフェルは必死にクロードから走って逃げた。飛べば楽だったのに、今の彼はそんな冷静ささえ忘れていたのだ。参謀じゃなかったのか、お前。
「ぜえぜえぜえ・・・・・・くっ、人間風情がこの私を恐れさせるとは・・・・・・」
お前も元人間だろうが。
「しかし・・・あのクソガキは一体いつになったら来るのだ?」
誰も今日サディケルがここに来るとは言ってない。
「ちっ・・・あの人間は一体何者だ?私のシールドを破るとは・・・・・・」
とか言いながらあたりを見回して警戒する。サディケルが来るのを見張っているのではなく、あの鬼神(クロード)が来ないか警戒しているのである。
「ふぅ・・・誰もいないな・・・」
ぽん
「のわぎゃああぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」
誰かに肩を叩かれて悲鳴を上げながら振り返る。勿論すぐにでも逃げられる準備をしながら。
が、そこにいたのは彼が恐れている金髪の青年ではなかった。確かその仲間の女で、しかもサディケルと仲良くしていた・・・・・・
「あのクソガキの女か!!!」
「はぁ???」
その少女・レナは全く分からないという顔をしていたが、そのクソガキが誰なのか分かるとぽん、と手を打って答えた。
「ああ、シャロットのお兄さん?初めまして、私レナ・ランフォードと言います。」
「あ、これは丁寧に。私はル・・・・・・って、違―――――――う!!!!!」
ここに来て漸くルシフェルは本来の目的を思い出した。そして目の前の少女に食って掛かる。
「おい、あのクソガキはどうした!?隠すと為にならんぞ!!!」
「え?今日は会ってませんけど・・・・・・」
「・・・・・・は?会ってない、だと?」
寝耳に水、とはこういう事か。て言うか本当に誰もサディケルが今日もここに居るなんて言ってない。
しかも今この少女から出た単語は聞き覚えがあるような無いような・・・・・・
「シャロット・・・ネギ?あいつ、そんな偽名使ってたのか?」
いくらアンテナがネギに見えるからといって・・・
「?・・・どうかしたんですか?」
「あ・・・いや、なんでもない。取り乱してしまって申し訳ない。」
「いえ、それは良いんですけど・・・・・・ああっ!!!」
レナの突然の叫びにルシフェルは顔を強張らせた。もしや、十賢者とバレたのか?
しかしレナはルシフェルに手をかざして回復魔法をかけた。自分を助けるつもりなのか。だとしたら少なくとも自分の正体には気付いていないのだろう。さっきの青年は気付いていたのに、何故この少女は気付かないのか非常に気になったが、ルシフェルはかすかな安堵と何故か温かな気分になった。
やがてレナの手から光が消え、同時にルシフェルの体も完治していた。
「・・・・・・ふう、やっと治った。一体どうしたんですか、あの傷?凄く酷い火傷でしたよ。」
ここで犯人を言っても良いものだろうか。お前の仲間がやったんだと。
しかしルシフェルはそれを言わなかった。言ったら正体がバレるだろう。そしてこの少女には知られたくない。何故かそんな気分になった。
「ありがとう、見ず知らずの私に親切にして頂いて、感謝の言葉もありません。」
いきなり薔薇を咥え颯爽とキザったらしい行動をするが、それ以前にトチ狂った姿を既に見られているので無意味そのものだろう。
そのルシフェルに、レナは悪意の欠片も無い笑顔で答えた。
「いえ、良いんですよ。それにシャロットのお兄さんだったら他人なんかじゃ・・・あ、何言ってるんでしょうね、私ってば。」
顔を赤くして俯くレナに、ルシフェルは拳を震わせた。惚気てんじゃねえぞボケと心の中で叫んでいる。
しかし、ふと気になる事があってレナに尋ねてみる。
「ところで、私があのクソガキ・・・あーいや、シャロットの上・・・じゃなかった、兄・・・?だと何故分かったのだ?」
所々引っかかる物言いだが、レナは素直に答えた。
「シャロットから聞いてたんですよ。沢山居るお兄さん達の事。銀髪で片目を隠していて一見キザっぽいけど実は完全に三枚目の自称レディキラーだって。」
「・・・・・・・・・・・・・あのクソガキ・・・・・・・・・」
そんな説明するサディケルもサディケルだが、それを素直に伝えるレナもレナだ。
血管(あったのかそんなもん)が一つ一つ千切れていくのを感じながら、ルシフェルはサディケル暗殺を考えていった。
が、そのマイナス無限大な思考を止めたのもレナだった。
「あれくらいの年頃の男の子って、結構生意気なものなんですよ。私もレオンには散々田舎のイモ姉ちゃんだの妄想爆発女だの言われていて・・・」
自分で言いながら自分で結構ショックを受けているようである。しかも何だか不気味に笑い始めた。
「うふふふふふふふふふふふ・・・・・・ね、ですから、特に気にする事ありませんよ。」
何処となく虚ろな瞳のレナに、ルシフェルは素直に頷いた。そうしないと殺されそうだったから。
ルシフェルが頷くと、レナはさっきまでの普通の顔に戻った。気が済んだのだろう。きっとそうだ。
「レナ―――――!!!そろそろ行くってさ―――――!!!!」
何処からか少女を呼ぶ声が聞こえた。その声の主も少女のものだが。
「あ、プリシス。分かったわ、今行く!!」
レナもその声に返事をする。そしてルシフェルに向き直る。
「あ、私達これから行かなきゃならないんです。それじゃ、シャロットによろしく伝えてください!」
そう言ってレナはそのまま走り去っていく。その先には仲間達・・・ルシフェルを火だるまにしたあの青年の姿も・・・
ルシフェルは少し緊張したが、結局その青年はルシフェルに気付く事は無く、一応命拾いした。
そして彼らは、アームロックの奥にある大きな扉の中に入っていった。そこに何があるのか、37億年も前にエタニティスペースに放り込まれた彼ら十賢者は知る由も無いが、どうせ何をやっても無駄・・・・・・多分、無駄・・・なんだ。うん、そうだ。そうと信じたい。
銀河の支配。彼ら十賢者の目的はまさにそれだ。その為に、邪魔する者は皆殺しにしなければならない。だが・・・・・・
「フン・・・一応、借りもあるしな。他の連中は皆殺すが、あの女だけは生かしておいてやろう。」
尤も、彼の計画ではサディケルを生かしておく気は無いので彼女が悲しむ事は目に見えているが、そこまでは知った事ではない。サディケルを生かしても彼女は仲間が殺されれば悲しむのだろうが。
「・・・・・・・・・身近な人間の死に悲しむ、か・・・我々には既に遠い感情だな。」
その感情は、既に遠い昔、まだ彼らが人間であった頃の、過去の遺物なのだ。忘れ去ったと思っていたが、そんな事を想定するだけ、自分で思っているほど人間を捨てきれていないのだろう。
「なんにしてもまずは、勇者どもを盛大に迎えねばな・・・クックックッ・・・」
『覚悟を決めるのはお前の方だ!!!!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬、金髪の青年が自分を高速で斬り刻むのを想像し、恐怖に震え上がったルシフェルだった。
少し良い気分、少し恐怖な一日を終えてフィーナルに戻ったルシフェルを待っていたのは、サディケルによる夕飯抜き宣言とフィーナル中のトイレ掃除だった。どうやらサディケルは無駄に高性能なアンテナでちゃっかり会話を傍受していたらしい。何でもフィリアにルシフェルの様子を聞いたサディケルが、自分のアンテナ専用の盗聴器をルシフェルにつけていたとの事。
「あんのクソガキィィィィィィィィィ!!!!!!!!」
一晩中、ルシフェルの怒りの声が、フィーナル中のトイレからこだました。
(後書き)
キリリクのサディレナ前提レナに興味を持つルッシー・・・の筈。
興味・・・持ったのかな?レナに。自分で書いてて自信ないです(爆)
しかしルシフェル・・・弱い・・・ありえない・・・クロードに怯えて逃げるルッシーなんてありえない・・・ていうかルッシーの扱い悪すぎ。
でも良く考えたらうちのクロードは結構強いので(話に出てなかっただけで)問題は無いのかな?
何だかこのサディレナ話、シリーズ化してきてますね。
でも一応、明記されてなければ他の十賢者話とは独立してるんですが。
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