暖かな日差しの昼下がり、アリアスの木の下で、一組の男女が穏やかな時を過ごしていた。
男は草の上に寝そべり、女はその横で座りながら話をしている。
話の内容は、殆ど他愛も無い雑談であるが、二人にとっては心安らかになれる貴重な時間である。
「アルベルさんも少しくらい読書なさったらどうですか?このままじゃ「戦いしか出来ない脳内麻痺男」とか思われますよ。」
「・・・・・・今テメェが言ってんじゃねえか。」
「まあ、私はそんな事思ってませんよ。あなたが本当は頭が良いという事くらい知ってますから。」
「・・・ふん。」
そんな、のどかな一時。
しかし、何処の世界、どの時間にも邪魔者というものは存在する。
端から見れば恋人達の逢瀬とも見えなくも無い二人から少し離れた所の建物の陰から、3人の男女がこっそり見ていた。青髪の男女と赤毛の女である。
「くそっ、僕の将来の相棒を独り占めするなんて・・・旅立つ時アルベルが悩んだらどうするんだ!確かにシチュエーションとしてはイケるけど・・・」
悔しそうに青髪の男が歯軋りする。
「あの女・・・元敵のくせに私のアルベルと良い雰囲気なんて作っちゃって・・・許せないわ!」
顔を真っ赤にして青髪の女が拳を握る。
「あのプリン頭、クレアに何かしたら殺してやる・・・・・!!!」
殺気を滾らせて赤毛の女が護神刀を手にする。
微妙にそれぞれ目的は違っているようだが、3人に共通して言えるのは「あの二人の邪魔をしなければ」という迷惑千万な思いである。
そして、彼らは気付いた。すぐ傍にいる人間と自分とは、利害が一致しているという事に。
「・・・どうやら、ここにいる人達の目的は同じなようだね。」
青髪の男はにやりと笑った。手には改造済み鉄パイプ。
「そのようね。でもフェイト、私と君は敵同士・・・手を組むのは今だけよ。」
青髪の女もにやりと笑う。流石に双子なだけあって笑い方も似ている。
「私はクレアが無事なら問題無いよ。あいつをクレアから引き離した後は知らないよ。」
念を押すように、赤毛の女が二人を睨む。
青髪姉弟は親指を立てて頷いた。
アーリグリフでは滅多に無い暖かな日差しの中、アルベルは気持ち良さそうにうとうとしていたが、かすかな殺気を感じて跳ね起き、とっさに左腕を盾にする。
そして、それは飛んできた。
どすっ
「・・・・・・・・・・これは・・・」
アルベルの手甲に刺さったのは見覚えのある短剣。いつかウォルターの屋敷で見た事がある。引っこ抜いて見てみれば、確かにそれで間違い無かった。
「それは、護神刀・竜穿ですね。シーハーツの宝剣です。」
クレアは突然の事にも全く驚かず、じーっと短剣を見ている。
「・・・・どういうものかは知らなかったが、確かあの女が持っていた気もする。」
アルベルの言う女とは、当然ネルの事である。それはクレアにも分かっていたらしく、済まなそうに苦笑いする。
「済みません。彼女、まだ敵対心が抜けてないようで・・・」
「構わん。慣れているからな。テメェみたいにあっさりしている方が珍しい。」
「良く言われます。」
そう言うとクレアはアルベルの左手、つまり手甲を手に取った。その行為が何故かあまりに自然すぎて、普段誰にも手甲を触らせようとしないアルベルが、その手を振り払おうともしなかった。
「お、おい・・・」
「今ので腕にこれが刺さってしまったでしょう?ちゃんと傷くらい塞いでおかなければ。」
確かに、あの深さからすれば確実に腕に刺さっていただろう。普通なら、痛みを感じるくらいあるのだろう。
だが。
「別に痛くもねえんだ。放っておいても構わん。」
アルベルの左腕は酷い火傷で、機能のほぼ全てを失っている。指先が辛うじて僅かに動く程度で、痛覚は既に無い。それはクレアも知っている筈だ。
しかし、クレアはアルベルの言葉を無視して施術で傷を治した。そして、言う。
「いくら痛くなくても、傷口から病原菌とかウイルスとか入ったらどうするんですか。」
あの火傷からそんなもんが入るのかどうか分からないが、そのクレアの眼差しにアルベルはつい目を逸らしてしまった。
「・・・・・・一応、礼を言っておく。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
そして、それを見ていた邪魔者連合。
「ネルさんの馬鹿ぁぁぁ!!!ますますいい雰囲気になってるじゃないか!」
「声が大きいわよフェイト。にしてもネル、あなた今アルベルを狙ったわね?」
「当たり前じゃないか。私はあいつを排除したいんだから。」
このまま放っておいたらアルベルがネルに処分されかねない。実力的にありえないと分かっていても、それを許せないマリアはネルにミラクルパワーをふっかけた。
「ぐぅっ・・・!マリア、裏切ったね・・・・・・」
「裏切る?私はただアルベルとあの女を引き離したいだけよ。それを無視してアルベルを狙ったのはあなたでしょ?最初に盟約を違えたのはあなたの方よ。」
マリアの言葉の最後は、既にネルには届いていなかった。
近くにいた施術士にネルの遺体(死んでない)を押し付け、二人の様子を再び見る。すると、二人に何故かフェイトが近づいてるではないか。
「?何やってるのよフェイトは・・・ん?あれは・・・・・・」
フェイトの手にしている物。それは一つのコップ。中身は分からない。
しかし、一瞬マリアは見た。フェイトの後ろに一つの試験管が転がっているのを。
「まさか・・・・・・」
「やあアルベル、喉渇いてない?このジュース買ったは良いけど僕には甘かったからあげるよ。」
そう言ってコップを差し出すフェイトだが、アルベルの前に差し出されたコップを、クレアが素早く掠め取った。
「ありがとうございますフェイトさん。丁度飲み物が欲しかったんです。」
笑顔で礼を言うが、その後ろには怖いくらいの暗黒オーラが見えている。何と言うか「邪魔するなボケ」みたいな感じの。
しかし、腹黒ライン神も負けてない。言うなれば「僕の相棒に手出すなタコ」的な暗黒オーラ。
「いえいえ、どういたしまして。それにしてもクレアさん、いつからそこに居たんですか?全然気付きませんでしたよ。」
「私はずっとここに居ましたよ。フェイトさんの視界って、ミクロ単位の狭さなんですね。心が狭いと思ってましたが、視界も狭かったのですね。」
「いやぁ、視界の広さは普通だと思いますよ。クレアさんの存在感が薄いのが原因では?」
「まあ、自分の不注意さを人の所為にするなんて、本当に狭量な人ですねぇ。」
「ははははは、横からいきなり僕の相棒をぶん取るクレアさんよりマシですよ。」
「ふふふふふ、それはあなたの方でしょう?異世界の変態さん。」
「ははははははははははははははは」
「ふふふふふふふふふふふふふふふ」
無気味な笑いが、穏やかだった筈の空間を一瞬にして変えてしまう。しかしその原因である筈のアルベルは全く気付いていない。鈍いにも程がある。少しは戦闘以外の事に気を配るべきだろう。
「ところで、このジュースとやらには何を入れてるのですか?」
「毒でも入れてると思ったんですか?心外だなぁ、アルベルに渡す筈だったものに毒なんて入れるわけ無いじゃないですか。」
「ええ、それは本当なのでしょう。ですが、変な薬を入れてる疑いはありますから。例えば、惚れ薬とか。」
フェイトは一瞬言葉に詰まった。事実、そのジュースには惚れ薬が大量に入っていた。勿論、事前にファクトリーで作りまくったあの薬である。
「知ってますか、フェイトさん。巷で出回っている惚れ薬って、実は皆に嫌われる薬なんですよ。そんなものをアルベルさんに飲ませて、ますます嫌われ者になったらどうするんですか?」
「悪かったな・・・・・・」
クレアの言葉に、アルベルがうめく。しかし事実なのであまり強く否定も出来ない。それどころか自分が変な人種にばかり好かれる事も少しは自覚しているようだ。
そして、フェイトもこの程度で挫ける神経はしていない。
「そうなったらそうなったで、僕が責任とって一生仲間でいてあげるよ。というわけで・・・」
一瞬の隙を突いてクレアからコップを奪い取る。慌ててクレアが取り戻そうとするが、フェイトは既にアルベルの首輪の鎖を掴んでいた。
「大人しくこれを飲んでもらおうかアルベル!!!大丈夫だよ、僕は自分のした事には責任を持つ人間だからね・・・」
「って止めろ阿呆!!!」
パァン!!!
ジュース入りのコップがいきなり壊れ、中身が地面に落ちる。
見た目には破裂したように見えたが、犯人は明らかだった。
「ちっ・・・マリアめ・・・・・・」
フェイトが悔しそうに唸ると、マリアが銃を構えたまま現れた。
「そこまでよフェイト。私のアルベルに薬盛ろうなんて、いい度胸してるわね。」
「おい、いつ誰が誰のものになったって?」
アルベルは凄まじい殺気と共にマリアを睨みつけるが、マリアはそれを無視してフェイトにフェイズガンを放った。
「うわっ!!!!何するんだマリア!もう少しで当たる所だったじゃないか!!!」
「ちっ、上手く避けたわね・・・・・・当然じゃない!!当てるつもりだったんだから!!!!」
激昂するマリアに、フェイトは険しい顔をする。
「・・・成る程ね、やはり僕たちは相容れないようだね。いくら利害が一致してるからといって協力は出来ないって事か。」
「そういう事ね。そこの女の前に君から葬ってあげるわ!!」
「神たる僕に逆らえると本気で思っているのかい!?」
既に二人の頭に、本来の目的は残っていない。勝手に戦いを始めた青髪姉弟にばれないうちに、アルベルとクレアは領主屋敷に避難した。
領主屋敷の応接室は広く、大抵は作戦会議に使っていた。今でも殆どの仕事はここでやっている。
その為、いつ誰が現れるか分からないが、少なくとも青髪姉弟がいないだけ遥かにマシだった。
「ネルの事、本当に御免なさい。彼女も、いい加減認めてくれると良いのですが・・・」
「構わんと言っただろう。俺は恨まれる事なんて慣れている。それに、あの阿呆共よりは幾分マシだ。」
アルベルの指す阿呆共とは間違いなくフェイト&マリアの事だろう。
「でも・・・・・・このままでは結婚なんて夢のまた夢ですね・・・」
クレアの呟きはほんの僅かな音に過ぎなかった為、アルベルの耳には殆ど届いていなかった。案の定、アルベルは何て言ったか尋ねるが、クレアは答えない。
その様子を不快に思ったか、アルベルは黙って部屋の戸に手を掛けた。
(もう少し一緒に居たかったんですが、仕方ありませんね。)
元々アリアスへはたまたま立ち寄っただけだ。本来ならこんな所で遊んでるわけにはいかない。
残念そうにアルベルの後姿を見送るクレアに、急にアルベルが振り返った。
「・・・・・んな面してんじゃねえよ。事が片付けば、幾らでも会えるだろうが。」
あのアルベルが放った、あまりにも意外な一言に、クレアの顔は自然に綻んだ。そして。
「・・・・・そうですね。なら一刻も早く片付けてくださいね。」
いってらっしゃい、とクレアが続けようとした時、窓をぶち破って例の双子が現れた。
「あ―――――――――――!!!!!また良い雰囲気になってる!!!クレアさん、僕の相棒を誑かさないで下さい!!!!」
「な、アルベル何よその穏やかな顔は!?私の前では全然見せてくれないくせに!!!!そんなに年増がいいの!?いくら年近くたって、最後には若い方が良いに決まってるのよ!」
「・・・・・・・・・・年増?」
マリアの年増発言に、クレアが再び暗黒オーラを纏い始めた。そして再び目覚めるは暗黒クレア。
「ふふふふふふふ、年端もいかない小娘が何を言うのかしら?あなたみたいな青臭い子供より、私の方がずっと女性として優れていると思いますよ。あらあら、そういえばあなたは頭も青臭いですね。」
「うふふふふふふ、今時5歳の年の差なんて無いも同然よ。それに私はそこらの小娘と違って大人びていると良く言われるわよ。大体私より4歳も年増だからって、ちょっと僻みすぎよあなた。」
「ふふふふふふふ」
「うふふふふふふ」
ひとしきり笑った後、双方ともに武器を構える。室内で暴れようとする女二人を、当事者のアルベルは止めもせず、また始まったか・・・と嘆息したが、ふと左手が拘束されている事に気付き、そちらに目を向ける。すると・・・
「やあアルベル。やっとクレアさんが離れてくれたね。今度は友情を深める番だよ。」
「魔障壁!!!!!!!!!」
そこにいたフェイトを確認するとすかさず攻撃する。が、全く手応えが無い。
「無駄だよ、さっき無敵ユニット使ったからね。どんな攻撃も効かないよ。」
「・・・・・・・・・・・・・阿呆。」
余裕で笑うフェイトに、アルベルは一言だけ呟くとその場を走って去った。
「あっ、逃げるなアルベル!!」
すぐにフェイトも追うが、障害物を避けながらなので、フェイトの速さは生かされない。こういう事に関してはアルベルの方が身軽な為、なかなか捕まらない。
業を煮やしたフェイトは鉄パイプを構えて振り回そうとするが、腕が動かない。
「・・・・・・・あ――――――っ!無敵ユニットの所為か―――――――――!!!!」
無敵ユニット:30秒間無敵。但し攻撃不能
「待て―――――――――!!!」
「待てと言われて待つ阿呆がいるか―――――――――――――――!!!」
すっかり戦場と化したアリアスは、騒ぎに気付いたクリフがありったけのスタンボムで全員を大人しくさせるまで非常に賑やかだった。
後にクリフがその全員によってリンチに遭った事はまた別の話。
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3000番自爆のキリリクでアルクレ・・・の筈。
ほのぼの書こうとしたけど開始10秒で力尽きました(おい)
フェイトとかマリアとかネルとか出てこなければましだったのかも。
でも結局、私はどうやらギャグ要素が入ってないと気が済まないみたいです。
アルクレってこれくらいの微笑ましい関係が理想なんですが、必ずフェイトやマリアが乱入してくる為、なかなか進展しないのが現実のようです(笑)
CHIKA様、こんな阿呆なのでごめんなさい。
こんなのでよろしければ持って帰ってください。
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