ネルの飽くなき挑戦


 あの男を殺すには、相応の覚悟が必要だ。
 正攻法では敵わない。得意の奇襲や暗殺も、勘の鋭い奴には通用しない。強敵だ。
 だが、それでも行かなければならない。己の幸せの為に。大切な幼馴染の為に。てゆーか敵なので即滅殺。悪・即・斬である。お前は新○組じゃないだろとか突っ込むな。



「・・・・・・よし。」
 父の形見の短刀を握り、ネルは息を呑む。隠密のスキルを総動員して己の気配を殺しつつ天井裏から気配を読み取り声を聞き取る。
 一つは、幼馴染のクレアの気配。もう一つは、憎い男アルベルの気配。他には誰もいない。つまり、今は二人っきりなのだ。それはネルにとって屈辱ではあったが、余計な邪魔がないと言うのは幸運でもある。
 アーリグリフとシーハーツが同盟を結んだ今、アーリグリフの重要人物である彼を殺す事は非常にまずい。だが、それでも譲れないものがある。いかに愛国心の強いネルであっても許せない事はあるのだ。
「・・・それでは、お茶を入れてくるので少しの間待っていて下さいね。」
 クレアの声が遠ざかる。今がチャンスだ。
 すかさず気合一閃、天井裏から素早く飛び降りる。丁度アルベルの頭上、脳天に短刀を貫くように。
 もらった!ネルは確信した。
「・・・・・・阿呆。」
 が、アルベルは一つ小さく呟くと大きく後ろに下がった。すると当然、ネルの着地点はアルベルの目の前になる。
 どすっ、と短刀が床に突き刺さる。その屈んだ体勢のまま、ネルは後ろを振り返る。
 見上げたそこにあったのは、自分を見下す赤い瞳。そして研ぎ澄まされた刃。



「く、悔しい・・・・・・また負けた・・・・!」
 結局無防備な所に双破斬を食らい、またしても敗北したネルはヒーリングを自分にかけながらわなわなと震えた。よく見なくても顔にはくっきりと足跡まで残っている。アルベルに問答無用で蹴飛ばされ、屋敷の外まで吹き飛ばされたのだ。
 星の船を撃退した後にフェイト達が再びシランドに現れてからずっと、ネルはアルベル暗殺を試みてきた。それは元敵としての感情以上に、クレアの事が大きい。
 昔から気に入らなかったアルベルが、最近特にクレアと仲が良い。しかもクレアがそれを喜んでいる。それが許せないネルは必死にアルベルを闇に葬ろうとしたのだが、未だにうまくいかない。アルベル自身が強い上に、彼を失う事を許さない青髪姉弟が徹底的に邪魔をし、彼に懐いている少女(スフレの事)が邪魔をし、時にはクレア自身が乗り出してくる。周りは敵ばかりなのだ。大体何故あの男がフェイト達と一緒に居るのか。それも納得いかない。
 それでも、ネルは決して諦めない。アルベルを葬る事で結果的にクレアの幸せに繋がると固く信じているからである。大きなお世話なのだが。
「ネル様ぁ〜もう止めませんかぁ?」
 機嫌の悪いネルを出来るだけ刺激しないように、精一杯控えめにファリンが止める。
 しかし、そんなもので止まるネルではない。
「何言ってんだい、ファリン!クレアにあんな男は相応しくないよ!!私はクレアに相応しい男が現れるまで、クレアを守る義務があるんだ!!」
 堂々力説するネルから離れつつ、ファリンとタイネーブはひそひそ話し合った。
「一体ネル様は、アルベルさんの何処が気に入らないんでしょうねぇ?」
「元敵だから割り切れないってのもあると思うけど、結局のところネル様はクレア様に男が出来るのが嫌なだけなんだよね。」
「そうですねぇ。今までだってクレア様に近づいた男達は問答無用で滅殺でしたよねぇ〜。まあ、シーハーツの男達は何だかいまいちなのが多いんだけど。」
「それは言えてる。でも、少なくともアルベルなら別に構わないと思うんだけどね。性格は問題ありすぎだけど、外見はかなりのものだし、今じゃシーハーツでもアルベル親衛隊があるくらいだしね。」
「それにあの人って、クレア様と昔馴染みなんでしょ?なんか相手は忘れてるらしいですけど。それでもクレア様が好きだって言うんなら別に良いと思うんですけどねぇ。」
「要するにネル様は嫉妬してるんだよね。ああ見えて結構嫉妬深いから・・・いっそネル様に男が出来ればまだマシなのかもしれないけど、ネル様って地味だしクレア様に比べて色気は無いし・・・」
 そこでファリンもタイネーブもいきなり沈黙してネルを見た。髪の毛以上に真っ赤になって怒り狂ったネルが、憤怒の形相で二人を睨んでいた。
「・・・・・・・嫉妬深くて地味で色気の無い女で悪かったね。」
 本人達はひそひそ話をしているつもりだったが、全てネルに聞こえていたようだ。
「い、言ったのはタイネーブじゃないですかぁ!!!」
「ずずずずるいわよファリン!!アンタも否定しなかったじゃないの!!!!!!」
 何にしても、上司に対する言葉ではないだろう。そして当然、ネルの怒りは半端ではない。
 次の瞬間、タイネーブ達は全速力で逃げ出した。



 ネルはかなり足が速い。隠密の癖にフェイトより遅いがそれはまあ良いとして、そのネルが全力で追ってもタイネーブ達に追いつけなかった。命懸けで走っただけあって、彼女達の速度はかなりのものだった。
「はあ・・・はあ・・・あの二人・・・・・・」
 息が整ったのを確認してネルは顔を上げた。その視界に入ったのは、いつもの木の下で座って微笑んでいるクレアと、その横で寝っ転がっているアルベル。
 過ぎ去ろうとしていた怒りが再び彼女の中で爆発した。
「クレアから離れろそこのプリン頭―――――――!!!!!!!!」
 口から煙を吐き、般若の形相で短刀を振り回しながらもの凄い勢いでアルベルに向かって突進する。
 アルベルはすぐさま起き上がって刀に手を掛け・・・・・・
「衝裂破!!!!!!!!!!!」
 容赦無い衝撃破に、軽い体はいとも容易く吹き飛ばされた。



「ネル!?」
 流石に驚いたクレアは立ち上がってネルの吹っ飛んだ方向を目で追った。
「・・・・・心配か?」
 正直、あの女を心配するだけ無駄としか思えないのだが、クレアは一応ネルの親友である。親友が吹っ飛んで心配しないわけが無い・・・・・・のだが。
「勿論ですよ。あんなに遠くに飛んでいってしまって・・・民家の屋根とか壁に穴開けたらどうしましょう!!?」
 何だか心配する方向性が違う気がするのは気のせいだろうか。そういう経験が皆無なアルベルは違和感を感じてもそれがどうおかしいか分からず、首を傾げた。
 でも取り敢えず、クレアがネルの心配(かどうかは怪しいが)をしているのが何となく面白くないので、ちょっと不機嫌そうに言う。
「心配ねぇだろ。穴が開いたら俺が弁償する。あのクソ虫を吹っ飛ばしたのは俺だからな。」
「・・・そうですか。なら一安心ですね。ありがとうございます、アルベルさん。」
 ネル自身の心配は要らないのか。
「・・・・・・・礼を言われる事じゃねえだろ。」
 全くだ。
「まあ、謙遜する必要なんてないんですよ。」
 何処が謙遜なんだか。
 とにかく、謙遜している(ように見えるらしい)アルベルにクレアは微笑み、アルベルはそのクレアから顔を逸らした。が、耳まで真っ赤になっているのがバレバレなので、クレアは今度は声を出さずにくすりと笑った。



 その日、シランドで「空を飛ぶネル・ゼルファー」の噂が絶え間なく語られ、ある者は「ネル様の奇跡だ」と感激し、またある者は「幻覚を見た」と医者の元に駆け込み、またある者は「ネル様がアペリスの怒りに触れる事をしたのだ」と恐れおののき・・・・・・噂に尾ひれが付き捲った挙句にこんな結論に辿り着いていた。

「ネル様は星の船の力を我が物とし、シーハーツを守る為に自ら神の化身と成り、民に祝福を与えるのだ」

 ネルは暫くシランドに足を踏み入れる事が出来なかった。
 

5900リクで「クレアを巡るアルベルVSネル」の筈。
確かにリク通りになってなくは無いかな・・・?って感じですが、アルベルとネルの戦いをもっと書きたかったです。ネルが吹っ飛ばされたりしてばかりで全然バトルになってないし。
つーかネルの扱い悪すぎ(爆)今更ですか?
やはり私の中ではアルベルの方がネルより圧倒的に強いというイメージがあるので、こうなってしまうようです。
ちょっと物足りないものになってしまいましたが、CHIKA様に捧げます。

話の中の状態が分かり辛いので補足。
フェイト達はFD空間からエターナルスフィアに降りた後エリクールの各地を回るついでにアリアスに来ています。
5人目はアルベル、6人目はスフレ。ネルは置いてきぼりです。


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