-The another Kabotya Story- 南瓜伝説〜記憶の彼方〜 (作:ロト)
南瓜伝説〜記憶の彼方〜 第一話:少年の旅立ち 作:ロト
かぼちゃタウンの端には廃れかかった剣技道場がある。そこには毎日欠かさず稽古用の木刀を素振りしている少年の姿が見受けられた。
少年「えい!とぉっ!やぁっ!!」
日差しが強い御昼時、今日も元気の良い叫び声がの道場の稽古場で響いていた。
少年「ていっ! …ハァハァ…ふぅ〜っ…今日はこのぐらいにしよう。」
――少年の名前はアス。本名、アシュルト=ファーウェル。此処、ファーウェル剣技道場の師範の孫である。
両親は彼が幼い頃に他界しており、顔すら覚えていない。
相当のあいだ振っていたためか、へとへとになりながら少年は稽古場の壁にもたれかかった。
隙間から入り込むそよ風が少年の頬を撫でる。とても気持ちが良かった。
素振りをした後のこの一時の幸せが、アスには何よりの楽しみであった。
一時の快楽に気を取られ、ボーっとしていると、突然何処からか声が聞こえた。
謎の声「隙ありっ!!」
――刹那
急に脇から飛び出した影がアスの頭を叩いた。
バシッ!と良い音が立った。
アス「〜〜ッ!」
言葉にならない音を発しながら、アスは自分の正面を見た。
そこにはニィと白い歯を見せる、少年と同じ歳程の男の子が木の枝を持って立っていた。
アスと同じ歳程の男の子「まだまだ甘いな、アス! 隙だらけだったぞ。」
アス「リヴァか。不意を突くなんてずるいぞ!」
アスを叩いた少年の名は――リヴァイア。
廃れかかったこの剣技道場に唯一残っている門下生だ。
門下生と言っても、師範の息子のアスとは兄弟の様に親しい付き合いをしている。
彼もまた両親を幼い頃に亡くしていた。二人の仲が良くなったのは、二人とも同じ様な境遇にあったからなのかもしれない。
現在はまだ子供ながらも、一人で自炊等をし一人暮らしをしている。
リヴァ「実戦で不意もへったくれもあるかってんだ。剣士たるもの、何時何処でも気を抜いちゃいけないのさ。」
アス「実戦かぁ…僕達、まだスライム相手にも戦ったことないんだよな。」
そんな会話をしていると、顔はしわくちゃで白い長い顎鬚をした老人が稽古場内に入ってきた。
老人「おい、お前達。そろそろ今日の修行を始めるぞい。」
この老人が、男手一つで孫のアスを育ててきた、ファーウェル剣技道場師範のジィバ=ファーウェルだ。
リヴァ「今日は、ジィバ師範。今日も、よろしくお願いします。」
アス「じっちゃ…ぁ、じゃなかった、師範、よろしくお願いします。」
普段はジィバのことを「じっちゃん」と呼ぶアスだが、剣の修行をしてもらう時は「師範」と呼ぶことにしていた。
ジィバ「うむ。今日の修行はちと今までとは別物じゃ。ちょいとお使いを頼もうと思ってな。」
ゴホンッ と一息ついてから、落ち着いてジィバは二人に話し始めた。
ジィバ「町の外れにある試練の洞窟の奥へ行き、箱の中にあるモノを取ってくるのじゃ。」
リヴァ「箱の中にあるモノ? 師範、それは一体何なのですか?」
ジィバはふと一瞬、笑みを浮かべてからこう言った。
ジィバ「行ってみれば分かる。さぁ、さっさと行ってくるのじゃ。」
二人はそれぞれ自分の剣や防具を装備したり、支度を早々に済ませ、ジィバに洞窟に入るための注意を聞いてから道場を出た。
道場を後にした二人は箱の中に何があるのかを想像しながら、町の外れの試練の洞窟に歩を進めた。
・
・・
・・・
・・・・20分後
想像して出てきたアイディアを出し合って話しているうちに洞窟入り口についた二人。
この洞窟の入り口には特殊な結界が張られており、常人には出入り出来ないよう工夫されている。
この結界はキーワードを言うことによって解除されるのだが、それを知る者はあまり多くない。
アスは道場を出る際にジィバが教えてくれたキーワードを口にしてみた。
アス「タッタラプト ポッポルンガ プピリット パロ !」
しゅんっ! 風が吹き抜ける様な気持ちの良い音が聞こえたと思いきや、結界は視界から消えていた。
リヴァ「おぉっ。これで中に入れるな!」
リヴァがそう言いながら洞窟の中に足を踏み込もうとした時、近くの茂みから何者かが彼に飛び掛った!
リヴァ「!! くっ、なんだ…!?」
間一髪のところでその「何か」の攻撃を避けた彼の瞳に写ったもの。
それは不規則な動きをし、ぐにょぐにょとして定まった形の無い生物だった。
その口(というべきなのかは分からない)からは今にも二人を餌とせんとばかりに涎の様な液を滴らせている。
リヴァ「ス、スライムだ! 町の中の此処に何で…!?」
アス「剣士たるもの、何時何処でも気を抜いちゃいけないんだろ! いくぞ、リヴァ!」
そう言ってすぐにアスは腰に付けていた剣に手をかけて、瞬時に鞘から刀身を抜いた―と同時に相手に素早く近づく!
アス「でやぁぁぁっっ!!」
斬ッ!! 一気に間合いを詰めたアスは相手に避ける隙を与える間も無くその身体を一刀両断にした。
ぴぎゃうぅと鳴き声の様な音を上げてスライムは溶けて消滅した。
側で何も出来ずに見ていたリヴァ。悔しいが年下のアスに対して感嘆の息を漏らさずにはいられない様だ。
リヴァ「お前…いつの間にこんな強くなったんだよ?」
当のアスは使い終わった剣を鞘に戻しながらこう言った。
アス「さぁ…。僕も驚いてるんだ、ずっと地道に素振りを続けていた成果が出たのかな。」
その後も敵襲に気を使いながらも二人は洞窟の中を進んで行った。
途中やはりモンスターが町にいた事をジィバに知らせようとは考えてみたが、スライム如きなら問題無いだろうと思い先に進んだ。
何故なら、スライムの様な下等モンスターはあまりに力が弱いために町を覆う結界をすり抜けてしまう事がよくあるからだ。
―そして洞窟を詮索すること一時間程。目的の箱が置いてある場所に辿り着いた二人。
途中で何回かまたスライムと遭遇したが、修行を積んだ二人にとってさほど苦労する相手ではなかった。
ちなみにリヴァは最初のスライム戦では何も出来なかったが、その後の戦闘ではその華麗な剣さばきで率先してモンスターを倒していった
。
アス「よし…じゃあ開けるよ、リヴァ。」
コクリとリヴァも頷き、それを確認したアスが箱を開けると中には―
アス&リヴァ「こ、これは…?」
一方、ファーウェル剣技道場師範ジィバは弟子達の帰りを待っていた。
いつもと同じ風景を見ながら、いつもと同じ時間に茶を嗜む。それが彼の日課であり、楽しみでもあった。
その日もいつもの様に日課を始める時間になり、支度をし始めた彼。
だが―いつもとは違う何かを彼は感じていた。剣を極めし者だけが感じ取る事の出来る「何か」を…。
ジィバ「そこに居るのは誰じゃ…? 居るのは分かっておる、姿を現すが良い。」
???「ふ・・流石は伝説の三勇士と言われただけの人物です。老いた今でもその鋭い勘は錆び付いてはいない様だ。」
ジィバの事を伝説の三勇士と呼んだ人物が物陰から姿を現す。
黒いローブを全身に纏い、右手に魔術師用のロッドを手にしている。
深くフードを被っているせいか、その顔を窺い知る事は出来ない。ただ、声から判断するに若い男の様である。
???「ジィバ=ファーウェル、貴方は私達にとって邪魔な存在なのです。よって今此処で死んで貰わなくてはなりません。」
ジィバ「ふぉっふぉっふぉ。このジィバ、お前さんの様な若造にはまだ負けんと自負しておる。」
???「若造…ですか。では、手っ取り早くそろそろ始めましょうか。」
そう言って黒いローブ男は杖を振りかざし超高熱の炎をジィバに向けて発射した!
しかし、ジィバはその年齢からは考えられない様なスピードでそれを避けた。
???「やはり侮れないお方だ。こっちも殺し甲斐があるというものですね。」
ジィバは炎を避けたついでに近くに立てかけて置いた剣を手に取り、奥義の構えを取った。
ジィバ「(ふ…口先だけじゃない様だのぉ。こりゃ本気を出さねばならんかもしれぬな・・・。)」
深く呼吸をつき、はぁぁと全身のオーラを高め、それを一気に剣に注入した!
きゅぃぃぃぃん!! ジィバの剣にオーラの光が収束する!
ジィバ「行くぞ、若造! ファーウェル流奥義・魔光剣!!」
光を纏った剣を手に持ったジィバが黒いローブ男に突進して行った。
試練の洞窟から箱の中身を手に持って歩いていたアスとリヴァ。
道場の近くまで帰るのに予想以上の時間がかかってしまっていた。
何故なら、何処かで何か事件があったという事でそれ見たさの野次馬が大量発生したからである。
混雑していない回り道を通っている間に予想以上に時間がかかってしまった。
アス「全く、凄い人だなぁ。何があったんだろうね?」
リヴァ「さぁな? とにかく早く師範の元に戻ろう。きっと待ちくたびれているに違いないぜ。」
自然と足取りを早くする二人。
だが、途中で知り合いのオバさんに出会い急に引き止められた。
オバさん「あ! アスちゃんとリヴァくん! ちょっと何してるの?! ジィバさんが大変なのよ!」
アス「!? じぃちゃんが?」
オバさん「家に居る時に、何者かに襲われたらしいのよ。それで今意識不明の重体なんですって。」
アス「な…なんだって! じぃちゃんッ…!」
リヴァ「おい、アス! 急ぐぞ!!」
全速力で道場へと走る二人。もう近くまで歩いてきていたので道場に着くまでに時間はかからなかった。
野次馬を押し退け、ジィバが横になっている治療を受けているという部屋に到着。
ジィバは町の医者達による懸命な治療を受けていた。そこへ側に居た看護士がアス達に気付き、近寄ってきた。
看護士「貴方がジィバさんのお孫さんのアシュルト=ファーウェルさんですね?」
アス「そうです! じぃちゃんは…じぃちゃんは大丈夫なんでしょうか?!」
看護士「落ち着いて聞いて下さい。貴方のお爺さんはかなりの重傷を負われています。・・・残念ですが、もう長くはないと診断されています。」
アス「そ、そんな…。 な…なんで…こんな…ッ!」
愕然として床に膝をついてしまったアス。目からは涙はこぼれ落ちていた。
その時、意識不明のはずのジィバがアスを呼び始めた。
ジィバ「ぁ…ぁ…ア…ス…。」
医者「おぉ…。アシュルト君!お爺さんの意識が戻ったぞ!君を呼んでいる、さぁ早くこちらへ!」
リヴァ「アス!しっかりしろ! 師範がお前を呼んでいるんだよ!」
リヴァの声にはっと気付き、アスがジィバの側に近寄っていった。
ジィバ「ぁ…アス…か。今…か…ら言う事…を…よ…く聞い…て…お、おくの…じゃ。」
アス「何なの、じぃちゃん…僕、ちゃんと聞くよ。」
ジィバ「まず…わ、わしの命は…もうこ、ここまでだ。」
ジィバは息は既に虫の音だった。それでも全生命力を使い、声を絞り出し続ける。
ジィバ「お、お前ら…には…これから町を…出て…修行を…して…もらいたい。ア…スはジャン…ティス村の…ドゥエル。リヴァ…はラス…ティーニ山脈…にいる…ヴァルラスの…所へ行く…のだ。…ぐっ!ぐふぉっ!!」
吐血をしながらも、更にジィバは話しを続ける。
ジィバ「ぐ…ふぅ、ふぅ。そ、そして…「奴ら」…の…野望を…阻止するのだ。「奴ら」は…この世界を…消し去ろうと…し、しておる。お、お前ら…ならば…修行を…積めば、必ずや…野望を阻止…する…事が…出来る筈…じゃ。…た、たの…ん…だ………ぞ……。」
そう言い終えて、ジィバは静かに息を引き取った…―――
――ジィバが亡くなってから一週間が過ぎた。
日差しが強い御昼時、町の出口には旅支度を整えた二人の少年が立っていた。
リヴァ「じゃあ今日で暫く会えなくなるな。」
アス「次会う時は…いつなんだろう。」
リヴァ「分からない…。けど、一生の別れって訳じゃない。絶対一緒に師範の仇を獲るんだからな。」
アス「うん、そうだね。次ぎ会う時は二人とも世界一の剣豪になってようね!」
リヴァ「バーカ、世界一は二人もいねぇだろ! …じゃあなっ!」
そう言ってから、リヴァは一人アスが往く道とは反対の道を歩んで行った。その腰には蒼色の鞘の剣が携えられていた。
アス「(じぃちゃん…仇は絶対獲ってみせるよ。)」
そう心に誓い、アスも目的地であるジャンティス村に向かうため歩み始めていた。その腰には白銀色の鞘の剣が携えられていた。