時間は無情にも流れてゆく




 町についてクレス達は3手に別れて買出しなどの用事を済ませることにした。行く場所それぞれに結構荷物があるので、男がそれぞれ行った方が良いだろうという事になった。尤も、ミントやアーチェと違い、「忍者ですから」の一言で何でもやってのけるすずにそんな手助けが要るのか本当に疑わしいところだったりするが、それを口にすると「差別だ」という言葉が女性陣というか主にアーチェの口から飛んでくる。
「じゃー、クレスはミントと一緒ね。二人きりだからって突然一線超えたりしちゃ駄目だよ。」
「だだだ誰がそんな事を!!!!」
「ア、アーチェさんっ!!!!」
 真っ赤になって否定し喚く二人を放置し、さっさと次の話題に移る。こんな事は既に日常茶飯事で、止める気も宥める気も起きない。彼らを放置してチェスターが勝手に話を進める。
「じゃあ俺とすずちゃんで―――」
「ちょい待った!あんたみたいな男と可愛いすずちゃんを一緒に出来るわけないでしょ!!このロリコンが、二人きりになった途端急に本性を現して…」
「アーチェ!!誰がロリコンだ誰が!!!人聞きの悪い事を大声で喚くな馬鹿女!!」
「本当の事でしょー!何かとすずちゃんの事ばかり気にしていてさ。はっきりいってアンタ、ちょっと構いすぎだよ。」
「だからってロリコンってのは何だ!はっ、馬鹿女じゃ言葉を正しく理解する事も出来ないようだな!!」
「何ですって―――!!!!」
 瞬く間に喧嘩に発展していった二人にクラースは頭を抱える。クレスとミントはちゃっかり二人の世界に入りつつ何処かに行ってしまった。そんなだから一線がどうとかとアーチェに突付かれるんだ、と無意味に呟き目の前で喧嘩をする二人を眺める。
「おい、喧嘩ばかりしてると街の人に迷惑だし、何より私に迷惑だ。いい年して何をしているんだ。」
「あまり止める気無いみたいですね。」
 投げやりなクラースの声にすずが淡々と突っ込みを入れる。大体自分に迷惑なんて、喧嘩を止める時に言う言葉ではない。実際このメンバーで成人はクラースだけなのだから、彼らの起こした問題の後始末は全て彼に押し付けられるという事実があるにせよ。
「まあ、形式的には一応止めないとならんが、やっても無駄な事は分かっているしな。」
「どうしますか?私達だけで残りのものを買いに行きましょうか?」
 二人で行くには少々時間は掛かるが、このまま二人の見苦しい喧嘩が収まるのを待つよりはずっと早い。それだけで特に他意はないすずの言葉だったが、何故かクラースは必要以上に身を竦ませた。
「あ…ああ、そうだな。じゃあすずちゃんは道具屋に行ってくれるか?私は食材屋に…」
「私は構いませんが…一箇所で買う予定の荷物が多いから、二人一組で行動するのではなかったのですか?」
 荷物が多いから二人で運ぶ事になっていたはずなのに、単独行動を急に申し出るクラースにすずは首を傾げる。すずなら実際に一人でも問題無いのだが、クラースは多分そうもいかない。が、クラースはあくまで譲る気は無いようだ。
「いや、私も一人で十分だ。じゃあ後は頼んだよ。」
 そう告げるとクラースは颯爽と逃げるように去っていった。表面上は平静を保ちつつ実は唖然としながらクラースを見送っていたすずは、何処となくやるせない気分になった。
 そして、横でまだ喧嘩しているチェスターとアーチェに、軽い頭痛と眩暈を覚えた。




 後日、クラースが出かけている間にクレス達はすずから珍しく相談を受けた。兄貴分気取りなチェスターはあっさり受けたが、その件は彼らを非常に悩ませた。
「クラースの旦那に避けられてる―――?」
 何だそりゃ、と顔をしっかり歪めてチェスターは首を傾げる。彼女なりの冗談なのかと訝るが、残念ながら彼女はいつも通りの真剣な顔。冗談でない事は明らか。
 途端に重くなった空気を払おうとするようにアーチェが敢えて明るく言う。が、余計な言葉にチェスターが当然ながらまた憤る。
「そんなの気のせいだって!チェスターの馬鹿と違ってクラースはそんな陰険な事しないよ。」 「何だと馬鹿女!俺だって陰険なんかじゃねえよ!!!」
「喧嘩は止めて下さい!!」
 また喧嘩になりそうだった二人を、珍しくミントが声を荒らげて止める。彼女の怒声は非常に珍しいというかレア物で、思わずチェスターもアーチェも肩を竦める。
 眉を吊り上げるミントを抑え、クレスが顎に手を置いて考える。
「アーチェやチェスターならまだしも、すずちゃんが何かしたとは思えないし…」
「おいクレス、何だよその言い草。」
「いや、二人とも面白半分でクラースさんにちょっかい出して粛清された事あるし。」
「う。」
 二人とも思わず唸る。あの時うっかり調子に乗りすぎて魔界の王の炎に焼かれた経験は未だに脳裏にこびり付いている。
「やはり、本人に直接聞くべきではないでしょうか?」
 さっきよりは多少落ち着いたらしいミントが提案すると、クレスも皆も納得して頷く。
「そもそも旦那に問題があるなら直接旦那に聞けば良いだけなんだよな。こんなところでウダウダ言ってても始まらねぇ。」
 したり顔で頷くチェスターだが、すずはまだ不安そうに俯いていた。それに気付いたアーチェが首を傾げる。
「どーしたの、すずちゃん?」
「気のせいなら良いと思ったのですが、何度もそう思う事がありました。もしかしたら私、知らないうちに嫌われる事をしてしまったのかもしれません。もしそうなら、ちゃんと直すようにしなければなりませんが…それを聞くのが怖いんです。」
 感情を表に出さない彼女には珍しく落ち込む姿に、クレス達は必死で励ます。
「大丈夫だよ、すずちゃん。きっと何かの間違いだって!」
「そうそう、もしくはあのおっさんが勝手に若いすずちゃんに嫉妬してるだけだって。」
「んなわけあるかよ。」
「ちゃんと話を聞いてみれば分かります。ですから、しっかり話を聞いておきましょう。」
 各々の励ましに、すずは薄らと笑みを浮かべた。
「皆さん…ありがとうございます。」




 数時間後。
「で、何故私がこんな目に遭っているんだ?」
 クラースは大木にぐるぐる巻きに縛り付けられている。戻ってくるなりクレスとチェスターに力ずくで縛られ、抵抗する間もなくこんな状態になってしまっていた。しかも、ミントとアーチェがやたら怖い。それぞれ武器を握り締め目を据わらせてクラースに迫ってくる。当のクラースは冷静そうに振舞っているが、本当は今すぐにでも逃げ出したいくらいの恐怖に駆られている。
「…完全に疑ってるよな、あれ。」
「すずちゃんを心配するのは分かるんだけどよ、これは絶対やりすぎだよな。完全に悪人扱いだぜ?」
 後ろでひそひそクレスとチェスターが話す。しかしそれを表立って口にはしない。こういう時の女ははっきり言って怖い。
「クラース、あんた本当に心当たり無いの?誤魔化しているんじゃないでしょうね?」
「知らんものは知らん。」
 アーチェの問いにきっぱりと断言するクラースに、ミントが更に詰め寄る。
「すずちゃんを悲しませるなんて酷いです。一体何故そんな事をするんですか?」
「…何の話だ。」
 やっぱり今回も否定するが、アーチェと違いミントの怒る顔は滅多に見ないからかクラースも歯切れが悪い。
「すずちゃんを避けている理由は何ですか?」
 気のせいかもしれないと言っていたのは何処の誰だったか、それすらクレスとチェスターには分からなくなっていた。しかし口に出さないのは最早男の性。
「ごめんなさいクラースさん、僕達だって彼女達は怖いんです。常にミラルドさんに尻に敷かれているあなたなら分かってくれますよね?」
「ミラルドってのが誰だかさっぱり分からねぇが、大人しく犠牲になってくれ旦那。」
 完全にクラースを見捨ててしまっているクレス達を、クラースはこっそり睨む。裏切り者、と目が訴えているが、余所見をするなとすぐに女性陣が怒り出す。
 何を言っても殴られそうな勢いではあるが、せめて少しでも怒りを和らげようとあれこれ考えていると、アーチェとミントの後ろからすずが控えめに顔を出した。不安そうな、悲しげな瞳がクラースに向けられ、神妙な様子にクラースも思わず唸る。
「あー、えっと、私がすずちゃんを避けていると?一体何処からそんな話が…」
「すずちゃんが凄く気にしてました。親しい人にそんな事されたら普通は悲しくて死にたくなってしまいます!」
「いえ、別にそこまでは…」
「あんた、すずちゃんを泣かせて何が楽しいの!?しっかり吐きなさい!!」
「泣いてはいませんが。」
 思わず後ろに居るすずの話を聞いているのかお前ら、と逆に文句を言いたい気分だったが、そんな事を言えばむしろ逆に殺されそうだ。それに、クラース自身実はその件に心当たりが無いわけではない。ただ、口にすると余計間抜けだから口に出来ないだけだ。
 どうしようかクラースが悩んでいると、すずが悲しげな表情を浮かべたまま顔を上げた。
「クラースさん、もし私が何かしたのでしたら遠慮なく申し付けて下さい。私は未熟者なので、クラースさんが何故私を避けるのかが分からないのです。」
 傷ついたような表情に、クラースは思わず詰まる。はっきり言って口にしたくないのだが、すずを悲しませるのも良心が痛む。何よりミントとアーチェが怖い。
 覚悟を決め、クラースは重い口を開いた。
「いや、別にすずちゃんが何かしたわけじゃないんだ。私が勝手に嫌な気分になっているだけで…」
 その言葉にアーチェが思わず顔を歪める。話の続きを要求する女性陣に、クラースは観念した。
「すずちゃんと並んで街を歩いていると、どうにも親子に見えてしまうようでな。外見なんて全く似ていないというのに、年齢がそれっぽいからという理由でどいつもこいつも好奇の視線ばかり…」
 その瞬間時が止まり、ミントとアーチェは武器を握り締めた。
 そして、二人同時に叫ぶ。
「そんな理由で迷惑かけるな――――――!!!!!」




 怒りのままに吹っ飛ばしたクラースを探しに走り回るクレス達は、パーティ唯一の大人な筈の彼に文句を吐いていた。
「全く、何考えてんだ旦那は。すずちゃんは11歳なんだから、29歳の旦那とは本当に親子でも年齢的には問題無いだろ。」
「あの人結構年齢の事気にしているからなぁ…でもすずちゃん、そんな視線なんてあった?」
 クレスの問いにすずは暫く俯き、やがて首を横に振った。
「いえ、そういうものは無かったと思います。ただ、街を歩いていると「変わったお兄さんだね」と言われる事はあります。」
 この場合は「変わった」という点に注目すべきだろう。クラースは全身刺青に鳴子つきの変わった服装をしている。そういう目で見られている事くらい既に自覚していると思っていたのだが。
「…そんなに年齢が気になるのかな?」
 29歳の葛藤など17歳の青年にはまだ理解出来ないものであった。







微妙にシリアスっぽく見せかけて馬鹿ネタで締め。こういう書き方は結構好きです。
ファンタジアはとにかくクラースさんがいじりやすいです。ゲーム中でも色々面白い側面を見せてくれますし。
こんな事言ってますが、クラースさん一番好きです。


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