注意:この話にオチはありません。タダの独白です。
 
 
私は嘘をつくための研究を今までも、そしてこれからも行う。
根本的に私は頭が悪い。だから、それまで幾度と無くついた嘘のほとんどは親や、関係者の手によって破られている。
それだから研究しているのだ。
 
人生において否定の出来ない選択肢などあろうか。
いいや、私の思う限りどの人生の選択肢にもそれなりの悲劇がある。
そしてまた、それなりの幸福がある場合もある。
 
私の父親は、こう言ってはなんだが大変頭がよい。
いや、むしろ人格的な欠損があるといえよう。
彼は松江一の勤勉な勉強家と自負していた。
彼は真面目であることを生き甲斐にしていた。
そして大学に進むとき、彼は積分が理解できなかった。
頭に来た彼は一年間問題集に向かい、それをモノにした。
 
普通の人間なら、とてもではないがそんなことが幸せとは思えまいが、少なくとも彼はその後もその道に留まり、それなりに優秀な大学教授となっている。
 
彼の頭の中にはそれだけが幸せなのだ。
だから私を理系から深い科学の道へ引きずり込もうとした。
この行動については、既に姉に対しての半強制的な理系指定で既に学習済みだ。
彼女は文系科目が得意で、センター試験で彼女の文系科目(英国社)の合計失点はわずかに17点であった。
にもかかわらず、農学へ進んだ。
無論彼女は否定するだろうが、その決定の裏には親の圧力が強硬に働いていた以外に考えようがない。
 
 
当初、文系か理系かの選択を高校で迫られたとき、私の中に意見はなかった。
両親は揃って理系を進めたのでそうしたが、その選択はおおいな間違いだったと思う。
文系に進んだ所でどうだったかと言えばもっと悪かったかも知れない、しかし理系選択は私にとって明確に不利益だった。
 
文系を志望する私に父親は、偏差値60以上の指定で文系受験を許可した。
こんなバカな話があるか!
理系の勉強をしておいて、文系60以上の学校に勝負できると本気で思っているのか!
 
思っているわけはない。彼は私の主張を無視し、消し去りたいだけなのだ。
 
この時点で父親は私にとっての明確なエネミーとなった。
 
 
ゆっくり、冷静に考えてみる。
家に籠もっている限り同じ家族として、奴の主張を退ける術はない。
唯一避けうるとすれば、別居のみである。
 
目的は、幼い言い方をすれば家出となった。
 
もちろん、私がそれを希望すれば奴は拒否するだろう。
そんなことは私は百二十分も承知である。
なぜなら、奴は"悪いところ"を見つけるところの天才だからだ。
物事の短所しか見ない。
だから、他人の意見も全て否定するためにその精力を傾けているのだ。
 
ならば、どうするのか。
現状は五分だった。つまり、自宅も下宿もどっちつかずの状態だった。
当然である。情報戦になった以上、こちらは隠せる限り隠す。
隠す能力がないならば、自ら知ることを拒んででも奴には漏らさなかった。
だから、大学進学の意思からして一度たりとも奴に明確に伝えてはいなかった。
しかし、そこは奴の価値観にある「大学行かずは非人間」という思想に基づき大学進学が前提にあるという条件の下。
もしこれがなければ、予め強硬に就職を主張しておいた。
 
もうおわかりだろう。
私の戦略は、提案された島根大学という下宿コースに罵声を浴びせることだ。
自宅から通えることを第一条件にいれて交戦したのである。
そうすると、奴は不安が増してくる。「息子が選んだ進路が正しいわけがあるか」ってね。
 
強硬に抵抗を続け、立教大学と東京農工大を指定したところで遂に奴は叫んだ。
「お前のような精神の持ち主ならば、むしろ下宿に出した方がよい。」
 
私は、笑いを隠せなかった。
 
「国立の志望のどっちか一つは島根にして、せめて地方受験だけでも経験してこい!」
 
願ったり適ったりだ。
これほど上手く行くとは正直思わなかったが、作戦は成功である。
 
島根大学を後期に組み込めば、元々が難易度はそれ程高くない大学。センターで勝負は決する。
 
センターで合格安全ラインをとったとき、それがもう私の受験の終わりに等しかった。
 
未だ出願大学で島根大学に抵抗の意思を見せるのはもちろん忘れなかったが、少なくともこの時点で私の本心は、逆に東京農工に行く意思が皆無だったことは言うまでもない。
 
 
どちらかが死ぬまで別人とはなれないのが家族である。
それがどれほど自分と相容れぬ存在であっても、奴は別人であってはくれない。
 
この考えがいかに幼いかはよくわかっている。
時が経って自分の思想が変わる日が来ればむしろその方が良いとも思う。
 
しかし、今私にとって、私の思想全てを否定する私の支配者は邪魔なだけなのだ。
 
戦闘は開始された。
四カ年計画で、まずは奴の支配力を削る。
その実行の時がいよいよ訪れたのである。
 
我が作戦教書には重要な一頁が記された。
引きの一手、それのみで勝てる。
 
 
2001年2月24日
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