ある日突然、クラースが持ち出した話に、クレス達は揃って目を丸くした。
「セルシウス?」
クラースが言うには、4000年以上も昔にはセルシウスという氷の精霊がいたそうだ。水と氷とでそんなに違いがあるのか甚だ疑問ではあるが、それはともかく現在では話すら聞かない。クレス達も今クラースが言い出すまでは名前すら知らなかった。
「で、クラースさんはそのセルシウスとかいう精霊と契約したい、と。」
「うむ。しかし存在の情報は古い文献にしか存在せず、居場所の情報は皆無。そんなあやふやな状態では無理強いはできんからな、お前達がどうしても反対するのであれば、私一人で探しに行くつもりだ。」
「諦めるという選択肢は無いんですか・・・」
「当たり前だ。そんなものが存在していれば、私はとうの昔に召喚術を諦めている。」
あまりにも堂々と言われ、クレスは反論できなくなる。クラースは異端とされる召喚術に拘ったせいで学会を追放された。にも関わらず研究を捨てない精神には感服するものがあるが、同時にその事実は、クラースが決して一度決めた事を諦めない人間である事も示している。かといって戦力が減るのは困る。
「ねぇ〜〜、別にいーじゃん、一人くらい居なくたってさ!召喚術なんて無くても、あたしの魔法があればダオスなんて楽勝だって!!」
譲る気の無いクラースに痺れを切らせたか、アーチェが会話に割り込んでくる。アーチェは気づいていないようだが、この時クレスはクラースから例えようのないほどの凶々しい殺気を感じて竦み上がった。そして案の定、クラースは声を荒らげた。問答無用で本を投げつけないだけ、まだ多少理性は残っているようだが、殆ど紙一重である。
「召喚術をバカにする気か、あーぱー小娘の分際で!!」
「誰があーぱー小娘よ!!!大体いつも全身刺青やらうるさい鳴子やらくっつけてさ、召喚術なんて面倒じゃん。そんなの無くてもアーチェさんの魔法で十分よ!」
完璧に喧嘩を売る態度でアーチェが食らいつくと、何故か今度はチェスターがボソリと呟いた。
「偉そうな事言う割に、真っ先にTP尽きて迷惑掛けてるのはどこの誰だよ。」
バンバン魔術を使いまくってすぐ力つきる。言うまでもなくアーチェの事だが、本人はますます逆上する。人は本当の事を言われると逆上する。
「ぐっ・・・何よっ、あんたよりは使えるわよ!!」
「何がだ?お前から魔術を取ったら、うるさい口しか残らないだろうが!魔術の無いお前なんて役立たずじゃないか!!」
「あんたこそ、ちまちま弓打つだけで強くないじゃん!!男ならか弱い女の子を身体張って守りなさいよ!!」
「はぁ?まさかお前、自分がか弱い女の子とか思ってんのか?ばっかじゃねーの!!むしろお前がオレ達の盾になれ!!」
「だあっ!!もう止めろって!!!大体何でいつの間にか二人が喧嘩してるんだよ!?」
収集がつかなくなりそうだった二人に、クレスが声を張り上げる。普段はクラースが二人を止める役なのだが、この時彼はアーチェの言葉をまだ根に持っていて、止めるどころか勝手にしろと言わんばかりに背を向けていた。
本当に、妙なところで子供じみた人だなぁ・・・とクレスは肩を落とした。どのみち初めから道は決まっていたのだから。
新たな精霊に会える喜びで浮かれているクラースと、いつも平然としているすず以外の4人は、身を切るような寒さに震えていた。
クレス達が今居るのはフリーズキール。アーリィと並んで寒い場所である。
「クラースさん、本当にここに精霊が居るんですか?」
寒さに震えながらクレスが問う。そもそもこんな寒い場所に来たのは、クラースの意見による。彼曰く、氷の精霊が居る場所は雪に覆われた寒い場所である可能性が高いそうだ。火の精霊イフリートの居る場所が砂漠であるように、精霊の住む場所は精霊の影響を受けるそうだ。一理あるし他に手がかりもないからクラースの言うままに来たが、出来ればすぐにでも去りたい気分である。
「この世界で雪に覆われた所など、ここかアーリィくらいのものだ。精霊が一つの場所に複数存在する事は基本的に無いからな。アーリィ付近にシャドウが居たのだから残るはここしか無い。」
「けど、この町で精霊の話なんて聞いた事がありましたっけ?この町はフェンリル教会くらいしか怪しいのはありませんでしたし。」
万が一フェンリル教会に居たとしても、以前行った時全く姿を見なかったのだから、少なくともクレス達が行ける場所にセルシウスは居ないのだろう。行けない場所であれば諦めるしかない、そう言ったがそれでクラースが諦める事も無かった。
「何もフェンリル教会とは限らないだろう。もしかしたら教会以外にもフェンリルの遺跡が眠っていて、セルシウスがそこをねぐらにしているかもしれん。」
殆ど夢物語レベルの話であるが、クラースはもはや聞いていない。すずも話に乗ってさっさと偵察に向かってしまった。
一体何日ここに拘束されるだろう。ガルド無くなる前に終わればいいな、切れたアーチェがビッグバン炸裂させなきゃいいな。クレスの頭の中にあるのはそんな心配ばかりだった。クレスは「胃の痛い人」の称号を手に入れた。
すずの探索とクラースの調査が始まって3日が経過した。やる事がなくて暇、しかし寒さで外に出られないので暇潰しも出来ない。クレスとチェスターはのんびり武器の手入れや道具整理、ミントは料理やら何やらのんびりやっていたが、アーチェだけは何もやる事が無く遂に切れた。
「あーもうっ、暇―――!!!!あのおっさん、いつまでやってんのよ!!!精霊一つ見つけるのに時間かかりすぎ!!!」
「そんなに言うなら、クラースの旦那を手伝えば良いじゃないか。その方が早く終わるぞ。」
チェスターの言う事にも一理ある。きっとすずも同じように考えて自ら協力したのだろう。が。
「嫌っ!!!寒いのに外に出ろなんてあんた鬼!?」
ある意味当然だが、アーチェはすかさず反論する。しかしそれで騒がれた挙げ句暴走されるとこっちが困る。
「アーチェ、ここで文句言っても仕方無いだろ。」
クレスが宥めると、アーチェも一応黙り込む。要するに八つ当たりしたかっただけなのだろう。しかし別に納得しているわけではないので、また文句を口にする。
「大体さ、何で今やる必要があるわけ?もうとっくに強い召喚術あるんだから戦力の問題は無いし、セルシウス一つ無くてもいーじゃん。せめてダオス倒した後なら、あたし達だって手伝っても良いんだしさ。」
「へぇ、お前にしては珍しくまともな事言うじゃねえか。俺もこいつの意見に同意だな。」
一応感心した素振りを見せるチェスターだが、またもひねくれた言い方にアーチェが膨れる。
「何であんたはそーいう言い方ばかりするかなぁ・・・とにかくさ、今度クラースが戻ってきたら言ってみようよ。」
クレス達もいい加減暇潰しのネタも尽きていたので、反対意見は出なかった。名案だと喜ぶ中で、クレスはこっそり、多分クラースは譲らないだろうなと思っていた。そんな簡単に聞き入れられるくらいなら、クラースだって最初から後回しにしていたと思う、と。いつも冷静に物事を把握する人なのだが、こと精霊が絡むと目の色が変わる。クラースに限らず学者とは大体そういう人種なのだと、アルヴァニスタやミッドガルズの学者達を見ていたクレスには痛いほど分かっていた。分かっていたが、慣れないものである。
「いっそいつも一直線ならまだ慣れるんだろうけどさ、普段が普段だから・・・」
「それもそうですけど・・・ですが、夢中になれるものがあるというのは良い事です。それに、ここのところずっと戦いばかりでしたから、こうして休むのも良いと思いますよ。」
ぼやきモードに入るクレスに、ミントがやんわりと微笑む。彼女の微笑みはクレスにとってまさに癒し、心のオアシスと言うべきもの。ミントが傍に居てくれるから頑張れる。クレスはそう信じている。
と、いつの間にかアーチェとチェスターがニヤニヤとクレスとミントを眺めている事に気付き、途端にクレスは慌てふためく。
「な・・・何見てるんだよ?」
「べっつにー。」
「いやー、目の前のバカップルを観察してるだけだが?」
「なっ・・・」
真っ赤になって泡吹きそうなクレスを見て、二人はとうとう声を立てて笑う。すると一転して怒り出したクレスは二人に食って掛かろうとするが、二人掛りでからかわれては勝ち目は無い。茹蛸のようになったクレスを、クレスほどではないが顔を仄かに赤く染めているミントは楽しそうに眺めていた。
「それにしても、今日は特に遅いですね・・・」
最初の話題を思い出し、窓の外を眺める。外は既に日は落ち、闇の中に雪が静かに降り続ける。
一方、セルシウス探索を続けているクラースとすずは、一向に手がかりの掴めない今の状況に限界を感じつつあった。
「クラースさん。調べてみた限り、この近辺にはもう怪しげな場所は存在しないようです。」
一通りの調査を終えて戻ってきたすずの報告を聞いて、クラースは目に見えて落胆した。すずが調べても駄目だという事は、もう近辺には無いと断言されているに等しい。
「そうか・・・」
クラースは肩を落とすが、すずはずっと考えていた事があって、それを口にしてみた。
「あの、精霊に聞いてみてはどうでしょうか。同じ精霊なら、セルシウスの事を知っているかもしれません。」
すずの提案に、クラースは少し考え込む。確かに精霊なら知っている可能性はある。しかし以前シルフやノームに他の精霊の場所を聞いても分からなかったので、無意識にその手を捨ててしまっていた。しかし他に手がかりがあるわけでもない。
「そうだな。やってみるか。」
ダメもとでクラースはオリジンを召喚してみた。根源を司る精霊なら知っている可能性はある。
「オリジン、セルシウスという精霊を知っているか?」
『セルシウスか。懐かしい名だ。以前顔を合わせてからもう随分と経っているが。』
しみじみと年寄りっぽく頷くオリジンに、更にクラースが尋ねる。
「セルシウスがどこにいるか分からないか?」
するとオリジンは何も言わずに下を指さす。4本の腕が全部はっきりと下を指さしクラースは再び尋ねる。
「どういう意味だ?まさかセルシウスは土の中に居るとでも言うのか?」
『それは分からぬが、この下からセルシウスの気配を感じる。』
クラースの皮肉めいた言葉もあっさり受け流し、オリジンはさっさと消える。後に残された二人は、誰にともなく呟いた。
「多分地下に遺跡があるとかそういうものなのだろうが・・・穴、掘るか?」
「町の下に居ると仮定すれば、それはあまりにも無謀です。」
「・・・ノームに頼んでみるか。」
実は忍者は土の中を泳げるとか、そんな荒唐無稽な事を少し期待していたのだが、流石にそれは無かったようで、すずはただ頷いただけだった。
あいつと会話すると気が抜けるんだが・・・とクラースは気が進まなさそうにノームを召喚する。
面倒だと渋るノームを何とか説得して、やっと町の下に潜り込む事になった。ノームの話では、地下に氷に覆われた空洞があり、そこにセルシウスがいるという。何故地下に空洞を作っているのかをノームに問うと、どうやらセルシウスは寝ている時誰にも邪魔されないように、そうしているらしい。
それならば邪魔して怒らせてしまえば契約どころではないと思うが、その時は力ずくで抑えてしまえば良いと楽観的に捉えてクラースは地下に潜った。力ずくと言う割には、すずとたった二人で。
ノームの言う通り、辿り着いた先は空洞だった。周りの土は氷に覆われていて、地上より寒い。
幸い空洞はそれほど広くはなく、しかも目的のセルシウスはクラース達に気づいたのかすぐ目の前に現れた。
『人間がこんな所まで来て、一体何の用?』
吹雪を纏って現れたのは、青白い肌と紺青の髪のクールな美女。彼女がセルシウスで間違いないだろう。
「我が名はクラース。氷の精霊セルシウスよ、私はあなたとの契約を望む。」
『契約・・・?懐かしい言葉だ。この世界から召喚術が失われて久しい今になって、その言葉を聞くとはな。』
セルシウスは目を細めて微笑む。とりあえず問答無用で戦う事にはならないようだが・・・正直戦うとなれば引き返すべきなのかもしれない。つい気が急いて来てしまったが、こちら側はクラース自身とすずのみ。どう考えてもやばい。
『そうね、ちょうど目が醒めた事だし、契約しても良いわよ。サファイアはある?』
「・・・戦わないのか?」
戦うものとばかり思っていたクラースは思わず拍子抜けする。しかしよく考えればルナやアスカのように戦わずに契約出来たものも居たので、おかしい事でもないだろう。
『目覚めたばかりだしね、それに今は戦う気分でもないから。』
セルシウスの言葉に従い、クラースは自分の道具袋を漁る。契約の指輪の中にサファイアもあったはずだ。が・・・
「・・・無い・・・」
絶望的に呟いたクラースに、セルシウスが僅かに眉を顰める。気分を害したか、と慌てて道具袋をひっくり返すが、サファイアどころか指輪一つ見つからない。止めを刺すようにすずが呟く。
「サファイアは既に、グレムリンレアーに使ったのだと思いますが。」
すずの一言にクラースは固まる。グレムリンレアーはモーリア坑道で、他ならぬクラース自身が、口八丁で勧誘した魔界の生き物であった。
「・・・・・・・・・しまったああぁぁぁっ!!!!」
『・・・無いのなら、この話は無しね。指輪を用意してから出直してきなさい。』
「ああっ!!待ってくれ!!!頼むから他の指輪で妥協してくれ!!」
クラースが必死に引き留めるが、セルシウスはそれを振り切り消えてしまった。その必死な様子に、すずはつい情けないと思ってしまった。
嘆くクラースを説得して、ようやく地上に戻った時、もう夜も更けていた。
目を覚ましたクレス達が見つけたのは、いつの間にか帰ってきていたクラースがグレムリンレアー相手に妙な交渉をしている姿だった。
「ええいっ、強情な奴め!!それじゃベネツィアでしか流通していないパール(実際にはそんなものありません)でどうだ!!」
『駄目――。ボクたちは青いのがいいのー。』
「だったらこれでどうだ!」
『それガラス玉じゃん。』
「くそっ、ごまかせないか・・・それじゃ幻の宝石ブルースフィア!!」
『おおっ!これは凄いぞー!!でもハンケンモンダイとかやばくない?』
「お前が気にする事じゃない!人間の問題など金で片付く!!」
『ふーん?』
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
何をやってるんですか、とクレスはもの凄く問いたい気分だったが、クラースの口から出る数々の問題発言に思わず引いてしまう。しかし一歩下がったところですずが成り行きをじっと見守っていたので、すずに尋ねてみる。すると返ってきた答えは・・・
「セルシウスに断られました。」
と、分かるような分からないような答え。
後から起きてきたミント達も疑問に思ったが、ちゃんとした事をすずが言ってくれないので結局訳が分からないながらも、結局まだまだ先に進めないのかという事だけは確信していた。
性懲りも無くクラースさんの話です。と、前回出せなかったすずを。個人的にすず好きなんですが、この子は使いどころに困ります。
セルシウスはシンフォニアにいたんですが、その後の世界である筈のファンタジアに居ないので、きっと何処か人が行けない場所にいるんだろうと勝手に解釈した挙句が今回の話です。実際にはただのシナリオの都合とかそういうものなんですが。何と言ってもゲームではファンタジアの頃はセルシウスは存在していなかった。
何気にクレミン入ってますが、あの二人は絶対バカップルだと信じてます。
このページは です 無料ホームページをどうぞ