大陸最強親子の日常


 漆黒の拠点、カルサア修練場にて、最早お馴染みと化した3人が今日も今日とで優雅に午後のアフタヌーンティーを楽しんでいた。周囲の目や約一名の不機嫌な視線もものともせず。
「うむ、今日も良い天気だ。屋外で茶を飲むには丁度良い。」
「こういうのんびりした時間も必要だよな。ヴォックスの奴と来たら、俺の顔を見るたびに「もっと仕事しろ」の一点張りだ。少しは休息も必要だという事をアイツは分かってない。」
「おい。」
 不機嫌な声を無視して優雅な語らいは続く。
「それはお主がサボってばかりいるからであろう。」
「まあ、休息が大事なのは本当の事ですから。うちでもネルが時間という時間を任務に費やしていて・・・」
「あの娘もネーベルに似て生真面目すぎる。もう少し余裕を持つべきだな。」
「おい、阿呆ども・・・」
 阿呆と言われても気にしない、むしろ気にならない呑気な人々は、またも声を無視して語らいを続ける。
「それにしても、シーハーツといい我が国といい、既に殆どは世代交代をしているというのに相変わらずウォルターとお主だけは性懲りも無く現役を気取っておるか。いい加減引退せい。」
「だがなぁ・・・後を継ぐ奴が居ない以上、どうしようもあるまい。ヴォックスに任せると余計な揉め事が起きそうで心配だ。」
「お主が団長でもさして変わらぬよ。」
「はぁ〜、お前が邪魔しなければ今ごろアルベルは焔の継承を終えて立派な疾風騎士になっているはずだったのに・・・」
「ふん、アルベルには漆黒の方が相応しいのだ。第一漆黒には有力な候補が居なかったからな。疾風などヴォックスにでも任せておけばよい。一応あれでも優秀ではあるのだからな。」
「テメェら・・・」
 声を掛ける方は既に肩を震わせ怒りを堪えている。しかし全く気付く素振りも無く、勝手に団欒は続く。
「ですが、ヴォックス卿はシーハーツでも随分評判が悪いですよ。あの方は、シーハーツを見下すような物言いばかりなさいますから。」
「だが、それはシーハーツの高官どもも同じであろう?彼奴らはアーリグリフを野蛮の国、裏切りの子孫と蔑んでいる。全く、大昔の話を引き合いにしてまで喧嘩がしたいのか。」
「それについては、返す言葉もありません。我が国の事ながら本当に恥ずかしく思います。」
「いや、それはクレアちゃんの所為じゃないだろ。何処の国でも、無駄に権力ばかりを持った人間はロクなもんじゃない。両国とも、王が聡明なのが救いだな。」
「そうですね。それに、グラオさんやエカテリーナさんのような方々が国王陛下の傍にいらっしゃるから、ヴォックス卿のような輩を野放しにしなくて済んでいるんですよ。お二方が居なければ、今ごろシーハーツとアーリグリフは戦争していたかもしれません。」
「いやぁ、ヴォックスもあれで一応真面目に国の事を考えているんだ。強引過ぎるきらいはあるけどな。流石に戦争にはならないだろう。」
「ウォルターも居るしな。問題といえば、やはり血の気の多いアルベルであろうな。」
「お前に言われたくはないだろ。あいつの血の気の多さは間違いなくお前から受け継がれているぞ。それさえなければ完璧な息子だったのになぁ。」
「何を言うか。血の気の多さと、あとついでにガラの悪さはお主から受け継いだものであろう。私に似ていれば、それこそ完璧であっただろう。」
「いい加減にしやがれクソ虫どもがぁぁぁぁっ!!!!」
 カルサア修練場の現在の主、漆黒団長アルベルの絶叫が、のどかな空気に響き渡った。



 アルベルの怒鳴り声を皮切りに、無理やり動かされた兵士達によってテーブルセットやらティーセットやらが完全に撤去され、さっきまで楽しく語らいをしていた3人―――グラオ、エカテリーナ、クレアはそれでも笑顔で話を続けていた。
「後、切れやすいところもお前に似たな、エカテリーナ。」
「融通が利かないところはお主に似たな、グラオ。」
「黙れクソ虫がっ!!!軍の拠点で呑気に喋ってんのも大概鬱陶しいが、俺の話題をするな!むしろもう喋るな!!」
 グラオは未だ現役だが、エカテリーナは既に漆黒団長の座をアルベルに譲って引退している。まだまだ腕は衰えていないが、シーハーツでクリムゾンブレイドが揃って世代交代したのを受けて、何となく引退したそうだ。
 どんないきさつがあれ、一度引退した以上は大人しく引っ込め、というのがアルベルの主張だが、エカテリーナは聞く耳持たない。ちゃっかり自分の話題を持ち込むのも気に入らないらしい。
「冗談だというに。」
「無駄に頑固だな―お前は。そんなんじゃ良い嫁さん貰えんぞ。」
「余計なお世話だ!!!!」
「大丈夫ですよ。アルベル君にはもう私が居るんですから。他の女なんてむしろ近寄らせません。」
「おおっ、熱いなぁおまえ等。」
「やかましい!!テメェも訳の分からん事言うな!!」
 真っ赤になって怒るアルベルだが、照れているのは一目瞭然である。なので怒鳴られたくらいではクレアは退かない。
「というわけなので、浮気なんてしたらあなたを殺して私も死ぬわよ。」
「笑顔で言う台詞じゃねえだろ、それは。」
 元より浮気などする気も無いしする甲斐性も無い男だが、クレアの気迫に思わず気圧される。そんなんでいいのか漆黒団長。
「・・・だ、大体テメェこんなところでのんびりしてて良いのか?クリムゾンブレイドが他国でぶらぶらするのは問題だろうが。」
 話を逸らすように早口で捲くし立てる。情けないなぁ・・・と周りの漆黒たちが思っていたのは秘密。
「そんな事、いつもいつもモンスター狩りに遠出してばかりで執務を部下に押し付けまくるあなたに言われる筋合いは無いんだけれど。それにシーハーツは比較的平穏だから大丈夫よ。むしろアーリグリフの方が大変でしょう?未だに元貴族達が不穏な動きを見せているそうじゃない。」
 クレアの言葉に、後ろで片付けをしつつ成り行きを見守っていたシェルビー以下漆黒の騎士達が揃って頷いていた。副団長のシェルビーは一番の被害者である。アルベルはそんな彼らを空破斬連発で吹き飛ばし、クレアに向き直る。
「どうだかな。シーハーツの一部の富貴商人達はグリーテンと密通しているという噂も聞くぞ。国家転覆でも狙ってやがるんだろう。」
「あら、知ってましたか。けど大丈夫よ。それを防ぐのが私たちの役割なんだから。それにグリーテンといえど、シーハーツとアーリグリフの二国を敵に回す気は無いでしょう。」
「・・・は?シーハーツの問題に、何でアーリグリフが関係するんだ?隣国ではあるが、別に友好国でも無いだろうが。」
「今更無関係を通せはしまい。互いの国の幹部が懇意にしていては、正式な国交が無くとも既に友好国同様の扱いであろう。」
 エカテリーナが楽しそうに笑う。国境問題を抱えて険悪だった二国間の絆を結んだのは、元シーハーツ出身の施術士である彼女と夫のグラオである。彼女にとっては既に、両国が自分の故郷なのだから。
 そしてアルベルとクレアを見つめ、からかうような笑みを見せる。
「それに、お主らも今更他人では通るまい。もういい年なのだ、結構進んだ仲になっているのではないか?」
「はあっ!!??」
「そう見えます?」
 真っ赤になって動揺するアルベルとは対称的に、クレアは涼しい顔のまま笑う。主に息子の反応を見て、エカテリーナは明らかに落胆する。
「何だ、お主らはまだ何も無いのか。つまらん。」
「つまらんとかいう問題か阿呆!!!!」
「仕方ないだろうエカテリーナ。アルベルは俺に似て繊細なんだ。お前のようにがさつではないんだぞ。」
 グラオの余計な一言に、エカテリーナが黒い空気を纏い始める。
「誰ががさつだ。お主こそいつまでも子供のように好き放題やるのは止めて大人しくなれ。無邪気で通る年でもなかろう。年寄りはいい加減引っ込め。」
「俺はまだまだ現役でいけるんだよ。既に老衰したお前と違ってな。」
 二人同時にそれぞれ武器を素早く取り出す。グラオはまだしも引退した筈のエカテリーナが獲物を持ち歩いているのは何気に変な話だが、ノックス夫婦をまともな神経で見てはならない。
「現役を引退したお前にはきついんじゃないのか!?今なら土下座で許してやらない事も無いぞ!!!」
「寝言は寝て言え!お主こそ地べたに這いつくばって許しを請うべきではないのか!?」
「「覚悟!!」」
 年甲斐も無く戦闘を始めてしまった二人を眺めながら、アルベルはクレアとともにさっさとそこを去ってしまった。二人が暴れた後の始末を部下達に押し付け、自分はちゃっかりカルサアのウォルターの屋敷でのんびりケーキを食していた。
「アルベル君、グラオさん達放っておいて良いの?」
「ほっときゃ勝手に力尽きる。破損した部分の修理費は王に押し付ければいいだろ。」
 無責任もいいところだが、平和だからこそ許される事。
 この平穏がいつまでも続くようにと、クレアはアペリスに祈った。
 

キリリクで「アルベルの両親が生きていたら」です。
こういうif話は面白いですが背景を考えるとキリがないのでどんどん話の方向がずれそうなのが難点です。分かりやすい例がアナザー(笑)
実際にあの二人が生きていたら、設定上シーハーツとは戦争自体しなかったような気がするんです。そもそもあの戦争の発端はほぼヴォックスの暴走、しかも魔剣に心を飲まれていた所為だとか。なら魔剣がグラオの手元にあり、シーハーツと関わりが深いエカテリーナがいる時点で戦争は起きず、国境問題はまだしも食糧問題は何とかなっていたんじゃないかなーと。あ、ちなみにアルベルは焔の継承やってません。どうしてもアルベルを漆黒団長にしたがった(自分の後を継がせたかった)エカテリーナの陰謀により(笑)
クレアがいるのは・・・「カプありならアルクレで」という言葉をいただき図に乗った結果であります(笑)

それでは、申告&リクありがとうございました〜。


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