死の回廊




 命を10万ガルドで買う、とは言ったものだ。試しに買ってみたら、一つのおまもり。水属性耐性はあるようだが、取り立てて凄いものとも思えない。全く無駄にした、と。
 フェンリル教会の中に入る際、謎の幽霊らしきものから買ったそのおまもりを、一応クレスが装備する事になって一同は向かった。特にクラースが詐欺だとか文句を言いながら。少なくともクレス達を講義を受ける人間と勘違いして高値を吹っ掛けた人に、そんな事を言う資格があるのだろうか、とクレスは思いつつ。
 しかし、あのおまもりが本当に素晴らしいものであることを、中に入って漸く知った。




「さ、寒い・・・」
「凍える〜〜・・・」
 彼らの体を容赦なく打ち付ける凍える吹雪に、チェスターとアーチェががくがく震えながら呟く。お互いそれを聞き止めると、無駄に意地を張って言い合いを始める。
「何だ、この程度でくたばるのか?弱っちい奴は外に避難してたらどうだ?」
「むっ、そういうあんたこそ、寒いなんて言っちゃってさ。外に逃げるのはあんたでしょ〜?」
「凍える〜なんて弱々しく吐いたのは何処の誰だ!?」
「あんただって同じでしょ!!」
「止めろよ二人とも!こんなところまで来て喧嘩するなって!!!」
 相変わらずの二人を止めるクレスの声。震えながら言い合いをしていて、声も結構震えている二人と違い、クレスの声ははっきりしている。見れば特に寒そうにも見えない。
「・・・クレス、お前何で平気なんだ?」
「もしかしてその鎧の中に何か仕込んでない?」
 くるりと二人の視線が一斉に自分に向けられ、クレスは困惑する。
「え?そりゃ寒いけど・・・でも、外だってそんなに変わらないじゃないか。」
 当然、とばかりに言うクレスに、二人は見事に信じられないという顔をする。
「ちょっと待て!これの何処が外と同じなんだよ!?お前あまりの寒さに気が狂ったのか!?」
「外なんて大分マシだよ!ここなんて氷の中に居るみたいじゃん!!居るだけで気が遠くなりそうなのに!!」
「それは大げさな気が・・・」
「「しない!!!」」
 頭の上に疑問符を大量に浮かべ、二人の言葉を受ける。二人はここの寒さは外とは比べ物にならないと言っているが、クレスは本当に外と大差無いと思っているのだ。
 ミントもすずもその会話を黙って聞いていたが、じっとクレスを見たまま考え込んでいたクラースが漸く何かに気付いたかクレスに声を掛ける。
「クレス。お前さっきのおまもり出してみろ。」
「?ああ・・・はい。」
 困惑したままクレスは、先程10万ガルドで買ったおまもりを出し、それをクラースに渡す。すると突然、クレスは強烈な吹雪に悲鳴を上げた。
「さ、寒い!!何でいきなりこんなに!!??」
「最初からそうだっただろうが!」
 チェスターの突っ込みが入るが、クレスには本当に分からない。
 そんなクレスの様子を見て、クラースはなるほどと得心がいったように頷く。
「やはりな。このおまもりは、ここの吹雪のダメージを抑えてくれるようだ。命を買うとはこういう事だったのか。」
「そうなのか・・・で、今旦那が平然としているのもそのお陰か?」
 がくがく震えつつチェスターはクラースを見やる。このメンバーの中で一番寒そうな格好をしている上に体力も余り無いクラースは、今では普通に立っていた。
「ん?ああ、そうだな。しかし、このおまもりが必要なのは分かったが、いくら何でも50万ガルドも持ってないぞ。」
「やっぱ、頑張って行くしかないって事?」
 アーチェの絶望を含んだ呟きに、全員がため息をついた。




 奥に進むのも大変な状態。結局前衛で戦うクレスがおまもりを持つ事になり、残りのメンバーはミントの法術で騙し騙し進む事になった。が・・・
「・・・こんなところで、僕一人でどうしろってんだよ・・・」
 所詮上手くいくはずが無く、おまもりを持ったクレス以外は全員倒れてしまった。体力の無い術士3人はまだしも、意外に体力のあるチェスターや「忍者ですから」と不可能っぽい事もやってのけるすずでさえも倒れてしまった。そして体力回復のアイテムはほんの僅か。絶体絶命である。
 とりあえず先に進むのも限界だと判断し、5人分の死体(違)を抱えて引き返す。が、当然ながら思うように進まない。何と言っても5人である。しかもそのうち2人はクレスより背が高く重い。
 せめて一人でもいればなぁ・・・と肩を落とすクレスに、魔物が襲い掛かる。
「うわっ・・・魔神双破斬!!!!」
 唯一の救いだったのは、ここの敵が然程強くない事か。これで敵が強かったら、今ごろクレス達は全滅していて、耳障りなナレーションが入っていたところだった。
 しかし敵を迎撃した時、つい仲間達の死体(違)を振り落としてしまった。真面目で仲間思いのクレスは、意識の無い仲間に謝りながら回収する。
 そんな時、魔物の死体の近くにあるものが転がっていた。
「あれ、これは・・・」
 転がっていたのは、クレスが今持っているはずのもの。10万ガルドのおまもりであった。この魔物が持っていたのだろうか。
「・・・・・・」
 クレスは考えた。これで誰か一人ライフボトルで復活させれば、そいつと一緒に仲間を抱えて出られる。しかし、誰を復活させようか。
 意識のない人間の体は重く、女性では運ぶのは難しいだろう。それに女性を一人復活させてしまえば、パーティメンバーで重い人1,2フィニッシュを飾るクラースとチェスターを両方とも抱える羽目になる。それはかなりキツイ。どの道ミントやアーチェでは人を抱えて歩くのは無理だろう。すずなら案外平気そうだが、すずは一番軽いのであまり荷物にはならない。
 となればチェスターかクラースとなるが、一番重いクラースは術士で典型的な学者なので、体格は良くても腕力は無い。その割に敵を本で撲殺したりしているが、何故かあの怪力は普段は発揮されないらしい。となれば・・・




「で、俺かよ。」
「お前以外適任者が居なかったんだよ。」
 残り少ないアイテムを使いチェスターを復活させてから、残る4人の死体(違)を運ぶ親友コンビ。
「しかし、あのおまもり魔物も持ってるんだな。やっぱ魔物でも辛い奴は辛いのか?」
「さあ・・・?でもラッキーじゃないか。」
「俺としてはいっそ、のんびり寝てたかったんだけどな。」
「それで苦労は僕一人ってか?やだよそんなの。」
 仲間の死体(違)を運びつつ、更に襲い掛かってくる魔物を倒しつつ二人は力の限り頑張って脱出した。
 教会の外に出たとき、二人は力尽きて雪に包まれた地面に突っ伏した。




 クレスの話を聞き、クラースは腕組みして呟く。
「なるほど。という事はクレスの言う魔物を倒せば、おまもりを持っている可能性はあるという事だな。」
「多分・・・」
「なら、お前全員分のおまもりを調達して来い。」
 びしっとクレスを指差してとんでもない事を口走るクラースに、クレスは猛反対する。
「ちょっと何で僕なんですか!?正直もうくたくたで・・・」
「しかしその魔物を見たのはクレスだけだしな。チェスターも分からないんだろう?」
「ああ、あの時はそれどころじゃなかったからな。」
 それでもクレスは反論しようとするが、どの道クレスはパーティ内発言力は極めて低い。女性に行かせるわけにもいかないと微妙な正義感も働いて、断るに断れなかった。
 但し、ささやかな反抗を試みる。
「じゃあチェスターかクラースさん、どっちか着いてきてくださいよ。」
 低く唸るクレスの申し出に、ビクッと肩を竦めるのは名指しされた男二人。どっちもクレス一人に押し付ける気満々だったようだ。人でなし。
「あー・・・いや、俺は治癒術とか使えないし。どうせなら回復できる奴がついてった方が・・・」
 と言いかけて慌ててチェスターは口を噤む。このメンバーの中で治癒術が使えるのはミントのみ。この男が女性を連れて行けるわけがない。何よりそれを言いかけたときクレスが鬼の形相でチェスターを睨んでいた。
 が、クラースはそれを聞いて名案とばかりに後を続ける。妙にニヤニヤして。
「ああ、そうだな。私やチェスターがついて行くよりミントが行った方が良いだろう。それに、お前らもたまには二人っきりになりたいだろうしな。」
「なっ!!!」
「ク、クラースさんっ!!!」
 急に慌てふためくクレスとミント。両思いで天然ラブラブバカップルをしているくせに自覚が無いという厄介なカップルである。女性は云々言っていたはずのクレスも完全に我を忘れている。その二人に、面白そうに笑うチェスターとアーチェも一気に畳み掛ける。
「そうだよな!お前ら全然進展無いんだから、これを機に一気に仲良くなれよ!」
「あ、でもキス以上は駄目だからね!あんな凍える場所でそれ以上進んだら・・・うひゃ〜!愛の氷像の出来上がり!!」
「むしろ極限状態で愛が高まるかもな!ミント・・・僕はもう駄目だ。君だけでも生き残って・・・」
「そんなっ!駄目ですよクレスさん!私達は二人で生きて帰るんです!!そして一緒に幸せに・・・あ、何言ってるのかしら私・・・」
「ミント・・・」
「クレスさん・・・」
 いつの間にかクレスとミントになりきって演劇をしているチェスターとアーチェに、クラースは大爆笑し、すずは反応に困っている。クレスは口をパクパクさせてものが言えない状態になっている。が、ミントは・・・
「チェスターさん・・・アーチェさん・・・」
 珍しく低く抑えたミントの声に、二人はハッとミントを見やる。彼女は顔を真っ赤にして杖を持つ手に力を込めている。普段おっとりした彼女が怒る事は滅多に無いが、これは確実に怒っている。その彼女の様子にすずが冷静に観察する。
「離れましょう。このままでは巻き添えを食らいます。」
 言うが早いがすずはすぐにその場を離れ、クラースもシルフを召喚して風に乗って逃げる。本当に何故この機転を戦闘で生かせないのか、この中年一歩手前。
「ピコピコハンマー!!!!!」
 思いっきり二人を狙っていた為に恥ずかしい演劇をしていた二人は逃げられず、巨大ハンマーの餌食になった。




 チェスターが気絶しミントが怒り狂っているために他の選択肢が見つからず、結局クレスとクラースとで人数分のおまもりをかき集める事にした。
「・・・お前、もしかしたら尻に敷かれるかもな。」
「クラースさんがそう言うと、非常に説得力ありますね・・・」
 立場の弱い男二人は、哀愁を背負いつつ極寒の迷宮で暴れ続けた。







あんまり真面目に考えると頭が痛くなります。適当に見逃すのが吉。
つか最初のファンタジア作品がこれってどうよ。
チェスターとアーチェってノリいいなぁ(お前の仕業だ)
クラースさんはやっぱり楽しいなぁ(だからお前の仕業だ)
クレスとミントはからかいやすいバカップルだ(だから以下略)


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