「アルベルさん、私と勝負してください。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
アリアスに滞在中、いきなりアイレの丘に呼び出されたと思ったら突然のクレアの申し出に、アルベルは目を丸くした。
「私と勝負してください。」
丁寧に、かつはっきりとクレアは繰り返す。
アルベルは、何も言えなかった。
元々アルベルは漆黒団長で、クレアはクリムゾンブレイド。本来は敵対していて、実際つい最近まで互いに争っていたのだ。
現在は2国間で休戦協定が結ばれ、一応同盟国となっている為表立って争う事は無い。ネルのような一部の例外はあるが。
そんな中、アルベルとクレアは何故かアリアスに行く度に一緒にいる。何かをやっているわけではなく、ただ一緒に同じ時を過ごしているというだけの事だが、何処か心地よく思っていたのは事実だ。アルベル自身、その心地よさを甘受している自覚はあった。その空間を作っているのが元敵のクレアであるという事も。
だが、そのクレアが今自分に刃を向けている。
「・・・・・・・・・やはり俺は敵だと考え直したか?にしても司令官自らが首を取りに来るなんざ、シーハーツも余程人材不足のようだな。」
それならクレアを敵と思えばいい。今までそうだったのだから、さほど難しい事ではない。何故か今刀の先をクレアに向ける気にはならないが、クレアがかかってきたらその刃は簡単に姿を見せられるだろう。そして、それが可能なだけの距離もある。
刀を抜かず、斜に構える。それでも隙は見せない。一見隙だらけに見えても、間合いに入ればその瞬間にクリムゾン・ヘイトはその研ぎ澄まされた刃を血で染める。大陸一の刀の使い手、というのは誇大表現ではないのだ。
だが、クレアの武器は短刀。しかもそれを手裏剣のように飛ばして使う。施術を使っているのか、その原理は分からないが、飛翔剣と呼ばれる技の使い手であり、彼女の本領は遠距離戦である。
普通に考えればアルベルに分が悪い。だがその程度で怯むアルベルではない。
短刀を構えたクレアが、距離を取って短刀をアルベルに向かって投げつける。
アルベルはそれを左の鉄甲で叩き落とし、刀を抜きながら素早く間合いを詰める。刃がクレアの首を狙うが、クレアは隠し持っていた短刀でそれを受け、アルベルの腹に蹴りを入れる。
「ぐっ・・・」
一瞬アルベルが怯んだ隙に、クレアはアルベルから離れ、先程叩き落された短刀を拾い再び構える。
クレアは銀に光る小さなナイフを続けざまに5本、アルベルに投げつける。今度はアルベルはギリギリの所で避けるが、5本目をかわした時に一瞬体勢が崩れた。
その隙を逃さず、クレアは必殺の技を放つ。
「シルヴァンショット!!!!」
高速で飛翔剣を乱れ撃つ技を避け切る事は出来ない。アルベルはそう判断して左腕を叩きつけるように向かってくる短刀を払う。すぐには向かわない。飛翔剣はクレアの意のままに動き、飛んでいった短刀は確実にクレアの手元に向かって戻ってくる。
短刀がクレアの手の中に戻ったその瞬間、アルベルは風を放った。
「空破斬!!」
衝撃波に思わずクレアは防御をし損ない、片方の手から短刀が零れ落ちる。僅かによろめいたその瞬間に、アルベルの刀はクレアの首筋にピッタリとつけられていた。
「・・・・・・・・フン、俺を殺すには修行不足だな。」
2度も短刀を無理やり叩きつけて少し変形している鉄甲は、クレアの手に残っている短刀を牽制している。
隠し武器はもう無い。アルベルの勝利だった。
それを認めるとクレアは至極あっさりと両手を上げ、降参のポーズを取った。
「やはり強いですね。流石歪のアルベル、と言った所でしょうか。」
さっきまでの真剣な雰囲気が嘘のような笑顔を向ける。
「ですが、今回はともかく普段はもっと武器を隠してますから。もう少し気をつけないといけませんよ?」
「敵に忠告か。随分と余裕だな。」
「あなたは敵ではありませんから。」
皮肉めいた口調で返したが、非常にあっさりしたクレアの言葉にアルベルは動揺した。
「は?テメェ、俺の暗殺でもしようとしたんじゃねえのか?」
「そんな事、いつ言いましたか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
そう言えば、クレアはそんな事何も言ってない気がする。要するに、アルベルが勝手にそう思い込んだだけなのだ。
「じゃあ、何で俺と戦ったんだ?俺を殺す以外の理由があるのか?」
クレアの真意が読めず、アルベルは困惑する。クレアは相変わらず笑顔のまま。
「シーハーツには、居ませんでした。」
突然クレアの口から出た言葉。やはり意味が分からない。
アルベルは黙ってクレアを見つめる。
「シーハーツには、私と互角以上に戦える男の人は居ませんでした。昔はともかく今は、強い男が不作のようです。父も嘆いてました。」
それがシーハーツの風潮なので仕方ありません、と付け加える。しかし嘆いているような口調の割にはやたら嬉しそうに見える。
「私、付き合うなら自分より強い人が良いですから。それなら父も文句は言わないでしょうし、言わせません。」
話には聞いた事がある。クレアの父、アドレー・ラーズバードは強烈な親馬鹿で、自分より強い男で無いと認めないとか。元クリムゾンブレイドであった彼の実力はかなりのもので、彼に認められる男はシーハーツには居ないだろうとさえ言われていた。今は何だか居ないらしいが、クレア自身「自分より強くないと認めない」と言ってる時点で、クレアに憧れる男達は皆涙を飲んだだろう。
・・・・・・というような事をアルベルは以前赤毛の女(ネル)から聞いていた。ネルは「だから諦めろ」とか言いたいのだろうが、アルベル自身は今まで完全に忘れていた。
「・・・・・・で、俺と戦ったのはどういう理屈だ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ここまで言って分からないのか。根本的に頭の回転が悪いのか、こういう事だけやたら鈍いのか。
(きっと後者でしょうね。)
本物の馬鹿が軍の指揮など出来る筈がない。一応、漆黒団長なのだ。
鈍い人を好きになると苦労する。何となく分かってはいたが、やはりこういう時虚しいものがある。
「・・・けれど、これも魅力なんでしょうね。」
彼があの双子に好かれているのも、それが理由なのか。そしてクレア自身がここまで惹かれるのも。
「あ?」
そのアルベルはますます不可解といった様子で顔を顰める。それは何処と無く拗ねている子供のようで。クレアが何も話す気配が無いと、遂にそっぽを向いてしまった。
とうとうクレアは声に出して笑い始めた。
「な・・・何いきなり笑ってやがる!!」
「あはははは・・・ご、ごめんなさい・・・でも・・・・・・」
あまりにも可愛いので、とは流石に言えない。
「・・・ごめんなさい。でもあなたも悪いんですよ?ここまで言えば普通分かりそうなものなのに。」
「はあ?」
やはり分かってないらしい。ここまで来ればわざとではないかとさえ思えてくる。
「まあ、一番の理由は、一度あなたと手合わせしてみたかったんですけどね。」
シーハーツの軍人としてではなく、クレア・ラーズバードとして、大陸一の刀使いとまで言われる歪のアルベルと一度剣を交えてみたかったのだ。
だが戦争中は互いに司令官という立場上、そんな軽率な事は出来なかった(アルベルはどうか知らないが)ので、半ば諦めてもいた。かつて友として傍にいた人間と、敵として相対したくなかったのかもしれない。
けれど、今は違う。少なくとも今は、敵ではない。
「やはり私の認めた人ですね。ですが、今度は本気でやって下さいね。」
クレア自身、アルベルの力を試すつもりで仕掛けた為、普段ほどの武装をしてなかったし、殺す気も無かった。だがアルベルに手加減されたのはちょっと不満だった。
「阿呆。」
そんなクレアに、アルベルは吐き捨てる。
「本気でやってほしけりゃまずテメェが本気になれ。俺は弱い者苛めも、本気で戦う気の無い腑抜けを殺すのも嫌いなんだよ。」
「・・・・・・言ってくれますね。」
腑抜けと言われて少しカチンときたものの、アルベルの言う事は本当の事なので反論できない。
だが、ほんの僅かな怒りも、こちらを向いたアルベルの顔を見ると、簡単にしぼんでしまった。
「だが、強い奴と戦うのは好きだ。テメェが本気で来るなら、俺も本気で相手してやる。」
言葉の物騒さとは裏腹に、アルベルはひどく穏やかな表情を見せた。自分の前でも滅多に見せないが、他人には全く見せない微笑み。
そんな事がとても嬉しくて、クレアに笑顔が戻る。
「次は私が勝ちますよ。」
「返り討ちにしてやる。」
遠回しな告白(?)は通じなかったものの、今はこれでも良いか、とクレアは思った。
アリアスで待ち構える双子の破壊魔と怒り狂うクリムゾンブレイドが向かって来るまで、二人は笑い合っていた。
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5000Hit記念リクその2。CHIKA様からのリクエストです。
確かリク内容は「手合わせ」だった筈なのですが・・・むしろ殺し合い?いつの間にかノリノリで戦闘シーン書いてました。
でも二人とも手加減しているので「手合わせ」ということで(く、苦しい・・・)
微妙にラブラブになってるような気がします。私的にはラブラブなんです。誰が何と言おうと。
それと、わかり辛いですが、基本的にアルベルとクレアは昔会った事あります。アルクレ部屋の昔話と少しは繋がってます。
というわけで(何)、この(微妙な)小説はCHIKA様に捧げます〜
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