妖精とバカップル


 しゃらんしゃらんと鈴の音を鳴らせ、スフレは今日も元気に散歩していた。
 今日はアイテムクリエイションの為、フェイト達はペターニの工房に閉じ篭っていた。
 今回は細工はやらないため、スフレは暇を持て余していた。同じく暇なマリアはディプロの仕事を片づけに行き(ディプロから報告があって渋々、という感じだった)、アルベルはいつの間にか居なくなっていた。
 未開惑星の町並みは普段お目に掛かれない分、珍しいもので一杯。そこら中を見渡しながら、スフレは狭い路地の辺りにある2人の人影を見つけた。一人は何処かで見た覚えもあるが思い出せない。しかしもう一人はすぐに分かった。特徴的な2本の尻尾。アルベルである。
 すぐに声を掛けようと思ったが、仕事の事かもしれない、だから邪魔しちゃいけない、と思い僅かに躊躇う。その時スフレは偶然にも相手の姿を一瞬だが見てしまった。それで思い出す。相手はシーハーツの司令官、クレアであった。
「あれ?アルベルちゃんとクレアちゃんって敵じゃなかった?」
 正確には元敵だが、以前シランドで会ったネルはあからさまにアルベルを敵視していたし、シーハーツの大抵の人がそんな感じだった。スフレにしてみれば戦争をする事自体がいけない事なので、相手が悪いと主張するシーハーツの言い分には納得できなかった。スフレ的には「どっちも悪いじゃん」なのだから。
 そんな事があったからこそ、クレアがアルベルと一緒にいた事が理解出来なかった。
 スフレは出来るだけ音を鳴らさないようにこっそり二人に近づく。そして悪いとは思うものの聞き耳を立てた。



 二人は至極真面目な顔で何かを話し合っていた。スフレには二人の会話内容までは聞こえない。ただ、酷く真剣そのものであったから、自分が居てはいけないなとこっそりその場を離れようとしていた。鈴がくっついているので、かなり気を遣わなければならなかった。
 そんな時、スフレが耳にしたのは真面目な話にはあり得ない言葉。
「・・・それでは、アリアスに寄った時はちゃんと顔を出して下さいね。」
「ああ。」
「必ずですよ。覚えておいて下さいね。」
「俺はそんなに信用無いのか?」
「そんなひねた考え方はしないで下さい。私があなたに会いたがっている、それだけを覚えていてくれれば問題ありません。」
 敵同士だったはずなのに、お互いの不信感や敵意など全く無かったかのような話し方。それどころか、お互い信頼し合っているような雰囲気さえある。それら全てが、それまでに見てきたネルとアルベルにはあり得ないものであり、スフレは混乱した。スフレは、ネルが言った「シーハーツとアーリグリフは敵同士で、そんな簡単に相容れるものではない」という言葉を思い出し首を傾げる。ネルの言葉をそのまま信じるなら、アルベルとクレアが仲良く話をしているという事など考えられない。
 スフレの混乱を余所に、二人は仲睦まじく会話を続ける。
「あなたはいつでもそう。破天荒に見せて、あなたが考えている事はいつだってアーリグリフの事ばかり。その思考に私の入り込む余地は無いのかしら?」
「俺はあの赤毛とは違う。国に対して盲目的にはならねぇ。」
「それくらい分かっています。私が気にしているのは、私という存在が、あなたの国を思う心に対してどれだけの価値を持っているかという事です。何もあなたの一番なんて高望みをしているわけではありません。ただ、あなたの中で私が、少しでも気に掛けてもらえるだけの価値があってほしいだけです。」
「元敵の奴が、そんな事を望めるとでも思っているのか?」
「わがままだという事は分かっています。けれど、あなたは私に対して、そんな偏見を持っていないでしょう?私も今は、シーハーツのクリムゾンブレイドとしてではなく、クレア・ラーズバードという一人の女としてここに居るのですから。」
「・・・好きにしろ、阿呆。用が終わったのなら、俺はもう行く。」
 そう告げるとアルベルは路地から出てきて去ってしまう。とっさにスフレは隠れようとするが、間に合わず結局見つかってしまう。だが、スフレの姿を捉えてもアルベルは特に何も返さず、そのまま雑踏の中に入り込んでしまった。
「ところでスフレちゃん、立ち聞きとは感心しないわね。」
「ひゃうっ!?」
 急に掛けられた声にスフレはびくっと竦み上がる。アルベルの反応から、自分の存在が筒抜けだったのは何となく分かっていたが、それでもクレアに声を掛けられるだけの心の準備は出来ていなかった。
「別に怒っていないわ。聞かれて困る事でもないのだし。」
 クレアが苦笑しながらスフレに語り掛けているのが、声の調子から分かる。意を決しておずおずとスフレが顔を出すと、クレアはすかさずスフレの額を軽く叩いた。
「あたっ!!」
「けれど、今度からは気をつけてね。話の内容がどんなものであれ、立ち聞きはマナー違反よ。」
「うん・・・ごめんね、クレアちゃん。」
 スフレがゆっくり頷くと、クレアはにっこり笑う。
「さっきの話は、ただの私用よ。私がアリアスに釘付けになっているから、たまにはアルベルさんの方から会いに来てほしいってだけ。ね、つまらない用事でしょう?」
 肩を竦めて笑うクレアは、何処となく悲しそうに見えた。普段のクレアは、笑顔を浮かべていてもその奥にある感情は決して見せない。なのに今のクレアは、その悲しみがスフレにもはっきり分かるくらいに浮き彫りにされていた。
 スフレは人々を笑顔にする事こそ自分の仕事と信じ生きてきたし、また人々の笑顔を見るのが好きだった。今のクレアのような悲しい顔は好きではない。
「あのさクレアちゃん、アルベルちゃんと何かあったの?何だったらあたしも協力するからさ、仲直りしようよ!!ね?」
 さっきまでのやりとりで、スフレは二人が喧嘩でもしたのだと思っていた。聞いた限りではとてもそんな風には聞こえなかったが、クレアの表情がそう思わせた。
 しかしクレアはそうではないと首を振って否定した。
「違うわ。彼になかなか会えなくて悲しいだけ。」
 本人がそう主張するならそうなのかもしれないが、クレアがそんな事で感情を見せるかと言えば、それもおかしい気がする。
 けれど、人の領域にずかずか入り込むのは失礼だと思いこれ以上余計な事は言わない事にした。その代わり、スフレはクレアの手を取って半ば無理矢理町外れの草原に連れていった。
 草原の真ん中に陣取り、スフレはクレアの前でくるっとターンする。
「クレアちゃん、あたしの踊り見てよ。少しくらいなら元気出るかもしれないしさっ!」
 スフレは人を慰めたり励ましたりする方法を他に知らなかった。だから真っ先に思いついたのもこんな事だった。
 クレアは暫し目を瞬かせ、やがて微笑んでスフレの頭に手を置く。
「それじゃ、私のために踊ってくれる?」
「もっちろん!!」
 元気にVサインをし、スフレはステップを踏み始める。音楽の代わりにクレアの手拍子が入り、リズムに乗って踊り出す。幻惑の妖精は、一時の夢を見せる―――




 踊りが終わると、スフレは深々とお辞儀をする。クレアの手拍子は拍手に変わり、笑顔を浮かべて歓声を上げる。
「とっても素敵だったわ。ありがとうスフレちゃん。」
「へへっ、ありがとクレアちゃん。」
 クレアの賛美に多少照れ臭そうに応えるスフレ。
 ふと、クレアが途端に目を細めてちらりと後ろにある木を見やる。
「あなたも見てたのなら、素直に誉めたらどうですか?」
 クレアの言葉にスフレは驚きの声を上げる。ここにはクレアしか居ないと思っていたから。
「クレアちゃん、他に誰か居るの?」
 クレアはにっこり微笑むと、後ろの木を思い切り蹴った。あの細身からは想像もつかないパワーによる振動で、根元からしっかり立っているはずの木が目に見えて分かるくらい揺れた。そうして初めてスフレもその誰かに気づいた。分かりやすい二本の尻尾が葉の陰から飛び出し揺れていた。
「いい加減降りてきたらどうですか、アルベルさん?」
 腕組をしながらクレアは声を掛ける。しかしアルベルが答える様子はない。
 無視された事が悔しいのか、クレアは目を細めてもう一度繰り返す。
「聞いているのでしょう?無視するなんて酷いですよ。」
 今度はかなりの凄みを利かせる。クレアが放ち始めた黒いオーラにスフレは脅える。普段フェイトやマリアに対して放たれるオーラだが、間近に感じた事は殆ど無かった。
 木の上の彼は、相変わらず返事を返さない。これだけのオーラを感じていないわけが無いのだが、甘く見ているのだろうか。
 クレアはため息を一つ吐き、もう一度木を蹴りつけた。さっきより強い振動が木を更に揺らし・・・いや耐えきれなかったか幹がぽっきり折れて生い茂った葉ごと人が落ちてきた。
「・・・凶暴だな。」
「あなたに言われる筋合いはありませんよ、歪のアルベルさん。」
 ようやく顔を出したアルベルは、寝ているところを邪魔されて良い迷惑、というのがはっきり分かるほど分かりやすい不機嫌最高潮な顔をしている。
「人が昼寝してたってのに、いきなり騒ぎやがって。」
「そのお陰でスフレちゃんの踊りを見れたのだから、良かったじゃないですか。」
 悪びれもしないクレアに、アルベルは憮然とする。そして呆れたようにぼやく。
「何怒ってんだ、テメェは。」
「私自身のわがままで勝手に怒っているだけです。お気になさらず。」
「俺に被害が来るなら気にする。」
「では、少しくらい私の事も気に掛けて下さい。アーリグリフや戦いの事ばかりでなく。」
「本当に勝手なわがままだな・・・気が向いたらな。」
 二人のやり取りを見ていてスフレは思った。
 結局二人は仲が良いのだから、励ます必要なんて無かった気がする。むしろ痴話喧嘩に首を突っ込んだだけな気がする。クレアがそんな事で顔を曇らせるわけが無い、とスフレは勝手に決め付けていたが、結局クレアは全く嘘をついていなかった。
 それでも、クレアが楽しそうに笑ってたら嬉しくなるもので、スフレはアルベルを見上げてびしっと指さした。
「アルベルちゃん、あんまりクレアちゃんを悲しませちゃ駄目だよっ!!!」
「はぁ?こいつが勝手に怒って・・・」
「男の子は女の子を泣かせちゃ駄目なのーっ!!!」
 スフレの唐突な発言にクレアは一瞬面食らったが、自分に味方しているのだと悟ると、音を立てずこっそり笑った。子供相手には強く出る事が出来ないのか、得意の脅しが使えなくてスフレの言葉に文句を言えなくなって青筋立てているアルベルにはバレないようにこっそりと。
 そんな事でさえ、スフレはちゃっかり気づいていたりするのだったが。
 

一応キリリクの「スフレ視点」。多分スフレ視点。寧ろスフレ中心のアルクレ。
要は、スフレの目から見ても二人はバカップルなんですが、それじゃスフレの意味無いなと思い踊らせました(笑)
でもやっぱりスフレ視点ではない・・・と思います。


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